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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#12
  PHANTOM BLOOD NIGHTMAREⅣ ~Master Of Circular~


【1】


 黄霞渦巻く封絶の中心部、ここより南東3,8㎞の場所で
花京院が敗れた事を知らない承太郎とシャナは、
眼前の二つの存在と熾烈なる死闘を繰り広げていた。
 最も知った所で何もできない(動揺は走るだろうが)
一瞬の気の淀みも許されない戦闘状況。
「……」
 殆ど無言、怯えたような表情で次々と巨大な斬撃を繰り出してくる
紅世の徒 “愛染自” ソラト。
 しかしその表情と裏腹に、空間を拉ぐ大剣は凄まじい暴風と残骸の豪雨を捲き上げる。
 通常このような両手剣、「斬馬刀」 の類に属するモノは
建物が密集する市街地戦では不利に働くがソラトはソレを物ともせず、
遮蔽物など無きが如く大物を振るう。
 空間の開けたビル上ではなく、
閉塞した路上へと誘い込んだ承太郎ではあったが
このメチャクチャな破壊力は正直誤算というものだった。
(このガキのは…… 「剣技」 なんて代モンじゃあねぇ……!
前後の繋がりも防御も関係なく、やたらめったら攻撃を繰り出してきやがる……ッ!)
 スピーディに斬撃を躱しながらそう分析する承太郎の脇で、
車が玩具のように跳ねとばされ街灯が菓子のようにへし折れた。
(しかし、こんだけムチャクチャだと逆に攻め手がねぇな……
迂闊に近づけば相討ちになるだけ……
まずはあのバカみてぇにデケェ剣を封じねーと……)
“剣道三倍段” の格言にあるが如く、
素手と武器との格差 (アドバンテージ) は途轍もなく大きい。 
 ソレが互いの命を賭ける討滅戦ともなれば尚更、
圧倒的なパワーとスピードを誇る『スター・プラチナ』 でさえも
その例外ではない。
 故に!
 承太郎はスタンドを使って大きくバックステップし、ソラトを誘い込んだ。
 特に疑問もなく同等のスピードで追いすがる紅世の少年。
 身の丈を超える大剣を持っての追撃とは想えぬ俊敏性。
 即座に撃ち出される胴薙ぎの一撃。


 ギャッッッッギイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ!!!!!!!!!!



