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Fate/kaleid night order

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第5節:燃え盛る町

これが明晰夢ってやつなのかな、悲しく恐ろしく辛い筈なのだが何故か嬉しく、そして懐かしい、そんな夢を見ている。そう、俺が正義の味方を目指すきっかけとなった出来事を・・・




あの日、俺はただ当ても無く業火に包まれる冬木の街を彷徨っていた。目に映るものは燃え盛る炎、火災によってボロボロになっている街並み、そしてもがき苦しむ人々。聞こえるのは炎が燃え盛る音、建物が崩れ落ちる音、そして人々の悲鳴。正に地獄絵図だった。
今となってはただの言い訳としか言えないけど、あの時の俺は自分の周りで起きていることがただただ信じられないくらい怖くて、何をすればいいのか何処に向かえばいいのかといったこともわからないくらいに震えてた。だからそれが無駄だとわかっていても、助けを求める声も含めて聞こえてくるもの全てを、ただ怯えるように、逃げるように、無視するように両耳を塞ぎながら歩き続けるので精一杯だった。だけど当然目は塞いでいなかったから地獄のような光景は映ったままだった。そして悲鳴も変わらず聞こえてくる。だから、その恐怖に俺の精神《こころ》は磨り減り続け何時しか目は虚ろになり倒れ伏してしまっていた。ーーーーそれからどれくらい経った時のことだったろうか。俺はただ助けを求めるように震える手を空に向かって伸ばしていた。その直後だった。不意に、手を誰かに掴まれる感じを覚えた。そして今度は、


「よかった。生きてる、生きてるぞ!」


誰かがそう言っているのが聞こえた。うっすらと目を開くと見た目は中年ぐらいで痩せ細った体格の男が俺を見つめていた。
今でもその顔を覚えている。目に涙を溜めて生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる、その姿を。ーーーそれがあまりにも嬉しそうだったから、まるで救われたのは俺の方ではなく、男の方ではないかと思ったほどに。
そうして、死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど、男、衛宮切嗣は何かに感謝するように、「ありがとう・・・。」、と言った。見つけられて良かったと。1人でも助けられて救われたと。

そこで見ていた夢が急に、まるでテレビの画面のように別の夢に切り替わる。これは・・・間違いない、5年前の記憶だ。そう、俺が正義の味方になるという夢を抱く決定的な理由となった出来事だ。

あの日、俺と切嗣《おやじ》は自宅の縁側に座っていた。
ボーッとしていた親父に俺が呼びかける。


「おいっ!おい、じーさんっ!」

「寝るならちゃんと布団に行けよ?爺さん。」


親父が反応する。


「ああ・・・、いや大丈夫だよ。士郎。」

「なんか心配なんだよな。爺さん、最近よく疲れた顔してるからさ。困ったことがあるなら何でも俺に言ってくれよ?」

「ふふ、ありがとう。」


そこで急に親父がこんなことを言い始めた。


「・・・・・子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた。」


その発言に、子供の俺はある疑問を抱いた。


「何だよそれ?憧れてた、って・・・諦めたのかよ?」


親父はそれに対して苦笑いしながら


「うん、残念ながらね・・・。ヒーローは期間限定で、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気が付けば良かった。」
と返した。

「そっか、それじゃあしょうがないなあ。」


俺が、そう納得したように言うと、


「そうだね・・・。本当に、しょうがない。」


親父はどこか悲しそうにそう言った。そしてスーッと息を吸い込み
夜空を見上げながら


「ああ、本当に、いい月だ。」


そう呟いた。
俺はそこでちょっと得意気にこう言った。


「うん。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ!」


それに親父は驚いたらしく


「え?どういうことだい、士郎?」

と聞いてきた。
それに対して俺はやはり得意気にこう返した。


「うん。爺さんはオトナだからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢はーーー」


それを聞いた親父は


「そうか・・ああ・・安心した。」


と嬉しそうに言った。そして俺に看取られながら眠るように、この日息を引き取った。俺はこの時、綺麗な月の下で交わした誓いを生涯忘れることはないだろう。

そして夢はそこで終わりを告げた。


******


頬に何か冷たいものが軽く当たっているような気がした。同時に熱いとも感じた。なので瞼を開けてみると、その原因が判明した。雪が降っていたのだ。成る程、確かに冷たく感じる筈である。だが、もう1つの原因は恐ろしいものだった。


