Fate/kaleid night order
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第4節:A.D.2015 〜人理保障機関フィニス・カルデア③ 中央管制室にて〜
ドォォン!!!!ドゴォォン!!!!
「何だ何だ⁈急に明かりが消えたと思ったら物凄い爆発音が聞こえてきたり!さっきからいったい何が起こってるんだ⁈」
突如発生した異常事態への不安を隠す為かDr.ロマンがかなりの大声で叫んだ。
ブーーー‼︎
ブーーー‼︎
ブーーー‼︎
ブーーー‼︎
警報が何度も医務室中に鳴り響き、真っ暗な視界を何度も真っ赤に染める。そして間髪入れずにアナウンスが現在の状況を伝え始めた。
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返し放送します。職員は速やかに第二ゲートから退避ーーーー』
(成る程そういうことか、なら俺たちも早く此処からーーーん?中央管制室?ちょっと待て中央管制室だと⁈確かその場所には‼︎)
俺は重大なことを思い出した。
「士郎!中央管制室って確かあの子が向かった場所じゃなかった⁈」
その時遠坂が俺に叫んできた。どうやら彼女も同じことに気づいたらしい。俺はそれに「ああ!」と、相槌を返しながらDr.ロマンに確認をとった。
「ドクター!確認しますけど彼女が、マシュが向かった場所って確か中央管制室ですよね‼︎」
「う、。うんその通りだけど・・・ってああっ⁈」
彼が俺たちと同じことに気づき思わず声を漏らした時、既に俺と遠坂は医務室を飛び出していた。恐らくマシュを含めてファーストミッションに参加する予定だった者たちがそこにいるに違いない。
((なら、絶対助けてみせる!))、今はその想いだけが俺たちの体を動かし中央管制室へと走らせる。
「ところで悪いんだけど俺は此処から中央管制室までの道筋はわからないんだ、遠坂はわかるか?」
「そこからドクターに連れられて医務室まで来たから大丈夫!って言いたいとこだけど私もうろ覚えなのよね。だからこの状況じゃ役に立てそうにないわ。ごめんなさい。」
「そうか、遠坂にもわからないのか。ああくそっ、困ったな。いったいどうすればいいんだ!今は早く中央管制室に辿り着かないといけないのに!俺たちがこうしてる間にもマシュたちは助けを求めて苦しんでるかもしれないっていうのに‼︎」
「落ち着いて、士郎。」
「だけど‼︎」
そう強く言ってまた悩み始める俺を見た遠坂は「ハア。まったくもう、しょうがないわね。」と言うと俺に近づき、
ゴンッッ‼︎
「いてっ⁉︎」
強烈なデコピンを俺に見舞った。
「なんでいきなりデコピンなんかするんだよ遠坂‼︎」
「わからない?」
「ああ‼︎」
「じゃあハッキリ言ってあげる。士郎。さっきの貴方が、イリヤがギルガメッシュに殺されるのを見てた時と同じ顔してたからよ。」
「えっ・・・嘘だろ?」
「ほんとよ。」
「そんな、そんなバカな・・・・・」
「・・・あのね士郎、気持ちは私も同じよ。マシュたちのことが心配で焦るのもわかる、こんな状況なら尚のことね。けどだからこそ落ち着いて、自分の身を第一に考えて動かなきゃダメ。じゃないと灯台元暗し、人間って生き物は冷静じゃなくなったらいつもなら見えてる大切なものも全く見えなくなっちゃうのよ。私は士郎にはそうあって欲しくないと思ってる。貴方が正義の味方になるって思ってるなら尚更ね。」
「遠坂・・・・・」
「解ってくれた?」
「・・・ああ、そうだな。遠坂の言う通りだ。ありがとな、遠坂。遠坂だって焦ってる筈なのに、俺のことをそこまで考えてくれて。」
「礼なんていいわ。士郎が解ってくれたならそれで十分よ。」
「いや、遠坂がさっきデコピンしてくれてなきゃ俺はずっと1人で悩みっぱなしだったと思う。しつこいかもしれないけど、本当に有り難う。俺、やっぱり遠坂のこと好きだ。」
ボンッ‼︎
その瞬間、遠坂の顔がまるでゆでダコのように赤く染まった。
「はあっ⁈こ、こんな時にいきなり何言ってんのよアンタはぁ〜⁈」
「何って、俺はほんとのことを言っただけだぞ?」
