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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  63 怪物の品格 〜後編〜

 
前書き
近日中と言ったのに、2週間近く空いてしまって申し訳ありませんm(__)m
今回は後編です。
 

 
「…ふぅ、終わった。にしても、見てるだけとはいい御身分だな」

「私ね、基本的に争い事って苦手なの」

変身を解いた安食が眼鏡を拭きながら、近くの木の上を見ると、そこにはその戦いをずっと見ていた電波人間がいた。
高垣美緒がユナイトカードを用いて電波変換したことで、もう1つの人格が確固たる実体を得て分離した姿、ヤヌス・ユニコーンだ。

「嘘つけ」
「まぁ、少し語弊があるか…正直、ロックマンっていえば、地球を救ったヒーローだし?手の内が分からなかったし」
「手の内が分かるか、見た感じ自分の方が有利で一方的に痛めつけられそうな争い事以外は嫌いってことか」
「そういうこと。それに…この人…何処と無く腹が立つのに、嫌いになれない」

ため息をつく安食の隣にやってくると、同じく変身を解く。

「ほう…今回はちゃんと実体を保ってるってわけか」
「えぇ。ようやく美緒(ママ)とは完全に分離できた。あなたたちのおかげよ」
「昨日、スターダストにボコボコにされたって?」
「えぇ。全く女の子相手でも手加減が無くて。でも口は割ってないわ、信じてくれる?」
「もちろん、信じるとも。にしても…こうして生身で会うのは、初めてだね。確かに写真で見せてもらった娘にそっくりだ」

変身を解いたヤヌス・ユニコーンの顔は美緒の娘の高垣ミヤと瓜二つだった。
声も形もミヤと瓜二つ、素人目では違いは分からない。

「一応、双子…だしね。まぁ、私がママが生み出したもう1つの人格に過ぎなかったけど、もう今は違う。私は高垣美寿、気軽にミコトって呼んでね」
「言ってることは大して変わらないのに、見た目と声が違うだけで大分印象が変わったな…口調も子供らしくなった」
「もう無理にママのフリする必要無いんだもの。好きにさせてもらうわ」

ミコトと名乗ったミヤとそっくりの少女は深呼吸して、喜びを露わにした。
屈託のない笑顔で周囲を見渡し、何もかもが新鮮であるような感覚を覚えていた。

「ところで計画の方は順調か?」
「えぇ。あなたが戦ってる間に必要な物資は移動できたし、人手は多少足りていないけど、ユナイトカードを持った住人を数人操れば済むこと。全て整ってるよ」
「ところで、そこで倒れてるロックマンは?殺さないの?」

ミコトの視線は倒れているスバルに向いた。

「あぁ。生かしておく。オレたちの計画を知ってるわけでも無いし」
「アレ?珍しい。邪魔者は殺す主義だったかと思ってた」
「まぁ、普通なら殺してるところだけどね」
「じゃあ、何で?見どころでもあるの?」
「また地球に危機がやってきたら戦ってもらわなきゃならないからな。ロックマンに」
「でもまた邪魔してくるかも」
「かもな。でも明日には、コイツが戦わなくてはならないのは、オレたちじゃなくなってる。“現象”そのものだ。目にも見えないし、触れることもできない。そして倒すこともできない」

2人はスバルを見逃し、何食わぬ顔で図書館を跡にした。
すぐ近くの自販機でペットボトルのミネラルウォーターで買い、例の薬を飲む。
そしてミコトを助手席に乗せると、自身もGT-Rに乗り込み、発進させた。

「でも邪魔してくるリスクもゼロじゃない。それでも生かしてるってことは、近いうちにまた地球に危機が来るってこと?」
「恐らくな。ディーラーが何か動いていることも、多分それ絡みだろう。だが君が嫌いなパターン通り、その危機の正体の手の内が全く分からない」
「じゃあ、ロックマンに任せましょ」
「そういうことだ。いくら訓練しようとユナイトカードを使った電波変換でのパワーアップには限度がある。それに現段階でユナイトカードのファームウェアアップデートは早くて約8ヶ月後、危機はいつ来るか分からないしな」

