| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは 永久-とわ-の約束

作者:ULLR
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

無印編
ジュエルシードを求めて
  決意の時

 
前書き
超お待たせしました。
時間が出来たので以前書いた文章を校正しつつ仕上げたのですが……なんだな思うように書けなくなってる(汗)

しばらくリハビリですかね。SAOと合わせて少しずつやっていこうと思います。 

 
 



 海鳴市に来て数日、俺たちは4つ目のジュエルシードの回収にある場所へ来ていた。なのはの通う私立聖祥大学付属小学校というところだ。
 俺の知っている学校というものは、国が設置している国立の軍学校あるいは研究機関であって、なのはが説明してくれたように、教養全般を広く教えてくれるようなことは無かった。必要最低限の教養と後は軍学校なら軍事を研究機関なら専門分野を教示する。その方が効率が良いからだ。
 しかもこれは私立という、個人が建てた学校らしい。どんな金持ちの貴族でも私財投じて庶民に教育を施すなんて発想をしたやつはいない。この学校を作った者は余程の善人か、あるいは大富豪なのかもしれない。

「キーラ君?」
「ん?」
「なんかさっきから静かだから、どうしたのかなって」
「ああ、いや……時代は変わるものだなと思ってな」
「どういうこと?」

 なのはに、さっき聞いた話から思っていたことを伝える。特におかしな話をしたつもりはなかったのだが、なのはは「にゃはは……」と独特な苦笑いを溢した。

「キーラ君が言ってることは多分大学とか、専門学校っていう場所でやるようなことじゃないかな。私が今通ってるここは、自分の将来やりたいことを探す場所って言えば良いのかな……」

 なるほど。つまりはここはやりたいことを叶えるための準備をする場所、と言ったところか。

「将来やりたいこと、か」

 昔はその瞬間を大事に生きていた。ずっと楽しいことが続き、未来に不安なんて感じたことがなかった。それが終わると、過去のことを想いながら1つの約束を胸に生きて来た。そして今も。

(考えてみれば、未来のことを考えて生きた時って無いな)

 俺には寿命というものが無い、らしい。生まれた時ーーーのことは少し記憶が曖昧だがーーーから体の大きさは変わっていない。そもそも生まれた時に人だったのか、獣だったのか分からない。
 俺を拾ってくれたお方、リリア様が言うには、俺が生まれた星は双子の星で、一方に身体能力は優れているが魔力を持たない獣や獣人、一方に魔力を持つが身体能力は普通の人間が住んでいたらしい。その2つの星は何百年と戦争をしていて、やがて人間側が戦争に終止符を打つ為に獣人と人をを呪術的に掛け合わせた兵器を開発した。それが俺だという。
 時が経って2つの星は共に滅び、生き残った俺は偶然その次元に訪れたリリア様に拾われた。それからはリリア様やご息女のミリア様に仕えていたが、それもやがて終わり、何千年も色々な世界を渡って旅をして来た。偶に腰を据えることもあったが、それも生きて来た年月に比べればほんの一時のことで。ただただ1つの目的と1つの約束の為に生きて来た。

「なのはは何かなりたいものが?」
「うーん……まだはっきりとしたことは何も」
「そうか」

 なのははまだ幼い。時を漫然と過ごす俺に対して、なのははこれから一歩一歩力強く歩んで行くのだろう。
 願わくば、魔法の才能という新たな道が彼女の未来を照らすことを祈って、少しだけ手を貸そう。

「なのは、キーラ。近いよ」
「うん」
「もうバリアジャケットを装備しておいた方が良い。今回のは気配が大きいぞ」

 2部屋向こうの美術室と表示がされている教室から気配はある。こういった人がたくさんいる建物の中には人それ自体が居なくとも、思念が残り、それにジュエルシードが反応してしまうことがあるようだ。