「そうじゃなくてっ、ああもうっ!いいわ、今はこんなことで言い争ってる場合じゃないし!そうよ、早く中央管制室への道筋を把握しないとだったし!ほら、士郎もさっさと考える!。」
「?あ、ああ。勿論だけど、どうしたんだよ遠坂。今度はお前が変だぞ。」
「別に何でもないわよ!」
「そうか?まあ遠坂がそう言うなら信じるけど。体調とかがおかしくなったらすぐ言ってくれよ、遠坂も俺の大切な友人の1人なんだからな。」
「わかった!そうなったら言うから、早く考えて!」
「?、ああ。」
「まったくもう、鈍感スキルEXなのは相変わらずなんだから!」
「何か言ったか遠坂?」
「言ってないからさっさと考えなさい‼︎」
(やっぱり変だと思うんだけどなあ。)
俺はそう思いながらまた道筋について考え始めた。
(と言っても、結局のところどん詰まりなのはさっきから変わらないんだよな。時間がないのにほんとどうしたもんかなあ。っと、いけないいけない。常に冷静に、だったよな。」
俺がそんなことを考えていると、
ツンツン
俺の顔を何かがつついてくるので肩の辺りに手を伸ばしてみるとモコモコ•フワフワとした感触がした。そしてそれを掴んでみると「キュウーン⁈」としたちょっと前に聞いたような、だけどどこか驚いたような鳴き声がした。なのでその何かを掴んだまま顔の前まで持っていき確認すると、それはフォウだった。そして掴んだ部分はどうやらフォウの尻尾だったらしい。すまない。でも、それはそれとして
「ああ、フォウだったのか。そういやお前、医務室に入る前に俺の肩に乗っかってたっけ。ん?ってこと俺は医務室に入ってから今までお前の存在を忘れてたってことか。ごめんな、わざとじゃないけどずっと無視しちゃってて。」
俺はそう言いながらどうやらちょっと怒っているっぽいフォウの体を撫でてやる。するとフォウは「フォーウ、フォウ」と言いながら自分の体を俺の胸の辺りに擦り寄せ始めた。まるで「仕方ない、特別に許す。」と言っているようだった。
(カルデア中を自由気儘に闊歩してるらしいとはいえ、ここら辺は普通の動物と同じみたいだな。ーーーん?カルデア中を?待てよもしかしたら⁈)
その瞬間、俺はある考えを思いついた。
「遠坂、見つけたぞ中央管制室まで行く方法を!」
「その様子だと何かいい案が浮かんだみたいね。いいわ、じゃあお願い!」
「ああ、任せとけ!」
そう言ってから俺は、フォウを持ち上げて驚く彼?の顔をジッと見つめながらこう叫んだ。
「フォウ、俺と遠坂を中央管制室まで連れてってくれ!」
(頼む!我ながら無茶だとは思うけど、それでも通じてくれ!)
「・・・・・フォウ‼︎」
するとフォウは俺の必死の思いに気づいてくれたのか、ひと言叫んだかと思うとするりと俺の手から抜け出してジャンプし着地してそのまま勢いよく走り始めた。
「よし、追いかけるぞ遠坂!」
「成る程。フォウは確か、ドクターから聞いた話だといつもカルデア中を自由気儘に歩いてた筈。だから中央管制室への道筋もこの子なら知ってるに違いないって思った訳ね!」
「ああ、そういうことだ。急いであいつを追いかけるぞ!」
「ええ勿論よ!」
途中で時間移動(ここでの言い方だと確かレイシフトか)に無理やり巻き込まれたことによる疲れが再発したりもしたがマシュたちのことを考えればその程度は何の苦難にも感じず、なんとか中央管制室に辿りついた。
そして俺たちはすぐ中に入ったが、その光景を見て唖然とした。
何故なら並大抵の規模ではない火災が中央管制室内で発生していたからだ。しかもだ。これは、どう見ても・・・・・
「・・・人為的に起こされてる。」
「ええ、信じられないけどそうみたいね。これをやった奴は相当頭がトチ狂ってるに違いないわ。」
「ゼー、ゼー、何とか追いついたよ。ダ、ダメだぞ2人とも、勝手に医務室から出ていっ・ちゃあ・・・・・」
遅れてやってきたDr.ロマンも信じられないと言った顔でこう叫ぶ。
「な、なんてことだ!いったい誰がこんな破壊工作を⁈」
(Dr.ロマンが驚くのもわかるけど今は1分1秒が惜しまれる状況だ、早く手伝ってもらわないと!)
