ラブライブ! コネクション!!
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Track 2 受け取るキモチ 繋げるミライ
活動日誌9 わんだー・ぞーん! 2
ことりさんに少し潤んだ瞳で聞き返されて、にこ先輩は困りはてた表情を浮かべながら――
「……あのねぇ? あたしは別にコレクターじゃないの! 純粋にアイドルが好きなだけ! 寄付したいと思ったから寄付をしただけで、泣く泣く置いていった訳じゃないのよ?」
「だけど、落札するのにお金かかったんじゃ?」
「はぁ? ――良いこと? あたしは、価値に対してお金を投資したの……それに見合うだけの金額だったから払っただけよ。だから、お金がかかったなんて思っていないわ」
「じゃあ、もう価値はなくなったの?」
「――あんた、バッカじゃないの? 価値がなくなったのなら売るに決まっているでしょうが! 価値はあるに決まっているじゃない!」
「だったら……」
そう言い放つのだった。
それでも、未だに納得してもらえていないと判断すると――
「……あたしが色紙を欲しかったのは、アレが伝説のカリスマメイドのミナリンスキーさんのサインだったからよ? アイドルを目指して必死で頑張ってきたけど、上手くいかずに落ち込んでいた時……ミナリンスキーさんの話をネットで知ったの。誰からも愛される彼女は、本当のアイドルに思えた。だから欲しかった……そして部室に飾っていたのは、あたしも誰からも愛されるアイドルになる為……彼女みたいになるのが目標だったからよ。……まぁ、ミナリンスキーさんが、あんただって知った時は驚いたけどねぇ? だけど、それでビラ配りの件が納得いったんだけど……」
にこ先輩は少し恥ずかしそうに、だけど真剣な表情で語るのだった。
にこ先輩の最後に言った『ビラ配りの件』とは――
以前、にこ先輩が加わって7人でスタートした頃。メンバー内でリーダーを決めようとした時に、にこ先輩が提案して実施された勝負の1つなんだって。
秋葉原の街でライブのチラシを誰が1番配れるか?
そんな勝負で、ことりさんが圧勝したらしい。
そう言えば、お姉ちゃん達3人での初めてのライブの時もチラシ配りでことりさんは善戦していたって聞いた。たぶん、そんな部分もカリスマメイドと呼ばれる彼女の才能の1つなのかも知れない。
と言うより、これもお姉ちゃんに聞いたんだけど?
そのファーストライブのチラシを最初に秋葉原の街で配ったらしいけど? いや、海未さんの恥ずかしいって気持ちを克服する為だって言うのは理解したよ?
だけど? そのファーストライブって――
学院の新入生歓迎会の直後に学院の講堂で開始されるライブなんだよね? 一般公開されていないんじゃないの?
まぁ、知名度を上げる為でもあったんだろうから良いんだけどね?
そんなにこ先輩を無言で見つめている私達。
にこ先輩はコップのジュースを一口飲んで一呼吸をすると――
「だけど、あたしには仲間ができた。一緒にアイドルを目指せる……思い出を共有できる仲間が。あんた達に誘われた時点で、あたしの目標は全員の目標になったんだから、あたし1人が所有するものでもないのよ? だから、部へ寄付をした。それだけよ?」
「……にこちゃん」
「それにね? ――」
優しい微笑みをことりさんに向けながら、そんなことを言っていた。
隣で聞いていたことりさんは柔らかな表情を浮かべて声をかけたんだけど、にこ先輩はことりさんに向かって含み笑いの表情で――
「第一、あんたが言ったのよ? 私には私の役目がある……道に迷うことがあっても、それがムダになるとは思わないって。……アノ色紙にはアノ色紙の役目がある。道に迷うことがあっても、部室に飾っていることがムダだとは思っていないわよ、あたしは?」
「…………」
そんな言葉を繋げたのだった。
去年のハロウィンイベントの際、新しい μ's を試行錯誤するあまり――肝心な曲や衣装の進行などが大幅に遅れていたらしい。
衣装製作担当のことりさんと共に、にこ先輩と花陽さんが衣装製作の手伝いをしたらしいんだけど――にこ先輩が愚痴をこぼした時に、ことりさんから言われた言葉なのだと言う。
ことりさんは、そんな言葉を受けて苦笑いの表情で何も言えなくなったのだった。
そんなことりさんを優しく見つめながら――
「そもそも、あんたは別に恥ずかしいことをしている訳じゃないでしょ? ただ、純粋にお客様を笑顔にさせる為に頑張ってきて……あたし達がそれを認めた。そして、そのことがアイドルにとって1番大事だって、あたしが思っているから……アイドル研究部に必要だから部室に飾っている。……それが色紙に対する価値なんだから、胸を張って良いことだと思うけど?」
にこ先輩はそんな言葉で話を締めた。
ことりさんはその言葉を聞いて、他の μ's のメンバーを見つめていた。周りの皆もことりさんに微笑んで無言の頷きを返す。
皆の頷きを見て、少し涙ぐむことりさんなのだった。
そんなことりさんを温かく見守るお姉ちゃん達。
常に新しいことを目指して変化していくお姉ちゃん達。
そんな1人1人の変わっていく時間を、常に受け入れてくれる――このアイドル研究部と言う場所も、お姉ちゃん達にとっての不思議な空間なのかも?
