Fate/kaleid night order
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第8話:万華鏡の少女たちとの出会い、そして〜
(イリヤ・・・なのか?)
突然のことであたまが上手く回らない。どうするべきかと悩んでいた時だった。
「あっ、美遊⁉︎」
黒髪の少女が泣きながら俺に抱きついてくる。そして特大の爆弾を投下してくれました。
「お兄ちゃんっ・・・!」
「えっ・・・」
「ハアアアアアアアッ⁉︎」
「どういうことですか先輩⁉︎」
近くで遠坂の雄叫びとマシュの少し怒りに満ちた声が響き渡ったのだった・・・
(どうなるんだ、これ?)
その時だった。
ズキッ
(うっ、何だコレ?)
頭の中に様々な不思議な光景が浮かび、駆け巡る。
まず浮かんできたのはーーー
(これは・・・この娘の記憶か?)
私と彼、衛宮士郎は昔兄妹だった。もちろん、それはこの世界での話ではなく、別の世界で。
私の生まれである朔月家は特別な家系で、人の願いを叶える力を持っているという。それは私も例外ではなく、その力を狙う勢力に追われ、私以外の朔月家の人は殺されてしまった。
ある時言われたことがある。
『生まれたことが罪』
否定できなかった。朔月の家なんかに産まれなければ、望んでもないのに与えられた力もなく、家族に囲まれて、恋人を作って、幸せな日常が送れたかもしれない。ある時それに気づいた時、私は生きることを諦めてしまった。
だけど、そんな時に彼が、衛宮士郎が現れた。
彼は私に全てを教えてくれた。料理、掃除、洗濯、遊ぶこと、憎悪が伴わない怒り、嬉し涙、笑顔。全てを捨てた私が、今こうしていられるのは彼にもう一度与えられたから。彼が、お兄ちゃんがいなければ、私はとっくの昔に果てていたと思う。
お兄ちゃんが来てからの生活は劇変した。世界に色がついたように、毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
でも、そんな日々は長くは続かなかった。
7歳の誕生日の日、私はエインズワースという魔術師の家に誘拐されてしまった。
今までの私なら、仕方がない、これが運命だと諦めてしまっていたと思う。けれど、お兄ちゃんに出会えって、私はもうそれが運命だといって流されるだけの、逃げてるだけの子供から成長したのだろう。初めて、この暗闇を断ち切りたいと思えた。
私はできる限りの抵抗は続けた。心の中でお兄ちゃんを待ち続けた。彼ならきっと助けにきてくれると、だから自分もただ待つのではなく、やれるだけの抵抗をしようと。
そして、本当にお兄ちゃんは来た、来てしまった。お兄ちゃんはエインズワースの化け物みたいな魔術師を倒して、牢獄にいた私を迎えに来てくれた。私はその時、初めて自分の愚かさを知った。
お兄ちゃんの体はボロボロだった。髪はいくつか白髪になり、左腕は切断された後に移植したのか私の頭を撫でてくれたそれとは別の物になっていた。そして片手で持っているのはエインズワースが私の力を使うために作成したサーヴァントのクラスを示す絵が描かれた7枚のカード。
きっとお兄ちゃんは、私のために沢山無茶をして、傷ついて、それでも会いに来てくれたのだろう。
私はお兄ちゃんが迎えにきてくれて嬉しかったが、同時に気づいてしまった。誰かを救うには誰かを犠牲にしなければならない。私が助かるのなら、お兄ちゃんは犠牲になるのだろう。それがたまらなく嫌だった。どうして世界はこんなにも残酷なのだろう。やっと見つけた幸せも、他の誰でもない私自身のせいで失ってしまうのかと。
私はお兄ちゃんの前で泣いた。何度もごめんなさいと謝った。
お兄ちゃんは、私をそっと抱きしめると、頭を撫でてくれた。そうしてこう呟いた。
『俺はお兄ちゃんだからな。妹を守るのは当たり前だろ?』
それは・・・・・・かつて大切な家族を、姉を守れなかった今の俺にとってその言葉は、酷く俺の胸を穿つ。その言葉に、俺は頷く。そうだ。当たり前だよ。家族を、妹を守るのは、兄として当然。例えどんな奴が相手でも、どんなに危険でも、どんなことをしてでも、どんな犠牲を払ってでも、お兄ちゃんは家族を、妹を守らなければならないんだ。
俺の姉、イリヤ。血は繋がってないがそんな事は関係ない。俺は胸を張ってそう言える。これは夢だ。そんな事は分かっている。だけど、俺は妹を守ろうとして守れなかった。ならば俺は・・・・・
そして、そこから今度はこの世界の俺の視点での記憶と思しきものに切り替わる。
『どうすればよかったのか、ずっと考えた。間違い続けた俺だからこの選択も、もしかしたら間違いなのかもしれない。だけど、この願いは本物だから。』
『美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように。優しい人達に出会って・・・・・・笑い合える友達を作って・・・・・・あたたかでささやかな幸せを掴めますように・・・』
『嫌だ!』
