魔法少女リリカルなのは Searching Unknown
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第五話
前書き
Kick it out yeah!
闇の書事件と呼ばれた事件が終わり、直人が管理局に入局してから一年が過ぎた。二度も魔法が絡んだ事件の舞台となった海鳴の町並みは、以前と何も変わりはしない。なのは達も学年が上がり、健やかな学生生活を送っている。フェイトはプレシアやリニスと共にミッドチルダの生家に帰っており、そちらの学校に通いながらも、たまに母親と共に翠屋に顔を出すのだとか。彼女とリンディと桃子がそろうと親バカ談義が始まるとは士郎の言。
「こんちわー」
「ただいまー」
「あ、いらっしゃーい」
そんなある日の昼下がり、帰宅するなのはに連れ立ってテスタロッサ家と八神家が揃って翠屋を訪れる。はやての脚はいまだ癒えぬものの、リハビリに少しずつ答えてくれているとははやての談。ランチのラッシュは過ぎており、少し店内も落ち着きを取り戻している様子だ。
「お帰り、なのは」
「プレシアさん達もご一緒ですか」
「ええ、はやてちゃんに是非にと、ね」
店長の士郎と桃子がお出迎え。そのはやては、車椅子にギターケースを引っ掛けている。家族が2グループともなれば、決して広くはない翠屋の中では大所帯。二つのテーブル席を繋げてもらい、彼女達はそこにつく。
「はやてちゃん、それはひょっとして……」
「ええ、兄ちゃんがウチに残してくれた一本です。とは言えうちが触ってるのはエレキじゃなくてアコースティックの方ですけど」
「練習してるんだ。興味あったの?」
「せっかくあるのに、誰も触らへんのももったいないですしね。教本とか教則ビデオ見たりして、ちょっとずつ。うちの子たちも触ってるんですよ?」
「へぇ、イメージなかったよ」
「ザフィーラがめっさうまくてなぁ……シグナムが対抗心燃やしてるわ。かわええんよ?」
「あのシグナムさんが可愛い?ちょっと想像つかないなぁ……」
「あ、主……私の話はその辺で……」
「照れんでええやん、でもそういうとこかわええわぁ」
赤面しつつ主を止めようとするシグナムを見た一行は、はやてのいう可愛さに納得した。一通り注文すると、はやてから切り出す。
「そんでまぁ、今日集まってもらったんてあれよ。フェイトちゃんとなのはちゃんがどうやって仲良くなったんかなって話聞きとうてな」
「……あぁ、それはかなり長くなっちゃうね」
「前になんとなーく気になってなのはちゃんに聞いてんけど、長くなるからみんな揃えて思い出話しながら聞いてほしいって言われちゃってなぁ」
確かに、なのはとフェイトは元々全く違う世界の住人である。出会うきっかけが気にならないと言えば嘘になるのだろう。
「それを話すには、後一人役者が足りないわね」
「え?誰です?」
「もうすぐ来ると思うわ。今日には帰郷するって言ってたし」
プレシアが一旦話を切ると、ドアが開く音がした。そこに現れたのは、一年ぶりに海鳴に帰郷を許された山口直人の姿だった。
「あら、噂をすれば」
「待たせたかいな、皆様方」
話は、一週間前に遡る。時空管理局地上本部、とある面談室でのこと。
「……それで、私が調査をする、というお話ですか」
「そういうことだ。現地に詳しい者を、ということで君の名前が挙がったのでな」
「既にアースラのスタッフが定期報告を挙げており、何も問題がない、と聞いておりますが」
「あれだけ長く滞在している者たちのいうことだ。割り切りはしていても知らず知らずのうちに現地の人間に寄った報告になっていたりするもので完全には信用できない。現にハラオウン執務官と艦長以外はこちらに戻る気配すらない」
直人自身は彼女たちにそういった印象はないが、本部の人間からすると顔を見ることのない彼女たちのいうことが信用できないというところもある。そこがわからない彼ではない。
「まぁ、確かに」
「まぁ、あの地域から君や……なんといったかな、小さい娘がいただろう。ああいった有望な子を見つけてくれたのだから、あまりとやかくはいいたくないというのも、上にはあるんだろうがな」
「……高町のことでしょうか」
「ああ、そんな名前だったかな。データを見たときは驚かされたものだ」
直人を呼びつけたのは、彼が所属する207分隊の隊長。呆れたような苦笑いを浮かべながら肩をすくめつつも指示を出している。
「……わかりました。では、お話の通りに」
「ああ、ついでに少しはのんびりしてくるといい。滞在予定期間は長めにとってある」
「ありがとうございます。失礼致します」
そういって部屋を出ていった彼を、密かに追いかける影があったことは、誰も知る由はなかった。
「へぇ、そんなことが」
「まぁ、そういうわけですわ」
何はともあれ、数か月ぶりに顔を合わせることそのものは直人も嬉しいようだ。慣れ親しんだ翠屋の味に、懐かしさを覚えたのもあるかもしれない。
「今回は仕事もそうなんですけど、ちょっとした休暇を頂いた里帰りみたいなもんですわ」
「へぇ、じゃあ少しはゆっくりできるわけね」
「まぁそういうことですな。んで、何の話しようとしてたんです?」
「あなたたちのなれそめを聞きたいんですって、そのレディが」
プレシアがはやてを指して何やら不穏な笑みを浮かべている。その視線の先を見て直人も察した模様。
「……ああ、それもそうか。長くなるけど、ええかな?」
「構いませんよ。むしろたっぷり時間はあります」
「流石あの先輩の妹やな……ほな、何から話そうか」
