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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#12
  決意の誓戦 “運命” VS 『運命』 ~PHANTOM BLOOD NIGTMAREⅤ~


 決意の誓戦 “運 命(フォーチュン)” VS 『運 命(デスティニー)



【1】


 都市の中心部からやや離れ、近代的な建物の中にややクラシックな
様相がチラホラと点在する街路の片隅で、吉田は足を止め大きく息を吐いた。
 平日の午前なので人の姿は余りなく、海の彼方まですっきりと見渡せる。
 エリザベスの事は気がかりだが、それは杞憂に過ぎないだろうという
場違いな楽観が心を落ち着けた。
 もう一度大きく息を吐いて呼吸を整え、それから少女は周囲をぐるりと見回す。
 近くで戦闘が行われているような気配はなく、能力を身につけた事により
異様に研ぎ澄まされた五感で探ってみても同じだった。
 周囲は異常な静寂、店が開き旗が陳列され人は行き交う、
そんな生活の動きが否応なく感じられるのに静止した虚無の世界。
 改めて感じる不気味さに、その裡に潜む無情な悪意に少女は身を震わせた。
(取りあえず、どこかに隠れた方が良いのかな?
でも、個室とかに入っちゃうともし見つかった時に逃げられないし、
人の家に勝手に入るっていうのもちょっと……)
 極限にヤバイ状況ではあるのだが、戦闘に関しては素人の少女、
しかも生来の生真面目な性格が妙にピントの外れた思考へと流れた。
 とにかく公園か学校のような場所を見つけて、木の陰にでも隠れていようと
結論した少女が再び走り出そうとしたその刹那。
「!」
 五感のいずれでもない、しかし確かに走った感覚に、吉田は背後を振り返る。
「……」
 特に変わった所はない、異国とは言え、基本的には普通の街並みだ。 
 気のせいか、自分でも想っている以上に恐怖を感じているのか、
これじゃ先が思い遣られるなと息を付いた少女の身に再び走る感覚。
 振り向いた先にあるのは、 “普通の街並み”
 この時吉田の無意識は、鋭敏にその違和感を察知していたのだが
これまでの普通の生活がそして常識が、心に生まれた疑念を流し去ってしまった。
「何だ、ただの車か」
 額の汗を拭って、再度気持ちを落ち着かせる為数秒歩く。
 背後から近づく、耳慣れたエンジン音。
 ソコに至って初めて、少女は自らの犯した致命的失態に気づく。
(待って!? 『今のこの空間で』 何で新しい車があるって気づくの!?
エンジンの音が聴こえるの!? それじゃ、いつもと何も)
 戦慄と共に振り返ったその先、もう既に大型の赤いスポーツカーが、
唸りを上げて突っ込んで来ていた。
「キャ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ
――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
 叫びながらも右に飛べたのは単なる僥倖。
 しかし完全に躱す事は叶わず金属製のサイドミラーに肩をブツける。
 衝撃で路上に転がった吉田をバックミラーに映しながら、
封絶の中で動く暴走車はドリフトしながら軽やかにターンし、
喚声を上げるようにエンジンを噴かした。
「あうぅぅッ! 痛い! 痛い、痛い、痛いィィィッッ!!」
 華奢な肩口に金属バットを叩きつけられたような、
凄まじい激痛が吉田の全身を駆け抜けた。
 親にさえ手を上げられた事のない純粋無垢な少女、
生まれて初めて受ける剥き出しの 「暴力」 に
躰は無論心までも一瞬で撃ち砕かれた。
 制服の上なので見えないが、激突を受けた箇所は熱を持って腫れ上がり  
本来の白い肌とは別物のようにドス黒く変色していく。
 その部分を押さえたまま、止まらぬ痙攣と瞳から流れる涙。
 しかしそんな少女の哀咽など微塵も斟酌せず、
