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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#19
  MILLENNIUM QUEENⅢ ~Last Judgement~


【1】



“顕れなさい。 『アーサー』 ”



「――ッッ!!」
 魔の触手で雁字搦めにされたオルゴンの躯から、
本人の意志を無視して緑青色の力が噴き出す。
 折れた骨を、潰れた臓腑を更に執拗に加虐するような凄まじい苦悶が
全身を苛むが動く事は叶わず悲鳴を発する事すら赦されない。
 やがて、オルゴンの致命点まで抉り込んで消費された存在の力と
呑み込み蓄えていた人間達の生命が共に(つづ)れ合い、
極大なる形容を創造しつつ在った。
 そしてソレこそが紅世の王 “千征令” オルゴンの
『切り札』 で在り、自らその存在を封印した 『禁儀』
 鋼鉄の軍勢 “レギオン” を構成する 「四枚の手札」
そのスベテを一挙に開放し「結合」 させ
一体の超巨大な騎士を生み出す。 
 しかしソレは従属する兵士ではなくその全軍を束ねる
騎 士 の 王(キングスナイト)” 
 彼本来の特技である殲滅を極限まで追求した結果の法儀であるが、
自身の限界を超える莫大なる存在力と、余りに凄まじ過ぎる威力と反動の為
生涯遣ってはならないと固く封印していた。
 その消失した筈の 『禁儀』 が、
統世王の肉と最強自在師の手により
白日の下に晒される。
 



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!




 ソノ存在は、半径数十キロに渡る戦場、スベテの者の瞳に映った。
 


 封絶中心部及び北西エリア。
「な、なんだ? ありゃ……」
「アラストールッ!」
「むう……!」
「わぁ、スゴイ、おっきい」
「フフフフ、やりますわね、 “千征令” 」
 


 北東エリア。
「ミス・マージョリー……アレは、一体……?」
「アイツも此処に来てたっての!? 
でも、あんなモン召喚するとか何トチ狂ってンのよあのバカッ!」
「お、おい! テメーらの相手はこのオレサマだろうが!
無視すんじゃあねーこのやろう!」
「「うるさい黙れッッ!!」」
「はい……」
 


 南西エリア。
「も、もう、何が出てきても驚かんぞ、ワシは……」
「ぬうぅ、己が存在を代償としこの私以上の顕在を可能とするとは、
その覚悟見事なり、千征令」



 フラトン・シンガポール・SPW、ホテル2階。
「何者かが、顕現でもしたのでありますか……
この巨大な存在の圧威、只ならぬコトが起こっているのであります……!」
「大丈夫か!? 淑女(レディ)!」
「……平気であります。それと、蹌踉めいた所を受け止めるだけならば、
腰に手を回す必要はないのであります」
焚刑(ふんけい)