安食はロックマンのことも、スターダストのことも少し焦りを感じていた。
特にスターダストに関しては進化が目覚ましい。
まだ一度しか、戦ったことは無いが、話を聞く限りでは確実にパワーアップを遂げている。
ユナイトカードを使った電波変換によって生まれる電波人間が進化するには、ユナイトカード自体のアップグレードが必要不可欠だ。
これは生物と機械の違いにも等しい。
生物は経験や訓練によって自己進化する能力を備えているが、機械は経験や訓練で自己進化することはない。
進化するには人間の手が加えられることが必要となる。
仮に人工知能といえども最終的には決められた法則や枠を飛び出すことはできない。
恐らくこのまま泥試合を続けていけば、間違いなくスターダストの進化についていくことができなくなる。
ユナイトカードのアップグレードが先か、スターダストの進化が自分を上回るのが先か、冷静な仮面の下で唇を噛む。
今回の計画が成功しようとも、致命的な障害となる前に近いうちに潰しに行かねばならないということを再確認する。
そして、それはミコトも同じだった。
自分がこうして相手の手の内を知ってからでないと動く気にならないのは、ユナイトカードの進化が遅いためでもあったからだ。
もっと力を得られる方法を常に考えていた。

「確かユナイトカードの電波人間より、電波体と変身した電波人間の方が進化が速いらしいね。それにスターフォースって言ったっけ?ロックマン、思わぬ隠し玉があるようだし」
「あぁ。ペガサスとドラゴン…そして恐らくはレオ」
「それって世界の通信を支えているサテライトでしょ?そこからパワーをもらっているってこと?あのサテライトって軍事目的だったわけ?」
「まさか!それだったら、それが本職の私たちが知らないわけがない。確か世間的には人工知能プログラムによる管理だってされているが、実態は秘密裏に地球に亡命してきたAMプラネットの電波体だって聞いたことがある」
「じゃあ地球の通信はAM星人に乗っ取られてたってわけ?」
「違うな。奴らは恐らく地球人の通信なんぞに興味は無い」
「じゃあ何で?」

安食は図書館の敷地から出ると、右折した。

「彼らとの接触で地球人類は多くの技術や知識を得た。トランサーやこの通信社会はそれがあってこそ完成した。で、その見返りに安住の場所を用意したっていうことだろう。まさか宇宙人と接触していたなんてバレて、もし人間が簡単に手の届く場所にその宇宙人がいたら危険だからな」
「それで誰も手の届かない宇宙の衛星を用意したってわけね」
「そういうことだ。多分、ロックマンはFM星人との戦闘でかつて自分たちの星も同じように攻撃を受けたサテライトの管理人のAM星人たちと接触した。そこであの力を得たんだろう」
「安食さ、さっきの竜巻パンチ、本気出したでしょ?」
「…あぁ、悔しいが下手すれば右腕が逝ってた。多分、暴走したスターダスト同等の威力は出ていただろう」
「見てるこっちもハラハラしたもの…ん、だったらロックマンが持ってたあのカード、奪ってきた方が良かったんじゃない?」

ミコトはロックマンのスターフォースの力を手に入れ、手っ取り早く進化することを考えた。
実際に見ていてあの力は凄まじいものだったのを、数秒前のことのように思い出せる。
しかし安食は否定的だった。

「無駄だな。恐らく力そのものはロックマンの中にあった。あのカードはそれを起動するための起動キーに過ぎない。仮に奪ってきたところで、大元の力が無ければ引き出せない」
「でもやってみなきゃ、分からないし」
「いや、あんなカード1枚であれだけの進化をする訳がない。力の本体は奴の内側にあると考えて間違いない。それに常にあの形態でいるわけじゃないってことは、こちらを舐めていたか、それだけ危険だから使いたくなかったってことだ」
「危険…」
「そうだ。現に普通の電波人間じゃ考えられないような攻撃をした上、使った本人は本人でたった2発の攻撃で倒れたんだ。AM星人だって馬鹿じゃない。ロックマンにはそれなりにあの力を使う資質があったんだろう。だが、資質がある奴であの有様だ」
「そういえば前に言ってたね。使いこなせない力は無いのと同じ、むしろ仇になるって」
「そういうことだ」

これで先程までの戦闘の話を終えた。
思わぬ邪魔だったが、時間としては僅か15分程度の出来事だった。
計画に支障は無い。
ブライツで時間を確認して、一度安堵のため息をつく。
同時に薬も効き始め、落ち着いてきたところで信号に捕まった。
ゆっくりとブレーキを踏んで、停止線の手前で余裕を持って停車する。

「そういえば、ロックマンで思い出した。君の...お姉さんでいいのかな、高垣美弥という少女は?」
「お姉ちゃん?あぁ、厳密には違うけど。私はそういう人格として基礎づけられてるから。どうしてそんなことを?」
「いや、今まで美緒の姿だった時は意識したことが無かったが、君っていうのはどういう位置づけで、どういう人間なのか気になってね」
「ふぅん。あなたが他人に興味持つなんて珍しい。で、例えば?」
「例えば...君がValkyrieに入った理由」