狂える暴走車はフルスロットルで再び襲い掛かってきた。
(――ッッ!!)
 涙で滲んだ視界でソレを捉えた傷心の少女は、
防衛本能に促されて道路に身を投げる。
「くうぅッッ!!」
 受け身など執れないので倒れ込むように路面へと這い蹲り、
その所為で受けた打撲傷がまた悲鳴を上げる。
 背後でショーウインドウが爆砕し、電気系統がショートして弾けるスパーク。
 半壊した店舗の中から淀みのない動作で、傷一つ付いてない
真新しいスポーツカーがゆるりと車体を抜き出した。
 息の詰まるような鋼鉄の質感、噴き上げるエンジンとトルクの音が
嫌が応にも恐怖感を煽る。
 悪魔が、無力な生贄の前で舌なめずりでもしているように。
「イ、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ
―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」
 傷の痛み、生命の危機、日常を逸脱した怪異に恐慌へと陥った少女は
喉の奥から振り絞る絶叫と共に駆け出した。
 最早抗う術など有ろう筈がない、自身の裡に宿るスタンド能力の事も忘れ
ひたすら目の前に在る現実からの逃避を試みた。
(む、無理! 無理、無理、無理……ッ! 
こんなの……こんなの……!
私に出来るわけがない……! 
私なんかに立ち向かえるわけがない……ッ!)
 恐怖と痛み、人間の持つ感覚の中でも最も強烈で逃れようのない根元的本能。
 最初の気勢はどこに行ったのか、自らに課した誓いは偽りだったのか、
その是非を問うに対して目の前の怪異は、感じる痛みは、蝕む恐怖は、
余りに現実(リアル)! 余りに原始ッ!
 純粋無垢な少女の想いなど、風の前の塵に同じくいともたやすく吹き飛ばす、
否、ソレ以前に次元が違う。
 背後から差し迫る車の排気音、ウインドウがフルスモークになっているので
内部の狂ったドライバーの姿は伺えない。
「あうぅぅぅッッ!!」
 人間の脚力で逃げおおせる筈もなく、車のバンパーがスカートに接触した。
 大したスピードではなかったが相対する質量が違う為、
少女の躰は軽々と宙を舞いアスファルトの上に転がる。
 本来なら腰骨が再生不能なまでに砕けている所だが、
操縦するドライバーが直前にブレーキを踏み衝撃を和らげた。
 慈悲ではない、コレは、アメリカのスラム街で実際に行われていた
殺人ゲームのやり口。
 弱者を一方的に車で追い回し、徹底的に甚振り玩び尊厳を破壊する
最悪の “人間狩り” だ 
「あ……ああぁぁ……!」
 真新しい白い制服を血と土埃で汚された姿で、
吉田は路上に座り込んだまま後ずさりした。
 しかしすぐ壁につかえそれ以上の後退は不可能となる。
 眼前、超至近距離で硬質な車のフォルムが無機質に自分の泣き顔を映している。
(誰、か……誰か……助、けて……)
 絶望に包まれた表情で、吉田は力無く小首を振る。
 最早完全に心が折れてしまって、立ち上がる気力はない。
(空条君……エリザベスさん……)
 最初に浮かんだのは、頼る事の出来る者、
しかし安っぽいファンタジー小説のように、
窮地の時に望んだ者が都合良く現れて救ってくれる事など、決してない。
(お父さん……お母さん……健……)
 次に浮かぶのは、家族の事。
 コレが死の際に視る生涯の追想だという事を、
果たして少女が認識していたか否か。
(真竹ちゃん……池君……みん、な……)
 内気で何も出来ない自分を受け入れてくれ、
いつもいつも明るい光で学園生活を彩ってくれた大切な友人達。
 その者達と遠く離れ、今自分はこの異郷の地で最後を迎えようとしている。
 何も出来ないまま、何も解らないまま。
 痛みと恐怖に存在を支配されたまま。
 眼前の車はそれ以上逃げようとしない獲物に興が殺がれたのか、
大きく距離を取り排気音を唸らせる。
 そして中のドライバーがアクセルを限界まで踏み込み、
少女の躰を原形を留めない程に轢殺する為ギアをMAXに叩き込んだ瞬間。



