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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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IFエンド 「フェイト・T・ハラオウン」

 …………うん?
 近くから聞こえてきた音に私の意識は覚醒し始める。何の音だろうと寝起きの頭で考え始めると、毎朝聞いている音なのですぐさまアラームが鳴っているのだと理解した。
 何でだろう……いつもと変わらない時間に起きてるはずなのに体が重い。
 体調が悪くなってしまったのかと思いもしたけど、熱があるときの重さとは違う。つい昨日まで執務官としてあちこち飛び回っていたのでその疲れが出たのかな……

「…………え?」

 上体を起こした私の口から思わず声が漏れる。視界に予想外のものが映っていたからだ。
 垂れてる金色は私の髪で白いのはベッドとかだけど……何で自分の胸が見えてるの。というか、この感覚からして下も履いてないよね。
 普段はパジャマを着て寝ているし、緊急招集などがあった日は下着姿で寝てしまったりすることもありはする。でも裸で寝るようなことはないはずだ。

「ななな何で……!?」

 自分以外に部屋には誰もいないけど、恥ずかしさのあまり布団を手に取って体を隠す。パニックを起こしそうになる自分をどうにか宥めつつ昨日のことを思い出し始める。
 た……確か昼くらいにミッドチルダに帰ってきてシャーリーやティアナと別れたよね。それから必要な書類をまとめて……それが終わった後は街を見て回った気がする。そして夕方に……

「…………っ!?」

 一瞬にして何で今自分が裸になっているのかを理解する。
 まず初めに私はあの事件が終了してしばらくしてショウくんに告白した。義母さんや義姉さん達の手助けもあったりしたわけだけど、このへんよりも大切なのは結果のはず。……結果だけで言えば、無事に交際がスタートすることになりました。
 それからまたしばらくが経ってるし、色々とあったりもしたわけだけど……今大切なのは昨日のこと。だから昨日のことだけ考えよう。
 正直誰かに言うととても恥ずかしいことなんだけど、昨日私は夕方に仕事が終わったショウと合流した。それからふたりで夕食の買い出しに行って、一緒にご飯を作り、食べ終わった後は久しぶりに会えた嬉しさもあって一緒にお風呂に……。
 それで……ショウの体を洗ってあげたり、一緒に湯船に入ったり……。
 そういうことをしてると体が触れ合ったりするわけで……そのまま1回しちゃったんだ。
 で、でも仕方ないよね。だって私の仕事の関係上、簡単には会えない距離に行ったりもするんだし。通信で話せたりできるけど、お互い相手のことを考えてあまりしなかったりするし。そうすると必然的に会いたいって気持ちも膨れ上がるわけで……

「……でも……そのあとは問題かも」

 思い出すのも恥ずかしいけど、お風呂で1度しちゃったにも関わらずベッドに入ってからもしちゃったんだよね。それも一度じゃなくて何度も……今感じてる疲れはそれが原因かもしれない。
 何にも考えられない時間もあったりしたから分からない部分もあるけど……それがあるってことは間違いなく私は激しくショウを求めてしまったはず。朧気に残っている記憶を遡ってもかなりの乱れようだ。もしかするとほんの1、2時間前まで私はショウとヤッていたんじゃないだろうか。

「あぁもう……!」

 昨日の私はどうにかしてた。仕事の都合で会えないのは分かってことなのに。ショウも私のこと求めてくれてたけど、私の方が多分求めちゃってた気がする。絶対エッチな子だって思われてるよ。
 ショウと付き合い始めてから少しして義母さんとか義姉さんに子供のこととか夜の営みに関することについて話したことがある。最初は何を聞いてるのって思ったけど、末永く幸せに暮らしていくには大切なことだって言われて正直に話したわけだけど……そのときも意味深な顔で若いって良いみたいなこと言われた覚えがある。

