| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九十三話 最後の一日その七

「何年もかけて訓練して」
「凄いですね」
「それだけパイロットが特別なんだ」
「そうした立場の人ですね」
「船を動かすよりも」 
 それこそと聞いた。
「難しいらしいよ」
「そこまでですね」
「君ひょっとして」
「今はそう思ってないです」
 これが一年の子の返事だった。
「昔は憧れてましたけれど視力が落ちまして」
「それでなんだ」
「パイロットは目も必要ですね」
「うん、それもね」
 あと虫歯も駄目とのことだ、そこまで見られるところが本当に厳しい。
「視力が高くないと」
「そうですね、ですから」
「パイロットを諦めたんだね」
「そうしました」
「成程ね」
「今はサラリーマンを目指しています」
 そちらの仕事をというのだ。
「総務部総務課に入って」
「それ山口六平太さんか?」
「だよな」
 部屋の皆は一年の子のその話を聞いて言った。
「あの漫画だよな」
「総務部総務課っていったらな」
「会社の縁の下の力持ち」
「そうなりたいんだな」
「親父が好きで全巻持ってまして」
 一年の子は僕達に何故今サラリーマンになりたいと考えているのか答えた、その理由は僕達が思っていた通りだった。
「それで僕も」
「ああいう人になりたい」
「そう考えてか」
「だからか」
「そうしたサラリーマンになりたいんだな」
「はい、ただ係長みたいな人は嫌ですね」
 あのすぐに丸めた新聞紙で叩く人だ、作品中では憎まれ役だ。
「あと釣り漫画の専務みたいな人も」
「まあどっちの人もな」
「あまりいい人じゃないな」
「近くにいて欲しくないな」
「どうにもな」 
 皆もあの係長や専務についてはこう言う。
「人付き合いがいいかっていうとな」
「正反対だからな」
「愛嬌があるところもあるけれどな」
「人間味があって」
 正真正銘の人間の屑かというと違う、妙な人間的魅力もあって言うならば憎めない悪役といったところだ。
「嫌いかっていうとな」
「あまりな」
「そこまでいかないな」
「好きじゃないにしても」
「僕もあの人達嫌いじゃないですが」
 それでもという言葉だった。
「そうなりたくないですね」
「だからだな」
「そう言うんだな」
「反面教師だって」
「そうなんだな」
「はい、やっぱりなりたいのは」
 その人こそがというのだ。
「山口六平太さんですね」
「ああした人か」
「あの人みたいいか」
「なりたいんだな」
「ああしたサラリーマンに」
「はい、飄々としててそれでいてやることはある」
 そして穏やかな物腰だ。
「頼りになりそうで頼りになる」
「そうした人だね」
「目指してます」
「それじゃあね」 
 僕は彼のその言葉を聞いて言った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