“さようなら、吉田 一美さん”



 予期せぬ声が、少女の裡で響いた。 



“君の事は、決して忘れないよ”



 大きく見開く、胡桃色の瞳。
 この世ならざる場所での光景が、波濤のように脳裡でフラッシュ・バックした。
 煌めきを放つアンティーク、すべすべとした双葉の感触、仔猫の鳴き声、
紅茶の味と香り、奇妙な形をした矢、そし、て……
(私、一体、何を考えているの? 何を考えて、いたの?)
 恐慌が霧散し、正気に戻った少女の裡で甦る、確かな誓い。
(ここで私が死んだら、諦めたら、一体誰がこの車を止めるの?
他のみんなが、同じ目に遭っても良いっていうの? 
怖いから? 痛いから? 苦しいから? そんなの……ッ!)
 今まで質の違う涙が双眸から滲み、吉田は決然と顔を上げた。
 既に眼前には、狂気の暴走車が今までの最大速度で迫っている。
 しかし少女はその脅威に微塵も屈する事なく、勇壮に叫んだ。 
「 『聖 光 の 運 命(スターライト・デスティニー)ッッッッ!!!!』 」
 瞬時に空間を歪めるような音を発して、
ジュラルミンで出来た天使のようなスタンドが、
纏った紗衣を靡かせ背に携えた両翼を拡げて飛び出した。
 眩い神聖な光に包まれたその幻 像(ヴィジョン)
ソレは狂速で突貫してくる鋼鉄の塊を真正面から受け止める。
「!!」
 ボンネット越しに伝わる、ドライバーの動揺。
 車は尚もタイヤを高速回転させ追突を試みるが、
車輪が空回りするだけで吉田の前に屹立する
スタンドの壁を突破する事は出来ない。
 周囲に立ちこめる、合成ゴムの粉塵と狂暴なスキール音。
 そんな中少女は眉一つ顰めず、負傷した右腕で涙を拭う。
 ズキンッ! と痛みが脳幹を劈いたが、
少女は強い意志を宿した瞳で右腕を振り払った。
「こんな痛みが、何ですか……!」
 震える口唇をきつく結び、少女は言い放つ。 
「こんな恐怖が、何ですかッ!」
 追想の情景から一際鮮やかに甦る風貌を背に宿しながら少女は叫ぶ。
「あの人はいつだってッ! 
今の私以上に苦しい中で戦ってきた!!
護ってくれてたッッ!!」
 だからその気持ちに報いる為、自分は此処に来た。
 一緒に居たいという気持ちに嘘はない、
共に歩いていける事に幸福な期待を抱いていた事も否定しない、
でも! 『それだけじゃない!!』
 燃え盛る決意と同時に、スタンドが動いた。
 両翼をしならせて繰り出される、渾身の平手打ち。



 ズァッッッッギャアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!



 女性特有の細い手首から撃ち出されたモノであるにも関わらず、
スタンドはその重量比30倍以上の車体を浮き上がらせて弾き飛ばした。
 遠間に鳴り響き路面を振るわせる墜落音。
 流法(モード)でもなんでもない、ただの平手打ちなのにも関わらず
車体の側面には体積比十倍以上の手形が穿たれている。
 ソレを生み出したのは紛れもない、
抗いようのない恐怖を自らの意志で乗り越えた
少女、吉田 一美の決意の力、不屈の精神。
 黄霞舞い散る “封絶” の中で、
狂いし運命の 『スタンド』 の前で、
この日、彼女は 「戦士」 に成った。 




