ラブライブ! コネクション!!
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Track 1 両手を広げて
活動日誌3 のーぶらんど・がーるず! 1
放課後。
HRを終えた教室と言う籠の中の鳥のような存在の生徒達が――籠の開閉口を開け放とうとするように、教師が教室を出ていくのを見届けている。
すると、開け放たれた開閉口から大空へと自由に羽ばたこうとしている――そんな風に一様に各々の行動を始める時間。
授業中にはなかった――座っている私の頭上、斜め上に造られていた教室を囲む壁以外には何もなかった見晴らしも――今はクラスメートの制服の波が行き来して見晴らしを遮っている。
とりあえず、その波に乗り遅れた私は自分の席に座ったまま、時間を持て余しながらその波を眺めていたのだった。
そう、特に何もすることのないあまり――普段では思いつかないような詩的な表現が出てきてしまうほどに。
すると、その波を避けながら1人のクラスメートが近づいてくる。
そのクラスメートは私の前まで来ると――
「……雪穂、行かないの?」
そう、聞いてきたのだった。
私は彼女に苦笑いを浮かべて――
「いや、たぶん……もうすぐ、来るんじゃないかなーって?」
そう答える。
私の答えを聞いたクラスメート――まぁ、亜里沙なんだけど?
亜里沙は私の意図に気づいて納得の微笑みを浮かべていた。
そんな私達の耳に、教室の外から響いてくる感嘆の声が聞こえてきた。私達は顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、教室の扉の方へと顔を向けるのだった。
♪♪♪
次第に感嘆の声は大きくなってくる。まぁ、無理もないんだろうけど?
私や他の学校だったら、いざ知らず――こと、この学院。
ううん――新入生にとっては起こりうる事態なんだろう。
もちろん、新入生全員が当てはまるとは思っていないけど――少なくとも、今起きている感嘆の声の持ち主くらいには当てはまるのだろうから。
この学院は去年、廃校の危機に瀕していた。
それは生徒数の減少による学院存続が難しかったから――つまりは、受験者数が少なかったからなのだった。
そんな学院の危機を救ったのはスクールアイドル μ's の力が大きかったと思う。
彼女達が学院のアピールをしたことにより、受験者数が増えて学院は存続できた。
それは彼女達に憧れて一緒の学院に通いたい――そんな動機の生徒が多くいるってことだろう。いや、純粋に学院に惹かれて受験した子が多いのなら、初めから廃校なんて案は出ないだろうしね。
もちろん μ's はあくまでも広告塔――彼女達を媒体として、純粋に学院の魅力に興味を持った子だっていないとは限らない。
だから全員が当てはまるとは思っていないんだけどね?
それでも、新入生の大半は μ's に憧れを抱いているんだと思っている。
それに μ's はアイドルと言ってもスクールアイドルなんだ。普通に同じ校舎で学院生活をしているのだから、画面で見ているアイドルよりも身近に存在する。
だけど、私達は昨日入学したばかりだった。そして相手は最上級生。
ある程度時間が経過でもすれば接点も増えてくるだろうけど?
そんなに簡単に身近で見れるなんて思っていないんだから、当然感嘆の声もあげたくなるだろう――そうなるの、予想できたよね?
何を平然と私達の教室まで来てんのよ! お姉ちゃんは!?
「……うん、ありがと……へぇー? そうなんだぁ……ふむふむ……そっかー! ……」
「…………」
まぁ、元々予想はしていたことだし? 感嘆の声が聞こえてきた時点で来たのは知っていましたけどね?
――と言うか、さっさと入ってこれないかなー?
ちょうど、私の視界の先――教室の入り口にお姉ちゃんの姿が現れた。
ところがお姉ちゃんは教室に入ってこない――正確には、入り口で周りの新入生達と立ち話を始めていたのだった。
気さくで話やすくて、親身になって話を聞いてくれる――現生徒会長にして μ's のリーダー。それは、お姉ちゃんにとって美徳な点だと思う。
そんな雰囲気のお姉ちゃんだから皆が集まるんだと思うし――そんな雰囲気のお姉ちゃんだから皆が応援しているんだと思う。
だ・け・ど! 正直今はその美徳が仇になっているのだ――私にとっては!
たぶんお姉ちゃんは――話を聞くのに夢中で当初の目的をすっかり忘れているんだろう。
だけど、運が悪いことにお姉ちゃんは私の視界に入っている。つまり、お姉ちゃんの視界にも私達は入っているってこと。
だから下手に次の行動へは移せない――選択を見誤ると大変なことになるのだから!