「っ・・・・・・・・!」


俺の近くの建物全てが炎に包まれ倒壊していたのだ。そしてこの瞬間ある事実を把握した。


「建物が崩れたり炎に包まれたりしたりしてるせいで分かり難いけど10年前の記憶とカルデアで聞いたアナウンスから察するに此処は・・・・・2004年1月30日の冬木市だ!」


先程の夢や10年前に似たような光景を見ており、またカルデアでのアナウンスを覚えていた為、すぐに理解できた。


(つまり俺はカルデアのシステムによって此処に飛ばされたのか・・・なら、遠坂やマシュも絶対近くにいる筈だ!すぐ見つけないと!)


そう決意した直後、俺はあるよく見知った建物を見つけた。


「あれはまさか・・・⁈」


そう、其処にあったのは俺の最愛の少女にして此処に飛ばされる直前まで共にいた人物の1人、遠坂凛の家だったのだ。


「まずは彼処に行ってみるか!」


俺がそう呟き走り出した直後、




ドォン!ドォン!ドォン!
ガン!ゴン!ガキィン!




という破壊音や金属音が遠坂邸の中から聞こえてきた。音はどんどん激しくなってくる。


(これは・・・間違いなく何かと何かが戦っている、つまり彼処に遠坂がいる可能性は高い!急がないと!)


俺はそう考えながら彼方此方に積もった瓦礫を避けつつ遠坂邸を目指して全力疾走した。
そして辿り着き敷地内に駆け込んだ俺が見たものはーーー
第五次聖杯戦争の時にキャスターが使役していた竜牙兵と同種のものと遠坂と、アレは・・・マシュ、なのか?2人が戦っている光景だった。
(なんで此処に竜牙兵がいるんだ!⁈マシュが使ってるあの盾は何だ⁈いったい何処で手に入れたんだ!)

聞きたいことや話し合いたいことがいろいろ出てきたのだが見たところそうも言ってられなさそうだった。なぜなら敵の数がそこそこ多く2人を囲うように立っており、その上遠坂はマシュを庇いつつ戦っている為なかなか攻めることができず苦戦していたのだ。

(仕方ない、今は彼奴らを倒す。話はそれからだ!)

俺はそう考えながら干将•莫耶を一組投影し2人を襲おうとしていた竜牙兵に斬りかかる。


「ハアッ‼︎」


キィン!ガン!バキィン!

そして1分程で数体を倒した。それを戦いながら横目で見ていた2人は俺に声をかけてくる。


「士郎、無事だったのね!」

「良かったです、先輩!」

「再会を喜ぶのは後だ、今はこいつらを片付けよう!」

「「ええ(はい)!」」


俺は2人にそう促し再び竜牙兵を倒し始める。


「フン!」
キィン!ガキィン!
俺が斬り伏せる。

「とっととくたばりなさい!」
ドン!ドォン!
遠坂が撃ち貫く。

「これで・・・倒れて‼︎」
ガァン!バキィ!ドゴン!
マシュが殴り倒す。


***5分後***


「これで、終わりだ!」
ガキィン!

