魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Eipic9彼の者ら、狂人につき~Prison Family~
†††Sideルシリオン†††
個人閲覧レポート。
新暦75年3月15日。時空管理局最高評議会および本局運用部総部長リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ少将より、1年間限定の試験部隊となる古代遺失物管理部・機動六課へ調査官として出向するよう指令を受け、これも拝命。1年間隊舎に常駐する特務調査官となる。
(戦力としてはやて達に協力したかったが、敵でも味方でもない中立になってしまったな)
同月16日。機動六課の後見人である聖王教会騎士にして管理局理事官カリム・グラシア、次元航行部提督クロノ・ハラオウンの両名と、聖王教会本部にて会談。機動六課設立の真の経緯を聴く。騎士カリムの固有スキル、預言者の著書プロフェーティン・シュリフテンによって記された預言を阻止することである、と。
(やはり先の次元世界の預言とは違っていたな。まぁ当たり前な話だが)
クロノとカリムから、はやてのリミッター解除の許可を俺に委ねると言われた。先の次元世界ではあの2人がそれぞれ1回ずつ持っていたが、どうやら今回は俺1人のようだ。
(というか、もう俺の仕事を増やさないでくれ・・・と思ったのは秘密だ)
同年4月29日。古代遺失物管理部・機動六課が問題なく発足。聖王教会教会騎士団・朱朝顔陸士隊ロート・ヴィンデとの“レリック”捜査の協力体制が整う。ファーストミッションまでの約2週間、然したる違反もなく順調に稼働。
同年5月13日。ファーストミッションとなったリニアレールへのガジェットドローン襲撃事件。実働部隊の新人フォワード4名の活躍によって、ロストロギア・“レリック”は無事に回収。同時、本件の首謀者に広域次元犯罪者・プライソンが挙げられる。
(俺がプライソンのアジトから発掘した兵器開発データの中にあった航空兵器が登場し、しかもガジェットⅡ型を召喚した。もう言い逃れは出来ないだろう)
同月19日。機動六課課長・八神はやて二等陸佐が、第108陸士部隊へと赴き、密輸物捜査の協力を申し出、同隊隊長ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐はこれを受諾。“レリック”捜査網を大きく拡大させる。
同月25日。第97管理外世界、世界名:地球に出現したロストロギアの回収を、機動六課の後見人カリム・グラシアから依頼を受け、八神部隊長を始めとした実働部隊全メンバーが出動。無事にロストロギアを回収したのを確認。
(一応、査察と言う名目で付いてくるように誘われたが、はやて達が居ない間の六課の査察もあるから断ったんだよな。・・・ま、翠屋のケーキをお土産に貰ったのは良かった)
同日。ミッドチルダ西部・レンスター地区のハイウェイにて“レリック”を運搬中だったトレーラーがガジェットの襲撃を受ける。第108陸士部隊のアリサ・バニングス二等陸尉、ギンガ・ナカジマ陸曹、教会騎士団の騎士イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトの活躍によって、“レリック”は回収され、ガジェットの殲滅も完了。
(幸運な事に死者は出なかったが、事故った車両や破壊された道路やトンネルなどの被害総額がまぁ大きかった)
同年6月3日。ホテル・アグスタにて開催される骨董美術品オークションの会場及び人員の警備。そこで問題が発生した。ティアナの誤射未遂、アリシアの撃墜。
(やっぱり起きてしまったな・・・)
ティアナの暴走は予定調和の如く発生。やはりティーダ一尉の死が引き金になっている。彼を死なさないことが、ティアナ暴走の抑止力になるはずだったわけだ。もう全てが手遅れだが。問題はそれだけではない。さらに問題が続いて起きた。