そんな状況に陥っている私の脳内で2つの選択肢が発生した。
1 お姉ちゃんを無視して教室を出る
2 お姉ちゃんの方へ行って一緒に教室を離れる
私は脳内に発生した2つの選択肢を苦渋の表情で振り払った。だって、どっちを選んでも結果は同じだから――お姉ちゃんとの関係性がバレるという結末的に。
♪♪♪
私はクラスでの自己紹介の際、敢えて高坂 穂乃果の妹とは公言しなかった。
もちろん、憧れを抱いているクラスメートの間で私の苗字を聞いた時に小さなざわめきが起きていたのは知っている。当然亜里沙の時もだけど。
それでも、私達は公言をするつもりもなかったから、そのことには触れずに自己紹介を終えて、何事もなかったかのように席に座ったのだった――そう、クラスメート達の疑問や好奇の表情を受け流して。
とは言え、私達は公言をしないってだけで秘密にするつもりはない。まぁ、遅かれ早かれバレるのだろうし、ね? だから、聞かれたのなら答えるつもりではいたのだった。
これも昨日、2人で決めたこと。お姉ちゃん達はお姉ちゃん達で、私達は私達――そしてクラスメート達と接するのは私達なんだから、わざわざ公言をしても仕方のないことなんだもん。
だって、凄いのは――
憧れているのは、お姉ちゃん達であって私達ではない。そして、そんな理由で集まる友達は友達とは言えない。私達の友達は私達で作るものだと考えている。
だから、私達は私達の力で相手に飛び込むし? 相手には私達だからと言う理由で飛び込んできて欲しい――そんな思いがあったのだった。
まぁ、要は――
お姉ちゃんと言う存在があるからって理由で私達との距離感を見誤る――私達から遠ざかったり、近づきすぎたり。そんな風に接してこられたくなかったからなのだよね。
なので、今回のケースに当てはめてみれば――
どちらの選択肢を選んだとしても、お姉ちゃんが気づいて声をかけてこないとは思えないから――結局、お姉ちゃんの妹だとバレてしまう。
ほら? お姉ちゃんのことだし――
「ウチの雪穂がお世話になってます」
くらいのことは言い出すんだろうなって考えたから――つまりは、不本意な状況でバレてしまうと言う訳だ。だから、どちらの選択肢も選べなかったのだった。
と言うよりね?
特に約束をしていた訳でもないんだし、来るだろうからって待っていないで――先に教室を出てしまえば良かったんだけどね?
だけど、お姉ちゃんは来るって思っていたし――それに、ほら? お姉ちゃんが教室に来た時に、さ?
私達が先に出て行って、教室にいなかったら悲しむかなって?
だけど、それで自分が八方塞になっていたら世話がないんだけどね?
何より、選択肢を選ばずに漠然と待っていても結果は同じなんだから――お姉ちゃんの行動を待っている私達って、蛇の生殺し状態なんだよねぇ?
私は苦笑いを浮かべつつ、未だ会話を続けているお姉ちゃんを見つめているのだった。
♪♪♪
「……そろそろ、良いかな? ――失礼します!」
お姉ちゃんは新入生達の会話が途切れたのを見計って、承諾を得てから教室へと入ってきた。
教室の中で眺めていた生徒達は驚いた表情を浮かべている。たぶん、廊下を通り過ぎるのだと思っていたんだろう。
私としては、通り過ぎてくれた方が良かったんだけど? そんなことはあり得ないとわかっていたから、普通にお姉ちゃんを見ていたのだった。
お姉ちゃんは教壇に立つと――
「……皆さん、こんにちは! 生徒会長であり μ's のリーダーの高坂 穂乃果です!」
声高らかに言うのだった。いやいや、全員知っているから!
そんな私の表情に気づいたお姉ちゃんは、含み笑いを浮かべると――
「――そして、高坂 雪穂の姉の高坂 穂乃果です!」
そうなるだろうとは予測していたものの、バリエーションの一種として挨拶に加えてきたのだった。私はお姉ちゃんの言動よりも周りの反応が気になったんだけど――
周りにいたクラスメート達は特に驚いた様子もなく、普通に受け止めていたように思える。
それも全員が全員――
「はい、知っていましたよ?」
そんな空気を纏っているような感じさえしていたのだった。
♪♪♪
実は全員――正確には私達のクラスの全員が真実を知っていたんだって。
と言うのも、クラスメートの1人は亜里沙と同じくらいに μ's を応援し続けてきたらしい。もちろん μ's のライブにも何度も足を運んでいた。
その際に、私や亜里沙を良く見かけていたんだって。
そして彼女はあの日も当然来ていたみたい――あの、1回目のラブライブ! への出場がかかっていた文化祭でのライブ。
お姉ちゃんが倒れたあの瞬間を彼女は見ていた。
お姉ちゃんが倒れた瞬間に、無我夢中で叫びながら駆け寄った私――その一部始終を彼女は心配そうに見ていたのだった。
だから、私がお姉ちゃんの妹だってことは知っていたし――私が昨日この教室に入ってきた時に凄く嬉しくなって――私と亜里沙が今日の最初の休み時間に教室を離れた時に皆に伝えたんだって。
だけど私達が何も言っていなかったから、触れられたくないんだろうって――無理に聞くのはやめようって。聞かれるのがイヤだから休み時間毎に教室から離れていたんだろうって。
そんな風に話し合っていたんだって。ただ、校内を見て回りたかっただけなのにね?
もちろん、聞かないからって友達になりたくない訳じゃないけど。
つい、何かの拍子に話題を出しちゃうかも知れないからって、怖くて近づけなかったみたい。
確かに今日はクラスメートとは挨拶程度しか話をしていなかった気がする――亜里沙以外には。
そんな感じで彼女達も、今後についてどうしようか悩んでいたのだった。
彼女達がお姉ちゃんが教室の中に入ってきた時に驚いていたのは――私のお姉ちゃんなのは知っているから、私に用があって来たんだろうとは思っていたんだって。
だから誰かに呼び出してもらうのだろうと思っていたら――本人が普通に教室に入ってきたからなのだと言う。
ごめんね? お姉ちゃんだから。
そんなことを次の日の朝、私が教室に入った時に――最初に知っていたと言う彼女の口から聞かされた。
結局、私を含めた全員が空回りをしていたのだろう。私は苦笑いを浮かべて私の考えていたことを打ち明けた。彼女は私の話を聞いて、同じように苦笑いを浮かべていた。
そして、どちらからともなく握手を交わすと――クラス全員にキチンと説明をして、私達は普通に友達になれたのだった。
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