 狂暴な破壊音が路上を劈いた。 
「ア……レ……?」
 意志に反して止まった大剣の側面を、ソラトは不思議そうに見つめた。
 動かなくなった玩具を前にした子供のような表情。
 承太郎の背後には、頑強な造りの高層ビルが聳えている。
 内部の鉄筋にでも喰い込んだのか、
ソラトの大剣は承太郎の学ラン数センチの位置で停止している。
 先刻からのソラトの戦闘パターン、
周囲の障害物を無視して襲い掛かってくる
狂暴な破壊力を逆に利用した戦術。
 戦闘中は極度に視界が狭まる為、
瞳に映ってはいても意識は出来なかったのだろう。
 その特異な形状故に、撃ち落とすか薙ぎ払うかしか
出来ない大剣 (突きは殺傷力が鈍る)
 戦闘中ソラトが主要に用いていたのは明らかに後者。
 確かに恐ろしいまでの破壊力とスピードだったが、
「技」 ではない故にシャナの斬撃と比べれば遙かに読み易い。
(悪いが終わりだ……! 小僧(ガキ)……ッ!)
『総力戦』 である以上、短期で勝利した方が有利になるのは必然。
 承太郎は微塵の躊躇もなく、んしょんしょとビルの内部から
大剣を引き抜こうとしているソラトにスタンドを放った。
(!)
 しかし拳を構えて撃ち出されたスター・プラチナの耳が、
直前で空を切る音を捉えた。
 認識からの推測よりも速く、
力の方向性を換え頭上へと飛び去った承太郎の影に
無数の蔓が唸りを上げて殺到する。
 物理的な強度を無視してその山吹色の蔓は頑強な建材で構築された
ビルを内部の鉄筋ごと打ち抜いた。
 衝撃で外れた大剣を片手で持ちながら、ソラトがふぅと汗を拭う。
 咄嗟の事態だったので飛び過ぎた承太郎が、
11階の壁面に掴まりながら見た光景。
 ドレスを着た金髪の少女が、大樹の幹から優美な仕草でこちらに指を差し向けていた。
 傍では自律行動(オート)で躍りかかる蔓の群れに、シャナが悪戦苦闘している。
 どうやら一対一の戦いだと思い込んでいたのはこちらのみで、
端から少年と少女はチームプレーでかかるつもりだったらしい。
「オッッッラアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
 ならばとスタンドで壁面を蹴り、
流星の速度で承太郎は大樹へと一直線に挑みかかる。
 すぐに夥しい数の蔓が行く手を阻むが、
目標を見据えパワーを練り込んだ
近距離スタンドのスピードには追いつかない。
 ヴァガァッ! という凄まじい炸裂音。
 しかしスタンドを通じて硬質な感覚と、
痛みにも似た痺れが肘を経由して右肩を突き抜けた。
「……」
 足場のない空中で、ソラトが大剣の腹を盾にして
スタープラチナの拳撃を受け止めている。
 打撃面からは白い煙が上がっていたが、
分厚い刀身自体は砕ける事も拉げる事もない。
「ティリエルに、手ぇ出しちゃダメ」
「ありがとう。お兄様」
 無垢な双子の言葉が交わされた刹那、
巨大な剣の表面に突如血色の紋様が逆巻くように浮かび上がった。
(ヤ、ヤベ、ェ……ッ!)
 攻撃を防がれた事よりも、最初から警戒していたある懸念。
 それが最悪の状態で的中したコトに、承太郎は口中を軋らせた。
 瞬間、背後からミエナイ手で引っ張られるように躯がガグンッと揺れ
急速に双子の姿が遠のいていく。
 だが。
「がッ!?」
「あうぅぅッ!」
 空間を疾走する二人の全身から血が繁吹き、苦悶がほぼ同時に上がった。
 咄嗟に承太郎の傍に近づき、硬めた黒衣の一部を足場にして飛び去った
シャナの機転により直撃は免れたが、代わりに彼女にも影響がいってしまった。
 スタンド戦、討滅戦を問わず、余程ケタ違いのパワーでも有していない限り、
相手の武器(スタンド)には何らかの 「特殊能力」 が付与されていると視るのが妥当。
 コレみよがしに振り廻している時点で、その蓋然性(がいぜんせい)は明白だ。 
 故に承太郎は戦う相手にソラトを選んだわけだが、
このようなチーム戦になってしまうと彼の 『能力』 は最悪に始末が悪い。
 そしてソレこそ、紅世の徒 “愛染自” ソラトの携える惨苦の邪剣。
 触れた対象を無作為に切り刻む紅世の宝具。
吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)
遣い手- “愛染自” ソラト
破壊力-A (能力発動時-B) スピード-ソラト次第 射程距離-C
持続力-E (能力発動時) 精密動作性-D 成長性-なし