「プライソン・・・!」
ギュッと握り拳を作る。モニターに映る少女と召喚虫を見詰める。アリシアを撃墜したのは、先の次元世界で見たレヴィヤタンと瓜二つの少女。十中八九リヴィア・アルピーノだ。そして、シグナムとザフィーラの前に現れたのはルーテシアの召喚虫ガリュー。ということは、ヴィータとアイリに向けて射撃魔法を放っていたのは「メガーヌさん・・・」ということになる。
(おそらく先の次元世界のルーテシアのように洗脳されているか、もしくはアギトのようにレーゼフェアの手に寄って記憶を改ざんされているか・・・)
どちらにしろ許されるものじゃない。今のところ俺だけが知る事実だが、現状の六課に伝えることは出来ない。先の次元世界を知っているからこそ辿り着けるこの事実。だから六課自らの捜査で辿り着いてもらわないといけない。
(もう頭が痛い・・・)
それで、ティアナの暴走は続いた。クロスシフトC問題だな。なのはとの模擬戦前に偶然にも俺が練習台になれたのが良かった。アリシアからもありがたい言葉を貰っていたことで、ティアナは先の次元世界のようになのはに撃墜されずに済んだ。あと個人的なものだが、スバルから許してもらえたのが嬉しかった。
(クイントさんの墓参りに一緒に行こうとまで言ってくれたしな)
まぁ、そんなこんなでティアナはなのはと絆を深め、俺もスバルと仲直りが出来た。そして事件も大きく動き始め、問題もこれからさらに大きく、深くなっていくだろう。今日はフォワード達の休暇。先の次元世界ではヴィヴィオとの邂逅、戦闘機人との“レリック”争奪戦が起きるはず。
「さてさて。一体どんな戦力が送り込まれてくるか判らないが・・・――」
俺のみが閲覧できるレポートを保存してからモニターを消し、「頑張ってくれよ、みんな」俺に用意された隊員宿舎の1室から出る。向かうのは隊舎の部隊長室。そこに俺専用のデスクが設けられている。調査官である以上、出向期間中は1日たりとも休みはないから今日も仕事だ。もう特務依頼が来ても応じたくないな。
「あ、セインテスト調査官!」
「おはようございます、セインテスト調査官♪」
エントランスに着くとそこにはフェイトとエリオが居て、真っ先に俺に気付いたエリオはお辞儀して、フェイトは朝の挨拶を送ってくれた。俺も「おはよう、モンディアル三士、ハラオウン執務官」微笑みを作って挨拶返し。もう挨拶くらい普通にしても良いだろう。本当はダメだが・・・。
「お待たせしましたー♪」
トタトタと忙しない足音と一緒にキャロが駆けて来た。エリオとキャロはデートのためにオシャレをしていて、2人とも可愛らしい。エリオがキャロの微笑みに顔を赤くしているのを微笑ましく眺めていると、「おはようございます。セインテスト調査官♪」キャロは俺にも微笑みを向けてくれた。
「おはよう、ルシエ三士。その服、とても似合っていて可愛いよ」
「っ! あ、ありがとうございます! そう言ってくれると、とっても嬉しいです!」
『エリオ。男の子だから、しっかりとキャロをエスコートをな』
『あ、はいっ、ありがとうございます、ルシルさん! 一応シャーリーさんからスケジュールを貰ってるので、大丈夫だと思います!』
『そうか。・・・キャロ。せっかくの休暇だ。精いっぱい楽しんでおいで』
『ありがとうございますっ、ルシルさん♪』
念話を使って素の俺のままにエリオとキャロにそう伝える。そして2人は「いってきます!」俺とフェイトに見送られながら街へと出掛けて行った。2人を見送った俺たちは隊舎へと向かう。その途中、バイクの排気音が聞こえてきた。
「あ、スターズのみんなだ」
俺とフェイトの視線の先、そこには真っ赤なバイクに跨ったスバルとティアナ、側にはなのはが佇んでいる。スバルとティアナが「あっ、フェイトさん、セインテスト調査官。おはようございます!」俺たちに気付いて挨拶してくれた。