『もっとお兄ちゃんといっぱい遊びたい!いっぱい教えて欲しい!もっともっとおしゃべりして、ずっと一緒にいたい!!』
恐らく、これがこの娘の偽らざる本音だろう。こんな状況だからこそ必死に伝えようとしてるのも理解できた。けれど、やはり、だからなのか、この世界の俺はーーー
『美遊、愛してる。』
『私だって!私だってお兄ちゃんを愛してる!!だから!』
『いいか美遊、よく聞け。これからお前の行くところに俺は行けない。だけどな美遊、俺はいつでも、どんな場所でもお前の味方だ。こんなボロボロになってまでお前を助けにきたんだ、説得力が違うだろ?』
『生きろ、美遊。俺は、ずっとお前を愛してる。』
『お兄ちゃん!!』
泣き叫ぶこの娘、美遊の手を握って、祈るように呟く。ただ静かに、それだけを願うように呟く。その姿は正義の味方? 違う。ただのお兄ちゃんだ。だけど、だからこそ誰よりも優しい願いだと言える。
『悪いが付き合ってもらうぞ。俺の剣が尽きるまで・・・!』
その後、時間稼ぎのためにギルガメッシュによく似た姿をした女性との戦いで、自身の固有結界を展開する俺。
たった一人の妹の人並みの幸せの為に全てを犠牲にする決断をして、俺と同じ、自分が生きていることを何かの間違いという考えの果てに至ったその場所は、俺が至った見渡す限りの赤い空が照らす「無限の荒野」ではなく、無数の剣が墓標のように突立つ、闇に閉ざされて月も星も道も見えない「無明の雪原」だった。
俺がギルガメッシュに対して固有結界を披露した時のようなシチュエーションだが、自分自身を「間違い」と断じたからか、出てくるのは誇りある言葉ではなく美遊以外のすべてを閉ざすような言葉。この俺の決意からしたら当然の筈なのに、なんという夢も希望もない世界だ。並行世界の俺とはいえ、どうしても悲痛に映る。
そしてまた、記憶が美遊のものに切り替わる。
あれがお兄ちゃんとのあの時点での最後の会話。あの直後、私は世界を飛ばされ、夜の公園でカレイドステッキに出会った。
飛ばされた先の世界でお兄ちゃんを、いや、士郎さんに会えた時は思わず抱きついてしまった。その後すぐに、私のお兄ちゃんとは違う、この世界のイリヤのお兄さん、衛宮士郎だと察したが、それでも嬉しかった。
また、お兄さんに会える。例え私のことを愛してると言ってくれたその人でなくとも、私は彼とまた一緒に生きれる可能性がある、それだけでわたしは充分だった。
これが、私と衛宮士郎の関係。お兄ちゃんとは別人だとしても、衛宮士郎である事に変わりはない。ならばいつか、士郎さんとまた一緒に過ごせる日を夢見て。
(なるほど、あの2人は片方がイリヤでもう1人はクロっていうのか。そして2人も美遊とは別の並行世界の出身なんだな。そして2人とも小聖杯を体内に持ってはいるが封印されており、2人のいる世界の俺と平和に暮らしてると。そっか。安心した・・・)
その後もさまざまな記憶が立て続けに流れ込み、それによって俺がイリヤ、美遊、、クロのことについて基本的なことを全て理解した時、景色が霞んで光の中に消えていく。
(ああそっか、夢から覚めるんだ。)
そう理解した時、もう一度声が聞こえた、また新しい記憶が流れこむ。
さっきまでの景色から随分と時間が経過しているということが、なぜか理解できた。
そこには、心臓を穿たれ頭から大量の血を流し倒れ伏している俺。そして、空に開いた渦に呑み込まれながら、こっちに向かって手を伸ばし何かを叫んでいるこちらもボロボロなイリヤ・美遊・クロの姿が見える。ぼんやりとしか分からないが、皆、その顔は泣いているように見えた。
『戦いは終わったのに。また、美遊の沢山の心からの笑顔を見れたのに・・・美遊も、この世界も救えたのに・・・ほんとに大事なのはこれからだってのに・・・ああ、だけど・・・・・・もう俺は側にいてあげられないんだな。それだけが本当に悔しいよ。だから最後にまた一つだけ願う。どこかの俺。俺の妹を、頼むよ、どうかこの娘にーー』
悔しそうに、だけど嬉しそうに、そう呟く。それを受け取った俺は、聞こえるか分からないけどその声に答えた。ただ一言・・・・・・
『ああ、任せろ。』ってな・・・・・・それを聞いた瞬間、知らない俺は安堵していたように見えた。
そして、記憶はそこで終わり、それと同時に、この俺の全ての戦闘経験と魔力が流れこんでくる。
(憑依経験・共感終了。)
(!・・・・・・・・・・これ、は。)
膨大な魔力 。
さっきまでの俺も、美遊の世界の俺でもここには至ってはいない。
そして以前と比べて格段に強度が上昇し本数が増加した魔術回路 。
(経験している間に、回路も鍛えられたのか)
(・・・うん。これなら『無限の剣製』をかなり長時間使用できるし、美遊の世界の俺の戦闘経験に出てきた『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』も二、三度ぐらいなら短時間で使用できる 。つまり、今までよりも戦闘面で皆の役に立てる。皆を守ることもできる!)