「ドクター、驚いてるところ悪いですけど手を貸してください!早く皆を助けないと‼︎」
「そうですドクター、早く!」
遠坂も俺と同じことをDr.ロマンに訴える。だが彼は、悲しそうに悔やむようにこう返してきた。
「士郎君と凛君の気持ちは痛いほど解るけど、それは無理だよ。見えるだろ?今この部屋で無事なのはカルデアスだけだ。つまり生存者はゼロだよ。」
「あんたねぇ‼︎」
遠坂がDr.ロマンに怒ろうとする。だが次の瞬間それは、それを上回るボリュームで放たれた俺の怒号によって掻き消された。
「なんでもう皆が死んでるって言い切れる、なんでそうだって決めつける!貴方が言う通り確かに生き残れないのかもしれない、けど今も助けを求めながらもがき苦しみ続けてる人がいるかもしれないじゃないか‼︎」
俺は頭に血が上り思わず叫んでしまった。そしてこの時代から数えて22年前に起きた事件で俺が見た光景を今の状況と重ねたことでまた叫んでしまった。
「俺はあの時のように目の前で助けを求める誰かを見捨てるなんてことはもう二度としたくない!誰かが傷つくのを、苦しむのを見るのは絶対嫌だ!だから逃げたりなんかしない、絶対に手を伸ばす、そして救ってみせる‼︎」
尚も叫びそうになったが、それは新たなアナウンスによって遮られた。
『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに異常 が あります。職員は手動で切り替えてください。隔壁閉鎖まで あと 50秒。中央区画に残っている職員は速やかに第ニゲートよりーーー』
Dr.ロマンは先ほどと変わらず悲痛な面持ちで、言い聞かせるように俺たちに言ってくる。
「・・・僕は地下の発電所に行く。カルデアの火を絶やす訳にはいかない。君たちは一刻も早くこの部屋を出て来た道をもどるんだ。寄り道とかは絶対にするなよ!今ならギリギリ間に合う筈だから、いいね?」
彼はそう言いながら部屋を走り去っていった。その直後、俺は走り出した。
(確かにドクターの言った通り時間はない、だけどやっぱりそれは諦める理由にはならない‼︎あの時みたいに誰かの悲鳴を無視するなんてことは絶対にしない、するもんか‼︎)
そう考えながら火が燃え移っていない箇所名や人が閉じ込められている箇所があるかどうか目を凝らして必死に探す。その間にまた違う内容のアナウンスが流れ始めた。
『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』
「ん?」
(ちょっとまて2004年1月30日、しかも冬木だと?!)
俺は即座に疑問を感じた。
「それってたしか第五次聖杯戦争が始まるより数週間前だよな・・・どういうことなんだ?」
思わず独りごちる。
「衛宮君、気持ちは解るけど今はそのことについてじっくり考えてる暇はないわ!火災がさっきよりも酷くなってきてる!」
遠坂も同じことが頭の中に浮かんだようだが、そのことよりも今はこの火災の中から人命を救助することの方が大事だと判断したらしい。
(確かにそうだ、今はこれよりも絶対に優先しなきゃいけないことがある!)
遠坂の発言に納得しつつ、また生存者がいるかどうか探し始める。その間もアナウンスは放送を続ける。
『ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠確保。アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください。』
しかし、そうしていてもどうしても気にしてしまうことがあった。
(くそっ、やっぱりわかってはいるけど時間がない!そして悔しいがドクターの言ってた通り俺たち以外の人影が全く見当たらない!)
その時だった。燃え盛る火の向こうに何かが動くのが見えた。
俺たちは全速力でそこまで走った。
((急げ!急げ!))
そして、そこにいたのはーーー
「「マシュ!」」
俺たちのよく知る後輩《マシュ》だった。だが、
「・・・・・・・・・・・、あ。せん、ぱい?りん、さん?それに、フォウさん。・・・無事だったんですね。良かっ、た、です。・・・コフッ。」
酷く虚ろな目をしており、また相当な重傷を負っていた。
「何も言わなくていい!無事でよかった。ごめんな、遅くなっちゃって。今すぐ助けるからな!」
全速力でマシュの体を押し潰している瓦礫や機材を退かしながらそう言ってやる。
「遠坂、今すぐお前が身につけてる限りの治癒魔術をマシュにかけてやってくれ。頼む‼︎」
遠坂にマシュの傷の治療を頼む。
「ええ任せなさい!て言いたいんだけど士郎、その前に一つ言っておくわね」
「何だ?」
「マシュの傷は、はっきり言って医学にはあまり詳しくない私でも解っちゃうくらいに酷いわ。私の腕じゃ完全には治せないかもしれないわよ、それでもいい?」
「ああ構わない、治せる限り治してくれ!」
「OK!今度こそ任せなさい!」
(とにかく今はマシュを連れて早く逃げないと!)