「チッ、何か在るとは想ったが、やっぱりただの剣じゃなかったか。
ガキに刃物持たせるとロクな事にゃあならねーな」
「遠回しにケンカ売ってる? あんなのと一緒にしないでよね」
 身を切られながらも決して手を離さなかったシャナの功績で、
二人は行き交う車が停止した高架橋の上にいた。
 その身体の至る所に線のような裂傷が走り血が滴っている。
 傷そのものは深くないが、同じ 『能力』 を継続的に使用されれば
確実にダメージは蓄積していく。
 一撃必殺とはいかないが、このような瞬発性と確実性を併せ持った能力が、
実は一番タチが悪い。
 その使い方次第で、絶頂に君臨する 『真紅の帝王』 すら追い込むほどに。
「取りあえず剣に触れてなきゃ能力は発動しねーみてぇだが、
解ったところでどうかな? 条件が単純過ぎるから防ぎようがねぇ」
「存在の力を込める瞬間、相討ち覚悟で膝蹴りでもブチ込めばいいんだろうけど、
絶対あの女が邪魔するわよね。短期戦長期戦、どっちにも手が回ってて隙がない」
 DIOの参謀、占星師エンヤをしてその才を認められるティリエルの知能。
 圧倒的な殺傷力を持つソラトを 「切り込み役」 として場を掻き乱し、
自身は 「司令塔」 として全体を統括、補填する。
 形式通りにではなく常に流動する戦況を踏まえ、
導き出される幾千の術を瞬時に取捨選択して。
 眼前に聳え立つ、山吹色の大樹の存在感にも気圧されるが
最も恐るべき所はソレに 『知性』 が宿っているコト。
 顕現した “蹂躙の爪牙” 大海に出現した 『(ストレングス) 』 とは、
また一段次元の違う脅威。
 だが。
「フッ」
「フフッ」
 追い詰められながらも、承太郎とシャナは笑った。
 戦況は変わってない、打破すべき策も、その根拠すら何もない。
 しかしそれでも、確信にも似た実感が二人の心中を充たしていた。
 これまで駆け抜けてきた幾つもの苦難、
勝機などなくても、可能性など視えなくても、
いつだって共に、二人で乗り越えてきたから。
 未来の視えない一面の闇の中、
互いが互いの 『希望』 そのものだったから。
 だから、窮地に陥れば陥るほど二人は笑う。
 その精神は燃え上がる。
 熱く、激しく、燃え尽きるほどに。
「即興のコンビプレーなんぞ必要ねぇ。
何しろヤってねーからな。
一応相手を意識しつつ、基本全開。
機が来たら、 “アレ” で()める」
「了解!」
 互いの気持ちを確認せず、その必要もなく二人は大地を蹴った。
 即座に大樹が蠢き、街路を踏み砕きながら前進してくる。
 恐怖と脅威を振り撒く、破滅の戦風。
 しかしソレすらも、二人には爽やかな旋風(かぜ)に感じられた。  

    