信号が青になると安食はアクセルを踏み込み、左折する。
Valkyrieに入ったのは、安食よりミコトの方が早かった。
美緒の記憶を持っているミコトは美緒として振る舞い、既に美緒が確立した社会的にも経済的にも優位なポストを利用してValkyrieに加担する道を選んだ。
安食自身もずっとそれが美緒としての顔だと思っていたが、それが本当は別の人格だったと知ったのはほんの数年前のことだった。

「自分の事など忘れて幸せになろうとした母と姉への恨みとか?」
「ママとお姉ちゃんが妬ましくて?まさか!それくらいだったら、ママの身体でお姉ちゃんを痛めつければいいだけだもの?そうすれば自然とママとお姉ちゃんの仲は悪くなって一件落着...」
「...君は姉が嫌いだったのか?」
「嫌いっていうか、羨ましかった。成績優秀、誰にでも優しい、絵に描いたような優等生タイプ。お母さんも私のことを忘れてはいなかったんだろうけど、お姉ちゃんとばっかり遊んで。冷静に考えるとやっかみなところもあったのかも」
「姉と母親が嫌いだったわけでもない?じゃあ、何かしたくてValkyrieに?」
「っていうかね、安食さ、前から思ってたことあるんだけど。言っていい?」
「なんだ?」
「あなたさ、人が何かするっていうのは、恨みがあるとか、何か野望があるかのどちらかだって決めつけてない?」
「それはそうだろう。Valkyrieなんて言い方を悪くすれば、死の商人ってやつだ。それに入るっていうことは、どちらかだと決めてかかっても間違いじゃない」

安食は態度を変えない。
誰から見ても安食は普通の人間の感性からは少しズレている部分があった。
今回の計画自体もそうだ。
Valkyrieの側としては、軍需の拡大による利益を目的としているが、そんな計画に参加している安食自身は金には興味が無い。
目的は全く別のところにあるが、それを達成するためにValkyrieの計画を利用しているに過ぎないということに、ミコトは気づいていた。

「なるほど。でも私がValkyrieに理由はあなたのその二原則のうちの"恨み”に入るかな」
「母親と姉が対象ではない...じゃあ、何処に対する恨みだ?」
「この国、私が生まれてこれなかった理由を作ったのは、彼らだから」
「...前に言ってた帝王切開中の変電所トラブルは偶然じゃなかったってことか?」
「そういうことね。私がこの事を知ったのは、ママの仕事を通して。トリニティーブレインとI.P.Cの役員だったママはいろんなデータに触れる機会があった」
「なるほど。でもそれだけなら、Valkyrieに入る必要もない。Valkyrieは世界中に武器を売る。ニホンに恨みがあるなら、余計な遠回りをすることになるだろ?」
「そう一見、遠回り。でもValkyrieに入ることでこうして私は自由を手に入れた。ママから分離して実体を得ることに成功したわけ。ユナイトカードのテクノロジーが最終的にここに行き着くことは、前から予想されていたしね」

ミコトは自分の髪の毛先を指で触れながら、外の景色を見た。
満ち足りた表情をしている。

「これから1人の人間のとしての生活が始まる。何かに囚われることもなく、好きなときに好きなものを食べて、好きなものを見て、触る。自由を得るために私はValkyrieに入った」
「感想は?」
「最高…でも同時に気づいた。私にとってValkyrieが自分の居場所、お姉ちゃんやママのいるところじゃないって」
「それじゃ、身体を手に入れたからトンズラってわけじゃないのか」
「もちろん、これからも私はValkyrieにいるつもり」
「改めてよろしく。ミコト」
「よろしく、安食ちゃん。じゃあ今度は安食ちゃんがValkyrieに理由を教えて?」

ミコトは後部座席に用意されていた自分への支給品の数々を手に取りながら聞く。
何もかもが新鮮なミコトにとっては、銃を握る感覚すらも新鮮だったのか、物騒なものだという認識はあっても、思わずニヤリとしてしまう。
しかし上機嫌なミコトとは対称的に安食は答えるまで一瞬だけ間が空いた。