そして、意識を取り戻した俺は、俺に抱きついたまま周りを憚らず泣いている美遊に声をかける。
「事情は全て理解したよ、美遊。ほんとに辛かったな。そして・・・ほんとによく頑張ったな。」
そう言って抱きしめ頭を撫でてやる。
「っ・・・・・・!うええええぇぇぇん!お兄ちゃん、お兄ちゃあぁん‼︎」
それを聞いた美遊は、後悔が完全に溢れ出したかのように
より一層強く泣く。
「よしよし。でもな、美遊。俺はやっぱり美遊の笑った顔が一番好きだ。美遊が泣いてるのを見るのは俺も悲しい。だからあの笑顔をまた見せてくれないか?」
「でも、でもっ!私はっ!」
「・・・確かに美遊が笑顔になれない理由はわかる。だけどな。俺も、並行世界の俺も、傷つき苦しみ悲しむ誰かのために正義の味方を張り続けなきゃいけない。 そう誓って、進んできた。結局、そこは同じで、そうやって生きてきたうえで遭遇した出来事だ。だから並行世界の俺も自分を恨むことはしても、美遊を恨むなんてことは決してしてないと思うぞ。」
「っ・・・・・・・・・!」
その言葉に美遊が目を伏せる。 その姿に、胸が少し痛んだ。
ああなるほど。 記憶を経験したうえで尚思うが、どうやら俺とあいつは本当に、似ているようだ。 目の前で泣いているこの娘に、ここまで入れ込むのだから。まあ当然と言われれば、それまでなのだが。
「・・・・・・お前の兄貴の気持ち、少し分かるぞ」
「え?」
「美遊は何というか、守りたくなる。 囚われのお姫様とか、捨てられた子犬みたいな感じかな」
あ、一気に赤くなった。 ぼんっ、みたいな効果音までしっかり聞こえたし。 美遊はすぐに俺から距離を取るやいなや、視線を逸らして。
「・・・・・・誤魔化そうったって、ダメだからね。」
「誤魔化そうだなんて、人聞きが悪いな。 本当のことなのに」
「そうですよ〜。出会って間もないのに、それをお分かりとはやっぱり士郎さんはどの世界でも主人公してますね〜。んでもってロリコンから、節操なしに進化してましたか。これはもう妄想が捗りまくりですよ〜。」
急に俺と美遊の間に、俺たちの世界でも悪い意味で大活躍してくれた一級品魔術礼装である性格破綻ドSステッキがヒラヒラと飛び込んでくる。
「うるさいぞルビー。お前もこっちのイリヤの世界でもほんとに相変わらずだな。あと節操なしって何だ、節操なしって。」
「えー、私は事実をありのままに丁寧に述べてあげてるだけですよ〜(笑)」
「お前なあ・・・(怒)」
コイツ本気で解体してやろうかと思った時だった。
「何言ってるのルビー!お兄ちゃんはちょっとエッチなところもあるけど節操なしなんかじゃないよ!あっ、お兄ちゃんは気にしないでそのまま美遊と話してていいからね!」
「あ、ああ。」
「ひょっ!ひひふぁふぁん。ひふぁい、ひふぁいへふっへふぁ!」
イリヤがそう言ってルビーを羽をめちゃくちゃ引っ張って懲らしめてくれる。正直有難いが・・・・・・イリヤ。さっきのそれ、一部フォローになってないからな。
そして気恥ずかしさを向こうに追いやって、俺は話を再開する。
「・・・・・・別に、並行世界の俺にしてたみたいに接したって良いんだぞ? 美遊が呼びやすいように、したいようにすれば良い」
「っ、そ、それは・・・・・・っ!」
「っ!あぁもう!」
「そんな風に考え込むのは一向に構わないけど、少しは自分の気持ちに素直になれっ。 小学生は、多少ワガママ言ったって許される年頃なんだから」
美遊が押し黙る。 彼女の過去の事情を知った筈なのに、それを無視するように怒鳴ってしまったが、こういう人間はしっかり言い聞かせれば効果がある。
やがて、美遊は遠慮しているような、オドオドした声で。
「・・・・・・本当に、良いのかな。 それは、今の私に許されることなのかな・・・・・・?」
「だからワガママなんだろ? 別に嫌なら良い。 でも、そうやって遠慮して、この先ずっと溜め続けるようなことされても、そんなモノ全然嬉しくない」
「・・・・・・」
美遊は、それでも心配なのか最大の親友であるイリヤとクロの方を見る。
「・・・お兄ちゃんの言ってる通りだよ。ミユは1人じゃないんだから。私たち以外の誰かに、お兄ちゃんに頼ることは何もおかしいことなんかじゃないよ。」
「そうね。人は繋がるからこそ強くなれるとも言うしね。」
「2人とも・・・」
それによって観念したのか、俺の強引な言葉に、美遊はこちらに振り返り苦笑いだけを溢して。
「・・・・・・もう。 お兄ちゃんは、本当に、お兄ちゃんなんだから」
そう、惚れ惚れするほど幸せそうな顔で、俺に告げた。
「ん、素直でよろしい。 あ、出来ればこうやって甘えるのは、二人の時だけにしてくれると・・・」