【2】

 
 現実感を完全に喪失した異界の中を、
吉田 一美は手を引かれながら駆けていた。
 路傍で呼吸すらせず佇む人々、波音を止めた海原、囁きを忘れた熱帯の樹木。
 運河の傍に設立されたイギリス貴族の像を横切り、
その進路を南南西へとひたすらに走る。
 以前の彼女であるならば、もうとっくに息があがり貧血を起こし倒れても
不思議のない速度と走距離であったが、
少女は貴女の手を握ったまま呼吸を乱さず汗一つかかない。
 遠間から、地震とも台風ともつかない轟音が断続的に聴こえる。
 怖くないといえば嘘になるが、それでも少女は憂慮を振り切って口を開いた。
「このまま、逃げてるだけで良いんですか?
空条君達の行った方角からどんどん離れてる。
私も加勢に行った方が良いんじゃ……」
 腰まで達する、長く美しい黒髪を気流に揺らしながら
歴戦の貴女は振り向かずに言った。
「今回は、ダメ。幾らなんでも状況が悪過ぎる。
アナタのスタンド能力は、皆をサポートするには向いてるけど、
“アナタ自身に” 一人で敵に立ち向かえる実力はない。
もし 『スタンド使い』 と “紅世の徒” 
二人以上に囲まれてもアナタは戦える?」
「!」
 予期せぬ問いに少女は息を呑む。
 ただ漠然と、スタンド能力に目醒めた時から承太郎と共に戦う映 像(ヴィジョン)
ばかりを想い浮かべていたが、「現実」 に戦う相手がそのような都合の良い状態で
向かってくるわけがない。
 責めるような口調ではなかったが、厳格なエリザベスの言葉に
吉田は羞恥と己の未熟さを再認識する。
 確かに彼女の言う通り、
幾ら常人とは違う 『能力』 に目醒めたとはいえ生身の自分は、
戦闘経験は疎か口ゲンカすらも怖くて出来ない一介の女子高生に過ぎない。 
 それなのに一体何を舞い上がっていたのか、
消沈しながら走る吉田にエリザベスは口調を違えずに告げた。
「まずは、現状を認識する事。
そして、自分には何が出来て何が出来ないのか考える事。
ソレによって生じるリスクを怖れない事。
決して焦らずに、それでも着実に懸命に、一歩一歩 「成長」 いくの。
アナタにはソレが出来ると想ったから此処に連れて来たのよ。
自分の家族を、周りの皆を護りたいと願う心に、嘘はないと想ったから」
 最後に温かな響きを持って振り向いた貴女の麗貌、
その蒼玉のような瞳に宿った気高き光。
 少女の脳裡に甦る、大切な者達。
 シルクの手袋越しに伝わる感触を強く握り返して顔を上げ、
吉田は決然とした表情で言った。
「ハイ! 私、もっともっと強くなります!
そして、 『DIO』 という人を倒します!
絶対絶対倒しますッ!」
 何の根拠も裏付けもない、気持ちだけの言葉。
 しかしその声にエリザベスは麗らかに微笑んだ。
 嘗て、エア・サプレーナ島の波紋修行場で、
日々奮闘する二人の息子へそっと向けたように。  
(!)
 いきなりエリザベスが、音も立てずに進めていた脚を止めた。
「わうっ?」
 急停止に対応できなかった吉田は、
勢いのまま甘く柔らかな香りのする胸に顔を埋める。
 芸術的に造型の整った躰の中でん~ん~と藻掻く吉田を抱え込みながら、
エリザベスは瞳を鋭く、変化の起こり得ない風景を見据える。
()られて、いる」
 熟練のフレイムヘイズでも、
紅世の王で在っても気づき得ない微弱な視線の力を、
『最強の波紋使い』 は(つぶさ)に感じ取った。
 武芸の達人は数百メートル先で落ちた針の音すらも聞き分けると言うが、
エリザベスの感覚はソレを遙かに凌ぐ。
 しばらく黙って相手の動向を窺ったが、
こちらが気づいているコトに向こうは気づいていないのか
無為な静寂が流れた。
「どうしたんですか? エリザベスさん」
 過程無しに張り詰めた貴女の気配に畏怖を抱きながら、
胸の中でおずおずと吉田が訊く。
「アナタ、ここからは、一人で逃げる。
極力戦闘の行われてる場所からは離れて、どこかに身を隠す。
出来るわね? カズミ」
 幼子に諭すように、一言一句言い含めながらエリザベスは告げた。
「は、はい。それくらいなら私にだって……