「いくよ、レイジングハート!」
【OK. Barrierjacket set up】

 隣で放出された、なのはの魔力が変質し防護服を編んでいく。この学校の制服を基調とした防具服と聞いたが、成る程、無骨な印象はなくどちらかというと普通の服のようだ。
 なのはの放った魔力に反応してか、美術室からのっそりと巨体が出てくる。恐らくその部屋の備品を吸収して体を形成したであろうそれは、ちぐはぐな姿をしている。バケツを被り、絵の具で汚れた布で体を覆い、手にはどう見ても魔力で巨大化したであろうモップと雑巾を持っている。

「……ええと、モップお化け?」
「多分、この部屋を掃除してる人たちが代わりに誰か掃除してくれないか、みたいなことを考えてたのかもしれないな」
「確かに、美術室の掃除当番は結構大変で人気が無いの」

 早速封印、と行きたいところだがここで暴れては封時結界を張っても無視できない損壊を与えてしまう恐れがある。修正力にも限度があるのだ。

「場所を変えるか」
「うん。でも、あれをどうやって外に出せば……」
「転移魔法を使う。ユーノ」
「分かった」

 なのはの足元からさっと分かれ、左右両脇から暴走体に接近していく。足元をちょろちょろとする俺たちを敵、あるいはゴミだと認識したのか暴走体はモップを振り下ろしてくる。緩慢なその攻撃を容易く避け、ユーノと暴走体を挟むような位置に陣取る。
 暗い校舎に緑と青の魔力光が満ち、暴走体の足元には魔法陣が展開された。

「……!」
「「転移」」

 その光でバランスを崩したか、よろける暴走体を校舎の外、グラウンドへ転送するとユーノはなのはと共に残し、俺は一足先にそこへ飛んだ。
 暴走体の転送先、その真上に出ると次の魔法の用意を始める。

「少し弱らせておくか」

 暴走体は力を消費させておけば、なのはが封印を行う際にその負担を減らすことが出来る。毎夜のようにジュエルシードの回収をしているなのはの体力も、そろそろ限界だろう。

「《深紅の槍(コッキヌス・ハスタ)》……飛べ(ウォラーレ)

 放出した魔力が槍を形作り、暴走体向けて放たれる。それは肩から腰まで貫くと地面と暴走体を縫い付けた。
 落下速度を緩めながら地面に着地すると、縫い付けた暴走体をじっと見る。置かれた状況を理解してないのか、呻き声もあげず動こうとしているが、槍に含ませておいた魔力拡散の呪毒が効き始めている為、段々と動きが鈍くなって来ている。

「思えば、お前は掃除を代わりにしようと出て来ただけなんだな。哀れに思わなくもないが、放っておくわけにもいかない」

 十分に弱らせたところで暴走体を解放し、動けるようにしてやる。ちょうどその頃にはなのはも追い付き、封印の準備を整えていた。
 その後、暴走体は問題なく封印され、校舎への被害は殆どなくことを終えることが出来た。






 この世界に来てから今日で丁度1週間だ。
 新たに見つけたジュエルシードは2つ。遊びに行ったプールで1つと昨日の夜学校で1つ封印し、それぞれちょっとしたハプニングがあったものの特に危険は無く済ますことが出来た。
 ただ、昨日の帰り道になのはが魔力消耗でぶっ倒れ、少し体を大きくした俺が背負って運んだという事があった。

「大丈夫か、なのは?」
「うぅぅ……もうちょっと寝かて……」
「今日は出掛けるんじゃなかったの?」
「……まあユー坊、ギリギリまで寝かせてやれって」

 そう言うと足元に魔方陣を展開。魔力回復を促進する魔法を発動する。

「……ありがとう、キーラ君」
「なのはやユー坊と違って俺は基本見てるだけだからな。魔力だけなら有り余ってる」

 攻撃・封印担当のなのは、防御・補助担当のユーノという役割分担になっている2人に俺が加わる必要性は余り無い。強いて言うなら魔力回復中のユーノが無茶しないよう昨日のように、適度に介入するだけだ。

(……にしてもまだ調子が出ないな)