「え・・・・・・なんで・・・・・・?」
「いやいつでも甘えてくれて構わないぞ、誰の前でも! 何回でも!」
「うん!」
・・・・・・ただ。 この妹は、どうやら相当甘えん坊らしい。 年相応の笑顔になる彼女を見て、俺は絶対に兄貴としてこれから先美遊を守ろうと心に誓った。
その時だった。
「・・・・・・士郎。」
「先輩。」
「私たちのこと忘れてない(かしら、ですか)?」
俺は超速で声の主の方を振り向き謝罪する。
「ち、違うんだ、これには深いわけが!美遊を励まそうと思ってたらつい忘れちまってたんだ。ほんとにごめん!」
「そ、そうなんです!お兄ちゃんはただ、落ち込んでた私を励ましてくれてただけなんです!」
美遊も俺を庇うように必死に弁明をしてくれる。
「それくらいで許すと思う?」
「うっ・・・・・・」
「・・・なーんて、ウソウソ。冗談よ。ねっ、マシュ。」
「はい。事情は全く存じませんが、その、泣いているミユさんを励まそうとする先輩に凄く真剣さを感じ不躾な質問をするのは流石にいけないと思い、ずっと話を聞いていたのです。」
「そういうこと。」
「そ、そうだったのか、よかった。でもそういうことなら先に言ってくれよ。少しビビったじゃないか。」
「あら〜、もしかしてほんとにやましいことでも考えてたのかしら?」
「そんなわけないだろ。逆に、アレをどう見たらそうなるんだ。」
「ふふゴメン、そうよね。さて、それじゃあ・・・」
そこで遠坂はイリヤたちのほうに華麗にターンすると、
「初めまして、私は遠坂凛。よろしくね。3人とも」
と、知らない人には誤解を生むであろう笑顔で挨拶をする。
「私たちは一応初めまして、なのかな?えーと、よろしくお願いします。こっちの凛さん。」
「そうね。まあひとまずってことでいいんじゃない?じゃあよろしくお願いね、こっちのリン。あとその猫かぶりは私たちにはしなくていいから。」
「はい、よろしくお願いします。凛さん。」
「ちょっとクロ、さっきの言葉。もっぺん言ってみなさいよ(怒)」
早くも遠坂は素が出ていた。
「落ち着け遠坂、な。余裕を持って優雅たれ、がお前ん家の家訓じゃなかったのか。」
「うっさい!私たちの世界のイリヤ然り、こういうクソガキはいっぺん礼儀ってもんをしっかり教えといたほうがいいのよ!」
「まあまあ。クロも悪意があって言ったわけじゃないんだろ?」
「うん、そうよ。」
「な。クロもこう言ってるし、それに素のお前でいたほうが話しやすいのも事実だろ?それにさ。お前、確か俺に素の自分がばれた時あっさり開き直ったじゃないか。今回もそういう感じで許してやってくれないか?」
「ぐぬぬぬぬ・・・・・しょうがないわね。いいわ、今回は
と・く・べ・つに許してあげる。」
(ふう、どうにかなったな。)
「あの、先輩。私も挨拶してもいいのでしょうか?」
「ああ、いいと思うぞ。人の縁は挨拶から始まるとも言うしな。」
「ありがとうございます。ではーーー」
そしてマシュも遠坂に続く。
「イリヤさん、美遊さん、クロさん、初めまして。私はマシュ・キリエライトと言います。これからどうかよろしくお願いします。」
「あ、はい。改めましてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。えと、こっちこそよろしくお願いします。マシュさん!あの、その肩に乗ってる生き物、触らせてもらってもいいですか?」
「はい、どうぞ。それに先ほどからフォウさんもイリヤさん達に近づきたがっていたみたいなので、願ったり叶ったりです。」
「わあいやった〜!よろしくね、フォウ!」
「フォウフォウ!」
喜びながらイリヤはフォウに頬擦りする。フォウも、嬉しいといった感じでそれに反応する。
「ふふ良かったじゃないイリヤ。初めまして、私はクロエ・フォン・アインツベルンよ、皆からはクロって呼ばれてるわ。よろしくね。あ、貴方のことこれからマシュって呼んでもいい?」
「はい、いいですよ。」
「私も、改めまして衛宮美遊です。こちらこそよろしくお願いします。」
そうして3人と挨拶を交わしているマシュは、知り合って1日も経っていない俺が言うのもなんだが、楽しそうだった。
頃合いを見計らって、俺も改めて挨拶をする。
「一応俺も改めてって形になるのかな。衛宮士郎だ。よろしくな。」
「「「うん、私のほうこそよろしくね、お兄ちゃん!」」」
3人とも息ぴったりに、笑顔で返事をしてくる。
「はは、凄くハモってるな。」
「ううん、私が一番だったよお兄ちゃん!」
「何言ってんの、一番はわ・た・し!」
「イリヤもクロも違う、私が一番。」
「なんですって、この〜!」 「何よ、やる気⁈」 「これは絶対退けない・・・!」
