【短編集】現実だってファンタジー
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Killingirl Night 2 [R-15]
人を呪わば穴二つ。ボウリング球は穴三つ。シャツのボタンは穴四つ。
穴の数はどうでもいいけど、数っていうのはとびきり大事。根拠がなくてもとっても大事。なぜならそこはオンナノコ、記念の数字にコダワリありだ。私も咲かせたお花の数は、忘れず日記につけている。日が経つごとに増える「正」の字を流し見するのが達成感。
これまでコツコツと宵闇に紛れ積み上げた、それが私のゲージュツの歴史。誰にも文句は言わせない、それが私の生きる道。なーんて言ったらかっこつけ、ホントはただただ好きなだけ。真っ赤できれいな彼岸花を裂いて咲かせて花咲乙女、好きなことには人はとことんコダワルの。
今日、目の前で華を咲かせた女子高生が、なんと99人目。次の一人をアチラに送ると記念すべき三ケタの大台にダイブイン。殺しの人数を数えるのは殺し屋としては二流らしいけど、私はそもそも殺し屋じゃないし、殺したいんじゃなくて咲かせたいだけだし、だったら数えて無問題。忘れちゃ逆にシツレーだ。
今日のこの子はちょっぴり奥手でそこがキュートな女の子だった。眼鏡で本好き本屋さん、本を求めて夜更かししてた。でもね話を聞いてると、最近失恋しちゃったんだって。だからオイシイお店でオシャレなごはんを食べながら、二人で沢山お喋りしたの。
担任教師がスケベとか、同級生がおバカさんとか、サッカー部の男子が次の恋の相手とか。これってとっても青春だよね。私この子とおんなじ学校にいればもっと早く友達になれたよね。そういってスマイルすると、女の子も嬉しそうにハニカんだ。
楽しいなぁ。
嬉しいなぁ。
我慢できないなぁ。
ちょっと勿体ないけれど、心の方は正直に彼女をコヨイの「気になる人」に選んでた。だから「また遊ぼうね」って笑うあの子を近道ついでに路地裏へ、キケンな香りの影の中へと誘ったの。あとはもうホラ分かるでしょ?シリアルキラーのお約束、裂かせて魅せよう彼岸花!
いつも曇り一つなく磨き上げた愛用のナイフちゃんは吸いつくように手に収まって、ジャンプもせずにバックアタック。カレーにミゴトにラピッドリィに、女の子の首を駆け抜けた。スパンとハマったこの感触が、お喋りにも代えがたい爽快感。
行き場をなくして溢れ出てる、心臓に押された命の源の彼岸花。
あえて今回即死は狙わず小ぶりなお花で済ませたの。
恐怖に引きつった女の子の喉から、ナンデドウシテトモダチデショ?と綺麗な囁きが耳をくすぐり、私はソウダヨと笑顔で返す。友達だからキレイなソレを聞きたくて、内心アタリとガッツポーズ。この子は絶対泣いたらキレイと思ってた。
こんなに綺麗な叫び声は狙って調べて選りすぐっても鳴かせてみないとワカラナイ。答え合わせは大正解、今日の回答は100点満点花丸ちゃん。一つの命に一度だけ、末期のサケビはビューティフル。
楽しかったし嬉しかったけど、私はそれじゃあ足りないの。町から漏れる微かな光に照らされ散らされ彼岸花。宙を流れる鮮やかな赤と、彼女の喉から漏れる布を裂くような美声が私のココロをゾクゾクさせる。
今日は当たりだ、サイコーだ。ルンルン気分で刃を返し、キレイな首にもう一輪。
音もなく脈を裂かれて右と左の彼岸花。二つセットでとってもオトク、今なら悲鳴のサービス付きだ。でもでもキレイは長続きしない、一つの命は一瞬で、旬が過ぎたら終わっちゃう。その一瞬を見て聞いて、全身で感じて楽しんだのなら、今日はここまで店じまい。
「貴方とってもキレイだったよ?アリガト、本屋ちゃん♪」
――影を飲み込む夜の街、人を飲み込む夜の影。
――罪も罰も理不尽も、ここは平等に沈みゆく。
――路地裏に転がる芸術は、やがて本来の意味を失い唯の骸となり果てる。
――骸は『表』には見つからない。何故ならそこは、表から裏への分水嶺を少し過ぎた場所だから。
――ただのチンピラに見つかれば、金目の物や本を奪われるだけ。
――詐欺師に見つかれば、持ち物から人物を特定されて家族をカモに金を取るだけ。
――散髪屋に見つかれば、金になる髪はすべて狩り取られるだけ。
――医者に見つかれば、「好事家」に高く売れると持ち去られるだけ。
――残った赤黒い血痕だけが、少女が世界に残す最後の痕跡。
――そう、それだけ。これはそれだけの話。
今日は返り血0パーセント、満足度は100パーセント。華と美声は測定不能のプライスレス。
カンペキな作業にホレボレしながら、今日も私は帰路に就く。
楽しいな。楽しいな。明日は誰を、殺そうか。
明日は誰を、咲かそうか。毎日毎日幸せだ♪
= =
「――毎日幸せそうよねー、ククリはさ」
「えっ、そーお?」
昨今ストレス社会だ何だと言われる面倒ごとの多い社会の中で、この友達はいついかなる時も元気いっぱいである。少なくとも友人の美丘未沙香は霧埼久々理のことをそういった人間だと考えている。
