魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic8-Bきっと分かり合えたなら~Nanoha & Teana~
†††Sideティアナ†††
『スバル! クロスシフトBで行くわよ! アンタの一撃でルシルさんの防御を突破してみて!』
『了解!』
クロスシフトAじゃもうルシルさんに決定打は与えられない。だからすぐに攻め手を切り替える。あたしの本気のクロスファイアは、ルシルさんの多方向に同時展開したシールドを突破できずに防がれた。もうどれだけ撃ってもルシルさんに当てるのはおそらく不可能。なら、防御魔法を突破できる術を持つスバルが本命となるBで行くしかない。
(それでもダメなら、組んだばかりのCで・・・!)
ルシルさんのような本当に強い人を相手にするためだけに新しく組み立てたシフトC。ルシルさんからなのはさんに伝わらないかが少し不安だけど、元々ルシルさんと模擬戦が出来るって考えた瞬間にこの手を使うつもりだったし、明日のなのはさんとの模擬戦に備えてその完成度を計るにはちょうどいいわ。
「あともうちょっと待ってなさいよ、スバル・・・!」
スバルとルシルさんを見降ろせる位置となるビルの屋上にダッシュして到着早々、双銃型のインテリジェントデバイス・“クロスミラージュ”のカートリッジを1発ずつの計2発をロードして、クロスファイアの魔力発射体を8基と展開。戦場での高低差は重要だ。特にあたしのような射撃系魔導師はね。
「(ルシルさんが動き出した・・・!)あたし達に合わせての行動か・・・」
なのはさんの教導データを基にルシルさんも動いてくれるらしいし、シフトBを誘ってると見ていい。
「ならとくと味わってください! 行くわよ、スバル! クロスファイア・・・シューット!」
魔力スフィアからも魔力弾を発射して、“クロスミラージュ”の銃口からも魔力弾を連射。ルシルさんは飛び回りながらも逃げるスバルを追っていて、あたしの制圧弾幕に気付いたことで足元にミッド魔法陣を展開。周囲に魔力スフィアを5基と展開して・・・
「クロスファイアシュート」
「っ!?」
あたしやお兄ちゃんのものとは色違い、蒼色のクロスファイア10発をあたしの弾幕の迎撃として放った。先発組の10発は相殺されたけど、残りの10発はそのままルシルさんに殺到。
――パンツァーシルト――
だけどシールドで防がれた。だからと言ってここで引き下がるわけにはいかないわ。あたしは「おおおおお!」魔力弾を撃ち続けてルシルさんを足止めする。ルシルさんも残り続けるスフィアから魔力弾を順次発射してあたしの魔力弾を迎撃したり、「っく・・・!」余った魔力弾で直接あたしを狙い撃ちにしてきたりする。さらには・・・
「あたしの魔力弾をあえて迎撃しないで直接狙ってくるなんて・・・!」
そんな芸当まで披露された。素通りさせたあたしの魔力弾を最低限の動きで躱して対処するルシルさん。スバルに追いついて攻撃を行ってる最中でもそれをやってのけた。格の違いを見せつけられた。それでもあたしは屋内を移動してルシルさんの猛攻を回避し続けては、射撃ポイントに着いてスバルへの援護射撃を始める。
「スバル!」
ルシルさんが動きを止め、スバルが大きく距離を開けた。おそらくこれがベストなタイミング。
『うんっ!』
ルシルさんに向かって振り注ぐあたしの弾幕の中を疾走するスバルに、今度はこちらから仕掛けるように指示を出す。ルシルさんもその場から動かずにあたしの攻撃を防ぐ体勢に入ってる。誘いだとしてもここしかチャンスはない。スバルは右腕を振りかぶった体勢で、あたしの弾幕を対処し続けるルシルさんの背後へと突っ込んで行く。