そして何故か誰が一番早く俺に挨拶をしたのかで喧嘩しそうになる。
「お前ら落ち着け。頭ならあとでいくらでも撫でてやるから。な?」
「「「・・・ホント?」」」
「ああ、だから落ち着け。それで話は変わるんだけど聞きたいこととかないか?こんな状況下だけど可能な限り答えるからさ。」
「・・・・・・・・」
その一言で3人は暫し沈黙する。そしてクロが口を開く。
「じゃあひとつ私から質問。その体の傷は大丈夫なの? そこそこの怪我なのに、その・・・・・」
美遊が言わんとすることも、何となく分かる。 俺はさっきアサシンの魔力による爆発を直で浴びてしまい、火傷で皮膚なんて溶けたバターみたいになっていただろう。
だが今の俺は打撲と切り傷、後は少しの火傷ぐらいで、戦闘は出来ないものの、命に別状はない。 俺は一応、クロに尋ねた。
「傷が今も独りでに治っていってるんだろ? しかもイリヤが、より正確に言えばセイバーのクラスカードが近づくと、治るスピードが増してるんじゃないのか?」
「・・・・・・ええ。 ソレは、何なの? そんな魔術、見たことがないわ・・・・・・」
「私も気になります。先輩、それは何なのですか?」
クロ、イリヤ、美遊、マシュの目からみれば、確かに魔術に見えるかもしれない。 だがアレは、魔術ではない。
俺が一つの可能性の未来の俺と死闘を繰り広げたとき、奴は言った。 彼女の鞘の加護によって、衛宮士郎は立ち上がっていると。
そしてその鞘と言えば、剣とセットでなければ話にならない。 幸い剣の英霊であるセイバーに確かめてみれば、それの正体はすぐに分かった。
ーーー全て遠き理想郷。
前回の聖杯戦争で、セイバーのマスターである爺さんが召喚の触媒として使用した、アーサー王が紛失したハズの宝具。 それが俺の身体の中に入っているらしい。
セイバー曰く、長らく融合していたせいで、そのカタチは最早鞘ではないらしいが、その能力は変わらないようで。
持ち主に不死性を与えると言う逸話通り、俺はまさに不死身の再生能力を発揮し、セイバーの魔力が残っていたあのときもこれのおかげでアーチャーに勝てた。 もし鞘が無ければ、俺は聖杯戦争なぞ勝ち抜くことは出来なかったし、そもそもセイバーと会うことも無かったかもしれない。
「・・・・・・ちょっとな。 企業秘密というわけには。」
「ダメ。 そんな再生能力、明らかに死徒のそれよ・・・・・・副作用が無いにしろ、その能力があるからって、自分の命を捨てるような真似は、やめてちょうだい。」
「・・・・・いや。 そもそも起動しようとか思わなかったぞ、俺」
4人が目を見開く。 何故そんな顔するのか分からないが、宝具を発動なんてアーチャーでもあるまいし、出来るわけがない。 同じセイバーとはいえ魔力を込める、或いは契約をしなければ宝具は発動しないし、正直なところ死んだとばかり思っていた。 死ぬ気など毛頭無かったが。
「その・・・・・それって制御が効かないモノなの?」
「うーん、ちょっと違うな。 存在を忘れてたと言うか・・・・・・最後に発動したのが二年半前だったから、記憶から抜け落ちてただけだな。 そういうこと。」
「もしどうしても知りたいっていうならあとで簡単に説明するから今は聞かないでくれると有り難いんだけどな。」
「・・・・・わかったわ。絶対にあとで教えてちょうだい。
約束よ。」
「ああわかった。」
そう簡単に言っていいものではないので、なんとか取り繕う。それが終わると同時に今度は遠坂が聞き始める。
「じゃあクロ。私からもいくつか質問なんだけど。イリヤとあんたと美遊は、それぞれが異なる3つの並行世界の士郎の妹って解釈でいいのかしら?」
「それはちょっと違うわリン。イリヤと私は同じ世界のお兄ちゃんの妹よ。」
「はい、私だけが違う世界のお兄ちゃんの妹です。」
「なるほど、じゃあ次。なんかあんたたちは話しかたから察するにあんたたちは私のことを知ってるわね?」
「ええそうよ。」
「ふんふむ。じゃあ次。イリヤのステッキはルビーだってのは解るんだけど美遊の持ってるやつは何ていうの。形からするにルビーの姉妹機なんでしょうけど。」
「その通りよ。このステッキはルビーの姉妹機でサファイアって言うのよ。」
「やっぱりか。それで次の質問は・・・・・あー、やっぱりこれはドクターにしてもらった方がいいかな。ってことでドクター、お願い。」
「うぇっ⁈いきなりだなぁ。まったく、君は僕を何だと思ってるんだい?」
「んー、ゆるふわパシられ系独身男30歳?」
遠坂がエゲツない発言をかます。
『ちょっ⁈出会って一日足らずの人間にそんな風に見られてたのは流石に初めてだよ!』