「おはよう、スバル、ティアナ。バイクで街に出るんだね。事故には気を付けてね」
「良い休暇を」
「「はいっ! それでは、いってきま~す!」」
バイクに2人乗りしているティアナとスバルが、俺たちに手を振って颯爽と去って行った。俺は踵を返して隊舎へと歩き出す。なのはが「あ、今からオフィスですよね。ご一緒します!」駆け寄って来て、「あ、待って、私も!」フェイトも遅れて駆け寄って来た。3人で隊舎前に来たところで・・・
「おう、なのは、フェイト、あとセインテスト調査官」
「ヴィータちゃん」
「シグナムも」
隊舎からヴィータとシグナムが出て来た。シグナムが「セインテスト調査官。陸士108部隊に行って参ります」俺にそう報告してくれた。
「ナカジマ三佐が合同捜査本部を立ち上げてくれるらしく、その打ち合わせを。ヴィータはあちらの魔導師に戦技指導を行います」
「了解した。ナカジマ三佐にはよろしく伝えておいて下さい」
「はい。ではこれで」
「あの、捜査周りになら私も行った方が・・・」
すれ違おうとしていたシグナムにフェイトがそう言うと、「準備は我われ副官の仕事だ。それに、アリシアが動けない今、お前の仕事量は増えるばかり。良い機会だ、今日はのんびりしていろ」シグナムは気遣いの言葉を掛けた。
「あ、ありがとうございます?で良いんでしょうか・・・?」
「それで構わん。では行ってくる」
「「いってらっしゃーい」」
ヴィータとシグナムも、陸士部隊が採用しているジープタイプの車に乗って108部隊の隊舎へ向かった。これで隊舎に残るのは隊長のみとなった。彼女たちも今日は隊舎で待機となる。改めて隊舎のエントランスを潜り・・・
「それじゃあ私は、医務室に寄って来るね」
「アリシアちゃんのお見舞いだね。うん、それじゃあまたオフィスで」
「うん、オフィスで」
骨折で医務室に入院しているアリシアのお見舞いへ向かうフェイトと別れた。そして次は「セインテスト調査官。私もこれで」オフィスに着いたことで、「ああ」なのはとも別れた。オフィスに入っていくなのはを見送り、俺は仕事場である部隊長室へと向かう。
「ルシル!・・・じゃなかった、セインテスト調査官!」
「おはようです、セインテスト調査官!」
「おはようございます~!」
その途中で、アイリとリイン、それにシャーリーが前からやって来た。俺も朝の挨拶を返して、「これからどこへ?」3人にそう訊ねる。
「私とリイン曹長はメンテナンスルームへ」
「これからもっと忙しくなるでしょうから、それまでにリインのフルメンテをしてもらうですよ」
「アイリは医務室で今日はのんび~り。新人たちが居ないと暇でしょうがないんだよね」
医務室の常連となりつつあるフォワードは今日居ないからな。医務室が暇になるのも仕方ないだろう。が、調査官の前でのその発言はいかがなものかと思うぞ、アイリ。そんな3人とも別れ、「おはようございます、八神部隊長」はやてとリイン、それに俺の仕事場である部隊長室へとやって来た。
「あ、おはようございます、セインテスト調査官」
執務デスクの椅子に座ってポケーッとしていたはやて。6月も中盤で少しずつ温かくなってきて、隊舎内も過ごしやすいように環境調整されていることもあって、気を緩めるとうたた寝してしまうんだよな。
「「今日も1日よろしくお願いします」」
お互いにお辞儀しあって、俺も自分専用のデスクの椅子に座って、「さて。始めますか」早速仕事を開始した。
・―・―・―・―・
第1世界ミッドチルダの西部と中央区画を繋ぐ4車線の公道。多くの車両が目的地を目指して走行している。そんな数ある車両の内の1台である大型トレーラーは十数kmの速度超過で公道を進んでいた。しかし、突如として荷台のコンテナが爆発してトレーラーは大きく傾き、そのまま横転する。轟音と派手な火花を周囲に撒き散らしながら、トレーラーはすぐ前にあったトンネル内にまで滑り込んで行ってしまった。その途中に薙ぎ払った一般車は計32台。至るところから痛みに悶える声や、救急・消防隊を呼ぶための通報を行っている声が聞こえてくる。