【2】



 地響きを立てて鳴り渡る、硬質な重量音。
 破滅の戦風に亜麻色の髪を揺らす少女の傍らで、
麗美なる紗衣を靡かせたスタンドが屹立している。
 愛おしむように、慈しむように、神聖なる瑠璃色の光を纏わせて。
「……」
 傷の痛みに屈する事なく立ち上がった吉田 一美は、
気高き決意をその胡桃色の瞳に宿して戦場への一歩を踏み出した。
「ソレらしい幻 像(ヴィジョン)が視えませんでしたが、
もしかして、 “車” のスタンドですか?
船や飛行機、人間の形容(カタチ)を執らないスタンドが在るって
SPW財団の方が言ってました」
 状況を認識するため発した言葉に、
彼女のスタンド 『聖 光 の 運 命(スターライト・デスティニー)』 が無言で頷く。
「エリザベスさんに一週間しっかり特訓してもらったけど、
まさか車を相手にするとは思いませんでした。
大変だと想うけどよろしくね、 “ライトちゃん” 」 
 発現してすぐ付けられた女の子らしい愛称に、
彼女の分身は微笑で応じる。
「うん、一緒に頑張ろう」
 そう言って二人同時にキリリと引き締まった視線を向けた先、
真新しいスポーツカーが殆ど音を発さず徐行してきた。
「ライトちゃんがひっぱたいた痕がなくなってる。
どうやら、少しくらいのダメージじゃ回復してしまうみたいですね。
ただの暴走車ではなく、悪魔の造った機械と考えた方が良さそうです」
「観察」 は、相手の思考や能力を読みとる上で最も重要、
エリザベスから受けた教訓を忠実に実行しながら少女は緊張感を研ぎ澄ませる。
 すぐにでも散々自分を甚振ってくれた激突がやってくるかと想ったが、
意外にも深紅の暴走車は沈黙を守った。 
 気勢を削がれたような感じがして吉田は若干口唇を引き締める。
 さっきまでは恐怖の為その色彩が血のように想えたが、
今は何て悪趣味な色なんだろうと苛立ちが湧いてきた。
 そう、吉田 一美は怒っていた。
 戦闘の恐怖が消えたわけではないが、
しかしそれ以上の怒りが彼女の裡で渦巻いていた。
 人を散々追い回して、怖がらせて、
背後から轢いて苦しみのたうつ姿を見て楽しむ。
 そんな最低最悪の真似を平気でするような者の為に、
どうして自分が泣いたり怖がったりしなくちゃいけないんだろう?
 どうしてこんな目に遭う位なら、イジワルな体育教師に
(今は自主退職でどこかに転任、顎と心に消えない傷を負ったらしい)
延々とグラウンドを走らされた方が
よっぽどマシとか想わなくちゃならないんだろう?
 そうすれば相手が喜ぶだけ、自分が惨めになるだけ、
でもそんなの、絶対オカシイ! 絶対間違ってるッ!
 決意の怒りを燃やす少女の耳に、突如耳障りなノイズが走った。
 ラジオのチューナーを大音量で掻き回すような、不快な雑音。
 思わず耳を塞いだ傍らで、スタンドが片翼を折り曲げて少女を包む。
 やがてチューニングの音が止み、無機質な機械合成音が路上に響いた。
「フン、同じ 『運命』 の名を持つスタンド使いが、
このような小娘とは拍子抜けしたが、
それなりにパワーはあるようだな?」
 ボイスチェンジャーを通したような、
異様に甲高い声調が車の中から届く。
「運命!? まさか貴方も!?」
「我がスタンドの名は “運 命 の 車 輪(ホイール・オブ・フォーチュン)” 
これこそが真にその名を冠するに相応しき能力(チカラ)
運命のスタンドは二つもいらん! 
よって偽物の貴様は、ここで始末させてもらうぞ小娘!」
「私のライトちゃんは! 偽物なんかじゃありませんッ!」
 スタンド使いにしか解らない執着を機械音に乗せて放つ異能者に、
吉田は義憤を込めた言葉を返した。
 瞬時にホイールをスピンさせて、猛然と突っ込んでくる爆走のスタンド。
 それに対し吉田 一美のスタンド