流石に今のは言い過ぎなんじゃないかと言おうとした瞬間、お次はクロが
「あー、確かに。リンの言う通りかも。なんかいっつも、二次元アイドルだけが僕の友達なんだーい、とか思ってそうなオタク系で尚且つひ弱な感じの男に見えるわね。」
「クロほどではないけれど私も同感。貴方はどこか頼りなく見えます。」
『出会ったばかりの小学生にまで⁈うわーんマシュ!皆して僕をいじめるよー!』
「落ち着きなさいロマ二!みっともないわよ。」
「所長には今の僕の気持ちなんてわかりませんよ!」
「落ち着いてください、ドクター。貴方が優しい性格で日頃頑張っているのは私とフォウさんが、そして今は先輩も知っています。これから頑張っていけばいいと思いますよ。」
「フォウフォーウ!」
「ああマシュの言う通りだな。俺も、ドクターとは会ったばかりですけど、きっと優しいからこそそんな風に呼ばれるんです。それは誇っていいと思います。」
「うん。私も、ロマンさんは優しくて頑張り屋なんだろうなって思います。」
『士郎君、マシュ、イリヤちゃん!君たちは僕の心のオアシスだよ!』
「そんな、大げさですよ。なあマシュ、イリヤ。」
「はい、それ程のものではなかったかと思います。」
「うん、さすがにそこまでじゃないかな。」
『いや大げさなんかじゃないよ、ほんとにありがとう!』
「「「はあ、そうですか。」」」
『ああ、そうさ。いや〜助かった。じゃあ、質問を始めるとしようか!それじゃあまず・・・・・・ってちょっと待った!皆よく聞いてくれ。サーヴァント反応が4つ、凄い速さでこちらへ向かっている‼︎」
「くそっ、こんな時にか・・・!」
「まったく、ほんと空気を読まない奴らね。」
『そんなこと言ってる場合じゃないよ!さっきは相手が1体で弱体化していたうえにアサシンだったから士郎君と凛君だけでどうにかなったけど今回は恐らくさっきのランサーと推測されるサーヴァントに加えて更にあと3体いる。とにかく可能な限りダメージを与えるか牽制するかして何とかこの場から全員離脱してくれ!』
「解りました!」
「お兄ちゃん、私たちにも手伝わせて。お願い!」
「うん、私たちもまだ戦える!」
イリヤたちが援護を申し出る。だが・・・
「ダメだ。クロとギルガメッシュはともかくイリヤと美遊はボロボロじゃないか。今のお前たちにとってここは危ない、早く行け。」
さっきの記憶からイリヤたちの体調をある程度推把握できている俺は拒否する。
「「でも‼︎ほんとにまだ私は戦e「「イリヤさん(美遊様)、行きましょう。」」
「「ルビー(サファイア)!?」」
傷ついたイリヤと美遊の腕の中で、ルビーとサファイアは汚れだらけの身体で言う。
「士郎さんの言う通りです・・・・・・お二人のクラスカードの中で現在、限定展開可能なカードは残り四枚。 その中であのサーヴァントに対し、決定打となり得るカードはたった一つ、バーサーカーのクラスカードのみ。 しかし、それは未使用のうえに、お二人はあの決戦で相当な傷を負っておりため使用すれば相当の負荷がかかります。」
「加えて先ほどの一撃でイリヤ様と美遊様の魔力は底を尽きたはず。今のあなた方が戦うのは余りに無謀であると言わざるを得ません。」
「・・・・・・ルビー(サファイア)。」
「勘違いしないで下さい。何も逃げろと言っているのではありません。 十五分、いえ十分。 身体の奥底まで刻まれた傷を癒し、魔力を最大まで回復するには、それだけの時間が必要・・・・・・ご理解、頂けませんか?」
イリヤと美遊が歯を噛み締める。 俺を助けられないどころかむしろ俺の足を引っ張ってしまう今の自分が悔しいのだろう。
さっきのルビーとサファイアの説明の大半が解らなかった俺にもその事実だけは理解できた。この娘たちも自身の身体のことは、解っているのだろう。 そしてルビーとサファイアが提案する策が、一番理に適っていることも。
それでも認められないのは、並行世界の俺の死を前にして何もできなかったことにも関係あるに違いない。 だからこそ、俺はイリヤと美遊に告げた。
「・・・・・・さっき美遊に言ったよな。ワガママでも良いって」
「え?・・・・・・で、でもっ」
「でもは無しだ。 もう俺はお前たちを悲しませたりしない。 イリヤと、美遊と、クロと、遠坂と、マシュと、皆が居る間、支えてくれてる間は・・・絶対に。」
「それにーーー」
「お兄ちゃんは妹を守るもんだ。」
「「っ・・・・・・・・!」」
それがとどめの一言になったのか、二人はまた苦笑いを浮かべ、
「まったくもー。やっぱりズルいなあ、お兄ちゃんは。」
「うん。だけど、だからこそ私たちはお兄ちゃんが大好き。」
「そうだね。だからお兄ちゃん、私たちと約束して。」