でも、エリザベスさんはどうするんですか?
誰かが襲ってくるなら、私もお手伝いくらいなら」
 自分の曾孫(ひまご)と同じ年頃の少女の言葉を、
エリザベスは慈しむように瞳を閉じて受け止める。
「並の遣い手だったら、嫌でもそうしてもらうわ。
途中からは、アナタ一人だけでも。
でも残念ながら、敵が 「強大」 過ぎる。
このままワタシとその相手がブツかり合ったら、アナタまで巻き込んでしまう。
手加減出来るような、アナタを護りながら戦えるような相手ではないの。
だから、行って、カズミ。
絶対に死んではダメ。 「約束」 よ」
「……」
 日本で出逢って以来、僅か一週間ほどだが吉田は
この高貴な女性に親愛や憧憬、或いは崇拝にも似た感情を抱いていた。
 (よわい)100歳を超えているというが、
立ち振る舞いはスマートで話題は若々しく、
言葉遣いや仕草の端々に感じられる聡明な雰囲気が大好きだった。
 でもやはり、この人は戦士。
 理不尽で不条理なこの世の “悪” から、
皆を護ると決意した横顔の何て美しく神聖な事か。
 自分も同じ決意を持っているとはいえ、
とてもこの女性には敵わないと想った。
 本当に本当に敵わないと想った。
「解りました。此処からは、一人で行きます。
エリザベスさんも気をつけて。
危ないと想ったら逃げてください。
「約束」 ですよ」
 力になれないなら、足手まといにだけは絶対なりたくない。
 想いを強く抱き、吉田はエリザベスに背を向ける。
 軽やかな足音と共に遠くなっていく少女を見つめながら、
波紋の超戦士は頭上を振り仰いだ。
「さぁ……そろそろ出ていらっしゃい。
このまま互いに見つめ合っていても(らち)が開かないでしょう。
それとも、何も出来ず消し飛ばされる事をお望み?」
 人の気配の感じない、ただ封絶の気流がたゆたうだけの壁面に
エリザベスは問いかけた。
 特殊な呼吸法が紡ぎ出す、正に女神と見紛う美しい声。
 しかしその全身は、神々の黄昏を前にした戦乙女(ヴァルキリー)のように
荘厳なる威風で充たされている。
「フ、ククククク、ファハハハハハハハハハハハ……!」
 動く者のない、鳥すらも羽ばたきを止めた空間に、
驕慢(きょうまん)極まる声が響いた。
 エリザベスの見上げるビルの壁面、その中からジワリと昏い影が滲み出る。
 纏わるその色彩は、錆びた青銅のように不気味な緑青色(りょくしょういろ)
 姿は、羽根飾りのついた大きな帽子と垂れ下がったマント、
手首のない袖の先で白い手袋がゆらゆらと動いている。
 それ以外に実体のない、明らかに人間とは異なる存在が茫洋と宙に浮いていた。
「流石だな? “千年妃(せんねんき)
フレイムヘイズではない、ミステスですらないただの 「人間」 でありながら、
数多の王を屠ったという貴様の異名、我が耳にも届いておったわ」
 外套を靡かせる貴女を眼下に、
身体のない徒が羽根帽子を上下に動かしながら告げる。
 陰鬱な声が漏れると同時に緑青色の火の粉が中から散った。
「我が名は、 “千征令(せんせいれい)” オルゴン。
死の深淵(フチ)に瀕していた我が存在を冥府から引き上げ、
新たなる力を与えて下された統世王殿に報いる為、その命頂戴するぞ」
 まさに地獄の底から甦ってきた亡者そのものの声で、
闇の住人へと変貌した王は高らかに告げる。
“千征令” オルゴン。
 嘗てその名を知る者ならば、敵味方を問わず誰もが
震え上がったとされる強大なる紅世の王。
 携えた無数の戦功とは裏腹に、その晩年は随分と憂き目を強いられたが
実力はこの世界最大を誇る徒の組織、
仮面舞踏会(バルマスケ)” の中でも間違いなく五指に入る強者。
 その存在が、DIOの 『幽血』 を受けた事により
生前を遙かに凌ぐ能力を伴って現世に復活した。
 その事実を、姿を認識するでもなく感じ取ったエリザベス。
 正に、神をも畏れぬ呪われし魔物とその威光を一身に受ける聖女の対決。
 即座に戦闘の口火を切ろうとするオルゴンを制し、
エリザベスはルージュで彩られた口唇を開いた。
(しば)し、まずは場所を移動しなくて?