 西エリア、市街地よりやや離れた路上。
「ハ、ハハ、これ、夢ですか? 
幾らなんでもメチャクチャです。
あ、あれ? アハハ、腰が抜けちゃって、立てません」



 全面に華美な装飾を施された荘厳な甲冑に街路を暗闇に染める外套。
 倔強なる腕に握られた剛刃に絶対的な栄華を魅せつける玉冠。
 ソレらを身に纏う者の風貌は、正に夥しい戦場を潜り抜け、
その混沌を呑み込んできた者にしか得られない英姿。
 しかしやはり、その存在の絶対性を極めつけるのは
視界に留まらないほどの圧倒的な巨大さ。
 その全長から比すれば、周囲の高層ビル群など積み木細工のソレでしかない。
 手にした剣を掲げれば上空の封絶を突き破り、
纏った外套を翻せば遠間の海面すら激しく波打つ。
 最早能力(チカラ)技術(ワザ)の通じる次元ではない、
香港で顕現した “蹂躙の爪牙” アノ蒼き魔狼を5体(つど)わせてもまだ余る。
「――ッッ!!」
 その極大をも超えた存在の胸元で、
眼を凝らさねば見えない程の小さな点で、
法紋の浮かび上がった触手に磔られたオルゴンが
嘆きの声をあげる事も出来ず呻いた。
 顕れている存在の桁違いの大きさから、
ただそこに居るだけで並の徒なら
一瞬で消滅してしまうほどの力が喰われる。
 それでも維持を可能としているのは、
吸血鬼化したオルゴンの躯とソレを “操る者” の技量が
並外れているというコトに他ならない。
『フム、概ね、巧くいったようですね。
私ならばあと2体ほど召喚して布陣を改める所ですが、
まぁ良しとしましょう』
 頭蓋の奥で、此処に存在しない者の声が無機質に響く。
 今こうしている間にも、許容以上の力が無理矢理引き絞られ
発狂する程の痛みが全身を劈くが、
一体化した触手が崩れた箇所を再生してしまうので消滅する事も出来ない。
 死ぬ事ではない、 “死ねないコト” がここまで怖ろしいとは、
このような惨状になっても痛覚(しょうき)保っている己自身を
オルゴンはただ呪うしかなかった。
『エクスカリバー』
 冷冽な声が響くと同時に、超巨大な騎士の王
“アーサー” が手にした剛刃を無造作に揮り廻した。
 ただそれだけで、災厄のような暴風が封絶全体に吹き荒れ木々をへし折り
建物を崩壊させ人々を瓦礫の乱流に巻き込みながら大地と海を割る。
 その威力もさることながら、たった一太刀揮っただけで
オルゴンの躯が半分以上崩れる。
 しかし即座に枝分かれした触手が損壊箇所(キズアト)に潜り込み、
ものの数秒で再生させてしまう。
 嘗て、この世界スベテの究極点へ到達しようと目論んだ、
魔神の生み出せし恐怖。
 吸血鬼化した者は、太陽の光(波紋)以外、核爆弾でも殺せない。
 更に “肉の芽” の機能を 「暴走」 させソレを対象に組み込めば、
四肢を轢き断たれても生き続けるというのは他の人間や徒で実験済みだ。
『及第ですね。私の焔儀には劣りますが、多くは望まない事にしましょう。
参ります、 “千年妃” 』
「……」
 気配を殆ど発さず、アーサーの眼下に赤子を抱いた女神の姿が在った。
 十全の状態ならば、自らと渡り合えるほどの強大な力の潜在を
遥か遠方の地からでも如実に感じる事が出来る。
 多少の甘さはあれど先刻からの美事な闘い振りから、
彼女に対する敬意とソレを屠る事を惜しいと想わないではなかったが、
ヘカテーは冷然と剛刃を引きその驚天の切っ先をエリザベスに差し向けた。
「先程までの者ではないですね。
“誰” ですか? アナタは?
戦いを挑むのなら、名ぐらい名乗ったらどうです?」
『――ッ!』
 声は聞こえていない筈なのに、少ない情報と絶望的な状況で自らの存在を
正鵠に明察したエリザベスの知性に、ヘカテーは小さく息を呑んだ。
「ソレが、話に聞くDIOの “肉の芽”
植え付けた者を自由に操り奴隷に出来るというのは本当のようですね。
その者に最早戦意はありません。
“そんな者すら操って” 自らは安全な場所で高見の見物ですか?
やれやれ、狭量極まりない事ですわね」
『……』 
 遙か遠方に位置する少女の瞳が、微かに鋭さを増した。
 戦闘に於ける心構えは千差万別、故に議論しても意味がないしその気もないのだが、