聖 光 の 運 命(スターライト・デスティニー)』 は歴然と構える。
「そっちがそのつもりならこっちも手加減しない!
今度はパーじゃなくてグーで殴りますよ!」
 再び凄まじい激突音を伴って、二つのスタンドが真正面からブツかり合った。
 が意外、先刻と同じ膠着状態に成るかと想われた競り合いが、
一方的に少女のスタンドのみが押され片膝をつく。
「ライトちゃん!?」
 パワーだけなら、他のスタンド使いにも劣らないと
エリザベスにも言われた自らの分身に、
吉田は驚愕の声を上げる。
 眼前にはホイールを高速回転させる暴走車が、
路面に火花とスタンドパワーを噴き散らしながら執拗に迫る。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
貴様如きスタンドの素人にこのオレが本気を出すとでも想ったのか!?
コレが我が “運 命 の 車 輪(ホイール・オブ・フォーチュン)” のフルパワーッ!
そんな形容(ナリ)をしている貴様のスタンドでは絶対に勝てんッ!」
「な、なにを……!?」 
 劣勢と意味の解らぬ言葉に困惑するスタンド使いの少女。
 その言葉の真意、スタンド戦では最も重要な 『能力』 の多様性の把握。
 一口に 『近距離パワー型スタンド』 と言っても、
その形容(カタチ)に拠って様々なタイプが存在する。
 最もスタンダードなのは、承太郎や吉田のように人型を執るモノだが、
スタンドの中にはスーツのような形状でソレを直接身に纏うモノ、
出現した幻 像(ヴィジョン)が本体を隈無く覆い尽くすモノが存在する。
 コレがスタンドと本体との 「距離」 の法則と相俟って、
通常のモノよりも遙かにパワーが強い。 
 吉田の 『聖 光 の 運 命(スターライト・デスティニー)』 も
岩を砕き鋼鉄の突進を止めるほどのパワーを有するが、
相手の “運 命 の 車 輪(ホイール・オブ・フォーチュン)” は、
スタンドに直接本体が “乗り込んでいる為” その差は明白なモノとなる。
 この 『近距離密着型』 とも云えるスタンドとの接近攻防、
残念ながら少女に万一つの勝ち目もない。
「クハハハハハハハハハハハハハハ!!
このまま車輪に巻き込んで擦り潰してやろうか!?
それでも壁に突っ込んで押し潰される方が良いか!?
どっちでも好きな方を選べ! 余り時間はやれんがなッ!」
 徐々に、しかし確実に、体力が搾り取られ吉田のスタンドは追い込まれていく。
 神聖な光を放つ細腕が、狂気の暴走車に押し込まれていく。
 見た目にもはっきりと疲弊した様子が解る自分の分身に、
吉田は意を決して駆け寄った。
(!!)
 喋る事の出来ないスタンドが、主の意外な行動に眼を瞠る。
「ライトちゃん。頑張ろう? 私も一緒に支えるから。
だから、最後まで諦めない。必ず勝って、一緒に帰ろう」
 そう言って吉田は、スタンドと一緒に車のボンネットへ手を置く。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
バカめ!! 今更小娘一人の力が加わったからといって何になる!?
T ・ A(タンデム・アタック)” も使えん貴様にスタンドパワーを
制御する事は不可能だろう!」
 苛立つようにバンパーを殴った 『聖 光 の 運 命(スターライト・デスティニー)』 が
再び主と共に車体を支える。
 微かに傾けた横顔、最愛の少女は眼前の危機など無いかのように
優しく微笑んでくれた。 
「そんなにお望みなら二人仲良く轢き殺してくれる!! 死ねい! 小娘!!」
 踏み躙るように全開となるアクセル、放出するスタンドパワー、
最後の砦も決壊し数瞬後には惨たらしく押し潰される少女とスタンド。
 だ、が。



