真田十勇士
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巻ノ五十七 前田利家その十二
彼は麦飯を食いつつだ、共に食う秀長達に言った。
「楽しくやるぞ」
「小田原攻めをですか」
「そうされますか」
「うむ」
実にという言葉だった。
「どうせ攻めるのならじゃ」
「楽しくですか」
「そうされますか」
「そうじゃ」
こう石田と大谷にも答える。
「思いきってな」
「では兄上」
秀長が彼に問うた。
「やはり」
「うむ、御主に話した通りにな」
「あの様にされますか」
「ははは、そうしてじゃ」
まさにと言うのだった。
「北条家の者達も天下の者達もな」
「驚かせるのですか」
「これがわしのやり方だとな」
口を大きく開いて笑っての言葉だった。
「天下に見せてやるわ」
「そうされますか」
「そしてそれはな」
「奥羽のですな」
「伊達政宗も観る」
この者もというのだ。
「むしろ観せてやるのじゃ」
「そしてですな」
「戦わずしてじゃ」
政宗、彼をというのだ。
「降らせる、そしてな」
「天下もですな」
「ここで一つにする」
「では小田原城は」
「よいか、力攻めはせぬ」
秀吉は笑顔で言い切った。
「そうはせぬ」
「しかし攻めますな」
「攻めるのは鉄砲や槍ばかりではない」
「他の攻め方もありますな」
「この度はそちらを使ってじゃ」
そのうえでというのだ。
「やってやるか」
「ですか、それでは」
「さて、北条の者達がどういった顔をするか」
まさにという言葉だった。
「今から楽しみじゃ」
「兄上はいつもそうですな」
秀長はここではやれやれといった顔で兄に言った。
「戦でも楽しまれますな」
「ははは、特に城攻めでな」
「はい、悪い癖です」
「またそう言うか」
「戦は真剣にやるものなので」
「わしはそこに楽しみも求めたいのじゃ」
秀長が言う悪癖をだ、秀吉は笑ってこう言った。
「そうしたいのじゃ」
「左様ですか」
「うむ、そのうえで出来るだけ死ぬ者が少なくな」
「勝つのですな」
「それが一番よいであろう」
「確かに勝ち死ぬ者が少ないとです」
「それに越したことはないな」
「兵糧攻め、水攻めにしても」
「ああした方が死ぬ者は少なかった」
鳥取城での兵糧攻め、そして高松城での水攻めでもというのだ。かつて秀吉が毛利家との戦でした城攻めだ。
「だからな」
「三木城の時から」
「そうもしてじゃ」
「出来るだけ死ぬ者がないようにして」
「攻めているのじゃ」
「そして小田原城も」
「うむ」
一言での返事だった。
「そうするぞ」
「左様ですか」
「あれだけの城、下手に攻めてはな」
それこそというのだ。
「多くの者が死ぬ」
「敵も味方も」
「攻め落とせてもな」
例えだ、そうなってもというのだ。
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