自らが行使する能力(チカラ)を侮辱されるのは “その方” を侮蔑されたように
彼女には感じられた。
「あ……が……ぐぅ……」
 双眸の冷たさを増した少女に届く、耳障りな声。
 その心中を代弁するかのように、法紋の浮いた触手が拡散して
オルゴンの顔面に巻き付き呼吸を塞ぐ。
 最早意識は完全にエリザベスへと向いていて、
封縛するオルゴンには路傍の石ほどの関心も払っていなかった。
(だ……だれ……か……たす……)
 心中で漏れる嘆きすらも、断続的に身を劈く苦悶に呑み込まれた。
 自業自得。自縄自縛。
 世界のスベテから見捨てられた存在。
 他の者であるなら、きっと誰もが彼をこう弾劾したであろう。
 そう言ってきた者に、否、 “言えもしなかった者に”
貴様は一体何をしたのだ? と。
 それだけ多くの血が、罪無き生命が、紅世の徒(オルゴン)の為に流された。
 譬えどれだけ哭き叫び、跪き赦しを乞おうとも、
『神』 は彼から眼を背ける。
 しかし。
「苦しいの?」
(――ッ!?)
 決して誰にも届かない筈の声に、気づいた者がいた。
 漏れる炎で緑青色に染まった視線の先、
赤子を抱いた一人の女が自分を見つめている。
 眼前で聳える超存在にさえ意識を向けず、ただ自分だけを。 
 最初に逢った時と、同じように。
「……!?」
 ふとナニカが、瞳から流れ落ちた。
 永きに渡る時の中、一度もなかった感覚。
 心中を蝕む絶望や恐怖すら霧散するような……
「そう、苦しいの……」
 真っ直ぐな視線が、瞳に灼きついた。
 まるで理解出来なかった彼女の精神(ココロ)
ソレが、ほんの少しだけ、解ったような気がした。
 こんなにも、こんなにも。
 温かい。
「にげ……ろ……せ……ね……き…………」
 残された、ごく僅かな気力。
 ソレをオルゴンは、気流に掻き消されるような声を発する為に使った。
 何故そんな事をしたのかは、自分でも解らなかった。
 ただ、勝手に崩れた口唇が動いた。
 意味も理由も、その先に待つ結末すら考えられなかった。
『愚かな……』
 凍てつくような声が頭蓋に吐き捨てられ、
増殖した触手が戒めの楔を顔面に撃ち込む。
 先刻以上の力が搾り取られ、炎が血のように肉のように次々と飛び散った。
 その拷問に等しき惨酷を終わらせる為、
一人の波紋使いが赤子を抱えたまま進み出る。
『……』
 余りにも巨大な刀身、しかしその照準を精密に修正しながら
紅世最強の自在師は、依り代を通して力を練り始めた。
 無論、この最初の一撃は命中()たらない。
 手負いとは云えエリザベスの反応速度(スピード)は、空を駆る旋風の如く。
 しかしソレを封じる術は既に、ヘカテーの脳裡で構築されていた。
 何れの方向に躱すとしても、剣を撃ち出した瞬間エリザベスは空中に飛び上がる。
 その際、隙は疎か微かな弛みすらも生まれないだろうが、
大地に着撃した 『エクスカリバー』 は地面を陥没させると同時に
夥しい土砂を瓦礫と共に捲き上げるだろう。
 通常の理を無視して噴き挙がる、土の豪雨(あめ)とも云うべき大地の波濤は
確実にエリザベスの視界を奪い速度をも減衰させる。
 ソコへ再び剛刃を二揮り、三揮り、
巻き起こる爆風衝撃に拠って躰を拘束し、
最終的にその射程圏内全域に、
アーサーの存在スベテを炎弾に換え一挙に殲滅する。
 今の状態で自らの焔儀は遣えないが、
中級領域の焔儀ならオルゴンも複数修得しているので使用する事が出来る。
 我が身を滅ぼすオルゴンの 『切り札』
ソレすらも陽動にして敵を討つ巧妙な策。
 超遠距離で対象を操作しながら初見の自在法を行使し、
尚且つ必滅の陥穽を張り巡らせる “頂の座” の怖ろしさ。
 幾らエリザベスと雖も、その策謀に嵌っては絶命必至。
 肉体の硬度は、必ずしも炎の耐久力と比例しない。
『お別れです…… “千年妃” 』
 自ら認めた宿敵に、ヘカテーは礼意を込めて永別を送った。
 揮り挙げられた巨大なる剛刃の切っ先が、大気を鳴轟させながら女神に迫る。
 ヘカテーの意識は既に、回避予測点を複数算出しそれぞれに対応する
二の刃の形を想定する。
 しかし!



 グァッッッッッッッッッギイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィ
ィィィィィィィィィィィィィィッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!



 巨大で硬質な金属音。
 否、実際に音は鳴らなかったのだがソレを目の当たりにしたヘカテーには
如実なる感覚として耳に届いた。
『な……!?』
 さしもの “頂の座” も、零下の風貌を豹変させるに充分な光景。




   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!




 比類無き最大最強の剛刃が、折り曲げられた女神の細腕一本に止められていた。
 その後も反射的に力を込めるが、刃の先端は微動だにしない、引くことも出来ない。
『そ、そんな莫迦な……幾らなんでも在り得ません……』
 透徹の頬を伝う、氷の雫。
 そう、エリザベスの力を侮ってはいない故に、
ヘカテーは予測した総力(チカラ)を数割増して戦闘に臨んだ。
 元来、徹底貫徹の性格、確実に討滅するために
自らと互角の遣い手にまでその数値を引き上げた。
 しかし、それでもこの結果は在り得ない。
 自分でも、アーサーの放つ渾身の一撃を片手で防ぐのは不可能。
 故に、エリザベスでもその結果は同じ筈。
 何らかの特殊能力? 
しかしエリザベスが 『スタンド使い』 でない事は事前の調査で確認済み。
『一体……どうしてこんな威力(チカラ)が……』
 唖然とするヘカテーの視界が、
彼女でなければ見逃している微細な存在を捉えた。
 無人の街路、その茫漠とした風景の中から虚ろとすら云えない、
余りにも小さい光子が棚引き、一箇所に集まっていっている。
『――ッ!』
 ソレは、極大に聳える騎士、胸中で囚われているオルゴン、
更には海を隔てた自分の躰からすらも微量ながら発せられていた。
『トーチ……否……ソレすらも “消え去った後” の、
存在の定義すら危うい余塵が、彼女の元へと集まっている……!?』
「……」
 微かな呼吸音すら発しないその口唇の隙間で、そして全身で、
エリザベスは空間に漂う生命の欠片(カケラ)を集めていた。
 全ての存在(モノ)が、微弱に発している生命エネルギー、
人間だけではなく草木や虫、空を舞う鳥、水の中で泳ぐ魚、
それらを育む大地や海に至るまで、スベテ。
 ヘカテーの遣う法儀のように、対象から強制的に力を搾り取るのではなく、
自然が、生命がごく当たり前に放出している力を受け取り、
それを集束、『融合』 させて高めている。
『し、しかし彼女が集めている力は余りに脆弱なモノ、
そんなモノが幾ら集まった処で……!』
 その自分の予測がすぐに間違っていたコトを、
ヘカテーは想像を絶する光景と共に気づかされる。
 存在しているとも云えない儚き光子、
だがソレが集まってくる場所は、
“この一帯からだけではない” 封絶全体からでもない、
その境界を越えて、遙か、遙か、彼方から……
『え……?』
 オルゴンの感覚を通して見上げた空に、
天河を彷彿とさせる光の流れが在った。
 そしてソレは天空のみならず大気からも大地からも同様の流れを形創って、
エリザベスの躰に取り込まれていく。
 その一つ一つの力は確かに微弱、
しかしその数がその量が、余りにも桁違いに大き過ぎる。
『ど、何処、から……? 一体 “何処から” ……?』
 放心と同時に無意識に浮かんだのは、この地球(セカイ)そのもの。
 その至る場所から、生きとし生けるモノ総べてから、
光の粒子が放散され流れと成り、エリザベスへと集まっていく。
 そしてコレこそが正に、波紋の 『極意』
創世の息吹(ゴッド・ブレス)
 生命の至宝 『波紋』 は、 「破壊」 の為に在らず、
この世界の 『調和』 の為にこそ在る。
 その瞳に映る、虫一匹、草一本、そのスベテに畏敬の念を抱き、
どんな生命も大切に想う精神(こころ)無くして、
この極致に至るコト不可能。
 そしてまた、“自らも自然の一部”
 どんなモノでも、誰かに、ナニカに支えられ、
そうして存在しているコトを真に悟った時、
自ずと自然の方から力を分け与えてくれる。
「人間」 とは、その個々をさしての生き物ではない。
 何千、何万、何億、何十億と集まって一つの 『生命』 だと云うコト。
 そしてその生命が織りなした 『歴史』 も含めて、一つの存在だと云うコト。
 怜悧では在るがあくまで 「個」 に固執する紅世の徒、
ヘカテーにはソレが理解出来ていなかった。
 目の前に立つ女性は、一人であるが “独りではない”
彼女の総力(チカラ)は、彼女自身だけに拠るモノではない。
 その一点、その 「本質」 に於いて、
ヘカテーは完全にエリザベスを見誤っていた。
 そして、その全世界中から集められた生命の光流が、女神を悠麗に彩る。
 漆黒の髪も瞳もそして躰も、眩いばかりの神輝に包まれる。
 莫大なる生命エネルギーを裡に取り込んだ事に拠る
“無限的累乗効果”
 そして生まれる波紋の 『融合』 
 其れこそまさに、永劫の闇を照らす太陽の現し身で在るが如く。
 刳り出される御業は手の平より、しかし大陸を鷲掴みにする程の絶大な恐懼(きょうく)
 天堂礼讚。終末の聖別。
 波紋極奥義。
最 後 の 審 判(ラスト・ジャッジメント)
発動条件-創世の息吹(ゴッド・ブレス)
行使者名-エリザベス・ジョースター
破壊力-SS スピード-SS 射程距離-測定不能
持続力-SS 精密動作性-SS 成長性-完成