いつもノンキであっけらかんとしていて、決して頭が良い訳でもない筈なのにテストの成績はいつも高い。日常ではノンキなのに試験などになると突然能力を発揮する。未沙香にとっても周囲にとっても、久々理はズルい存在だった。
顔は結構可愛いし、足が長くてすらっとした体系はちょっとした女性誌のモデルになれそうだ。運動神経も抜群で愛嬌もあって、なによりノンキ過ぎて憎めない。天然キャラを気取ってるなんて言われることもあるけれど、少なくともクラスの大多数にとって久々理は親しみやすい類の存在だった。
「アンタさぁ、ヤな事とか日常でない訳?あたしなんか朝は母さんにはよ起きろってどやされて父さんには勉強してるのかって疑いの目で見られ、挙句登校中にワコちゃんから『貸してた小説返せ』って催促されるし………」
「全部みーちゃんが原因じゃん。っていうかあたしの小説を事実上借りパクしてるっていう意味だとあたしの方がストレス溜まってんだけど?」
横からワコちゃんこと麻倉若湖の冷たい視線が突き刺さる。彼女とは久々理より更に前からの友達だが、自分に比べて几帳面な若湖はこういう時には口うるさい。そして最終的にはヘッドロックかけてきながら「怒ってないから返してね?」って笑顔で問いかけてくるのがパターンだ。
そこまでされるくらいならとっとと返せよと思うかもしれないが、また読み終わってないのである。1日5ページで眠くなるのが主な原因であり、こちらに非はない。
「まぁそれは置いといて」
「こらー置いておくなー!」
「実際のトコロ、どうなのよアンタ。そのシミとニキビ一つないつるつるお肌の秘訣はストレスと密接に関係しているとミサカ研究所は睨んでるんだけど、なんか日常に不満とかない訳?」
「不満………あるケド」
「どんなよ?」
「昨日の晩御飯ね、お肉の量が少なかったの!それで代わりに何が多かったと思う!?ブロッコリーだよブロッコリー!!オンヤサイだかムシヤサイだか知らないけどあんな味気も歯ごたえもないモノを食卓にこれでもかと盛られた時のこの私の行き場のない悲しみが………」
「ワコちゃん、こいつ悩みないタイプだわ」
「うん、少なくともみーちゃんの抱えているようなイライラはないっぽいね」
「あれー!?私としては結構深刻な悩みだったんだけどー!?」
両手をわさわささせて抗議の視線を送ってくる久々理だが、そのわさわさと行き場をなくした手が何を意味しているのかが伝わらない。そして彼女の不満は明らかに料理を作った親ではなくブロッコリーという存在そのものへと向いている。野菜を憎んで人を憎まずじゃないが、他人に対する不満というものがないらしい。
そしてもう一つ、今の言葉に聞き逃せない情報があった。
「ところでアンタ、お肉ガツガツ食べるんだ?」
「え?うん食べるよ?だってオイシイし、いつも肉をオカズにお茶碗2杯くらいは食べるかな?ハンバーグとかもいいけどやっぱり一番はステーキや焼き肉だよね!歯ごたえないと食べた気がしないもん」
「ご、ごはん2杯………!!」
「ステーキと焼き肉………!!」
軽く目まいがした。隣の若湖も予想を超える食事量に唖然とし、自分のおなかを少しつつき、若干指がぷよっとめり込んだのを見て、そして二人同時に久々理のおなかに指を突き立てた。僅かな脂肪の柔らかさはあったものの、引き締まった腹筋にぶつかって指は止まった。
「あんた……運動部でもないしそんなに食べてるのにどうやってそのプロポーション維持してんのよ教えなさい今すぐにぃぃ~~~~ッ!!」
「何かからくりがある筈よ!!そんだけの量の蛋白質と穀物を摂取してんのに無駄な贅肉がないのには、私たちの知らないダイエットのからくりがある筈よ!!」
「え、ええ!?ちょっとヤダなんで二人とも人の二の腕やおなかを揉むの!?ちょっとくすぐったいっていうか恥ずかし……うひゃあっ!?や、やめてぇぇ~~~!!」
どこにでもありそうな、3人の女子高生がじゃれ合う微笑ましい光景。
しかし、二人の少女が暴こうとしている秘密は、この日常を崩壊させるパンドラの箱。暴かれればいつか、どこかで、何かのきっかけで――霧埼久々理の刃は二人の首を真っ赤に染めるだろう。
その未来に恐怖や不安を覚えないのが久々理であり、それもまた楽しいと思うのも久々理。友情だと思っているその関係がどれだけアンバランスな生活の下で成り立っているのかを、二人は知らない。知ることもないだろうし、知ったときにはこの世にいないだろう。
(ホントの悩みは記念すべき100人目を誰にするかってことだったんだけど………暴露しちゃったらもし開花す事になった時の楽しみが減ってツマんないから言ーわないっ♪)
久々理はこの世の全てを楽しんでいる。
楽しんでいるからこそ、彼女は『その時』になっても躊躇わないだろう。
彼女にとってはそう、どちらであっても関係のない事なのだから。
後書き
ちょっぴりククリちゃんの日常を明かすだけのお話。
書くの難しいけど好きです、この子。
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