ラブライブ! コネクション!!
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Track 2 受け取るキモチ 繋げるミライ
活動日誌9 わんだー・ぞーん! 1
私と亜里沙と涼風が初参加をした練習の日から、少し時間が経った日の放課後。
私達は普段通りに部室まで歩いていた――普段通りって、なにか良いよね?
いや、別に毎日が普段通りじゃないって訳じゃなくて、私達も普段通りって使えるくらいには部室に通えているんだなって話だからね?
3人で初めて参加した次の日から、私達はお姉ちゃん達と一緒の練習メニューを真剣に取り組んでいる。
当然、神社の階段道や境内で行う早朝練習にも参加しているし、放課後の練習だって参加している。
更に私達だけでの練習も、昼休みや休日に3人で集まって頑張っているのだ。
まだまだお姉ちゃん達には遠く足元にも及ばないし――正直、練習はキツイけどね?
だけど誰も泣き言は言わないし、弱音も吐かない――まぁ、それだけの体力が残っていないだけかも知れないんだけど?
それでも自分達で決めたこと。自分達が目指そうと歩き出したこと。
私達の意思で始めたことなんだから、精一杯やるだけなんだと感じていた。
とは言え、常にフルスロットルで駆け抜けても身体が悲鳴を上げるだけ。きちんと休息も取りつつ練習をする。
その方が遥かに効果的だと言うのが、お姉ちゃん達の経験からくる結論なのだ。
まぁ、確かに365日あんなハードで濃密な練習をこなしていたら、間違いなくステージ上で私達が奏でる音を上げる前に――
続かなくて音を上げるだろうし? なんてね。
そんな訳で今日は久しぶりに練習がない。だけど私達は部室に向かっている。
昨日の練習が終わった時、花陽さんから――
「あっ、明日は1日お休みだから……早朝練習はないからね? ただ、放課後は部室に集合して?」
そう伝えられたのだった。
練習はなくてもアイドル研究部は活動がある――
スクールアイドルの練習だけが活動じゃないからね? 話し合いも必要なんだろう。
ちゃんと私達も出席できる話し合いがあるのは素直に嬉しいことだ。きちんと部員だと認められている感じがするから。
私達はお姉ちゃん達がどんな話をするのか、期待に胸を膨らませて部室まで歩いていたのだった。
♪♪♪
「「「……失礼します!」」」
「うんしょ――えっ! ……あははは……サンニントモ、オツカレサマ」
「「…………」」
「?」
私達が挨拶をしながら部室の中へ入ると――
ことりさんが何やら背伸びをしながら、棚の上に手を伸ばし、ある代物を取ろうとしていた。
ことりさんは中に入ってきた私達に気づいて驚くと、伸ばしていた手をパッと後ろに隠しながら私達に向き直って――
乾いた笑いを紡ぎながら、何事もなかったかのように笑顔を浮かべて棒読みで声をかけ――後ずさりをしながら棚から離れるのだった。
だけど、取ろうとしていた代物は棚の上に置かれているままだった。
つまり、ことりさんの後ろに回した両手には何も持っていない。だから特に後ろに手を回す必要はない。
なのに、わざわざ後ろに手を回してまで『何もしていなかったオーラ』を取り繕うとしている――そんな不自然な行動のことりさんを見ながら私には、表面には見えていない彼女の焦りを感じていたのだった。
たぶん亜里沙も気づいたんだろう。私と亜里沙は事情を知っているから、ことりさんに向けて苦笑いを浮かべていた。
だけど、事情を把握していない涼風は不思議がっていたのだった。
ことりさんが取ろうとしていた代物。
それは先代部長のにこ先輩が、自分が卒業するからってアイドル研究部に置いていった1枚の色紙。アキバで伝説のカリスマメイド――ミナリンスキーさんのサイン色紙なのだった。
――まぁ、ことりさんのことなんだけどね?
どうやら、お姉ちゃん達と3人でスクールアイドルを結成したばかりの頃。秋葉原を歩いていた時にメイド喫茶――メイドカフェ?
とにかく、お店の人からアルバイトの誘いを受けたらしい。
その頃の彼女は他の2人に引け目を感じていたのだと言う。
そんな自分を変えたくて――可愛い衣装が嬉しくて?
周りには内緒でアルバイトを始めたんだって。
元来の物腰の柔らかさに加えて、普段の自分ではない自分を引き出せたのか――丁寧な接客と献身的な対応が評判を生んでいた。
そして瞬く間に口コミで話題になり、伝説とさえ言われるようになった。
どう言う経緯で書かれたサインなのかは知らないんだけど――
にこ先輩は、ことりさんと知り合う前に色紙をオークションで入手していたらしい。
そして、口コミだけの情報しか知らなかったからミナリンスキーさんが――自分の後輩だったなんて知らなかったみたい。
そんな中、 μ's に9人が揃った直後。とあるキッカケでことりさんがミナリンスキーさんだとお姉ちゃん達は知る。
――いや、アキバのカリスマメイドのことすら知らなかったんだけどね?