 薙ぎ祓われた女神の一閃により、巨塊は容易く崩れた。
 どんな屈強な存在だろうと、形在るものは必ず滅する。
 曲げられない、否、変えられない、神の摂理が現前した光景。
 神は、自らの姿に似せて人を創造したという。
 ならば、スベテの人間にその力が宿っているのはある意味必然。
 そして、その人々が生きる世界を破壊するモノに断罪が降るのは至極当然。
 分子原子素粒子、それ以上に小さく尽滅され、
神輝(ヒカリ)()けた騎士の王が封絶を突き抜けて彼方へと昇っていく。
 神威の情景を敢えて形容するならば、
正に 『天 国 へ の 階 段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)
 その奇蹟の光景は、封絶の中のみならず、全世界中のあらゆる者達に目撃された。
『――ッッ!!』
 遙か海を隔てた、瀟洒な調度品で彩られた一室で一抹の光が弾ける。
 衝撃に退いた少女の手から、明澄な水色の炎が火花を散らした。
 女神の刳り出した極奥義により “肉の芽” が消滅したため
精神の同調(シンクロ)が解除されたのは理解できる。
 がしかし、そのダメージが空間を飛び越えて
自分にまで及ぶとは。
 手の甲に走る痛みよりも因果法則を完全に無視して顕れた
エリザベスの能力(チカラ)に、ヘカテーの双眸は更に凍てついた。
「一体、どのような原理で……
まさか、アノ(ワザ)奏効(射程)は、
【無限】 だとでも云うのですか?
仮に存在の現出を解き紅世へと逃れても、
其処まで永遠に追ってくる……」
 一流の遣い手でも理解に窮する能力(チカラ)の発現を、
畏怖に怯まずそこまで分析出来るヘカテーの知力もまた驚嘆に値。
 そこ、に。
「余り人間を見くびるな」
「――ッ!?」
 心を盪かすような美声と共に、
その絶対的存在感を微塵も気取らせない人物が、
背後に立っていた。
 当然、いつ部屋に入ってきたのかは解らない、
ドアを開ける音も、僅かな気流の変化すら感じられなかった。
「……お恥ずかしい処を。よもや人間にあのような者がいるとは」
 纏った外套を開け礼意を示そうとする少女を絶対者は留めた。
「フッ、まぁ人間を怖れろというのではない。
人間は “侮れん” と言っているのだ。
一見、どれだけ脆弱で他愛もない存在に視えようと、
追い詰めに追い詰められればゼロの可能性すら覆す場合が在る。
『運命』 というモノを、信じざるをえなくなるほどにな」
「……」
 運命、確かにそうかもしれない。
 論理的な思考でいくなら、アーサーが撃ち砕かれる要素は少しも無かった。
 緩みがあったわけではないのに、全てに於いて万全を尽くしたのに。
「格別の御配慮、心より承ります。以後今まで以上の専心を。
統世王様に、アノ者の衣擦れ一つ、耳に入る事は御座いません」
 最強の自在師、その新たな忠心に絶対者は艶めかしい微笑で応じる。
「フッ、まぁ余り根を詰めるな。おまえに倒れられては私も困る」
「お戯れを」
 そう言ってソファーに腰を下ろすDIOに、
ヘカテーは慣れた手つきでアンティークのティーセットを運んだ。
「ところで統世王様? 僭越では御座いますが、
女性の部屋を来訪なさる時は、ノック位するべきでは?」
「フッ、したぞ? ノックは。
最も、おまえには “聞こえなかった” ようだが」
 氷の風貌を微かに溶かして告げられる諌言に、
DIOは悪びれずそう答える。
「比類無き御力を、遊興に遣うのはお止めなさいませ」
「フッ、安心しろ。おまえにだけだ」
 完璧な作法で差し出されていたティーカップが、小さな音を立てた。