 大気を漂う魔力素。基本的に魔導師はこれをリンカーコアという器官で呼吸す
 るようにし、体内の魔力を補給する。
 だが、地球の魔力素の濃度はやや薄く、俺が今発動している魔法はリンカーコアを活性化させることで魔力素の吸収を促進するというものだが、術師側の効率があまり良くない。
 一方のなのはは、言うまでもなくこの地球原産の魔導師であり、即ち彼女のリンカーコアは地球の魔力素濃度に適合しているため、通常通り回復する。
 が、やはり外部より来た俺やユーノは地球の魔力素を効率良く吸収出来るようになるまではしばらく時間がかかる。ユーノの魔力回復が遅いのもそのためで、同じように俺も高レベルの魔法は使うと、しばらくは魔法を使えなくなってしまう可能性がある。
 補助だけの役割とはいえ、魔法を全く使わない訳ではなく現状では減っていくスピードの方が早い。有り余ってると言った側から手のひらを返すようだが、少しは節約しなければ。

「―――と、そうこうしている間に時間だぞ」
「えぇ~……はぁ」

 何でも今日はなのはのご両親が経営する喫茶店『翠屋』がスポンサーであるサッカークラブの試合があるらしい。コーチ兼オーナーは何と士郎さんが務めているとか。剣術家で経営者でサッカーのコーチ兼オーナーって……どれだけ万能なんだろうか……






「頑張れ~!」とか「いけー!」などと元気良く応援する少女3人。
 1人はなのはで、後の2人はなのはの友達。この間プールの際に紹介されたので既に顔見知りだ。
 3人の中で一際元気良く声を張り上げ、選手を鼓舞するのは金髪の少女『アリサ・バニングス』嬢。一番声が小さいながらも一生懸命応援する濃い紫色の髪の少女『月村すずか』嬢。
 俺はこの2人に、最初はなのはにも『~嬢』という敬称を付けていた。声に出さないとは言え、呼び捨てにするのもアレなので、という理由だがこの2人、ガチのお嬢様だ。アリサ嬢には執事の『鮫島さん』、すずか嬢――というか月村家にはメイドの『ノエルさん』と『ファンリンさん』が居る。特にメイドさんなる種族を見たのは実に古代ベルカ以来だ……。
 などと考えている内に試合は翠屋チームの勝利で終わったようだ。

「…………?」
『どうしたの?キーラ君』
『ん……いや、周囲の魔力素が一瞬濃くなったような気がしたが……まだ調子が戻らないみたいだな』
『大丈夫?この後翠屋行くけど、家帰ろうか?』
『ありがとう。気分が悪いわけでは無いよ』
『……無茶しないでね?』

 それはこっちのセリフだと思ったが、自分の身を案じてくれる存在が居ることが素直に嬉しい。感謝の意を込めて『ああ』と返答すると、なのはは俺を抱っこして移動を始めた。

「なのはちゃん、重くないの?」
「うん。軽いよ、キーラ君は。すずかちゃんも抱っこしてみる?」
「いいの?」
「キーラ君、いいかな?」
「……クゥン」

 まさか嫌だとは言えない状況ゆえ、了承する。嬉々とした様子で俺を受け取ったすずか嬢は俺の頭や顎下などを撫でたりくすぐったりしている。
 気持ち良いは気持ち良いのだが、年端も行かぬ少女に良いようにされるのは少し複雑な気分だ。ちなみに、なのはの肩に乗っていたユー坊はと言うと……

「ユーノ~♪それそれ~♪」
「キュ、キュー……!?」

 アリサ嬢にうりうりされていた。悲鳴を上げながら助けを求める念話を俺となのはに送ってくるが、なのはは『にゃはは』と傍観。俺は『まあ、頑張れ』と見放す。しかし、

「ふぅ、堪能した~。なのは!次、キーラも良い?」
「え?……うん」
「じゃあ、ユーノ君は私の所ね。はい、アリサちゃん」
「ありがと、すずか!」

 ……ん?ちょっと待て。

「キーラふわふわ~!……えい!」

 歩きながら俺の背中に顔を突っ込んでくるアリサ嬢。

(ちょっとくすぐったい……)

