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真田十勇士

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巻ノ五十七 前田利家その十一

「何かあるぞ」
「あの方は凄い方ですな」
「とかく思いも寄らぬことをされます」
「特に城攻めに」
「あの方の頭は切れる」
 実に、という言葉だった。
「だからな」
「それで、ですな」
「こうした時もですな」
「その知恵を使われ」
「小田原城を攻められますか」
「あの方が何を考えておられるのか全てはわからぬ」
 家康にしてもというのだ。
「しかし決して陥ちぬ城はないしじゃ」
「小田原城も然り」
「そういうことですな」
「うむ、そうした城は有り得ぬ」
 決してとだ、家康はまた言った。
「異朝の話じゃが宋の開封は知っておるか」
「確か宋の最初の都でしたな」
「後で金に攻められ南に移りましたが」
「大層栄えていたとか」
「この世にある街では最も」
「開封は三重の城壁と広い堀に守られていてな」
 異朝の城だ、この国の城の殆どとは違い街を囲む城なのだ。その為街と城が同じ意味で使われることも多い。
「十一万の兵が守っておった」
「それだけの守りがあれば」
「陥ちぬのでは」
「小田原よりもです」
「攻め落としにくい筈ですが」
「しかし攻め落とされた」 
 そうなったとだ、家康は家臣達に話した。
「金にな」
「では、ですか」
「小田原城もですか」
「攻め落とされる」
「そうなりますか」
「うむ」
 まさにという返事だった。
「あの時宋は戦う気概も何もなくてそうなった」
「では人ですか」
「城を守るのは人」
「その人次第で、ですな」
「攻め落とされますか」
「そうなる、だからな」 
 それ故にというのだ。
「小田原もな」
「関白様もそれはわかっておられますな」
「城を守るのは人」
「そうであることを」
「むしろ誰よりも人をわかっておられる」
 それが秀吉だというのだ。
「あの方が何故天下一の人たらしと呼ばれるか」
「人をよくご存知だからこそ」
「誰よりもですな」
「だからこそ人の心を己に向けられる」
「そうなのですな」
「そうじゃ、天下無双の人たらしはな」
 まさにというのだ。
「天下で最も人を知っているということなのじゃ」
「では、ですな」
「小田原を守るその人を攻める」
「それも出来ますか」
「そうしたことも考えるとな」
 実にと言う家康だった。
「北条家は負ける」
「その小田原城を攻め落とされ」
「そのうえで」
「間違いなくそうなる、具体的な攻め落とし方はわからぬがな」
 それでもと言うのだった、そしてだった。
 家康は己の家臣達にだ、今度はこう言った。
「ではそろそろ昼じゃな」
「はい、それではですな」
「これより飯にしますか」
「そうしますか」
「うむ、飯を炊いてじゃ」
 そしてというのだ。
「食うとしようぞ」
「ではこれよりです」
「飯を炊かせますので」
「暫しお待ち下さい」
「そうさせてもらおう」
 こう言ってだ、家康は飯も食うのだった。同じ時に秀吉も彼の陣中で秀長達と共に飯を食っていた。その時に。 
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