僕は生き残りのドラゴンに嘘をついた
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第7話 ソラト、やっと言える
「デュラ! どうして出てきたんだ!」
「ソラト……もういい」
デュラはそう言って、ゆっくりとソラトのところまで歩いてこようとした。
ソラトは慌てて駆け寄り、全身で遮った。
「ダメだって!」
「自らを危険にさらしてまで私をかばい続ける必要はない。心残りはあるが、これもまた運命だ」
「いやダメだ!」
デュラの体は、少し震えていた。
ドラゴンでも、自分より遥かに強い相手に向かうのは怖いのだろう。
「お前は人間だ。私が死んでも、この先普通の暮らしが――」
「デュラ! 違うんだ! そうじゃないんだ!」
「……?」
「デュラ。いいか、これから僕がする話を聞いてくれ……。あの! 勇者さん!」
ソラトは振り返り、勇者を呼んだ。
「なんだい?」
「今から大事な話をこのドラゴンにするけど、その話のせいで僕が殺されても、それはこのドラゴンのせいじゃない。僕の自業自得だ。このドラゴンの善悪を決める判断材料には絶対にしないでください」
勇者は少し不思議そうな顔をしたが、詳しく突っ込んでくることもなく、剣を鞘に仕舞った。
「そうか。よくわからないけど、いいよ」
ソラトは顔をデュラのほうに戻した。
そして、その場で正座をした。
「デュラ、僕は君に話さなければならないことと、謝らなければならないことがある」
「こんなときにか? なんだ?」
「僕はずっと君に嘘をついていたんだ」
「嘘?」
「うん。最初君に会ったとき、東の海を超えていけば他のドラゴンや大魔王に会えるって言ったよね?」
「ああ、そうだな」
「あれは……嘘だったんだ」
すでにソラトには、デュラの表情の変化はわかるようになっていた。
たった今、激変したことも。
「なん……だと……? それでは、同胞や大魔王様は一体どこに……?」
「みんな、死んでる。もう、この世にいないんだ」
「それは……本当なのか……?」
ソラトは、首を縦に振った。
「……同胞たちも、大魔王様も……もうこの世に……いない……」
デュラはそう呟いて少しふらつくと、首を空に向けた。
そして今まで聞いたこともないような、咆哮――。
それは、天にこだまするほど大きかった。
デュラの首が戻ってくると、ソラトは額を地面に着け、謝罪した。
「デュラ、ずっと騙していてごめんなさい……」
そして、そのまま、
「今この場で僕は罰を受ける。その爪で引き裂いてほしい」
そう頼んだ。
しかし、デュラは動かなかった。
「ソラト、顔を上げてくれ」
「……上げられない」
「上げてくれ。一年以上見てきて、お前がよい人間だというのはわかっているつもりだ。あのとき事実を話せば、私が絶望して生きる気力をなくすだろうとお前は考え――」
「違うんだ!」
ソラトは、顔を伏せたまま、大きな声で叫んでいた。
「違うんだ。事実を話したらその場で殺されると思って、死ぬのが怖くて嘘をついただけなんだ! まだ生きてるって言えば、どっかに飛んで行ってくれると思って!
船の話だってそうだ! 本当は東の海の向こうに陸なんてないんだ! デュラを騙して船に乗せて、そのままいなくなってくれればって思って言ったんだ!
僕は全然いい人間なんかじゃないんだ!」
――やっと、言えた。
ソラトは号泣すると、頭を下げたまま「ごめんなさい」を何度も繰り返した。
デュラがどんな表情でそれを聞いていたのかは、ソラトにはわからない。
しばらくすると、頭の上から「そうか、わかった」という声だけが、聞こえた。
「一思いに、殺してくれ! 僕の悪い頭じゃ、これしか思いつかなかったんだ!」
ソラトはそう言ったが、デュラの爪が伸びてくることはなかった。
「ソラト、私もお前に嘘をついていたことになる。お前に謝らなければならない」
「え?」
その意外な言葉に、ソラトの顔が思わず上がってしまった。
「私はお前と最初に会ったとき、『正直に答えれば命は奪わない』と言った……。あれは嘘だ。
一年以上お前と一緒にいたから、今は聞いても大丈夫だったが、あのときお前が正直に言っていたら、間違いなく私は耐えられなかっただろう。きっとお前を殺して、町を焼き払っていたに違いない」
「……」
「嘘はお互い様だ。だからソラト、もう泣くな」
ソラトは、一段と泣いた。
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