 聞けば彼女は犬好きだとか。確かにキツネはイヌ科だったと思うが……。
 とりあえず昨日、士郎さんに半ば強引に風呂へ連れ込まれ洗われているので、臭くはないはずだ。
 少し洗い方が乱暴だったが、結果オーライだっということにして今は感謝しよう。







 所変わって喫茶『翠屋』。なのは達は翠屋JFCの選手達から少し離れた席で話をしている。

「それにしてもユーノってあんまりフェレットに見えないわよね」
「そうだね。動物病院の先生も変わった種類だって言ってたもんね」
「あはは……まあ、変わった種類のフェレットってことで……」

 などと言いながらユーノに「お手」とかさせるなのは。ユーノもそこは空気を読んでピッ、と右前足を乗っける。

「わぁ~!ユーノ賢い!」
「本当だ~!」

(……それでうやむやに出来るのか)

 単純というか素直というか……これぐらいの年頃ならばそれが美点なのかもしれない。

「キーラもやるかな?……キーラ、お手!」
「クゥン!」

 何だかんだ言いながら、この歳の子に期待の眼差しを向けられつつ言われればそれに応えない訳にはいかない。アリサ嬢は特にこの姿を気に入っているようで、嬉しそうに頭をグリグリ撫でてくる。動物形態に限らず、誰しも頭を撫でられるといい気分になったりするものだが、このように親愛の気持ちを込めて撫でられたのは何時以来だろうか……

(たまには悪くない……良いものだ)

 しばらくして翠屋チームが解散となると、それを機に少女3人も解散する事になった。
 すずか嬢はお姉さんと、アリサ嬢はお父さんと出掛けるそうだ。

『なのははどうするんだ?』
『うーん……家に帰ってのんびりするよ。明日からまた頑張らなきゃだし』
『それが良いと思うよ。今日はゆっくり休んで』
『サーチの範囲を拡げてみる。明日までに一個目星を付けておこう』
『うん。ありがとう、ユーノ君、キーラ君』






 俺は帰ってしばらくすると、高町家の屋根上でサーチャーを展開した。最も効率の良い探し方は四方八方に魔力流を放ってジュエルシードを強制的に覚醒させ、位置を特定する方法だが市街地でそれをやると色々まずい。それに、そこまで派手にやると奴らも黙って見てはいないだろう。

「有るような……無いような……向こうか?」

 正確な位置まで特定出来ないものの、方角は特定する事が出来た。なのはの回復を待ってそこを重点的に探すことにし、今日のところは切り上げる。

「感覚的には後、数日……そうすれば調子も戻るか」

 それまで何事も無ければいいが……雨樋を伝ってなのはの部屋に戻ると、部屋の主はベットにうつ伏せに寝ていた。寝間着を着ているところを見ると、俺が屋根の上に行っている間に着替えたらしい。

『ユー坊……?』
『な、何?わざわざ念話で』
『お前、ちゃんとなのはが着替える間は外に出てたよな……?』
『…………み、見ては無いよ!?その、なのはが急に着替えだしたから……』
『……』
『何でそんな目で見るのさ⁉︎』

 まあ、2人の年頃ならば別に見た見られたの話も大ごとにはなるまい。将来、正体が明かされた時ユーノが士郎さんや恭弥さんにどんな目に遭わされても俺には関係ない。俺の場合もし万が一、人間体で対面する時が来るとしても説得出来る用意がある。どうせユーノはその辺何も考えてないだろう。





 ーーーそんなふざけた事をしている時、近場で突如魔力が吹き上がった。





「「「…………!!」」」

 意識が段々と沈んでいっていたところに突然の魔力反応。ジュエルシードの反応だ。ベッドからガバッと起き上がると、出掛ける仕度を始める。
 身軽な動きで窓枠に立ったキーラ君が、窓の外を眺めながらいつもより早口で言う。

