酒と雪女
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第五章
「ここは」
「ああ、まあ殺さないんならな」
「お酒は一杯あるしな」
「買い置きがな」
「それじゃあな」
「飲んだ分はお支払します」
五千円札を出してだ、雪女は二人にこうも言った。
「どうぞ。お金は困っていませんし」
「あんた金持ちかよ」
「そうだったのか」
「氷や雪を自由に作られるのでスキー場とも契約してまして」
それでというのだ。
「お金はあります」
「そうか、じゃあな」
「まあお金までとは思ってなかったけれどな」
「それじゃあな」
「くれるっていうのならな」
それならとだ、二人もお金を貰うことにしてだ。
あらためてだ、雪女にそれぞれの顔を向けて言った。
「じゃあ一緒に飲もうな」
「そうしような」
「はい、それでは」
二人も応えてだ、こうしてだった。
兄弟は雪女と共に飲むことにした、三人でコタツに座ってだ。
飲みはじめた、すると雪女は。
次から次に飲んでいく、喜一郎はその雪女に驚いた顔で言った。
「あんた飲むな」
「はい、好きでして」
「いや、好きっていってもな」
「ザルだな」
喜多も言う。
「殆ど」
「はい、幾らでもです」
「飲めるんだな」
「もう一升瓶二本は」
「二本か」
「それ位はいけます」
「そうか、それはまた凄いな」
「じゃあ遠慮はいらないからな」
喜一郎は雪女の話を聞いてこうも言った。
「どんどん飲んでくれよ」
「そうしていいですか」
「ああ、飲んでくれよ」
「それでは」
雪女も応えてだ、そしてだった。
酒をどんどん飲んでいった、すると。
次第にだ、その白い顔が赤らんできてだった。
徐々に、だが確実にだった。
雪女は溶けてきた、喜多はその彼女を見て言った。
「おい、あんた」
「はい、身体がですよね」
「自分でわかってるんだな」
「溶けていってますね」
「暑いからか」
暖房の入っている部屋でだ、しかもコタツに入っている。喜多はこのことから言った。
「ここは」
「まあそれもあります」
「雪女だからな」
「どうしても暑さにはです」
「そうだな、じゃあ兄貴」
「ああ、そうだな」
喜一郎も弟の言葉に頷く。
「暖房切るか」
「コタツもな」
「このままじゃ溶けてくるしな」
「そうしような」
「それとです」
雪女からも言ってきた、溶けようとしている彼女から。
「お酒を飲んでいますと」
「ああ、酒飲むとな」
「身体が熱くなるからな」
二人もこのことはわかった。
「アルコール身体を温めるからな」
「そのこともあってか」
「溶けてるんだな」
「雪女だから」
「はい、そうです」
飲みつつ溶けながらだ、雪女も言う。
「この通り」
「いや、この通りじゃないだろ」
「それ普通にやばいだろ」
二人は平然としている雪女に眉を顰めさせて言い返した。
「あんた溶けてるんだぞ」
「現在進行形でな」
「それでどうしてそんなに冷静なんだ」
「まだ飲んでるしな」
「いえ、お酒好きですから」
身体の中から溶けているがというのだ。
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