【2】


「ア……ガ……グ…………」
 天空を穿つ超存在が光と成って消え去った後、
静寂の舞い戻った街路には無惨な姿で打ち捨てられた
王が襤褸(ぼろ)切れのように転がっていた。
 皮肉にも自らを縛り付けていたDIOの肉の芽とヘカテーの法儀が障壁となり、
かろうじて形容(カタチ)を保ったまま未だ生き長らえている。
 しかしソレも時間の問題、全身に廻った波紋傷は固体の蒸発音と共に
緑青色の煙を噴き上げ、確実に死の暗黒へとオルゴンを誘う。
 最早甦らせる者もいない、完全なる無の深淵へと、静かに。
「……」
 その傍に、立つ者。
 最早眼も見えず、耳も溶ける音が聞こえるだけだが
その存在だけは、五感が薄れても鮮やかに感じる事が出来た。
(とどめを……刺しに来たか……或いは……無様に苦しむ……
オレを嘲笑いにきたか……いずれにしても……フ……フフ……)
 もうどうしようもない、受け入れるしかない二度目の末期に
ただ笑うしかなかった。
 痛みも限界を超えると感じなくなるように、絶望もそうなのだと想った。
「少し、待っててね」
 微かな衣擦れの音、抱いていた赤子を首帯(マフラー)の上に置いたのか
ヒールの甲高い音だけが近づいてくる。
(おわ、りか……)
 途切れぬ苦悶が自らを蝕むこの状況に於いては、
無慈悲に振り下ろされる断頭の一撃すらオルゴンには救いだった。
 即座に空を切る尖鋭な手刀。
 今際の瞬間に、オルゴンの時間は超圧縮して脳裡を駆け巡る。
(誰も……信じぬであろうが……)
 光の一閃が、柔らかな肉を裂く。
(オレは……本当に…………)
 バシュッッ!!
 意識が、途切れた。
 本当に、途切れた。
“そう想った”
(――!?)
 崩れた躯に降り注ぐ、温かな感触。
 慈愛をそのまま雫にしたような、安らぎに充ちた感覚。
 全身を蝕む苦悶が、薄れていく。
 闇に覆われた意識が一面の光によって晴れていく。
「な……」
 非常にか細いが、声も出た。
 閉じた視界も、僅かであるが回復した。
「……」
 横たわる自分の頭上、エリザベスが拳を握って伸ばした腕を引き絞っている。
 その中程には見事な切り口の裂傷が浮かび、
そこから絶え間なく鮮血が滴って自分に注がれていた。
「波紋傷がそこまで廻ってしまった以上、もう治す事は出来ません。
ならばせめて、私の血で痛みを和らげてお眠りなさい」 
「――ッ!」
 俄には、信じられなかった。
 自分は朽ち果てる寸前で、
その際に視る都合の良い妄想に浸っているのだと想った。
 しかし、徐々に意識は、はっきりしていく。
 目の前に拡がる、光輝(ヒカリ)に充ちた世界。
 その中心に佇む、彼女の姿。
(どう……して……どう……して……?)
 哀切や郷愁とも違う感情に心震わせながら、
何度も何度もそう問うオルゴンに、エリザベスは静かに首を振った。
「関係、ありません。大切なのは、アナタが苦しみ倒れていたという事。
誰かを助けるのに、理由がいりますか?」
 オルゴンの心の底で、最後の破片が砕け散った。
 今まで頑なに信じてきた、力への信奉、自分の存在のスベテ、
ソレが、跡形もなく粉々に。
 裡で舞い散る光塵と共に、永き日の追想が甦った。
 その殆どは、果てなき凄惨なる戦いの日々。
 自らの張り巡らせた奸計に敵が堕ちた時、
絶望の表情を見据えながら止めを刺すのが堪らない愉悦だった。
 力無き者に存在する資格無し、その矜持の許邪魔になる者悉くを
徒に踏み潰すのは実に欣快だった。