「なのは、ユー坊。ジュエルシードは街のど真ん中だ。どれだけの被害が出るか分からん。俺が先行してなるべく押さえつけるから、全体が見渡せる場所に来てくれ」
「う、うん。分かった」
「了解!」

 窓から飛び降りたキーラ君に少し慌てたけど、次の瞬間には青い光がジュエルシードの反応に向かって飛んでいくのが見えた。

「なのは、急ごう!」
「うん!」

 外へ出ると走りながらジュエルシードの気配を探る。

(こっち……!)

 角を曲がり都市部に向かって走っていくと進行方向に黄色い魔力の柱がせり立って、その中から巨大な樹が現れた。

「まずい……!これは人が発動させちゃったんだ。揺らぎが大きい人の願いを叶えようとしてこんな事に……」
「え……人が?」

 思い当たるのはサッカーチームのGKの子から僅かに感じた違和感。
 あの時はユーノ君もキーラ君も何も言ってなかったので勘違いだと思ってしまった……。

(ユーノ君もキーラ君も調子が悪いって分かってたのに……)

「なのは……?」

 突然立ち止まってしまった私にユーノ君が不思議そうに声を上げる。

「ユーノ君。私……ジュエルシードに気付いてたのに、見逃しちゃった……」
「!!……なのはのせいじゃないよ!僕もキーラも見逃しちゃったんだから」
「……違うの。ユーノ君とキーラ君は調子が悪くて大変なのに、私が2人に頼っちゃったの」
「なのは…………あ!?」

 ユーノ君がそう呟いた時、足下の地面がひび割れ木の根っ子のようなものが生えてきた。

「―――ッ!!きゃあ!?」
「なのは!……うっ!?」

 たちまち木の根に捉えられ、上へと持ち上げられてしまう私とユーノ君。

「あっ……うぅ……」

 ギシギシと体を締め上げてくる圧力に抵抗出来ず、レイジングハートに呼び掛ける事も出来ない。

(だめ……私が、戦わなきゃ……ユーノ君の為に、キーラ君に迷惑にならないように)

「レイ……ジング、ハート……!!……お願い!」

【Stand by ready. Set up】

 バリアジャケットに換装し、変身時の魔力波で樹の根を弾き飛ばす。

「ユーノ君!……って、きゃあ!?」

 しかしここは上空。飛行魔法はまだ習ってないため、なのはと愛機レイジングハートは重力に従って落下していく。

「れ、レ、レイジングハートッ!!……飛んで!」

【Sorry Nanoha. I have yet to install it】

「……えっ!?」

 レイジングハートならば勢いで行けそうな気がしたが、無理なものは無理らしい。
 そうこうしている間に地面が近づいて―――

「―――っと、危ない」

 地上まで後5mという寸前の所でキーラ君が滑り込んで助けてくれる。そして私を背に乗せたまま飛行魔法で上空に上がった。

「キーラ君……」
「悪い。根っ子がこれ以上拡がらないようにバインドで縛ってたら遅れた。……で、ユー坊は?」
「あ、あそこ!」

 視線の先では自力で根っこの拘束を抜け出したらしいユーノ君が迫り来る根を必死にかわし続けていた。
 キーラ君はそれを見ると宙を飛びながら魔法を発動する。

「―――在れ、自由なる紅」

 キーラ君の青い魔力光が真紅に変質していく。それはやがて熱を持ち、轟々と燃え盛る炎のようになった。

「貫け《深紅の矢(コッキヌス・サギッタ)》」

 炎が凝縮し無数の矢となると、動き回っている根を的確に撃ち抜いた。貫かれた木の根っこは黒く焦げ、動きが止まる。

「ユーノ君!」

 根の勢いが弱まった隙にユーノ君を回収、そのままこの辺りで最も高いビルに降り立つ。

「なのは、この樹の核――ジュエルシードはあの奥の一番大きな樹にある。根を回避して接近するのは難しいが……」
「分かった。なら、ここから撃ち抜く!」

 この状況は自分の浮足立った気持ちが招いたもの。ならば、自分が何とかしなければならない。狙う場所は分かっていても、キーラ君がさっきやっていたように精密な魔法のコントロールはまだ難しい。
 ならばとにかく遠くへ、一撃を届ける。それならば出来る筈だ。
 心の中でレイジングハートに願う。遠くの物を撃ち抜く為の力を貸して、と。







