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がんばり入道

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第三章

「一体」
「まあそうしたことが好きな妖怪や人もいるんだよ」
「人でもいるの」
「そうだよ」
「汚いだけの場所なのに」
「それでもだよ」
 こう曾孫に話していく。
「そうした人もいるからね」
「わかったわ」
「それでね」
 曾孫にさらに話した。
「がんばり入道に見られるのが嫌ならね」
「私覗かれるのは嫌よ」
「大晦日にこう言えばいいんだよ」
 祖母に言われたことを思い出しながら話すのだった、自分が子供の時の記憶が今はっきりと脳裏に浮かんでいた。
「がんばり入道不如帰ってね」
「不如帰ってあの」
「ホーホケキョって春に鳴くね」
「あの鳥の名前を出すの」
「そうだよ、がんばり入道不如帰ってね」
 孫にこのことも話すのだった。
「大晦日に便所の中で言えばいいんだよ」
「それどうしてなの?」
「さあ、どうしてだろうね」
 祖母にも教えてもらわなかった、それでこのことについては曾孫にこう返すしかなかった。
「不如帰なんだろうね」
「それで大晦日なのかしら」
「それはわからないけれどね」
「大晦日におトイレの中でそう言えばいいのね」
「そうだよ」
 まさにその時にというのだ。
「がんばり入道不如帰って言えばいいんだよ」
「そうなのね」
「うん、じゃあね」
「そういうことでね」
「わかったわ、私大晦日にそう言うわね」
 トイレの中でというのだ。
「何でかわからないけれど」
「わからないのが妖怪なんだよ」
「そうなの」
「どうしているのかどうしてそんなことをするのか」
 ここではトイレを覗く行為のことだ。
「わからないものなんだよ」
「世の中そうしたこともあるのね」
「そうだよ、そしてその妖怪をどけるのもね」
「どうしてかわからないのね」
「そうしたものなんだよ」
「わからないことがわかることがあるのはわかったわ」
 いささかきょとんとした感じの顔になってだ、容子は曾祖母に答えた。
「けれど私も言うわね」
「便所でだね」
「うん、大晦日にね」
 まさにその時にというのだ。
「言うわね」
「そうするんだよ」
 チヨは曾孫に穏やかな笑顔で告げた、そしてその大晦日にだ。容子は実際に彼女と同じことをトイレの中で言った。そうしてからだった。
 曾祖母のところに戻ってだ、笑顔で話した。
「言ってみたわ」
「そうしたんだね」
「これで覗かれる心配ないのね」
「そうだよ」
「じゃあ私が子供が出来たらね」
 結婚してとだ、容子は彼女にとっては遥かな未来のことも話した。
「私も子供に言うわね」
「そうするといいよ」
「大晦日におトイレでってね」
 がんばり入道不如帰と言うことをだ、曾祖母に話した。するとここで彼女の母、チヨの孫の嫁が娘に言った。
「もう遅いから寝なさい」
「まだ紅白やってるのに」
「お正月に録画してるの観なさい」
「それじゃあ」
「そう、今日はもう寝て」
 そしてというのだ。
「明日は初詣に行くわよ」
「たい焼き食べていい?」
 初詣の時に神社に出る出店でというのだ。
「そうしていい?」
「たこ焼きでもいか焼きでも何でもいいわよ、ただね」
「うん、もう遅いから」
「早く寝なさい、いいわね」
「また来年だよ」
 チヨはテレビのその紅白を見つつ容子に話した。
「一緒にね」
「うん、ひいお祖母ちゃんもね」
 二人で笑顔で話す、そしてだった。
 チヨは孫の嫁に連れられて寝室に入る曾孫を笑顔で見送った。そして新年になると先程曾孫が入っていたトイレに入った。誰もいなくなったそのトイレに。


がんばり入道   完


                           2016・6・13 
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