Fate/kaleid night order
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第7節:VSアサシン
その後、Dr.ロマンから機能の8割が停止しているということでレイシフトによる帰還が困難だと知らされた俺たちは、当初の目的であるこの冬木ーーー特異点Fの歴史が狂った原因を見つけることになった。
そして、原因を見つけるためにあちこち探索するということになった。
此処までは、大橋と港付近を調べてきたが、特に手がかりになりそうなものはなかった。
道中出てくる敵はマシュが戦闘訓練の一環として取り組み、俺と遠坂は後ろから援護という形で落ち着いていた。
「焼け野原だなんて。一体何が起きたのかしら……」
「はい。生命の痕跡がないのも気になります」
オルガマリーさんとマシュの会話にただ一人、この大災害を経験した俺は複雑な心境だった。何度も夢に出ていた光景。すると俺の口から言葉が勝手に出ていた。
「・・・・・・生存者はいないよ。少なくとも、俺の知る限りでは」
「・・・そうね。」
遠坂も、それを察してか低い声を発する。
「ああ・・・」
「えーー」
俺と遠坂の呟きにも似た会話にマシュは、呆然とした声を発していた。
「先輩、凛さん、それってもしかしてーーーーーっ、危ない‼︎」
マシュが今までの説明から何かを察し口に出そうとした時だった。
「「なっ!」」
途端、マシュは俺たちの体を突き飛ばしたと思うとその場で盾を構えた。そして三条の銀閃がマシュの盾によって弾かれる。
盾に弾かれ、地に突き刺さった凶器は短刀だった。斬りつけるものではなく、狙い撃つことを主とした投擲短刀。それらは寸分違うことなく士郎の眉間、喉笛を目掛けて高速で放たれたものだった。
『ーーっ⁉︎士郎君!凛君!マシュ!後ろだ‼︎』
そんな時、Dr.ロマンが突然叫んだ。その焦った様子から、俺たちは即座に理解し、そのまま後ろへ振り返った。
「ーーー見ツケタゾ。新シイ、獲物。聖杯ヲ、我ガ、手ニ…!」
そこには、黒い靄に包まれた白い骸骨が笑みを浮かべていた。よく見ればその影は身につけてる服そのものがボロボロの黒いローブだ。更に、その右腕は異様に長く黒い布に包まれている。
「まったく気配がありませんでした! こんなに近くにいたなんて……!」
マシュが言うように、その影との距離は10メートルあるかどうかだった。
「ええ、恐らく気配遮断のスキルね。それも相当な。」
「ああ、それにここが冬木で時期が2004年の1月末ってことは・・・」
「ええ、間違いなくあいつの正体は・・・」
俺と遠坂はあの影の正体に気づいていた。
「・・・ドクター。影に包まれて分かりにくいがあれは間違いなくーーー」
『ああ。君たち二人の予想通り、あれはアサシンのサーヴァント、山の翁ハサン・サーバッハだ!今は戦うなマシュ!君にサーヴァント戦はまだ早い!士郎君と凛君に牽制してもらいつつ逃げるんだ!』
「そんなこと言っても逃げられないわよ!マシュ、戦いなさい!同じサーヴァントよ!なんとかしなさい!」
Dr.ロマンの言葉をオルガマリーが叫んで言い返す。例え、今この場であの暗殺者に背を向けて逃げ出したとしても先ほど俺と遠坂を狙い撃ちしたようにあの影は短刀で全員の体を串刺しにするだろう。ならば、残された選択肢は一つ。戦いの中で活路を見出すしかない。
「ああ、その通りだ。マシュ、すまないけど頼む!俺と遠坂も援護するから戦ってくれ!」
「は、はい!先輩、行きます!」
マシュは大盾を持ち上げ構え直すと、遠く離れた影のサーヴァントを見据える。
そして、戦闘は何の口上もなく始まった。アサシンは懐から短刀を取り出し、それをマシュに投擲した。しかし、そのスピードは尋常ではなく、銃弾の如き速度で飛んでいく。
その速度に驚きつつも、足にありったけの力を込めてその場から飛び退くことでかわす。目標を失った短剣はそのまま地面に突き刺さる。だがその際、突き刺さった地面を少し砕いていた。
