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平成ライダーの世界

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第二十六章

 ここで重要なのは紅は彼だけでそれができたのではありません。前述させてもらったように多くの出会いがあってこそです。そしてその出会いの中で最も大きなものはやはり父との出会いでしょう。
 紅音矢、彼は実に井上敏樹的キャラクターです。非常に自信家であり飄々としたものを装いそれでいて中に何かを持っています。演技的性格と呼ぶのでしょう。彼は軽薄で気まぐれな自称天才を装っていました。しかしその中にはです。燃えるべきもの、本当のものを探して求めていました。
 そうして彷徨ううちに麻生ゆりと出会います。そして嶋護、木戸明といった素晴しき青空の会の面々、次狼、ラモン、力といったファンガイアとは別の種族の者達とも知り合っていきます。そのうえで素晴しき青空の会に入り仮面ライダーイクサとなります。そして次狼達とは何度か戦ううちに互いを知っていきます。
 彼の行動はそのまま後の紅達に影響していきます。言うならば彼が伏線を張り紅達がそれを回収していく、そしてそこから運命や因果がわかっていきそれが解放されていきます。音也の行動はそうした意味でキバという作品を作り上げていっていました。
 彼の出会いはまさにその全てが運命のものであります。その中でも特に過去のクイーンと出会ったことは大きなものでした。
 言うまでもなくこの出会いから紅が生まれそして多くの出来事が起こりました。人間とファンガイアのハーフである紅は何が出来るのか、そして彼は人間なのか、平成ライダーの重要なテーマである何ができるのか、そして人間とは何なのかという問題は音也が我が子に置いていったものだったのです。
 彼は次第に戦いの核心に向かい遂にはキングと戦います。そこでイクサだけでなくダークキバの力を、それを通常の人間が受ければ死に至るとわかっていながらも受けてキングとの戦いに赴き遂には倒れます。その中で我が子と出会えたのは幸せだったと言うべきでしょうか。
 キバはこの父子が主人公でありますがもう一人主人公と呼ぶべき人物がいます。前述の名護がそうです。 
 彼は本来紅のライバルとして存在し動くべきキャラクターだったのでしょう。素晴しき青空の会に所属していますがこの組織もおそらくは作品中においてはこれまでの警察やゼクトの様な第三勢力や敵になる筈だったのでしょう。しかしそれが大きく変わりました。
 名護は当初非常に独善的な人物でした。自分を絶対に正しいと言いその信念に基づいて行動を取っていました。それはまさに全体主義者の如きでした。おそらくナチスやソ連もああした感じだったのでしょう。
 そのままいけば彼は間違いなく道を違え悲惨な末路を辿りました。井上敏樹の作品世界、ひいては平成ライダーの世界の法則として道を違えればやがては悲惨な末路を迎えるというものがあります。彼もまたそこに陥り死んでいたでしょう。実際にストーリーの中盤までの彼、そして素晴しき青空の会はそうなろうとしていました。
 ところが彼は中盤に縁なって過去の世界に行くことになりました。これが大きな運命の分かれ道でした。
 過去の世界で音也と会い彼に遊びの大切さを話されます。そして過去のクイーン、即ち紅の母と会い僅かな間ですが恋を感じました。そして彼女がファンガイアであることも知りました。彼が遊びを知ったこと、そして恋も知りファンガイアの一面を知ったことは彼にとって非常に重要であったと共にキバの作品世界に重要な影響を及ぼしました。
 彼はファンガイアとは何かということを理解しだしその心の中に余裕が生まれました。その結果紅を認めるようになり彼がファンガイアとのハーフであり、またキバであることを知っても受け入れるようになりました。ここで紅と名護、即ちキバとイクサは共闘する存在となりました。この結果素晴しき青空の会は戦士である名護がキバと共闘するという現実から変質していくようにもなりました。
 彼は途中負傷によりイクサに変身しなくもなりましたが結果としてそれは彼の更なる成長へのステップアップでありまた新たな、そしてこの時代でのファンガイアとの決戦の休息にもなりました。イクサは名護が変身するべくして存在しているものであるということもはっきりとするようになりました。彼は心身共にイクサ、仮面ライダーに相応しい人間となっていったのです。彼は第三の主人公とも言うべき非常に重要な存在になりキバの作品のカラーを印象付けるキャラクターにもなりました。それは彼の人間的な成長があってのことだったのです。
 彼が死なずに済んだことはそのままビショップとの決戦とエンディングにもつながります。ビショップとの戦いでは目が見えなくなろうとしながらも麻生めぐみの協力を得て勝利を収めました。最後は視力が回復していますがこれも名護が人間的に成長していなければめぐみを受け入れなかったでしょう。そして最後のそのめぐみとの結婚式も。キバという作品において彼の存在は本当に大きなものです。
 四人目は仮面ライダーサガこと登太牙です。彼は最後にダークキバにもなりますがそれも合わせて考察させて頂きたいと思います。
 彼は紅の幼い頃の親友でした。友人ができなかった紅の数少ない友人として物語に姿を現します。それと共に非常に謎めいた存在でした。
 彼は次第にファンガイアの王であるということが明らかになっていきます。それと共に仮面ライダーサガであることもです。紅と兄弟であることもわかってきますが二人の関係は井上敏樹脚本によくある憎悪を剥き出しにした全面対決には中々なりませんでした。何処か互いにそれを避けようとしていたところがありました。彼はそれと共に素晴しき青空の会のリーダーである嶋護との関係が意識されていました。 
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