「・・・いで・・逃げ・・・」
事故の原因となったトレーラーはトンネルのちょうど半ば付近で止まった。牽引されていたコンテナ車は本体であるトレーラーと分離していて、さらに奥で道路を塞ぐように横たわっている。炎と黒煙を上げるコンテナより幼い子供の声が漏れ聞こえてきた。そして大穴が空いている個所より小さな人影が這い出てきた。
「・・・ヴィオ・・・」
「・・・セティ・・・」
出てきたのは幼い子供2人だった。真っ先に這い出てきたのは、炎に照らされながらも美しく輝く銀色の長髪、蒼と紅の光彩異色の瞳を有した子供。その子供に引っ張り出してもらうように這い出てきたもう1人の子供は、炎に照らされてより一層の輝きを際立たせている金色の長髪、赤と翠の光彩異色の瞳を有している。2人揃ってボロボロな、まるで囚人服のような服を着ていて、さらには裸足だ。
「行こう・・・がんばって・・・」
「・・・う・・ん・・・」
トンネルの壁面にある非常口を目指して歩き出す2人の子供。銀髪の子供の両手に握られているのは2本の鎖。それぞれの鎖の先端には大きなケースが2つ繋げられている。子供が歩いてケースを引き摺るたびにゴリゴリと地面を擦る音が発せられる。
「ごほっ、こほっ、お、お待ちなさい!」
子供たちを呼び止める声がトンネル内に響き渡る。銀髪の子供が「・・・ゼータ」声の主の名前を発した。その視線の先には10代半ばと思しき少女が1人、トレーラーの運転席から降り立っていた。艶やかなストレートの黒髪が熱風で揺らめいている。白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカート、クリーム色のカーディガンという格好だ。
「プライソン・・・我が父上のご命令を、お前たちを輸送する任務を全うしなければ・・・! そうでなければ、娘としての私の存在価値が! IS発動、サウザンドブレス!」
ゼータと呼ばれた少女の足元に黄色に輝くテンプレートが展開された。彼女の両手に握られているのは2つの扇で、バッと勢いよく開かれた。そして「骨折させてでも連れて参ります!」ゼータは2人の子供へと突撃した。
「・・・フォルセティ。ママ・・・」
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。・・・ぜったい、ママのところに連れて行くから・・・!」
金髪の子供が銀髪の子供の名前を不安そうに呼ぶと、銀髪の子供は優しい声色で金髪の子供の名前を呼び返し、そして・・・
――蠢け超然なる大地――
ゼータとの交戦に入った。
・―・―・―・―・
ミッドチルダ東部にある広大な森林地区。その奥には時空管理局によって広域指名手配を受けている次元犯罪者、プライソンの本拠地の研究所がある。なんてことはない洞窟を入り口として、その奥には人工的に造られた空間が広がっている。施設は蟻の巣の如く地下へと伸びており、彼の製作した兵器の生産施設、格納庫、居住区などなどが幾つもある。
その施設内の通路を歩く少女5人。それぞれ白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカートと揃えられた衣装を身に纏っているが、個性を出すつもりか5人とも別々のオプションを身に付けている。
「ねえねえ、誰がパパに報告する? デルタは嫌だよ」
デルタ。12歳ほどの少女で、オプションとしてクリーム色のベストを着ている。身長は140cmほど。オレンジ色をしたロングヘアをポニーテールにしている。
「ここはやっぱり長女のアルファ姉さんで」
「長女だからって押し付けないで、ベータ。ここは仲良く姉妹全員で・・・。ね? デルタ、イプシロン」