そのことをキッカケに、絵里さんからの提案で μ's の新曲の作詞をことりさんにお願いしたらしい。
普段は海未さんが担当している作詞。だけどコンセプトとして秋葉原を題材に書こうと考えていたから――アキバでメイドをしていた彼女が適任だったみたいなんだよ。
ところが中々良い詞が思いつかない。途方に暮れていた彼女に、手を差し伸べたお姉ちゃん。
まぁ、一緒にメイドのアルバイトをしただけなんだけどね? それも、海未さんを巻き込んで!
その甲斐があり、無事に作詞が完成して、新曲のお披露目ライブ――秋葉原で路上ライブが執り行われる。
その際の宣伝と衣装提供を兼ねていたのかな?
再びお姉ちゃんと海未さんは、ことりさんと共にメイドカフェでアルバイトをしたのだった。
その時に私と亜里沙も事情を知り、お店にもお邪魔していたんだよね。
なんて言うのかな?
メイドカフェで働くことりさんは――もう、まさに天職って気がした。
カリスマメイドなんて言葉では言い表せない何かを彼女に感じていたもん。
きっと、ことりさんは根っからのメイドさんなんだろう――まぁ、メイドさんについて、何も知らない私が言うのも変だけどね? そんな風に思えていたのだった。
ことりさんが作詞をしたアノ曲は、彼女達 μ's が思うアキバのイメージ――
『目まぐるしく移り行く時間の中にある、そんな新しい自分や時間でさえも受け入れてくれる不思議な空間』
そんな感じの曲だと思う。
だけど、お邪魔したメイドカフェでのことりさんこそが、優しくもあり、温かくもあり、新しいことりさんや空間を知れた――私にとっての不思議な空間に思えていたのだった。なんてね。
ちなみに、ことりさんは今でもアルバイトを続けているらしい。
まぁ、周りの人には内緒で? みたいなんだけど――暗黙の了解ってヤツ?
特に、母親である理事長先生には内緒にしたいみたいだけど、きっと理事長先生だって知っているんじゃないかな?
だけど特に悪いことをしている訳でもないだろうし、敢えて黙認をしているのかも知れない。これも生徒の自主性を尊重する校風なのかも知れないね?
たぶん、知らぬは当人ばかりなりって感じだと思うんだけどね。
ファンの人達もたくさんの人が知っている事実だと思うよ。
スクールアイドルの頂点に輝いた μ's のメンバーの1人。
そして海外PRで人気を広げ、更に合同ライブの発起人の1人。
注目されない訳がないんだと思う。
だから普通、そんな彼女がアルバイトをしているなんて知れ渡れば、相当な騒ぎが起きることなんて、誰でも簡単に予想できるよね。
それでも何か騒動が起きる訳でもなく、普通にアルバイトを続けていても営業ができているくらいだった。
それはきっと、ファンの人達の対応もあるかも知れないけれど――目の前に現れたことりさんがそうさせているのだと思う。
スクールアイドル μ's の南 ことりさんではなく――アキバのカリスマメイドのミナリンスキーさんとして皆と接しているから。
そんな彼女との不思議な空間を大事にしたいって思うからなんだろう。
だからこそ、お店としても彼女にアルバイトを続けて欲しいと願うし、本人も続けたいって願ったんじゃないかな?
そして、そんな不思議な空間を皆で支えているんだろう。だから今でもアルバイトを続けていられる気がするのだった。
そんな感じでことりさんがミナリンスキーさんだと言うことは、メンバー全員が知っていた。
だけど、サイン色紙は間違いなく先代部長のにこ先輩の私物なのだ。
でも卒業だからと家に私物を持ち帰ることになった際に、ポスターと色紙だけはアイドル研究部に寄付をしていった――まぁ、ポスターに関しては貼る場所がないし、剥がすのが面倒だからみたいなんだけど?
色紙に関しては――
「こう言うモノがあった方が、アイドル研究部として箔が付くでしょ?」
そう、あっけらかんと言っていたそうだ。
別にミナリンスキーさんがことりさんだと知った――価値を失ったから置いていった訳ではない。
一応、卒業式の段階では色紙の話は解決したかのように思われたらしいんだけど?
私と亜里沙の歓迎会の時に、ことりさんとにこ先輩が押し問答を繰り広げていた。その時の会話は、確かこんな感じだったと記憶している。
♪♪♪
「……ねぇ、にこちゃん……」
「持って帰らないわよ?」
「――持って帰ってよぉ」
「――帰らないって言っているでしょうが!」
「なんでぇ?」
歓迎会の歓談中、隣に座るにこ先輩に声をかけることりさん。だけど会話をする暇もなく拒絶されるのだった。
いや、私には全く理解できない会話なんですけど? あとの会話で主語が理解できたような話だったから。
だって、ことりさんは普通に名前を呼んだだけだよ? それも元々会話をしていた訳じゃなくて、唐突に始まった会話なんだし――何でアレで内容までわかるの?
アレで成立する関係――他のメンバーもそうなんだけど?
スクールアイドル μ's の時間の濃さに驚きの連発の私なのだった。
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