「フゥ、やっと終わったわね。」

「はい。そして先輩、正直に言わせてもらうと、とても緊張しました。」

「ああ、確かにマシュは疲れたよな。少し休むか?」

「いえ、この程度なら問題ありません。」

「そうか、でも体調がおかしいと思ったらすぐ言ってくれよ?マシュは女の子で俺の大切な後輩で仲間なんだからな。」

「っ・・・・・・・!はい、ありがとうございます。」

「ちょっと2人とも。仲を深めるのは大いに結構だけど今は話し合いが一番優先しなきゃいけないことだって解ってるわよね?」

「あ、ああ。そうだったな。じゃあ遠坂、マシュ。話し合いを始めよう。」

「は、はい。そうですね。」


漸く敵を一体残らず倒しきった俺達は打ち合わせ通り話し合いを始めた。


「じゃあまず、2人とも、生きててくれて本当に良かったよ。」

「それはお互い様よ、士郎。貴方こそ生きててくれてほんとに良かったわ。実際、マシュに再開した時、マシュが生きててくれて嬉しかったのと同時にじゃあ士郎は何処にいるんだろう、無事なんだろうかって心配になったもの。ね、マシュ?」

「はい、その通りです。ご無事でほんとに良かったです、先輩。」

「・・・・・2人とも、ありがとう。じゃあ、俺から質問なんだけどマシュはどうやって生き延びたんだ?もしかして、その格好や武器と何か関係あるのか?」

「はい、その通りです。流石ですね、先輩。そしてここからは信じられないかもしれませんがしっかりと聞いてください。」


そう言うとマシュは急に少し緊張した面持ちになった。


「大丈夫だ、もう訳が解らない出来事には慣れっこだからな。」


そう言いながらも思わず少し身が引き締まる。


「そうですか、では言わせてもらいます。実はですね、経緯はよく覚えていませんが私はサーヴァントと契約して一命を取り留めたのです。」

「成る程、そういうことだったのか・・・・・ん?ちょっと待ってくれ、マシュ。」

「はい、何でしょうか?」

納得しかけた直後、ある疑問が生じる。


「サーヴァントと契約したからマシュの容態が回復したのは解った。俺も経験したことがあるからな。でも、ならなんでマシュの体には令呪がないんだ?それに、それだと格好が変わったことの説明にはなってないぞ?」

「あっ、そうでしたね。すいません。肝心な部分を説明していませんでした。えっとですね、何故私の服装が変化しているのか、それは私が英霊と一体化したからなんです。」

「一体化⁈英霊と一体化って、それはつまりマシュの肉体がサーヴァントと融合したってことなのか?」

あまりに衝撃的な発言だったからか、こういったことには慣れていたはずなのに驚いてしまった。

「はい、そうです。と言っても私自身、経緯はあまり覚えていないのですが。」

「そうなのか・・・じゃあさ、マシュはサーヴァントと融合したって言ったけど、なんでそういうことができたんだ?そもそもそんなことって、あり得るのか?」

「あり得るかどうかは・・・私にはわかりません。それと融合できた理由は・・・私の簡単な推測でしかないですが、恐らくお互いの存在が消えかかっていたからだと思います。」

「じゃあ、サーヴァントの方も消えかかっていたってことか・・・」

マシュの発言から得た情報を思わず口にする。

「はい、そうなりますね。そもそも今回の特異点Fの調査と解決の為に事前にサーヴァントが召喚されていました。そして、先程私が説明し今先輩が呟いた通り、そのサーヴァントも消滅し座に返還される運命にありました。ですがその直前、そのサーヴァントは死にかかっていた私に契約を持ちかけてきたんです。」