アルファ。18歳ほどの少女で、オプションとして藍色のブレザーを着ている。身長は165cmほど。ブロンドのウェーブの掛かったロングヘア。
ベータ。15歳ほどの少女で、オプションとして黒いセーターを腰に巻いている。身長は160cmほど。栗色のボブで、左目が前髪で隠れている。
「えー? いやだよ、怒られるのが判っていながら報告しに行くなんて。下の姉妹がやればいいよ。ね? イプシロン」
「デルタの意見をイプシロンは拒否します。こういう場合は、責任ある長子が行うべきです」
イプシロン。10歳ほどの少女で、オプションとしてデフォルメされた猫と鼠のイラストが描かれた灰色のパーカーを着ている。身長は130cmほど。青色のセミロングヘアで額を大きく出している。
「えー? やっぱりそうなっちゃうの?」
「そもそもガンマお姉ちゃん独りだけ自室に引き籠ってるのが納得いかな~い」
「デルタの意見にイプシロンは肯定します。ズルイです、卑怯です」
女3人寄れば姦しいというように、彼女たちは少々騒がしい。彼女たちはプライソンによって一から生み出されたサイボーグだ。長女アルファ、次女ベータ、三女ガンマ、四女デルタ、五女イプシロン、六女ゼータの全6機で、それぞれがある目的の為だけに製作された生体部品。プライソンは自分が造った兵器にはそれぞれ作品名が付けられており、彼女たちの作品名は“スキュラシリーズ”という。
「ガンマはまぁ許してあげて。あの子の機体としての性能を思えば引き籠るのが仕事だから
「だったらベータお姉ちゃんが行ってきてよ」
「どうしてそこで、だったら、になるのか解らない。OK、じゃあこうしよう。多数決で決める。これで文句無し」
ベータの出した採決案にアルファ達は賛同し、そして「イプシロンに決定!」となってしまった。5機中4機がイプシロンに票を入れたのだ、どう見ても末っ子に面倒事を押しつけるダメダメな姉の図だった。フルフルと全身を震わせるイプシロンは、涙を湛えた両目で姉たちをキッと睨みつけ・・・
「イプシロンは姉たちに不快を表します! いぃーっだ!」
彼女たちの製作者であり父でもあるプライソンの居る研究室へと駆け出していった。残された姉たちは顔を見合わせてから頷き合った。どうやらイプシロンに押し付けたことへの罪悪感を覚えたことで、「行こう」慌ててイプシロンの後を追うことを決めたようだ。そうして姉妹全員で研修室へと足を運び、何かしらの作業中だった「プライソン」の背中に声を掛けた。
「なんだ? 今はお前たちに構ってる暇はないぞ? うるさいから向こうへ行っていろ」
デスクチェアに腰かけていたプライソンはクルっと姉妹たちに体を向けた。座っていたのはまだあどけない少年だった。薄紫色の髪はもっさりボサボサとしており、身嗜みには几帳面ではないことが窺える。瞳の色は黄金で釣り目。笑うと八重歯が光る。生意気そうな小僧っと言った感じだ。青いストライプが縦に描かれたYシャツ、蝶ネクタイ、黒ベスト、そして紫色のジュストコールを羽織っている。
「あの、ですね。プライソンがゼータに指示を出していた、その、例の作品の輸送の件ですが・・・」
「んあぁ? あー、制御端末と防衛端末か」
プライソンは操作盤へと体を向き直して、空間モニタータイプのキーボードのキーを軽快に打っていく。展開されたモニターに表示されたのは3つの生体ポッドで、内2つのポッド内に漂うのは2人の幼い子供。体のつくりからして少年と少女だ。
1人は金髪の少女で、ポッド下部の金属板にプリンツェッスィン・ヴィヴィオと刻印されている。1人は銀髪の少年で、金属板にプフェルトナー・フォルセティと刻印されている。そして最後の1つのポッドは空だが、金属板にはカイゼリン・キュンナと刻印されている。
「そう言えば遅いな。予定ではそろそろ東部に入ったと連絡があってもいい頃だろうが。何をもたもたしているんだ、アイツは」
「あ、あの、イプシロンは――」