 ヴァギァアッッッッ!!!!



 突如、何の脈絡もない破壊音が、
スタンド、“運 命 の 車 輪(ホイール・オブ・フォーチュン)”の 「内」 から響いた。
 突然の衝撃(ショック)で内部のエンジンがイカれたのか、
車体は前のめりに急停止し後輪を浮き上がらせる。
 耳の痛くなるような排気音とトルク音、
機械合成音も途絶えた静寂の空間に、
少女の凛とした声が鳴り渡る。
「いまよッ! ライトちゃん! 思いっ切り押して!!」
 如何なるチューンアップを施したモンスターマシーンであろうとも、
エンジンが動かなければ只の鉄屑。
 スタンドと少女に全力で押された車体は、
潤滑剤(ワックス)を塗られた床を滑るテーブルのように
抵抗もなく路上を後退(バック)する。



 ドグッッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ
――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!



 そのまま対面に有るテナント募集中の店舗に突っ込み、
けたたましい破壊音が周囲を震撼させる。
 大破した店内でしきりにキーを捻る音が発せられるが、
すぐにダメージは回復しないのかエンジンがかかる様子はない。
「――ッッ!!」
 中のドライバーから、スモークガラス越しに映る少女の姿。
 確固とした意志の光が瞳に宿り、怯えて逃げ惑っていた数分前とは別人に視える。
「さっきの返事、 “私だけしか” 答えてませんでしたよね?」
 あくまで澄んだ声でそう告げる少女の傍らで、
スタンドがその細腕を大きく振りかぶっている。
「ライトちゃん、怒ってます。
こう見えて負けず嫌いなんです、この()
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉ――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」
 機械ではなく生の肉声でそう叫んだドライバーの視界を、
キツク硬められたスタンドの拳が覆い尽くした。



 ドッッッッッッグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ
ォォォォォ―――――――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!



 裏口を壁ごと突き破って放り出された車体が、
二転三転して道路をアクロバットし、
駐車していた他の車をボーリングのピンのように弾き飛ばしてようやく止まる。
 底面を空へ剥き出しにして転覆したスタンドは、
そのままカラカラと弱々しく後輪を回し、
凸凹だらけになった全面から白い煙を吹き出していた。
「ちょっと、やり過ぎちゃいましたか……
でも、女の子は怒らせると怖いんです。
覚えておいてくださいね」
 腰の位置で手を重ねた吉田の傍で、
燐光を放つスタンドが逆水平に構えた指先を鋭く差した。

←TOBE CONTINUED…



 
 

 
後書き
ハイ、どうも、こんにちは。
原作では血一滴、かすり傷すら負わなかった彼女ですが、
当然スタンドバトルとなればこうなってしまいます。
7部のルーシーを見れば解る通り、望もうと望むまいと
「戦いの世界」に首を突っ込むというのはこういうコトであり、
傷も負わず血も流さないのであればそれは「戦い」ではなく
“戦いごっこ” になってしまうからです。
(どこぞの○タレもフリアグネかマージョリーに骨の一本でも折られていれば、
「でも!」とか言って戦いにしゃしゃってはこないでしょう)
第一、戦闘に参加して活躍したい(評価されたい)とか思いながら、
(ソレもカッコ悪いナ・・・・('A`))
でも傷は負いたくありません、血も流したくありません
というコトほどド厚かましい話はありませんし、
戦場に「観覧席」は存在しないので(某鷹の団長曰く)
適度に襲われ命の危険にも晒されるが、
それでも傷 (重傷) は負わないというのは
「ご都合主義」以外の何モノでもなく、
そんな甘ったれた価値観が蔓延っている場所は例外なく
“戦いごっこ”になってしまうので
(謝れ! ルーシーにry)
敢えて彼女にも「苦難の道」を進んでもらいました。
血を流さない「覚悟」など、顔面一発殴られたら砕けてしまう程度の
「覚悟」なので、決して彼女を「特別扱い」はせず、
承太郎達と同じかそれ以上に苦労してもらいます。
そうでなければ『スタンド使い』として「成長」出来ないので
(トリッシュや徐倫を見れば解る通り)
ソレでは。ノシ

 
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