――パンツァーシルト――
「はい・・・!?」
スバルの行く手にシールドが遠隔発生されて、ウイングロードの先端がガツンとシールドと激突。その勢いのままスバルは前に向かって宙に放り出された。
「ああもう! ここでそんな手を使うんですか!」
速度もあったことでスバルが体勢を立て直せずに突っ込んでく先にはルシルさんが居て・・・
――風音よ広きに渡れ――
大きく“エヴェストルム”を横薙ぎに振るうと、50mと離れたあたしの居るところにまで届く暴風が発生した。思わず「ひゃあ!?」その場に座り込んで、吹き飛ばされないように必死に耐える。
「ど、どいてぇぇぇーーーーッ!」
「へ? ちょっ・・・!?」
顔を上げると目の前にはスバルのお尻があった。その直後に「へぶっ!?」スバルのヒップアタックが顔面に直撃して、「いったぁぁぁーーー!」あたしと、「ごめーーーん!」スバルはゴロゴロと屋上を転がって、「ヒッ・・・!」落っこちた。
「スバルぅぅ~~~!!」
「うんっ! ウイングロード!」
スバルが発動したウイングロードに着地することで地面に叩き付けられる最悪の事態は免れた。ホッとしてると「来た!」ビルを回り込んだり内部を通り抜けて来た魔力弾10発が飛来して来た。
「スバル!」「ティア!」
回り込んできた5発はスバルがシールドを張って防御。通り抜けて来た5発には「シュートバレット!」の連射で迎撃してやった。ルシルさんのクロスファイアを対処し終えると「ティア、どうしようか・・・?」スバルが次の戦術について訊いてきた。
「シフトCで行くわよ。ルシルさんも、このシフトCは知らないから上手く行けば・・・」
「ひと泡吹かせられそうだね。よし、やろう!」
クロスシフトCは、言うなればあたしとスバルの同時攻撃を行うコンビネーション。あたしは「先行お願い!」スバルに指示を出し、ルシルさんへ突撃させる。あたしも配置に着くために移動を開始。
――クロスファイアシュート――
移動中でも問答無用で飛んでくる魔力弾。あたしはビル内の柱を盾にしたり、魔力弾で迎撃したりと対処しながらビルの上層階を目指す。その途中、「うぉぉぉーーーーッ!」スバルの声が届く。横目で窓から外を、ルシルさんと近接戦を繰り広げるスバルを見た瞬間・・・
――クロスファイア・アサルトドライブ――
ルシルさんは周囲に展開してた複数の魔力スフィアを集束させて砲撃化したクロスファイアをあたしに放ってきた。
「お兄ちゃんのアサルトドライブ!?」
あたしは両手で頭を覆って、部屋の奥へ向かってヘッドスライディング。直後に窓の縁に着弾して爆発、砂埃がブワッと発生した。2発目やクロスファイアの追撃を受けないためにすぐに立ち上がって、さらに上階を目指す。
「どうしてルシルさんがお兄ちゃんの魔法を知って・・・!?」
ルシルさんは一度見た魔法を複製できる固有スキルを持ってた。今は使えないらしいけど、その魔法の術式を知れば同型の魔導師なら扱える。だからルシルさんが使えてもおかしくないけど、でも一体どこでルシルさんはお兄ちゃんのあの魔法を見たんだろう・・・。
「ううん。今はそんなこと考えてる余裕なんてない」
あたしはビルの上層階へと駆け昇って、2人の頭上にまで移動。そこで「フェイク・シルエット!」を発動。1階部分にあたしの姿をした幻影を4体と作り出して、1体ずつルシルさんの視界に入れるように動かす。
(少しでも集中力を削っておきたい・・・!)