「それでですね。ゼータからの視覚情報が私たち姉妹に届きまして・・・」
「ゼータが、えっと・・・プフェルトナーによって殺害されてしまったようでして・・・」
おどおどしているイプシロンに代わって、アルファとベータがそう報告をした。プライソンは「なんだと? 見せてみろ」ゼータから送られてきた映像をモニターに流すように命令した。モニターが切り替わり、ゼータ視点の映像が流れだす。
『骨折させてでも連れて参ります!』
――蠢け超然なる大地――
扇を手に、銀髪の少年フォルセティと金髪の少女ヴィヴィオへと疾駆するゼータ。彼女たちの間の地面が大きく爆ぜ、大小の石礫や意識的に構築された石柱が何本とゼータへと殺到していく。
『この程度なんともありません!』
――サウザンドブレス――
ゼータが勢いよく両手に持つ扇を振るうととんでもない突風が生まれ、何十発という石礫を押し返し、石柱も先端から瓦解していく。砕かれた瓦礫などが全てフォルセティとヴィヴィオの元へと殺到する。
――闇よ誘え、汝の宵手――
そんな瓦礫を受け止めるのは影で出来た、人の腕を形をした平たい触手。さらに・・・
――捕らえ打て、汝の懲炎――
『な・・・!? あっづ・・・!?』
ゼータの四肢や胴体に絡みつくのは炎で出来た縄。炎で出来ているため『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・!』彼女の皮膚や服を焼き始めた。フォルセティがヴィヴィオの視界にゼータが入らないように前から抱きしめると・・・
『護り給え、汝の万盾』
術式名を詠唱。するとサファイアブルーに輝く小さな円い盾が無数に展開され、それらが合わさってフォルセティとヴィヴィオを覆うように半球状のバリアへと変化した。
『さようなら、ゼータ』
『ヒッ! ま、待っ――』
――輝き燃えろ、汝の威容 ――
ゼータの足元にサファイアブルーの円陣が展開され、『っ!!』カッと蒼炎が噴き上がった。ゼータは声にならない悲鳴を上げる。全身が機械部品のサイボーグであるため、ただの人間より頑丈で死に難い。だが、それが彼女にとっての絶望だった。生きながらに焼却されているにも拘らず、すぐには死ぬことが出来ないのだ。蒼炎で視界内が満ち、ゼータに背を向けて歩きだすフォルセティとヴィヴィオの後ろ姿が映ってすぐ、ブツンとブラックアウトした。
「映像はここで途切れました。再起動を待ってみましたが・・・一向に行われないので、まず間違いなく死亡したと結論付けられます」
「映像を見て判る通りプフェルトナーはレリックを2つ持ち去っています。いかがしましょうか・・・?」
生まれた理由は何であろうと末の妹を喪ったことで暗い影を落とす“スキュラ”達。そんな中でプライソンは「さすがは魔神オーディンの、か。それでゼータは、どの作品の担当だったか?」悲しみの感情を一切見せることなく、誰とも言わずにそう訊ねた。
「海洋艦隊の担当ですが・・・」
「あぁ、アイツからの依頼品か。ならゼータが破壊されたくらいで慌てる必要はないな。どうせ海洋艦隊は不要になる」
“スキュラ”はゼータが殺害されたと報告したが、プライソンはゼータが破壊された、と表現した。あくまで彼にとって彼女たち“スキュラ”は生命体ではなく機械作品としか見ていないのだ。たとえそれでも彼女たちは、プライソンを父として敬い続けるだろう。彼の物言いに誰も反論しないどころか嫌な顔1つとしてしないのが良い証拠だ。
「とりあえずプリンツェッスィンとプフェルトナー、ついでにレリックを回収しないとな」
「私たちが出ましょうか?」
「馬鹿を言えアルファ。お前たちは大事な体だ。ゼータみたく使い道がどの道ないような奴とは違って、お前たちの仕事はもうすぐだ。ここで喪ったら俺は本気で怒る」
プライソンが“スキュラ”達にそう伝えると、彼女たちは頬を上気させて嬉しそうに笑みを浮かべた。愛した父から使い道の無いと評されたゼータにとっては堪ったものではない言葉だろうが。