「「頑張って、絶対にあのサーヴァントを倒して、私たちにまた元気なお兄ちゃんを見せて。」」
「・・・・・・! ああ、解った。約束するよ。俺は、お前たちのためにも絶対あんな連中に負けたりしない。」
絶対あいつらに負けられない、負けるわけがないチカラをくれた。
「クロ、私たちの分もお兄ちゃんのサポートお願いね。」
「任せときなさい。バッチリお兄ちゃんを守ってみせるわよ。」
「はは、ありがとう。頼りにしてるぞクロ。それで話は変わるが、ギルガメッシュ。お前も俺たちの味方ってことでいいんだな?」
「ええまあ、そう思ってくれていいですよ。それに今の状態の僕じゃ嫌でもそうするしかないですし。そういうわけで僕はマシュさんたちを守りつつライダーの相手をするとしましょう。なのでお兄さん、貴方はあのランサーと思しきサーヴァントをお願いします。」
「解った。」
子ギルはライダーの相手をすると口にした。ならば俺はクロと遠坂と共に、子ギルに言われた通りランサーの相手をするべきだろう。
「マシュ、所長とイリヤたちを連れて近くに隠れてて欲しい。いいか?」
「はい、任されました。先輩。」
「遠坂は魔術での遊撃、クロは俺と一緒に接近戦。これでいこうと思う。二人とも頼んだ。」
「えぇ、任せなさい。」
撃鉄を下ろす。先ほどの憑依経験を経て総数54本になった魔術回路をフル起動させ干将と莫耶を投影し、走り出そうとした瞬間、ランサーの足元で爆発が起き、ランサーと思われるサーヴァントは少し遠くまで吹っ飛んでいく。
「えっちょっお兄ちゃん今の何⁈」
「いや俺にもさっぱりだ!ん?アレは・・・」
爆風が収まるにつれ、その向こうに二人の人間が立っているのが把握できた。
「空気を読むってことを知らねぇ奴だな。話し合いの際中は静かにしろって習わなかったか?」
「それに関しては私も全くの同意見だ。」
「ア、アンタ・・・!それに貴方は!」
遠坂が驚きに満ちた声を上げる。当然かもしれない。
なにせこの声、あの姿には聞き覚えも見覚えもある。あぁ、俺たちの知ってるクー・フーリンとロード・エルメロイ2世の声だ。
「おう、久しぶりだな。そこの肌が黒い嬢ちゃんは置いといてその様子だとお嬢ちゃんと坊主は俺を覚えてるみたいだな。俺も何でかは分からねぇがお前さんら2人のことを覚えてる。てことで、ここは共闘と洒落込もうぜ。」
「いや少し待ってくれクー・フーリン。」
「何だ、なんか言っておきたいことでもあんのか?」
「ああそうだ。エミヤ、トオサカ、そして肌が黒いレディ。戦いの邪魔にならないように先に言っておくが私の肉体はどうやらかの中国の名軍師、諸葛亮孔明と一体化しているらしい。私自身、にわかに信じられんがな。」
『「「「ハアアアアァァァ⁉︎」」」』
とんでもない発言に本日何回目になるか判らないがまたまた驚いてしまった。
なにせ、マシュだけと思っていたサーヴァントと融合した人間がまだいたうえに、しかもそれが俺と遠坂の魔術の師であったというのだから。
「マシュに続いて教授までデミ・サーヴァント化って・・・・・ハァ、今日はサーヴァント化のバーゲンセールか何かなのかしら。」
『いや・・・違うな。これは、恐らく疑似サーヴァント化だ。』
Dr.ロマンがなにやら気になるワードを口にする。
「む?君は一体誰だ?」
『申し遅れました。僕はロマ二・アーキマン。人理保証継続機関フィニス・カルデアというところで2015年現在医療部門の総責任者を務めている身です。詳しいことは現在の状況では話せませんが、そこにいる2人。恐らく貴方の知り合いと思われる、衛宮士郎、遠坂凛らと知り合いで協力関係にあるということでお察し下さい。』
「・・・なるほど、理解した。確かに今はこの状況を打破することが先決だ。それで、疑似サーヴァントとは何なのかね?もしやアニムスフィア家が起こしたプロジェクトにやはり関係あるものなのか?」
それを聞いたDr.ロマンは呆然とする。
『・・・・・・‼︎ やはりあなたは凄いですね。さっきの話でそこまで察するなんて。』
「世辞はいい、この程度は簡単なことだからな。それより早く説明してくれ。」
『あっはい!それはですね。要はーーー』
その時、ランサーが吹っ飛んでいった方向から鎌が飛んできた。クー・フーリンがそれをルーン魔術で叩くようにして弾く。
その方向の先を見ると、ランサーが俺たちのほうを睨んでいた。恐らくキャスターに対してだろう。
「クッ!ナゼダ!キャスター貴様、我ラノ邪魔ヲスルノカ!」
「あぁ?なに言ってっか聞こえねぇよ。もうちっとマシな喋り方しろってんだよ。」
「貴様アアアアアア!聖杯ガ目前にアルト言ウノ二!」