「金だよ。Valkyrieが親も死んで、中卒ですらないオレでも入れて、最も稼げる職場だったってだけさ」
「冗談」
「ホントだ。暴力がまかり通らないルールがある状況で一発逆転するには金しかないだろ?」
「でもあなたは決して稼いだ金で豪遊することも無ければ、モノを言わせることもしなてない。もっと他の理由があるはずでしょ?」
「ほう…生まれたての赤ん坊同然のくせになかなか言うじゃないか。で?例えば?」
「自分を正当化するため。とか?」
「……」

安食は黙り込む。
自分の深い部分にズバズバとメスを入れられている気分だった。
だが、不思議と何も言い返すことはしなかった。

「あなたは子供の頃、親に虐待を受けていた。そしてその親が死に、施設に行くことになった」
「……」
「そこで待っていたのは地獄、毎日毎日、死んでもおかしくないような暴行を受けた。そんな中であなたは人っていう生き物の醜さを知った。そして自分がその1匹だってことも」
「……」
「でも暴行を受ける中であなたの人格は捻じ曲がっていく。でも同時に身体はその暴力を受け入れていった。いくらやり返したところで、人の悪意は尽きない。次のクズが自分を殴りに来るだけ」
「……」
「でも何かキッカケがあった。そのループから抜け出すようなキッカケ。今まで溜め込み続けた“何か”があなたの中で弾けた」

「そうだ。私は抜け出した。一瞬だが何も考えられなくなった。奴らと同じ、人間の醜さに身を預けた」

自分の経歴を並べていくミコトが答えに近づいた段階で安食は口を開く。
口調はいつもの喧嘩腰の強い口調ではない。
紳士的で物腰柔らかなものだった。

「何があったの?」
「暴行の他にも様々な嫌がらせを受けていたが、一番辛かったのは何か分かるかな?」
「寝れなかった…こと?」
「それもある。悪夢を散々見た。そしてそれをいつか奴らにも味わわせるてやりたいと思うようになった。だが悪夢くらいで死にはしない。暴行の次とくれば、食べ物だ」
「食べ物?」
「施設で出される食事はお世辞にも美味しいとは到底言い難いものだったが、我々、孤児にとってはごちそうだった。だが私は奴らに食事を全て取り上げられ、まともなものは口に入れることはできなかった」
「…酷いね」
「不眠症と空腹、全身の激痛の中で私の理性は削られていった。だがある日、遂に事は起こった」
「……」

ミコトはLumiaを胸ポケットにしまうと深呼吸して安食の話を聞く態度を整えた。
何かとんでもないことが起こったのだろうというのは、直感的に感じ取れたからだ。
安食は顔色一つ変えずに続ける。

「いつものようにトレーに食事を乗せ、部屋に入ると奴らがいつものように私の食事を奪いにやってくる。しかし奴らの1人が私のハンバーグの皿を奪った瞬間、何かが弾けた感覚とともに意識を失った」
「……」
「気づいたときには口の回りにデミグラスソースとその日のデザートのショートケーキの生クリームが付いていた。そして奴らは全員死んでいた。奴らだけじゃない。見て見ぬ振りをし続けた職員や他の孤児たちも」
「…どんな気がした?」
「最初に正気に戻った時は、驚きもあったが、それ以上に数年ぶりの満腹感に涙が出ていた。他の孤児たちの食事も全て食べた。初めて人を殺したことも当然のように受け入れていた」
「美味しかった?」
「あぁ。あの苺の味は今でも覚えてる。だが奴らのようなクズを殺して捕まりたくはなかった。徐々に冷静さを取り戻すと、シャワーで血を洗い流して、着替えると施設にあったありったけの金と食事をバッグに詰めて外に飛び出した」
「その後は?」
「金がすぐ無くなって、地下格闘技場で稼いだ。ずっと痛めつけられていたせいか、身体は鍛えるまでもなく、素人の賞金稼ぎ程度はあしらえるようになっていた。だがそれも長くは続かなかった」
「長期間の虐待と暴行であなたの脳内はバランスを崩していた。強靭な肉体と精神を手に入れたものの永くは生きられない身体になっていた」
「そこで君と出会った。後は知っての通りだ」
「あの時、安食ちゃんは14歳だったかな?客や対戦相手からは『バケモノ』って言われて恐れられていた」

極限状態が知らず知らずのうちに、自分の人格を捻じ曲げ、本来の自分はどんな人間だったかも安食自身にはもう分からない。
家族と居場所、そして人との繋がりの対価に得られたものは、『怪物』とも表現されるような超人的な精神力と世界に対する膨大な憎しみ、そして痛めつけられ、鍛え上げられた肉体だけだった。