「それはどういう内容だったんだ?」

「英霊としての能力と宝具を譲渡する代わりに、この特異点の歪みの大元を排除して欲しい、と・・・」

「成る程、そうだったのか。ってことはサーヴァントの人格は残ってるんだな。」

「いえ、違います。そのサーヴァントは私に戦闘能力を託して完全に消滅しました。」

「えっ、違うのか?じゃあよほど弱ってたんだな。」

「はい、その通りです。それと先輩、先輩は確か魔術を使えるんですよね?」

マシュがいきなり話を変えてきた。


「うん?そりゃ使えるけど、それがどうしたっていうんだ?」

「よかった、実はこれから私がサーヴァントと融合したということに対する最も確かな証拠を見せようと思いまして。」

「? それに魔術がどう関係してるんだ?・・・・・そうか、成る程そういうことか・・・!」

「はい、「解析」の魔術で私の肉体を見てもらおうということなんです。直に確認するのが一番ですからね。そして、これは凛さんにもしてもらいました。」

「そうなのか、遠坂?」

「ええ、やったわよ。私は話を聞いてるだけだとはっきりとは信じられなかったんだけどアレを見たら信じるしかなかったわね。」

「そうなのか。でも遠坂、俺はーーー」

「わかってるわかってる、士郎はもう信じてるんでしょ?まあ、ダメ押しってことで早く見てみなさいよ。ね?」

「あ、ああ。わかった。じゃあマシュ、始めるぞ。」

「はい、お願いします。」


遠坂に促されるままに、俺はマシュの肉体を解析した。

「解析、開始。(トレース、オン。)」


すると、遠坂が言っていたことがすぐ理解できた。


「っ、これは・・・・・!」

(身体能力、魔力回路、全てがサーヴァントのそれだ!しかも、それだけじゃない・・・)

「解析、終了。(トレース、オフ。)」

「どうでしたか、先輩?」

「ああすごいよマシュ、確かにこんなの常人じゃありえない。それに
このスペックから見るに、お前は相当強いサーヴァントと契約したみたいだな。」

「そうなんですか?それは驚きです。でも、だとしたら先輩たちのお力になれそうで嬉しい限りです。」

「それでなんだけど、マシュはこのサーヴァントの真名はわからないか?わかるなら言ってくれ。今後の戦闘で役立つからな。」

「そうね、何時まで此処にいなきゃならないかもはっきりとしないこの状況だからこそ、役立つ情報は一つでも多く収集しておかないといけないしね。」


遠坂も当たり前と言われればそれまでだが、やはり今後のことへの懸念を少なからず抱いているらしい。
だが、それに対してマシュは申し訳なさそうに、こう返してきた。


「それが・・・その英霊は私に最後まで真名を告げることなく消滅してしまったんです。なので、それに関してはお役に立てそうにありません。本当にすいません。」

「おいおい、そんなにヘコむなって。質問したのは俺なんだしさ。マシュは悪くないよ。それにわかるならでいいって言ったろ?わからないならそれで構わない。確かに周りがこんな状況だとそうなるのも解るからな。けど、それで全てが決まるわけじゃない。今は落ち込むよりも大事なことがあるだろ?」

俺はそう言いながらマシュを励ます。

「・・・確かにそうですね!」

「ああ、だから話し合いを再開しよう。まだ現状打破の為の課題はたくさん残ってるしな。」

「はい!」

「それでなんだけど、マシュ、遠坂。お前たちはあの竜牙兵の集団についてどう思う?」

「そうね、本来魔術の行使なしではわずか一体でも存在し得ない奴らが大量にいた。そのことから推測するに・・・あれがこの特異点F?が特異点たり得ている原因と言っても過言じゃないと思うわ。」

「はい、私もそう思います。」

「やっぱりそうか・・・じゃあ取り敢えずあいつらを叩いていくか。あちこちにいるだろうし。そしてそれと並行して生存者の救出もしよう。」

「わかりました。」

「ちょっと待って士郎、カルデアへの通信の有無も考えて霊脈を探すのも並行してやった方がいいと思うわ。」

「そうか、確かにそれも大事だよな。よし、じゃあ今後は生存者の救出、霊脈の確保、魔物の討伐、この3つを並行してやっていこう。」
俺たちが今後の行動についてそう決めた時だった。

「フォウ、フォーウ!」

「あっ、フォウさん!」
俺たちがよく知る生き物がそこにいた。

「え、フォウ?どうして此処に?もしかして一緒に来ちゃったの?」

「なんかそんな感じみたいだな。」

「そう、まあ来ちゃったものはしょうがないわ。それじゃあ士郎。」

「ああ、じゃあ始めよう。」

それを合図に、俺たちは行動を開始した。
 
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