マシュはバックステップで距離を離し、アサシンはマントを靡かせ一直線に突っ込んできた。右手が霞むほどの速度で動き、切っ先が宙に残像を描きながらマシュの全身を、鋭利な短刀が次々に斬り裂いていった。
「マシュ‼︎」
露出した肌から血を零しながら苦戦を強いられている。その傷を負わせたアサシンの剣さばきは、今まで武器に触れたことのなかった士郎にとっては凄まじいものだった。
幸いマシュは地面を一度蹴って後方に下がり大きく距離を取る。だが、アサシンはマシュが戦闘に不慣れなのを分かったのかマントを靡かせながら間合いを詰める。暗殺者らしからぬ戦術だった。
能力的には暗殺のみに特化したアサシンより、マシュの方が少し上だろう。ただ、唯一足りないのは戦闘経験だ。幾つもの戦場を駆けた英霊ならまだしも、マシュは戦闘に関してはほぼ素人。そんな彼女が暗殺者とまともに戦えるわけがない。
実際目の前ではアサシンの連撃を大盾で防ぎながらもその速さについていけず傷を負うマシュは、何度もバックダッシュで距離を取ろうとした。しかしアサシンは滑るような異様な動きで追随する。まさに格好の餌食だ。
「くそっ!遠坂!1分でいい、時間を稼いでくれ!」
「何か策があるのね?OK、任しときなさい!」
「ありがとう!投影、開始!」
複数の干将・莫耶を投影し投げるようにしてアサシンに打ち出す。だが、アサシンはそれらをいとも容易く避けてみせた。それで構わない。元からそのつもりでやったのだ。俺の狙いは別にある。遠坂に囮を頼んだのも勿論そのためだ。仕込みも済ませ、後は待つだけ。
「それじゃ・・・行くわよ!」
凛がアサシンを捉え、瞬間的に加速。
そのまま接近しアサシンの腹を突き、食い込ませ、捻り、真っすぐに吹き飛ばす。
「グハッ!貴様、本当ニ人間カ!?」
橋の鉄骨に思い切りぶち当たり、血を吐くアサシンは遠坂に問いかける。殴り飛ばした相手はというと飄々と冷めた顔で拳を見ていた
「流石にまだ綺礼ほどじゃないか。まあ、なりたくなんてないけど。それにしても、まさかルヴィアとの喧嘩が、こんなとこで役立つなんて、ほんと人生何があるか分かんないものねー。けど、この程度なの?此れならアイツや葛木の方がよっぽど手強かったように思うわ。」
余裕な表情で遠坂は嗤う、まるで出来損ないの暗殺者を嘲笑うように見下し、挑発する。
「ソンナ軽イ挑発ニ掛カルトデモ思ウノカ?」
「いーえ、思っていないわよ。唯ね、アンタの全力がこの程度じゃマスターの暗殺すら出来ないんじゃないかしら?」
サーヴァントの中で最も戦闘力の低いクラス、サーヴァントの殺害ではなく、マスターの暗殺に長けた暗殺者のサーヴァント、しかし、その戦闘力の低さは遠坂はよく知っている。
自身の扱う八極拳の師にして第五次聖杯戦争の監督役にして憎むべき仇である言峰綺礼。
そいつが、その当時とそれより約10年前の第四次聖杯戦争でそれぞれ別のハサンを従えていたことを知っているのだから分かる。
まぁ、それも『英雄王ギルガメッシュ』に乗り換えたのだから特に意味はないのだが
「ホザケ、コムスメガ・・・」
「ふーん、あっそう。だけどね、私相手にその腕を解放したところで意味はないわよ。アンタの宝具、それは偽造の心臓を作り出し、それを潰すと本物の心臓も破壊すると云うもの。違うかしら?」
「ナッ!ナゼ貴様ガソレヲ知ッテイル!?」
「なーに、私だって無駄に前回を生き抜いたわけじゃないわ。なにせ私の大っ嫌いな野郎が今から10年前に使役してたサーヴァントはアサシンだったのよ。百の貌のハサンといえば分かるかしらね?今の私の魔術の師に教えてもらってね。妄想心音、それがアンタの宝具の真名よ!」
「ソンナ馬鹿ナ!歴代ハサンの中デ私ヲ知ッテイルモノナドーーーマサカ・・・!」
俺にも心当たりがあった、そう、言峰が一番最初に犠牲にしたアサシン。自称暗殺王ザイード。
「ザイードカ、ヤツメ余計ナ事ヲーー!」
「ふん、取り乱したわね・・・なら、これで終わりよ!」
遠坂は一瞬で駆け出し、隙だらけのアサシンを殴って怯ませ俺の方に投げる。
「ガハッ!ナニヲーーー」
(ーーー今だ!)
