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酒と雪女

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第六章

「溶けてもいいんです」
「だからあんた溶けたらな」
 喜多は止める声でだ、雪女に言った。
「死ぬだろ」
「お水になってですね」
「そうなるだろ」
「そういえば風呂に入った雪女いたな」
 喜一郎は子供の頃読んだ童話を思い出した。
「その雪女溶けて消えたな」
「その童話俺も読んだよ」
 喜多は兄に顔を向けて応えた。
「それで死んだよな」
「ああ、そうだよな」
「それならか」
「この人もだよ」
「溶けて死ぬよな」
「このままだな」
「ああ、その雪女ですけれど」
 やはり飲みつつ言う雪女だった、顔の上半分が既にアイスクリームの様に溶けてきてどろどろになっている。
「私です」
「えっ、あんただったのか」
「その雪女あんただったのか」
「じゃあ溶けてもか」
「死なないのか」
「はい、溶けてもです」
 今の様にというのだ。
「冷えたらまた戻りますから」
「そうだったのか」
「あの童話の雪女あんたでか」
「あの話では溶けて死んだと思っていたら」
「生きていたんだな」
「元に戻って」
「そうです、溶けてもです」
 それでもというのだ。
「冷えたら戻りますので」
「酒を飲んで熱くなってもか」
「また戻るからか」
「いいんだな」
「そうなんだな」
「そうです、安心して下さいね」
 溶けつつにこにことさえしている。
「私は平気ですから」
「それでまだ飲むか」
「どんどん溶けていってても」
「暖房も効いてるしな」
「それでも飲むんだな」
「そうです、では溶けるまで飲ませて下さいね」
 こう言って実際にだった、雪女は酒を飲み続けてだった。暖房の効いた部屋の中の雪そのままにだった。
 溶けてだった、完全に水になった。兄弟はその水を見て言った。
「溶けたな」
「完全にな」
「これで死んだと思っていたらな」
「違うんだな」
「生きてるか」
「そうなんだな」
「はい」
 その水から返事がした。
「冷えたら戻りますので」
「ああ、喋ったな」
「水のままでもな」
「それじゃあか」
「また元に戻るんだな」
「その時まで待っていて下さいね」
 実に落ち着き払った声だった。 
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