そうして遠坂はマシュの傷を治し始めた。だがマシュ本人はというと、否定的だった。
「お気持ちは、非常に、嬉しい、です。けど、いい、です。・・・・・どうせ、助かりません、から。それよりもお二人は、早く、脱出しないと。ですから、私のことはほt「ふざけるな!」え・・・?」
マシュは当然のことを言っているだけなのだが、さっきと同じように俺はどうしてもそれを認められなかった。
「手を伸ばせば助けられる命を黙って見捨てるなんて俺は絶対にしない!必ず救ってみせる!だからマシュも生きるのを諦めちゃダメだ!いいな⁈」
「で、でも。」
「マシュ、諦めて聞いといたほうがいいわよ〜。なんせこいつは相当なお人好しで、しかも怒ったら超がつくほど頑固なんだから。」
「おい遠坂、別に俺は頑固になってなんかない。当然のことを言ってるだけだ。」
「はいはい、そう言ってるのが何よりの証拠よ〜。」
「だから違「聞こえなーい。」・・・ハア、もういい。」
「・・・・・ありがとう、ございます。」
「ん?ああそうか、ならいいんだ。」
どうやらマシュは俺と遠坂の今のやり取りを見て少し気力を取り戻したようだ。
(思わず叫んじゃったけど、どうやら本人は解ってくれたみたいだしよかったよかった。)
少し安心した。
だが、それを嘲笑うかのように、状況はさらに一変した。
「あ・・・・・・・・・・・」
Dr.ロマンがカルデアスと呼んでいた大きな球体がある方向を見ながらマシュがそう漏らす。表情から察するに酷く驚いているようだった。
それが何故かを知る為に俺もマシュと同じ方向を見る。遠坂も魔術による治癒を一旦ストップして、俺に続いた。
そして2人揃ってやはり酷く驚いた。
「「なっ・・・・・?」」
カルデアスが俺たちの周囲の炎と同じく赫く煌々と燃えていたのだ。
驚く俺たちをよそにまた冷徹なアナウンスが響き始める。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。
シバによる近未来観測データの書き換えをします。
近未来百年までの地球において
人類の痕跡は 発見 できません。
人類の生存は 確認 できません。
人類の未来は 保証 できません』
「えっ、どういうことだ⁈」」
(マシュに教えてもらった通りなら確かカルデアスは疑似地球環境モデルでシバはそれの状態を逐一把握し安全な状態を維持する為の疑似近未来観測レンズだった筈だ。それが、こんなとんでもないことを言いだすなんて・・・。)
「一体何が起きた(んだorっていうのよ)⁉︎」
俺と遠坂はまた2人揃って同じ疑問を口にした。
「・・・カルデアスが、真っ赤に、染まっちゃいました・・・・・。あ、いえ、そんなことより・・・・・」
その音は、マシュが真紅のカルデアスへの感想を悲しそうに口にしたのと同時に俺と遠坂の耳に入ってきた。
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
「なんだ⁈」
そう叫びながらカルデアスから一旦目を離し辺りを見回すと隔壁が超高速で至るところを塞いでいっており、気づけば俺たちは中央管制室に完全に閉じ込められた形になってしまっていた。
『中央区画隔壁、封鎖完了しました。館内戦場開始まであと720秒です。』
「隔壁、閉まっちゃい、ました。・・・・・もう、外には・・・・・」
「さっき諦めるなって言ったろ!絶対になんとかなる、いやする、してみせる‼︎」
俺はある方法を試す為、遠坂に確認を取った。
「遠坂、俺の投影やお前の宝石魔術であの隔壁を壊せないか⁈」
そう素手では絶対に無理だろうが俺や遠坂の魔術ならどうにかできるのではないかと考えたのだ。だが、遠坂の答えはそれを否定するものだった。
「それは無理よ、士郎。」
「なんでだよ⁉︎」
「あなたか私かどちらかがマシュを見てる間にどちらかの持つ魔術で隔壁を破壊できるんじゃないかってことでしょ?その案自体は私も賛成よ。確かにそれなら脱出できるかもしれない。」
「なら!」
「落ち着けってさっき私言ったわよね?「あ、す、すまない。」わかったならあれを見なさい。」
遠坂はそう言って今の俺の位置から見て正面に降りている隔壁の床付近を指差した。
「ん?何かキラキラとしたものが落ちてるな。あれは宝石の欠片だな。遠坂が持ってるのと色合いが似てるな・・・えっ、まさか⁈てことは・・・」