 分類上、遠距離魔法は通常の魔法より高度な技術を要するとされている。実際、制御には多くのリソースを割くし魔力も消耗する。なのはの潜在的なスペック込みで考えるならば、どちらも片手間に出来るレベルではあるが、今この状況でぶっつけで出来るかと言うと話は別だ。

「ちょっと待って!あんな遠くに封印魔法を届かせるなんて……」
「大丈夫、届かせる。レイジングハート!」

【All right.……shooting mode Stand by ready】

 案の定ユーノは止めるが、俺は黙って見ている。本人がやると言うなら、やらせるまでた。そして、なのはの才能が本物ならばーーー

 レイジングハートの先端、音叉型の部分が変形し、砲撃モードに移行する。
 なのはのリンガーコアから生み出された桜色の魔力が杖先に集中。余剰魔力が砲門の付け根から吹き出し、翼のような形を作る。
 座標補正と反動制御の円環魔方陣が展開し、発射シークエンスが完了した。

「リリカル、マジカル。ジュエルシード、シリアル10……封印!!」

【Sealing】

 ドウッ!!という音と共に放たれた桜色の奔流が街の上空をジュエルシード目掛けて伸びていく。そして命中。
 力の源を失った根っこは解けるように消えていき、残されたのは被害を受けた住宅地のみになった。

【Receipt NumberX.……Mode Release】

「……ありがとう、レイジングハート」

【Good Bye】








 その夜。
 私はあの後した決意を2人に伝える事にした。

「あの……ユーノ君、キーラ君」
「ん?」
「どうかした?なのは」
「あのね、私……もっと魔法を上手に使えるようになりたい。今まではユーノ君のお手伝いで魔導師をやってたけど、これからは自分の意志でジュエルシード探しをしたいの」
「なのは……」
「…………」

 ユーノ君は驚いたように目を見開き、キーラ君は逆に静かに目を瞑っていた。そして、しばらくしてその目を開くと言った。

「……なのは。1つだけ、言わせて欲しい」
「うん」
「なのはの魔法の才能は凄まじい。それは確かな事だ。だけど、これから魔法を学んで、いずれは次元世界の中でも高位の魔導師になるだろう」

 キーラ君のその言葉に、ユーノ君が驚いたように固まる。
 次元世界、というのは確かユーノ君やキーラ君の住んでいる、この世界とは違う異世界のこと。

「力を持つものは相応の覚悟がなければその立場に耐えられない。力があっても、重圧に負けてしまえば、それを利用する者たちの良いように飼い殺されるだけだ」

 綺麗な、赤い瞳が私の目を射抜く。その瞳が覚悟を決めろ、と暗に語る。
 私は……

「私は、自分の意思で魔法を使うよ。大切なものを守る為に、誰かを助ける為に」
「そうか」

 キーラ君はまた目を瞑るとふぅ、と息を吐いた。

「分かった。俺も協力しよう。明日の朝から始めるぞ」

 そう言ってキーラ君は机の下の寝床に姿を消してしまう。

「ありがとう……」

 キーラ君が色々と考えてくれて、心配してくれているんだと思うと、なんだかとても嬉しくて。

「……僕も出来る限り協力するよ。キーラほど、教えられることは少ないと思うけど……じゃあ、僕も寝るね」
「うん、ありがとうユーノ君。おやすみ」

 応援してくれるユーノ君の存在が頼もしくて。
 いつになく、スッキリとした気持ちで眠りについた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