「私って……エッチなのかな?」

 毎日のように会えないからなのかもしれないけど、ショウと毎日のようにキスとかハグして……その体も重ねたいと思ってしまう。重ねるとなれば1回じゃ満足しない。こう考えるとかなりエッチな子だと思ってしまう……
 けど、ショウだって1度じゃ満足しないし。たくさん出しても元気なままだったりするんだから。
 大好きな人が抱きたいと思ってくれてるのなら満足するまで相手したいと思うし、してほしいと思うことは何でもしてあげたい。こんな風に思うのはきっと私だけじゃないはず。
 それに……その、体の相性って言うのかな。それが良すぎるのも問題だと思う。
 初めてのときもそこまで痛くなかったし、割とすぐに気持ち良いなって思い始めた。今では……具体的に言うのはやめておこう。多分言ったら凄く生々しくて過激なものになりそうだし。
 でも義母さん達は体の相性が悪いと夜の営みもしなくなっちゃうし、浮気もされやすくなるって言ってたから悪い事じゃないよね。ショウは私のことを女として見てくれて興奮してくれるし、何度も求めてくれるんだから。逆に私もショウに対して同じ気持ちを抱くわけだし……

「……って、ダメダメ!?」

 無意識の内に伸びかけていた両手を元あった場所に戻す。昨日散々したというのに朝っぱらからまたしたくなってしまうなんて、それこそエッチな子扱いされてしまう。というか、どれだけ私は欲求不満なんだろう。
 女性は年を重ねる度にそういう欲求が強くなるって聞くけど、あまりそういう欲求が強いと嫌われてしまうこともあると言う。ショウに嫌われたら私は立ち直れる気がしない……そもそも、彼に嫌われるなんてことを考えたくない。

「……とりあえず、シャワーでも浴びてすっきりしよう」

 ショウが寝ていた場所は大分冷たくなっているので私よりも早く起きているはず。私のことも起こしてくれればよかったのに……とか、早めに起きてショウの寝顔を見たかったなと思ったりもするけど、それはまたの機会に。
 ……ど……どうしようかな。
 体のあちこちがベタついてるから服とか着たくない。でもバスルームに行く前にショウとばったり顔を合わせる可能性もあるわけで……裸のまま家を歩く奴だなんて思われたくないし。
 今更何をと思う人もいるかもしれないけど、何度もあられもない姿を見られているとしてもそれとこれとじゃ話が違う。人によっては違わないかもしれないけど私は違うと思う方なので意見は受け付けない。

「……どうせ昨日着てたのは洗濯…………そうだった」

 昨日はお風呂から上がったらそのままベッドに行っちゃったんだ。
 どうして一度休憩を挟まなかったんだと昨日の私に言ってやりたい。ショウに強引に連れて行かれる形だったわけだけど、少しテレビでも見てからにしようとか言えたはずだ。
 ……なんて今は思うけど、昨日は私も抱かれたいって思っちゃってたんだよね。まあ恥ずかしいからバスタオルだけは巻いたけど。でもベッドに寝かせられるとすぐに剝がされて……考えてないでシャワーに行こう。そのままじゃ逆に悶々とするばかりだし。
 覚悟を決めた私は落ちていたバスタオルで体を隠すと、必要な着替えを持って寝室から出る。ショウとばったり遭遇、なんてことにはならなかったけど、静かな雰囲気に不安も覚えた。ショウも今日は休みだと言っていたはずだけど、もしかして急な呼び出しでもあったのだろうか。

「……考えるのはあとにしよう」

 今はとにかく早くバスルームに行かなくちゃ。
 そう思って移動はするものの頭の中からショウのことは消えてくれない。ショウに今の姿を見られることよりもショウがいないことの方が私は嫌なんだ。
 だって……10年以上想い続けてた人とやっと付き合えたんだよ。世界が違って見えるくらい私は幸せを感じてる。だから何も言われずに姿が見えなくなっちゃったら不安で堪らない。
 そのため、いつもよりも短い時間で私はバスルームから出てしまった。ショウはこれまでに何度も私の髪を綺麗だと褒めてくれたので手入れは入念にやることにしているのだが、今は彼の姿を見たいという気持ちが勝ってしまっている。姿を見れないにしても何らかの情報がほしい。

「ショウ……どこにいるの?」

 リビングやキッチンにも姿は見当たらない。もちろん寝室にも……いつもなら急な用事が入ったとしても一声掛けていくか置手紙をしてくれるのにどうして今日は何もないのだろう。
 リビングにあるソファーに腰を下ろして不安を募らせていると、不意に玄関が開く音が聞こえた。この家に入れるのは基本的に私とショウだけ。義母さん達にも念のために合鍵は渡してるけど、事前に連絡を寄越すかインターホンを鳴らすはずだ。
 すぐさま玄関の方へ向かうと、ビニール袋を持ったショウがこちらに向かって歩いてきていた。どうやら何かしらの買い出しに行っていたらしい。

