とある科学の捻くれ者
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12話
「あなたは...?」
神裂火織は困惑する、当然だ。
ここには人払いのルーンが貼ってあって、一般人は近づけないようになっている。
みたところこの猫背の男は魔術師には見えないのだが...。
いや、だがしかしその人払いのルーンも万能ではない。勘の鋭いものなら、普通に破れるような結界だ。
だから、目の前の男が現れてもなんら不思議ではない。
「俺は魔術師ではない。ただの治安維持組織である風紀委員だ。」
ーーーーなぜ、科学サイドの人間が魔術をしっている?
「なぁ?必要悪の協会の神裂火織さん?」
瞬間、神裂火織の警戒レベルが跳ね上がった。この男は魔術師ではないといった。
その通りだ、自分にも魔術側には見えない。
だが、匂いでわかる。自分と同じ側の人間だという事が。
「あなたは...一体....」
「いや、俺は通りすがりの一般人Aでいい。所詮そんぐらいの役柄でしかない小物だ。いや、もしかするとそんな役柄にもなりえないかもな。」
自嘲するようにそう言う少年に神裂はますます疑問符を浮かべる。
「自虐もお前みたいなやつにはあんまし理解されないのな」
はぁ、と溜息を吐きポケットから手を出す。
「何お前らの言葉で言う慈悲をくれてやりに来たんだ。」
「慈悲...だと?」
琴線に触れる言い方をしてくれる...神裂はそう思った。
「禁書目録って実はお前らに使い潰されてるだけって知ってたか?」
神裂の中で何かが切れる音がした。
我を忘れたように、それでも確固たる意志を持ち、蹴り上げた地面が抉れるほどの速度で肉薄する。
そして、刀を抜こうとした瞬間異変に気付いた。
刀がないのだ。それになぜ
ーーーーなぜ自分は空を見ているのか。
ドシャア という音とともに神裂は地に倒れ伏した。
(な....何が!?)
まさに理解不能というのはこのことだろう。
神裂火織は聖人である。
魔術側にとってはこの名前だけでどれほど効力を示すかは十分に判る。
それほどまでに、聖人は別格なのだ。
魔術の核兵器とも言われる神によって選ばれた20人。
その中の一人である自分が、相手の攻撃に全く気付かず、宙を舞って地面に倒れるなんてことが、今まで未経験だったからである。
「さて、話をしようか。神裂火織。禁書目録を救いたくはないか?」
突拍子もなく告げられたその言葉に神裂は一瞬固まった。
救う......だと?自分たちが散々手を尽くして出来なかったことだ。今更何を......
「あなたは、何を、言っているのです?」
「いや、何。10万3000冊の魔道書により記憶の領域が足りないがために、一年周期で記憶を消す。というその行為自体をやめたくはないか?ということだ。」
(なぜ、そんなことまで)
神裂は驚愕を露にしていた。魔術側でもない人間が禁書目録を知っていただけでなく、あまつさえこちら側の事情まで把握しているのだ。これで警戒するなというほうが無理だ。
「そもそも、脳が記憶のしすぎで使い潰されることはまずない。」
「なっ!?」
突如として告げられた爆弾発言に神裂は絶句する。
「まず、魔術側で作られた生物兵器とかなら知らんが、人間は140年分の記憶領域がある。それに、一年で15%も脳の領域を使うのなら、他の完全記憶能力の保有者も7年しか生きられないことになるぞ。」
目を見開く。だが、神裂がそれを信じるということはない。
最初は驚きはしたがこの少年はきな臭い科学側の人間だ。
しかも出会ってまだ数分の少年の言葉を鵜呑みにするほど神裂は純真無垢ではない。神裂は八幡を睨む。
「そんなことが信じられるとでも?」
対して、八幡も睨み返す。より冷徹に、より寒気を感じさせるように。
「信じる信じないはお前の自由だ。だが、ここで聞き逃すなよ?お前らが唯一掴んだ希望になるのかもしれないからな。だが、ここで信じなければ、結局何も始まらない。また自分にしょうがないと言い訳をして禁書目録の記憶を消すことになるだけだ。」
「貴様...」
ギリィと神裂は歯ぎしりをする。
そんな神裂を流し見て、八幡は上条を担いだ。
「じゃあな。優しい優しい聖女様」
そうして、比企谷八幡は闇の彼方へ消えた。
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