「施設を飛び出してから人と関わる度に薄っすらと、そこはかとない怒りが湧き上がっていた。それは地下格闘技を出てからようやくはっきりと自覚した」
「ようやく分かった。あなたがValkyrieに入った理由」
「当たるかな?」

「あなたは憎かった。そして寂しかった。誰も彼もが自分たちは清く正しい人間だって顔して歩いているのが。誰かが困っていたら助ける。相手のことは本当はどうでもいいくせに、自分がいい人だって思いたいから。人の本性は醜いものだって見せつけてやりたかった」

「……」
「人は自分がピンチに陥れば平気で他人のことを切り捨て、傷つけられる生き物だって。自分がおかしいんじゃない。そんな偽善者の仮面をかぶっている連中こそおかしいんだってね」
「まぁ、それで正解ってことにしておこう」
「でも、当然のことだと思う。私は安食ちゃんの考えを間違ってるとは思わないな。私だってきっとそう思う」
「フッ…君は良い奴なんだか、嫌な奴なんだか…」
「お互い様」

安食はこんな会話の中で不意に彩斗のことを思い出した。
彩斗のことをここまで危険視するのは、何処か自分と似ていると感じていているからだ。
最初にあの廃工場で出会ったときのことは鮮明に覚えている。
大量の死体の中で唯一人立っている少年、まるで昔の自分を見ているかのようだった。
目を疑い、時間が巻き戻ったのではないかと一瞬時計を見た。
そのせいか不思議とただ倒すだけの相手のはずなのに、必要以上の情報まで部下に調査を命じていた。

「そういえばさ、あのスターダストの正体ってお姉ちゃんのカレシ?」
「気づいていたのか?」
「うん。あなたが教えてくれなかったから、多分、教えても私が信じないような奇想天外な相手だってことだと思ったの。で、私が何であんなにボッコボコにされたのかなって考えてみたら…」
「数日前、美緒は奴と接触し、殴られたらしい。それくらい君のママは彼に恨まれていたわけだが」
「私がママの身体で看病もせずに、Valkyrieに加担してるようじゃあの怒りようも納得」
「知っているならいい。万が一、奴が計画に気づいて妨害にやってきたら躊躇いなく殺せ」
「う~ん、ちょっと勿体無い気もするけど、分かった」
「勿体無いって?」
「もしかしたら仲間に引き入れ…」
「無理だ。絶対に」
「正直、安食ちゃんと同じような感じだったからさ。それにお姉ちゃんが好きになるだけあって、私のタイプでもあるし。でも昔、どっかで見たような気もするんだよねぇ」
「君が美緒の人格だった時にか?」
「うん。でもお姉ちゃんには悪いけど、安食ちゃんや私たちの邪魔をするようなら、問答無用であの世に送ってあげるよ」
「それでいい。さて、私はホテルに戻ってしばらく休むが」
「えぇ…」

互いの信頼関係が深まったかと思いきや、次の瞬間にはミコトの機嫌は崩れた。

「何?君…えっと、ミコトはどうしたいんだ?」
「せっかくシャバに出たことだし?何か美味しいものでも食べたいな♪」
「1人で行ったらどう?自由を満喫したいだろ?」
「だってお金無いし。ママから自由になったお祝いと、今夜の前祝いも兼ねて」
「子供に戻った瞬間、甘えても…ハァ…悪いけど、ハシゴはしないからね」
「安食ちゃん、太っ腹!」

信号が青になった瞬間、アクセルを踏み込む。
薬が聞いてきたのもあるだろうが、何故か心が穏やかだった。
いつもの作られた温厚さではない。
どういうわけか、ずっと1人で生きていた安食にとっては薬を服用した後に美緒、いやミコトといる時はいつも不思議な感覚だった。
幼少期の事がキッカケで自分に怪物が取り憑いたのか、それとも元から心に巣食っていた怪物が目覚めたのかのは定かではない。
だが自分にはバケモノでは無く、まだ人間としての心が残っているのだと自信を持って言うことができたのだった。



 
 

 
後書き
書き終わってみると、結構長くなってしまいました。
安食というキャラクターはこの物語における宿敵で結構ゲスいことも色々やってるんですが、やっぱり書いてる側としては結構好きなキャラクターなので少しでも出番を増やしたいっていうのと、敵キャラが作り込みや魅力的かどうかで物語そのものが面白くなるかどうか決まる部分もあるので、可能な限りどういうキャラクターなのかははっきりさせておきたいっていうのがあって...

次回は彩斗メインに戻ります。

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