「そう、さっきフィンとただの魔力弾をそれぞれ一発ずつこの隔壁に打ってみたのよ。そしたらこのザマよ。だから隔壁の構造を確認してみたら魔術による直接的な攻撃を無効化する複合魔術があらかじめ掛けられてるってことが判ったのよ。あと宝石が砕ける程度の硬さがあるってこともね。
「そういうことか。ん?でも、それって魔術を使った間接的な攻撃は通るってことだよな?」
俺は生じた疑問をぶつけた。
「そうなるわね。」
その答えを聞いた瞬間、俺は遠坂に対して(ハア。遠坂、またアレをやるとこだったな。)と思ってしまった。
「じゃあ、それにあたる俺の投影魔術はやっぱりいけるんじゃないか?」
「そう言われれば確かにそうね。ーーーってああっ⁈」
そこで遠坂は己の勘違いに気づいた。
「ゴメン士郎!私またうっかりしちゃうとこだった。」
それに対して(やっとか。)と思いながらこう言う。
「まったく。まあ、遠坂のそれには慣れっこだし前のに比べたら規模も全然だし何より今回はまだ起こりかけだったから別に謝らなくていいよ。それよりもさっきの案の通り俺はすぐあの隔壁を破壊してくるから、それが終わるまで遠坂はマシュが負ってる傷の治療よりもマシュに乗っかってる瓦礫とかを退かすのを優先してくれ。わかったか?」
「あ、当たり前よ!」
マシュにも確認をとる。
「マシュもそれでいいか?」
「はい、お願い、します。」
途切れ途切れながらも彼女はそう答えてくれた。
「よし、投影、開始《トレース、オン》。」
夫婦剣である干将•莫耶を投影し駆け出す。そして軽く一回斬りこむ。だが、その程度ではなんともないのか傷が付いていない。ならばと間髪入れずに今度は深く交差させるように1発繰り出す。するとガタンという音を2回立てて崩れ落ちた。
「よし、上手くいったぞ!」
だが、次の瞬間その考えは甘かったのだと思い知らされた。
何故なら2枚目の隔壁が俺の前にそびえていたからだ。
「なんでだ⁈」
といった瞬間、あることに気づく。
(そういえばこの部屋に通じる扉は地図で見たところ2つだったのに降下する音は確か5回だった。つまりこっちの隔壁はこれでしまいか最悪この向こうにもう1枚あるってことか!クソッ、なんで聞いた瞬間に気づけなかったんだ!だけど、嘆いてられるほど時間はない。早くこいつを破壊しないと!)
そう考えながら1枚目を破壊したのと同じ威力で斬りつける。だがそれでも砕けていなかった。
(奥に行くほど硬くなってるってことか!カルデアもまた面倒くさいシステムを作ってくれたな!)
心の中で軽い愚痴をこぼしながらも斬り続け2枚目を破壊し終える。すると考えていた最悪のパターンが姿を現した。
(3枚目はこっちだったか!でもだからって惚けてる訳にはいかない!)
そう思い、また斬り始める。そして2分くらいかかって漸く斬り終えるた。そしてスマホで時間を確認すると隔壁が降りてから7分、1枚目を壊し始めてから6分が経過していた。
(遠坂のほうは終わってないじゃないんだろうか?)
そう思い後ろを向くとやはり考えた通りだった。俺が疲労が目に見えるほど悪戦苦闘しながらも隔壁を壊し始める前と比べると減らしてくれているがそれでもまだ結構な量がマシュにのし掛かったままだ。
(仕方ない、遠坂はこれくらい自分1人でやれるって嫌がるかもしれないけど、今は館内洗浄まで後約五分しかないし時間がかかればかかるほどマシュの傷は広がるだけだ。だから俺が手伝うしかない!)
「遠坂、疲れてるみたいだしあと五分ぐらいしかないから俺も手伝うよ。」
すると遠坂はやはり疲れていたようで、
「あ、ありがと士郎。凄く助かるわ。」
「いいって、これくらいしないと遠坂の頑張りに失礼だ。それにマシュの命が懸かってるからな。嫌でも今はそうしたくなる。」
「そうね、確かにその通りよね。」
「ああ、だから早く残りの瓦礫や機材を全部退かしてしまおう。そして一刻も早く3人で此処から脱出しよう!」
「ええ!」
こうしてお互いを励ましあったあと、すぐにマシュの身体を押し潰している残りの瓦礫や機材の除去を開始した。
***4分後***
俺と遠坂は漸くマシュを瓦礫の下から出すことに成功した。
「なんとか退け終わったな、それじゃ遠坂。」
「ええ、治療を再開するわ。じゃあマシュ、またジッとしててね。」
「はい、お願い、します・・・」
マシュに確認をとり遠坂が治療を再開しようとした時だった。
ドォォン!!!!