アサシンが乱暴に着地させられたその瞬間だった。アサシンの肉体に、先程何処かに飛んでいった筈の複数の干将・莫耶が全て同時に刺さる。
「ナ・・ニ・・・?」
驚愕した声。だがアサシンの目が恐怖に見開くのをお構いなしに、俺は新たに5組の干将・莫耶を投影し打ち出す。
そしてそれらはアサシンの体に刺さっている全ての干将・莫耶に引き合うようにしてアサシンを穿つ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ‼︎」
(よし、初めてだったがなんとか成功したな。)
だがそれだけでは終らせない。
「ーーー爆ぜろ。」
それを合図に全ての剣が同時に魔力爆発を起こした。
無論、その中心にいるアサシンはそれに呑み込まれる。
「バ・・・カナ・・・バカナアアアアアアァァァァッ‼︎」
絶叫が響く。
「ソ、ンナ……聖杯、ヲ、目ノ…前ニ……シテ……」
アサシンのその言葉を最後に、戦いは終わった。先ほどまで俺たちを翻弄していたアサシンのサーヴァントはボロボロの黒衣と共に消え去った。
「ぶっつけ本番だったが上手くいったな。」
「ええ、投げた物が戻ってくる性質を利用した作戦とは考えたわね。やるじゃない、士郎。」
「そんなことないさ。初歩的なことだしな。それに、ほんとにギリギリだった。あの時少しでもやるのが遅れてたら、マシュを助けられなかった。」
「はい。本当にありがとうございます、先輩。あと、凛さんも凄いです」
「ん⁉︎よく聞こえなかったんだけど!」
「いえ、なんでもありません。」
「っていうか、遠坂。お前アサシンを言葉で虐めてただけだよな?」
「あら、気のせいよ士郎、私がサーヴァント相手に言葉で攻めるなんてあり得ないでしょ?」
「いや、」
「あり得ないでしょ?」
「だから」
「あ・り・え・な・い・で・しょ・う?」
「ああそうだな。きっと俺の見間違いだったんだ。そうに違いない。」
「それでいいんですか?」
「これはな、気にしちゃダメなんだよ。マシュ。」
「先輩・・・」
その時、Dr.ロマンから通信がきた。しかしその内容は今の俺たちにとっては、死屍に鞭を打たれるようなものだった。
『・・・かなり悪い情報だ。士郎君、凛君、マシュと所長をすぐにそこから離脱させるんだ!サーヴァントの反応がもう一つそこへ向かってる!』
「な・・・・・・っ!」
先程の戦闘はマシュがアサシンの動きについて行けずに一方的にやられていた。それなのにもう一体でもサーヴァントが来ようものならマシュは確実に負ける。マシュを呼び戻すために視線を戦闘へ戻すと、
「士郎ッ⁉︎」
「先輩ッ⁉︎逃げて‼︎」
「ーーーーオ前ハ、イラナイ」
「え・・・・・・」
耳元で、不吉な声がした。視線を横に移すとそこには、薙刀を舐めて笑ういかつい男の面があった。獲物から見るに恐らくランサーだろう。俺が瞬時にそこまで推察したところで謎のサーヴァントは薙刀を俺の心臓に突き刺そうと腕を素早く突き出してくる。
「「砲火ッ‼︎」」
「ガーーーーッ⁉︎」
だが謎の声が聞こえた瞬間、そのサーヴァントが後ろに吹き飛ぶ。先ほどまで俺の横にいたアサシンは、まるで何か強い衝撃を受けたかのように弾かれた。
「「お兄ちゃん大丈夫⁉︎」」
「もう!気持ちはわかるけどイリヤと美遊ったら落ち着きなさいってば!」
「まあまあクロさん。少しくらいならいいんじゃないかな?それにしても、奇襲でないと士郎さんの首を落とせないのかい?三流。」
「・・・嘘、だろ?」
俺があの戦いで唯一守れなかった大事な家族。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに服装を除く何もかもがよく似た2人の少女と目つきが俺によく似ている黒髪の少女とかつて俺が打ち倒したサーヴァント、人類最古の英雄、英雄王ギルガメッシュがそこにはいた。
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