「てめぇの事情なんざ知るかよ。あとな、今のてめぇの問いに1つ回答を挙げるとすりゃ俺はな、聖杯なんてもんに興味はねえんだわ。ただ全力で戦えるだけで満足だからな・・・しかし、こんな状況になれば全力で戦えるなんて状況じゃねえしな。なら、俺としちゃこんな戦争なんて終わらせちまうしか無いだろ?」
「私は・・・一時の間だけとはいえお世話になった夫婦と二人が住んでいる町に恩を仇で返すようなことはしたくないだけだ。それがたとえ特異点であるとしてもな。」
「教授・・・思いのほか優しい人だったんですね。ちょっと意外です。」
「それは礼として受け取っておこう、一応な。」
「ええそういうことでお願いします。」
ニヤリと笑うクー・フーリンは杖を手に持ち、俺の横に並ぶ。同時にクロはクー・フーリンの、エルメロイ2世は遠坂の横に並び立つ。
「てことで、坊主。ちょいと手貸せや。」
「わかってるよ。お前、まだ槍は使えるのか?」
「あ?そんなの当たり前じゃねえか。俺の本職はランサーだぜ?キャスターなんざ俺の趣味じゃねえんだよ」
「もし、俺が魔力を供給できたらお前は俺と契約してくれるか?たとえそれが、未熟な、正義の味方であったとしても。」
「そうだな・・・別に構わねぇぜ?俺もお前のことは嫌いじゃねぇからな。だが、なにぶん今のクラスはキャスターだ。ランサーとしてのステータスは求めない方がいいぜ?それでもいいのか?」
そうこちらを試すような返事をしつつもニヤリと笑いながらこちらに右手を突き出してくるクー・フーリンはその瞳で『ほら、早く坊主も出せよ』と語りかけてくる。俺は両手に持っている双剣を地面に刺し、Dr.ロマンに確認をとる。
「ドクター、野良サーヴァントとも契約を結ぶことってできるんですか?」
『ああ、可能だ。あと、そのための魔力提供も心配しなくていい。カルデア側が常に君と凛君に魔力を供給し続けるからね。』
「解りました、有難うございます。」
「クー・フーリン。さっきの件、俺はそれで構わない。だけど遠坂に話したいことがあるから少しだけ待ってくれ。」
「しょうがねぇな。さっさと済ませろよ、坊主。」
クー・フーリンは渋々、突き出した右手を一旦降ろした。
「ああ解ってるさ。じゃあ遠坂、お前も契約した方がいいんじゃないかと俺は思うんだけど、どうかな?」
「そうねぇ・・・うん、賛成よ。ていうか私もそのつもりだったし。だって私にもサーヴァントがいないとこれから先やりづらいと思うから。ってことで教授。契約お願いします。」
「そうだな。了解した。引き受けよう。」
「決まりだな。もういいぞ、クー・フーリン。」
「おう解った。」
俺とクー・フーリン、遠坂とエルメロイ2世で向かい合うように立ち互いに手を出しあう。
「時間もないし、詠唱は私が前に教えた簡略化した形でいくわよ。いいわね士郎?」
「ああ。」
そして、契約の儀式を始める。
「「ーーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのならーーー」
「「我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」」
「「キャスターの名にかけ誓いを受ける。お前を我がマスターとして認めよう。坊主。」」
クー・フーリンは背中からある槍を抜き上げ、軽く振り回すと杖を消し槍兵としての鎧に魔術師としてのローブが綺麗に融合したような姿へと自身を変化させる。
その銘は《魔槍ゲイボルグ》又の名を|《刺し穿つ死棘の槍》《ゲイボルグ》。真名を解放すれば"心臓に命中した"という結果の後に槍を放つことで確実に相手を殺す魔槍だ。
その性能は、ともすれば原典にして北欧神話の主神オーディーンが持つ、此方も同じく因果逆転の力を備えた槍大神宣言を上回っているのではと言われることもあるほどだ。
「やっぱ、俺はこれだわ。」
腰を低くし、槍を構えるのを見て俺とクロも干将と莫耶を引き抜き、構える。
「今更だけど悪いなクロ、詳しいことを言わずに付き合わせて。」
戦う前にこの破茶滅茶な状況下で反対せずに俺のサポートを買って出てくれたクロに改めて礼を述べる。
「何言ってるの。それこそ今更よ、お兄ちゃん。ていうか、わけが解らないことにはいろいろあってもう慣れっこだしね。」
「そっか、ほんとにクロは強いな。」
今更だが家族が傍にいることのありがたさが実感できた。
「よし、それじゃあ。行くぞ青い槍兵。」
「おう、背中は任せたぜ?坊主。」
決して相容れ無いはずの衛宮士郎とクー・フーリンの主従関係がそこにはあった。
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