 ソレらスベテに疑問を抱かず、否定もせず、生きてきた日々。
 でも。
 幾ら力が在ろうとも、どれだけの戦功を掲げようとも。
 誰にも、愛されていなかった。
 そして自分も、誰も愛してはいなかった。
 ただ力に溺れ、自在法を行使し、終焉(オワリ)など
来ないかのように踊り狂っていた日々。
 その終焉(オワリ)が目の前に突き付けられた今、
なんて虚しいんだろう、なんて孤独(さびしい)んだろう。
 ただ力の無い者を、惨たらしく踏み躙ってきただけの生涯。
 スベテは、無意味。
 哀しいほどに、独り。
 声なき声で喘ぐオルゴンの躯が、柔らかな腕に包み込まれる。
 救いようのない 『罪』 を犯した者でも、
せめて最後は安らかであるようにと。
「悔やむ心が在るなら、大丈夫。
償えない 『罪』 は在りません」
 そう言って彼女は、滅び逝く自分に優しく微笑みかけてくれた。
「頑張って、頑張って、戻っていらっしゃい、この世界に。
今度は、一緒に生きましょう」
 死ねばスベテは無に還る、そういう意味では、
どんな強大な王の存在も、また無意味。
 でも、彼女がそう言うのなら、
オワリではないと信じられるような気がする。
 もし、本当に生まれ変われるのなら、彼女のように、
微笑みで誰かを救えるような、そんな存在になりたいと、静かに想えた。
 やがて噴き挙がる緑青色の煙と共に、
形容(カタチ)をなくしていくオルゴンの存在。
 もう何も残さず消え逝く運命(さだめ)の中、最後に遺した言葉。
「アリ……ガ……トウ……」
 誰にも言った事のない言葉。
 初めて純粋に伝えられた言葉。
 恐怖も絶望も安らぎに包まれ、
そしてオルゴンは、跡形もなく消え去った。
 悪鬼羅刹の如き業に塗れた彼の生涯で在ったが、
本来 “そのような者” こそ、神に最も愛される存在なのだと云う。
『罪』 は消えない、 【罰】 は免れない。 
 しかしいつか、一 巡(はるかとおいさき) のいつか、
赦される日が来る事を、そう想う者だけで良い、祈ってはやれないだろうか。
 この世界でたった一人、罪深き者を赦し、
救いをもたらせた人間がいたのだから。
 誰も、誰かの赦しなしでは、存在出来ないのだから。
 緩やかに降り注ぐ光、浄化された大気、胸に抱かれた赤子。
 女神の微笑みは、今も温かく誰かを照らしている。
 アノ時から何も変わらず、いつまでも……
千 年 妃(ミレニアム・クイーン)
 その名の真の意味は、留まることを知らない大いなる慈愛故に。



 紅世の王 “千征令” オルゴン
 完全消滅。


←TOBE CONTINUED…


 
 

 
後書き

はい、どうも、こんにちは。
コレがリサリサ先生です。
強いンです、チートなんです、だから承太郎さえ
世界で唯一頭が上がらないンです!><
だから今回限りでもう出ません。
(存在が出るコトはあるかもですが、裏設定として紅世の徒にやたらモテる)
しかしまぁ『波紋の奥義』は宗教的な奇蹟に限定するとすんなり浮かんできて
描いてて楽しかったです(○二病とかいうな!><)
このままイクと波紋究極奥義や最終奥義はドエライ事になるンですが
(~黙示録(アポカリプス)とか~最終戦争(アルマゲスト)とか)
流石に宇宙が一巡しかねないので自重しようと想います。
ソレでは。ノシ 
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