「あの、それでは回収には誰を派遣しますか?」
「スキタリスとシコラクスは?」
「スキタリスは現在、01はメンテナンス中。02、03、融合騎アギトは他のレリック捜索のため街を散策中。シコラクス01から04も街に出かけています」
スキタリスはメガーヌをリーダーとするアルピーノ家チームだ。01はリーダーを示すコード、つまりメガーヌは今、ここ研究所に居るようだ。そしてシコラクス。01から04とコードが付けられていることから、メガーヌ達スキタリスと同様のチームが他に居るらしい。
「決まりだな。スキタリスとシコラクスに、プリンツェッスィンとプフェルトナー、レリックの回収をするよう指示を出しとけ。俺はアグレアスの最終調整をやる。おい、ガンマ!」
別の映像に切り変えられたモニターに卵のような物体が映り込んだ。プライソンは「おい!」改めてそう呼び掛けると、その物体が時計回りにクルっと回転。裏側に位置していた窪みがモニターに映り込む。そこには1人の女性が座っていた。
『何?』
20歳ほどで、アルファ達と同じ白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカートを身に纏い、オプションとして黒のトリミング・コートを羽織っている。身長は160cmほど。深紅の前髪と後ろ髪は共に30cmと長く、顔を完全に覆い隠している。
「何?じゃないでしょ、ガンマ! プライソンが呼んだらすぐに返事!」
『アルファうるさい。ウチが姉妹、人造魔導師、機人、果てには探索者やLASとかの限定兵力のメンテナンスを一手に引き受けてるの忘れないで』
ゼータは、肩が凝って疲れている、とでも言いたいようにコキコキと首を鳴らして大きな溜息を吐いた。
『で? このくそ忙しい時に何の用なの、父さん? ウチ、セッテとオットーとディードの最終調整もあるんだけど?』
ガンマは前髪の奥に隠れている瞳でプライソンをジトっと見た。
「そ、そのままで頼む。あと出来れば、スキタリスとシコラクスのフォローもしてや・・・ってくれ」
『逃走した端末2基とレリックの探索・・・。適当にグレムリンと、余り始めたシームルグシリーズをバラ撒いておけば、機動六課とか言う部隊の航空戦力を空に足止め出来ると思う。それでいい?』
「ああ、それでいい」
『任務了解。イプシロン、シームルグを飛ばすから来て』
「イプシロン、了解」
ガンマとの通信が切れ、イプシロンはプライソンに一礼してから研究室を駆け足で出て行った。プライソンは「アルファ。スキタリスとシコラクスに指示出しとけ」アルファにそう命じると、「承知しました」彼女は恭しく頭を下げた。
「お前たちは待機しとけ。以上だ」
プライソンはそう言って、再び作業を再開した。アルファとベータとイプシロンは踵を返して研究室から出ていくが、デルタだけがその場に留まった。
「ねえねえ、プライソン」
「なんだ。邪魔をするな、あっち行ってろ」
「あぅ。あのね、端末とレリック、早く回収できると嬉しい?」
「ああ、そうだな。局が割り込んでくると面倒くさい。サッサと回収してくれと助かるな」
プライソンからそう言われたデルタは「そっか♪」含み笑いをし、踵を返して研究室からスキップで去って行った。その際の彼女の笑みは、まるでイタズラっ子のような何かを企んでいるものだった。
後書き
ドーブロエ・ウートロ。ドブリ・ジェン。ドーブルイ・ヴェーチェル。
はーい、とうとう姿を現したプライソン・スカリエッティ。今話にタグを付けるとすれば、テラ子安、と付けます! 何故ならプライソンのモデルは、Fate/Extra CCCのキャスター、アンデルセンだからです! ギルガメッシュに対して臆することなく好き勝手言うあの度胸、その声と言い回し、もうその全てが良い味を出していて大好きです!
ページ上へ戻る