「ん? フェイト、起きたのか……そんなに慌ててどうした?」
「えっと……その、起きたらショウが居なかったから」
「あぁ……もう少し寝てるかと思って何も言わずに出かけたんだが、置手紙くらいするべきだったな」
「う、ううん別に良いの。ショウが無事ならそれで……」

 ショウとは長い付き合いなんだから少し考えれば分かることなのに、必要以上にあれこれ考えちゃった私が悪いわけだし。
 はぁ……こんなだから人から過保護だとか過干渉だとか言われちゃうんだよね。エリオやキャロに対してならふたりが子供だからまだ理解は得られるけど、ショウ相手にしてたら煙たがられそう。危ない事するとき以外は気を付けないと……。

「……フェイト」
「うん?」
「ちょっとこっち来い」
「え……ショウ!?」

 私はショウに強引に手を引かれる形である場所に連れて行かれる。そこは先ほどまで座っていたソファーだった。ショウは私にじっとしてろと言うとどこかに行ってしまうが、すぐにまた戻ってくる。手にタオルを持った状態で。

「まったく……何できちんと乾かしてないんだ。季節の変わり目じゃないとはいえ、仕事の疲れはあるんだから風邪引くぞ」
「ちょっ……ショ、ショウ!?」
「こら、じっとしてろ」

 自分で髪くらい拭けると言いたかったけど、強く言われて何も言えなくなってしまう私は意思が弱いのだろう。……本音を言うと、ショウが拭いてくれるのなら拭いてほしいという甘えもあるんだけど。

「…………ショウって拭き方丁寧だよね」
「そうか?」
「うん…………その……はやてとかにしてあげてたからかな」
「あいつにそういうことをした覚えはあんまりないけどな。むしろ俺の方がされてた気がするし……多分義母さんのせいだろう。あの人は研究のこと以外は基本的にがさつだから」

 自分のお母さんのことを悪く言うのはやめたほうがいい、と言いたくもあったけど……ショウの義母さんであるレーネさんがどういう人か知っているだけに何とも言えない。直接話したことは多くないけど、私の義母さんがレーネさんと友達だからあれこれと話は聞いたことがあるのだ。

「まあそれを抜きにしても……フェイトの髪は綺麗だからな。乱暴にはしたくない」
「――っ……もう、さらりとそういうこと言わないでよ」
「なら今後言わないようにする」
「それもダメ……ショウの意地悪」

 私は急に言われると嬉しいけど恥ずかしくもあるから言わないでって言ってるのに今みたいな返しするとか……何か付き合い始めたから少し意地悪になった気がする。まあ嫌いになったりはしてないんだけど……むしろ距離感が縮まった気がして嬉しいというか。

「……ねぇショウ」
「ん?」
「私と付き合ってて楽しい? ……嫌とか思ってない?」
「急にどうした?」
「その……私、なのは達に比べたら大人しいというか内気で口数も少ないし。それにあれこれ考え過ぎて必要以上に心配しちゃったりもするし……下手したら何か月も会えなくなる仕事してるから」
「……あのな」

 やれやれと言わんばかりに声を漏らしたショウは、髪を拭くのをやめると私を後ろから抱き締めてきた。急な展開に私の体は硬直して体温も上がる。
 ショショショウ、なななな何してるの!?
 と、言おうと思うが口が自分の思うように動いてくれない。簡潔に言えばパニック状態にあると言えるだろう。ショウもそれを分かっていそうだが、気にする素振りは見せずに落ち着いた優しい声で話し始めた。

「いいかフェイト、お前と出会ってからずいぶんと経つ。同じ学校にも通ったし、同じ部隊で仕事もした。休日には一緒に出掛けたことだってある……お前の性格はよく知ってる。お前の仕事のこともな。俺はちゃんと理解した上でお前と付き合うことにしたんだ」
「……だけど……あんまり会えなかったりするし。……ショウも私みたいに仕事で会えないことが多い子よりも会える方が良いでしょ?」
「確かに会える回数が多い方が嬉しいが……会えないからこそより会いたいと思える。もっとフェイトと深く繋がりたいって思えるんだ」