運ばれてきたお冷を喉に流し込み、語ろうとする直人。しかしその空間に、無慈悲なサイレンが鳴り響いた。
「なんや、何が……」
「どうやら、招かれざる客がこの街に現れたようね……」
反応したのはプレシアのデバイス。どうやら怪しげな魔力反応を確認したようだ。
そして、ここにいないアスカの中から、未だに復活の兆しを見せない竜二。彼に何をしているのか、本人はどうしているのか、彼女の口からそれが語られることはこれまで一度もなかった。しきりに気にする彼女たちを適当にごまかされ続けた彼女たちは、次第に誰も聞かなくなった。時が来れば話してくれる、あるいはひょっこり帰ってくる、そんな風に自分をごまかして。
その彼、八神竜二は……何度も死にかけていた。
「くっそ……」
「……」
光一つ届かない暗闇の世界。その中で彼の目に映るものはたった一つ。もう一人の自分だった。しかし、彼らは最大の武器であり防具であるはずの特殊装甲を一切まとっていない。
「なんでや……なんで……」
「……」
横たわり、息を切らし、血を流し、あざだらけで満身創痍にある竜二と、何の感情も浮かべず、ただそこに立っているだけの竜二。互いに武器はない。互いにあるのは拳一つ。倒れこんだ竜二は、バンド時代に着ていたホスト風のスーツ姿。立っている竜二は、まるで一昔前の暴走族かのような真っ白の特攻服姿だ。
「……昔の俺と、殺し合いなんぞ……」
「……」
そうつぶやく倒れこんだ竜二を光が包む。一瞬の間に痛みが消え、傷が癒え、ボロボロの服が元通りになっていく。そのまま立ち上がった彼に、ゆっくりと近づくもう一人の竜二。その表情に、相変わらず感情は感じられない。
「……おう、なんか言えや……」
小さく響く彼の問いに答えるものはない。ゆっくりと、しかし確実に接近してくる彼に対し、構えをとる。互いの拳を伸ばせば届く距離まで接近すると、まったく同じ構えをとった。
「……言えやおらぁぁぁぁぁああああああああああっ!」
咆哮を上げ、右の拳を引いて殴りかかる竜二に、それを無言で同じ構えで迎え撃つ竜二。ぶつかり合うその時、すでに伸ばされていた特攻服の竜二の左腕につかまり、そのまま引きずり倒される。
「ぐぅぁぁぁああっ……がはっ」
倒される瞬間、腹部に膝が突き刺さる。倒れこもうとする竜二の顎を右アッパーでとらえて浮かされ、流れるような動作で胸に左の肘をつきこまれる。
「……それに、殺し合いにすら……なってへんやないか……」
似たような状況が続く。特攻服の竜二の表情は変わらず、彼を見守っているはずのアスカの存在すらこの世界にはない。まさに五里霧中。なぜこうなっているのか、彼自身も理解できていない。しかし、今そんなことを考えている余裕は彼にはなかった。
「こんガキィ……」
闇の書との決戦の日に倒れてから続く、彼にとって生き地獄のような日々。しかし彼は、その地獄の中で光を掴むべく、終わりの見えない戦いに身を投じていく。
「まだや、まだ俺は終わりやないぞゴルァッ!」
その頃、あの男は、とある打ち捨てられた管理外世界にいた。
「よぉ、また会ったなぁ……ビスカイトさんだっけか」
「……久しいな。再会を喜んでいいのかはわからんが」
「俺は嬉しいぜ?ようやく見つけたわけだしなぁ……仕事抜きで『本気』で喧嘩できる奴をよォ……」
「とんだ物好きもいたものだ……」
闇の書事件の際に相対し、自信と文字通り死闘を繰り広げた『彼』と向き合っていた。もともとは上層部から下された別の任務で立ち寄った先だが、退屈を嫌うフレディからすれば格好のターゲットなのだろう。
「面倒くせぇし、固いことは抜きにしようや、『不死者の一族』の末裔とやらの本気は、あんなもんじゃねぇんだろ?」
「……断るといっても、聞きはしないのだろうな。いいだろう、かかってくるがいい」
ビスカイトは素手である。フレディに合わせたのか、はたまた違う理由かは定かではないが。
「そうかい、そんじゃ、遠慮なくやらせてもらうわ」
フレディがそうつぶやいた刹那、彼はビスカイトの目前に迫っていた。しかしビスカイトは焦ることなく、彼の突き出す右の拳に左の拳を合わせる。どれほどの勢いで激突したのか、衝撃波のようなものが周囲にとてつもなく広がっていく。
「クククッ、しびれるねぇ……そうだよ、そうじゃなきゃ意味がねぇ、俺がここに来た意味がねぇ!」
「私を探していたというのか……ご苦労なことだ」
「あんたも人のことは言えないんじゃないのか?目を見ればわかる」
心の底から楽しみがあふれ出てくるようなフレディと、呆れ返りつつも緊張は緩めないビスカイト。
「私は自分から戦いだけを求めることはない。相手から求められれば私も騎士である以上、受けない理由はないが」
「そうやってごまかすのもその辺にしようや。楽しそうだぜ?今のアンタ」
「罪のない、戦闘能力もない市民をただ殺すよりはやりがいはある。そこは否定しない。それに……」
そこでいったん言葉を切ったビスカイトは、先ほどのフレディと同じように一瞬で彼の懐に飛び込むと、右拳を鳩尾めがけて打ち込む。しかしフレディは同じ位置に左拳を打ち込んで防いだ。
「こうやって本気で戦えるなど、どれくらいぶりか私も忘れていてな。今この瞬間だけは、全霊で貴殿をお相手致そう」
「クッククク、やっぱそうじゃねぇか。アンタも飢えてたんだろ?本当に強ぇ奴と本気で殺し合いができる瞬間をさ」
フレディはそう投げかけると間合いをとる。
「さぁて……不運と踊っちまおうぜ!」
後書き
今回は難産でした。
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