何かが落下した音が聞こえた。思わず後ろを振り向く。そして俺は何が起きたのかを知った。そして運命というものはやはり気まぐれなのかもしれないと思ってしまった。
何故なら、新しく天井から落下した瓦礫によって俺がさっきなんとか隔壁を破壊して作りだしたこの日部屋のドアへと続く道が完全に塞がれてしまっていたからだ。
その瓦礫は解析してみたところマシュを押し潰していたものよりも全体的にかなり大きく厚く、また隔壁にかけられていたのと同種の魔法がかけられているということが判明した。また遠坂はマシュの身体の治療の為に自身の持つ全ての回復系の魔術を総動員していたので魔力がかなり減ってしまっている。つまりマシュのことを考えると、この状況では取ってはいけない方法なのだが俺の攻撃で壊すしかないということなのだ。
『館内清浄開始まで残り30秒を切りました。』
そこへまるで申し合わせたかのように残り時間がごく僅かであるということを告げるアナウンスが流れこの状況をさらに悪化させる。
こうなると此処からの脱出はもう不可能に近いと言える。だが、
「あきらめない、最後までとことん足掻いてやる‼︎」
そう叫びながら俺は目の前の瓦礫を壊してゆく。
マシュの身体の状態を考えるとやってはいけないのにやらなくてはいけないとはなんたる矛盾だろうか。
「ほんとにすまないマシュ!お前の身体ことを考えるとほんとはやっちゃいけないのに‼︎」
この状況でその方法しか思いつけず、また選べない自身の無力さに俺は心底腹が立っていた。
(また俺は救える筈の命を見捨てるのか!正義の味方になるって誓ったくせになんて最低な奴なんだ、俺は!」
『館内洗浄まで残り20秒。』
(更に状況は悪化してゆく。なのに、ただこの瓦礫を壊すしかできない。)
「クソッ、いったいどうすれば!」
イラつきかける。だがそこで突然マシュが俺を呼んだ。
「先輩・・・こっちに、来て、くれませんか?」
すぐに駆け寄る。
「どうしたんだマシュ、やっぱり傷が傷むのか⁈」
「いえ、違い、ます・・・。」
だがマシュはそう言いながらボロボロの身体で精一杯首を横に振った。それは彼女が今の状態でなければ到底振ったとは言えないものだったが。
「なら、いったい何なんだ⁈」
どうしても気になってしまう。
「落ち着きなさい士郎!」
「先輩、そして凛さん。私の両手を握ってくれませんか?やっぱり最期は先輩たちの手を握りながら、逝きたいので・・・」
その瞬間怒りではなく悲しみが溢れそうになった。
「なんだ、それぐらい何回だってしてやる。だから死んじゃダメだ。!死ぬな、マシュ‼︎」
「ええそうよ!神様がいいって言っても私は絶対許さないんだから‼︎」
「ふふ、ありがとうございます。やっぱり先輩と凛さんは優しいから手もとても暖かいです。」
マシュが笑顔でそう返してくれた時だった。丁度残り10秒になったらしく残り10秒を経過したことを告げるアナウンスとそれとは別のアナウンスの2つが同時に流れ始めた。
『館内洗浄まで残り10秒。』
『コフィン内マスターのバイタル基準値に達していません。レイシフト 定員に 達していません。
該当マスター検索中…………発見しました。
適応番号無し再設定、適応番号48 遠坂凛、適応番号49 衛宮士郎 をマスターとして設定します。
アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します』
『レイシフト開始まで あと3』
「えっ、レイシフト⁈いったいどういうことだ⁈」
俺がそう叫んだ直後、俺たちの身体は光に包まれ始めた。
「なっ、何だ⁈」 「いったい何なのコレ⁈」
『2』
そして青い渦が突如出現した。
「「「⁈」」」
『1』
その渦は猛烈な勢いで「えええええ?????!!!!!」と叫ぶ俺と遠坂、そして横たわったままのマシュを吸い込み閉じてしまった。後には、ただ炎が燃え盛っているだけだった。
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