 ショウの言葉にきつく締め付けられるような感覚に襲われていた心は解れていく。それと同時に温かくてふわふわとした気持ちはきっと幸福感なのだろう。
 私の不安が和らいだのを感じたのか、ショウの腕が私から離れていく。名残惜しさを感じたのもつかの間、ショウは私の前の方に回ってくると視線の高さを合わせてきた。

「ただ……それでもフェイトが不安に思うのなら……言葉が足りないのならもっと言葉を紡ぐ。これは俺の独りよがりかもしれないし、時期として早いのかもしれない。だけど俺の本心だ……なあフェイト――」

 艶のある黒い瞳が私を真っすぐに見つめてくる。その剣のような美しくも力強い輝きに私は目を離すことができない。

「――俺と結婚してくれないか?」

 言われた言葉を理解した瞬間、私の頭は真っ白になる。
 え……結婚? 結婚ってあの結婚だよね。誰と誰が結婚? ……私とショウが? というか……私、今ショウからプロポーズされてる!?
 いやいやいや、落ち着いてフェイト。もしかすると私の聞き間違えというか妄想が生み出してしまった幻かもしれない……
 そんな風に思ったりもするけど、私の手を握ってるショウの手の体温とか私を見つめる真っ直ぐな目が幻のわけがない。今起こっていることが現実だと理解した私は……自然と涙を流していた。

「今の……本気なんだよね?」
「ああ」
「……私……普通の人間じゃないんだよ?」
「普通とか普通じゃないとかそんなのはどうでもいい。俺にとってフェイトはフェイトさ……他の誰かが何と言おうと俺はお前のことをお前として見続ける。お前のことをずっと守るよ……」

 涙を流す私の頬にショウはそっと手を伸ばし、そのあと私の唇にそっと自分の唇を重ねた。優しい誓いの口づけに私の心は幸福感で満たされる。

『いつか君のことも守れるようになりたい。そうすれば心配はされても大丈夫だって思ってもらえるだろうから』

 不意に蘇るその言葉。闇の書を巡る事件が終わった後にショウが私に口にした言葉だ。あのときはそうなったら私が折れるしかないと言い、それにショウはいつまでも自分が守られる立場かもしれないと言った気がする。
 でも結果的に私が折れることになってしまった。ショウのことは心配するだろうけど、大丈夫だとも思う自分が居るようになってしまったのだから。そもそも、アリシアのクローンとして生まれた私を私として見てくれて愛してくれている人を信じないわけにはいかない。

「……約束だよ?」
「ああ……お前の義母さんからは会う度によろしくねって言われてるし、あの人……プレシアからもお前のことは頼まれてたからな」
「え……?」

 母さんが……ショウに。確かに虚数空間に落ちる前にふたりは何か話していた気がする。でも……

「何で母さんが?」
「さあな……もしかすると俺達がこうなることが分かってたのかもな」

 ショウは私と出会う前に親との別れを経験した。私はあの日、母さんとの別れを経験した。同じ傷を持つだけに他よりも理解し合える関係なのかもしれない。
 母さんの話を出したからか、ショウは今まで胸の内に秘めていたことも話してくれる。母さんがあのとき時間があるのならやり直したいと思っていたように思えること。母さんを助けられなくて私に対して罪悪感を感じていたこと……。

「今にして思えば……もっと早くフェイトに言うべきだった。……ごめん」
「ううん……いいの。今こうして話してくれただけで私は嬉しいし……私はもう母さんに縛られたりしてないから。だからショウも自分の事を責めないで」
「……ありがとうフェイト」
「お礼を言うのは私の方だよ……ありがとう、あの日私を立ち直らせてくれて。私の心の支えになってくれて……私のことを愛してくれて。……まださっきの返事ちゃんとしてなかったよね」

 今度は私が涙を拭いながらショウと頬に手を添える。これから行うのはこれまでのキスとは違うキス。私達のこれからが始まる誓いのキスだ。

「ショウ、私も愛してる。これまでも……そしてこれからも、ずっと。……不束者ですが末永くよろしくお願いします」


 
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