そしてこれからは、私や亜里沙や涼風の変化も受け入れていってくれる――
私は部室の不思議な空間に包まれながら、そんな気がしていたのだった。
♪♪♪
そんな経緯のある色紙――あの時は確かに納得したのかも知れない。
だけど気持ちが変化したのかも知れない。
確かに、にこ先輩からあんな風に言われていても、毎日見ることになれば、ねぇ?
私と亜里沙は知っているから良いとしても、何も知らない涼風が気にならないとは思えない。
今のところは聞いていないだけで、しばらくすれば誰かに聞くことになるかも知れない。
そうなった時に、なんて答えれば良いのかが私には想像つかないのだった。
ありのまま答えると言うのは、ことりさんでないと答えるのが憚られる。だけど情報が出回っている話だから何かの拍子にバレてしまう可能性があるので、下手な誤魔化しは難しいだろう。
だから、ことりさんは話が出る前に隠そうとしていたんだと思っていた。
ところが――
「あっ、あのね? ……悪いんだけど、この椅子を押さえていてくれないかな?」
「は、はい……これで良いですか?」
「うん、ありがとう。それじゃあ、少しだけ押さえていてね? ……うんしょ」
ことりさんは少しの間、部室の中を彷徨っていたんだけど?
意を決した表情で私達――ううん、正確には棚の前に立っていた私達の方へ歩いてくると椅子を棚の前に置いて声をかけてきた。
私が椅子を押さえて声をかけると、ことりさんは礼を告げて――上履きを脱いで椅子の上に立ったのだった。
――私、慌てていたから押さえ方を間違えたみたい。
ほら? 棚の方に背もたれを当てて置いてあるんだけど――私、座るところの端のパイプを押さえているのね? しかも邪魔になるとマズイからって中腰の体勢で!
その上に、ことりさんが立ったのですよ――そう、私の目の前にことりさんの両足が広がっているのですよ? 今日は練習がないので制服のまま!
つまり、そのまま見上げると――言わなくても、わかるよね?
ほら? 女の子同士だし、着替えだって一緒にすることもあるんだろうけど?
そう言うのとは違うんだよねぇ?
何て言うのかな? 普通に見るのとは違って、普段見られない時に見れるシチュエーションって――同姓の私でもドキドキするんだよ?
相手がことりさんなら、尚更だね?
と言うよりも μ's のメンバーは全員――あっ、お姉ちゃんは別だけどね!
ドキドキするものなのですよっ!
――いや、ことりさんゴメンナサイ。
なんとなく申し訳なくて、心の中でことりさんに謝罪をしながら俯くのだった。
「……うんしょ……ふーっ……」
なんとか色紙を取ることに成功したことりさんは、安堵の表情を浮かべて椅子から下りる。
一瞬だけ懐かしむように色紙を眺めると、テーブルに置いてある自分の鞄の方へ持っていくのだった。
やはり持ち帰るのかなって、私と亜里沙は思っていたのに自分の鞄を開けて――色紙をしまわずに、代わりにとある物を取り出したのだった。
それは、見開きの形状で2枚の色紙が入る色紙フレームだった。
「……ごめんね? また、押さえてもらっても良いかな?」
「は、はい……押さえました」
「? ありがとう……あっ、コレ持っていてもらえる?」
「わかりました!」
「ありがとう……じゃあ、渡して?」
「はい……」
「ありがとう……うんしょ」
ことりさんはそのフレームの片方に色紙を入れると、再び私に椅子を押さえてもらうようにお願いしてきた。
さすがに同じことをするのは進歩がないから、今度は背もたれを立ったままで押さえると――さっきの光景が脳内をよぎり、少し恥ずかしくなって横を向いて答える。
ことりさんは、最初と違う押さえ方をしながら変な態度で押さえている私に疑問の表情を浮かべていたけど、気にせず隣の亜里沙にフレームを持っていてもらえるようにお願いした。
亜里沙は元気良く返事をして受け取る。
すると、ことりさんは上履きを脱いで椅子の上に立つと、色紙を渡すように指示をする。
亜里沙が手渡すと、ことりさんは再び色紙を棚の上に乗せるのだった。
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