アナタの力もワタシの力も、この閉塞した場所では存分に(ふる)えないでしょう。
何より、無辜(むこ)の人々を 『波紋』 に巻き込むのはこちらも忍びない」
 敵で在っても敬意を失さず、静かに告げられたエリザベスの提案に
オルゴンは無言で返す。
 そし、て。
「フ、クククククククク。
幾ら強いと言っても所詮は女か。
戦場の直中で随分と甘いようだな? “千年妃” 」
 嘲りを込めた言葉の終わりと同時に、
オルゴンの羽根帽子が大きく口を開ける。
 瞬時に、路上が、その彼方が、並び立つ建物の中までが緑青色の炎で包まれる。
 周囲300メートル、生物のみを殺傷する中性子爆弾でも撃ち込まれたように、
夥しい存在の力が幾つものうねりと成って、オルゴンの裡に吸い込まれていった。
「な……!」
 予想だにしえない相手の暴挙に、初めてエリザベスの表情に動揺が走る。
「ファーーーーーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!
コレでどうだ!? 貴様の思い悩まないようにしてやったぞ!!
“千年妃!!” 精々このオレに感謝するコトだな!!
ファーーーーハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」
 残虐な声が響く中、最小限の瞳の動きだけで無人と化した
シンガポールの街並みを見渡すエリザベス。
 強大なる紅世の王、 “千征令” オルゴンにとっては
文字通り邪魔者を 「片づけた」 というものに過ぎなかったが、
ソレがどれほど深く彼女の心を抉ったか、
狂熱に浮かされる王は気づいていない。
「……」
 何も出来なかった、死ぬ事さえ認識出来なかった人々の理不尽な死に、
エリザベスは悼むように瞳を閉じ祈りを捧げる。
 そして、美しき風貌の前に上げられた手が、
やがてゆっくりと下がっていく。
 微かな衣擦れの音、纏った外套が、清楚なブラウスが、スカートが、
すり抜けるように落ちていく。   
 現れた姿は、その艶麗なる躰、両腕と大腿部が露わになった薄衣。
 緩やかなラインを微塵も崩さない軽装の首元で、
純白のマフラーが戦風に揺らめく。
 これぞ、 『最強の波紋使い』
エリザベス・ジョースターが本気で
戦う事を決意した時のみに魅せる戦装束。
「む、う……!」
 本来人間など単なる(エサ)
家畜以下の存在としてしか見なしていないオルゴンだが、
この女神の顕現とも云える、描画すら敵わない美しさの前には
想わず息を呑んだ。
 閉じていた瞳を開き、首にかけていたマフラーをスルリと解きながら
エリザベスは告げる。
紅世の徒(アナタ)達に、一体どのような目的が在るのかは知りません。
人間のワタシには、永遠に理解出来ない事なのかもしれません。しかし……」
 瞳に宿る、黄金の光。
 100年前のアノ刻から受け継いだ、誇り高き精神。
生命(いのち)の大切さも解らない(やから)に対しては、
(わたくし) 、 『残酷』 ですわよ……ッ!」 
 消えていった人々の想いを華奢な背に、滅びない魂を温かな胸に
喊声を挙げたエリザベスの全身から、悠麗なる極彩色の波紋光が迸った。 

←TOBE CONTINUED…

 
 

 
後書き

ハイ、どうもこんにちは。
世界のカマセ、オルゴン君の登場です。
(オマエ一瞬でヤられ過ぎだよ・・・・('A`))
まぁ読んでてお解りの通り、リサリサ先生は『JORKER』なので、
DIOサマ以外誰とヤっても勝ってしまうので(逆に)彼にお鉢が回ってきました。
まぁ基本「ヘイト小説」は描く気はないので
(ダメな部分はダメとはっきり言いますが)
DIOサマの血でドーピングしてかなり強力には仕上げてあります。
(どこぞのジジイでも石造りの建物ブッ壊すから、設定上は相当ヤヴァイ)
しかしまぁどこまでヤれるやら・・・・
能力が強くても「精神」がアレだとジョジョの世界じゃ勝てないんですよネ。
ソレでは。ノシ
 
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