スバルの怒濤の攻撃を涼しい顔で“エヴェストルム”だけで捌くルシルさんは、“クロスミラージュ”を構えるあたしの幻影に目もくれない。
――ラケーテン・パンツァーシルト――
ルシルさんの周囲に4枚のシールドが展開されたと思った直後、その内の1枚が幻影に向かって高速射出されて、「うっそ・・・!」グシャッと押し潰すように幻影を掻き消した。
「シールドを遠隔発生するだけじゃなくて射出するなんて・・・!」
ルシルさんは騎士じゃなくて魔導騎士だってことを改めて痛感する。他の3体も同じようにシールド弾で潰されたけど、『ティア、今!』スバルがようやくルシルさんを捉えた。左手で“エヴェストルム”の柄を掴み、“リボルバーナックル”の一撃で張られたシールドを打ち貫こうとしてる。完全にルシルさんの身動きをを封じた。チャンスは今しかない。
「クロスミラージュ!」
≪Dagger Blade≫
銃口から魔力刃を展開する。フィールド貫通・防御破壊効果を持ってるから、魔力が抑えられてるルシルさんやなのはさんの防御も斬り開いて本体にダメージを入れられる寸法。幻術のコントロールから解放されたあたしは・・・
「せぇぇぇーーーーい!!」
――パンツァーシルト――
ビルから飛び降りて、ルシルさんの頭上へと落下。その途中にシールドが展開される。着地したあたしは魔力刃でシールドを斬り裂いて、そのままルシルさんに打ち込もうとしたけど、「あぁ、やっぱりこうなるか・・・」ルシルさんが嘆息したのが判った。
――公正たれ、汝の正義――
「「っ!?」」
あたしとスバルは同時に魔力の槍2本で作られた十字架に磔にされた。しかも額、首、胸、お腹、両肩、両上腕、両前腕、両手の甲、両太もも、両脛、両足の甲にはいつでも貫けるとでも言うように18本の槍が待機してる。
ルシルさんはあたし達を見て、「これまでずっとこのシフトの練習をしていたわけだ」そう言って腕を組んだ。なんかヤバい、ルシルさん苛立ってる。スバルが「えっと、はい、そうです・・・」その問いに震えた声で答えた。
「明日の模擬戦で、なのは相手に使おうとしていたのか・・・? ティアナ」
「っ、はい・・・」
ルシルさんの眼光があたしを貫く。全身が緊張に震える中、なんとか応じることが出来た。
「・・・ふむ、そうか・・・。良かったな、最初に使ったのが俺で。なのはに使っていたら君たち2人、彼女の怒りを買って撃墜されていたぞ」
「え・・・?」
スバルが信じられないって言った風に呆けた。けどあたしはどこか、あぁやっぱり、って気持ちもあった。スバルが「何でなのはさんが怒るんですか!? 間違ったことしてないのに!」ルシルさんに噛みついた。
「ティアナ。君は理解しているだろう?」
「・・・このシフトCは、なのはさんの教導から外れているから、です」
なのはさんから教わってる個別スキルトレーニングの中には、あたしの近接戦術は入っていない。それにあたしは中衛、センターガード担当と決められてるのに、スバルと一緒に前衛に飛び出すような真似をした。逸脱した戦術だって叱られても仕方ない。
「そんな! で、でも強くなろうとする努力じゃないですか!」
「そうだな。頑張るのは良いことだ。その努力は感心できるし応援もするよ。まぁ、ティアナの自主練密度の濃さは褒められたものじゃないが。この前、夜更けにヴァイスから忠告貰っただろう? 変に詰め込み過ぎて妙な癖が付いたらダメだ、と」
ミスショットをしたその日から夜中に1人で自主練することもあった。ヴァイス陸曹にはその時に忠告された。けどルシルさん、一体どこでそんな話を・・・。
「でもルシルさん。結果を出せば、なのはさんだって解ってくれると思うんです。優しいなのはさんならきっと・・・!」
「はあ。・・・こんな穴だらけでリスクしかないような欠陥コンビネーションで結果を出したところで叱られるだけだ。スバルが相手に食らいついて足止めし、成功したところでティアナの近接技による2人の同時攻撃? 各個撃破をしてくれ、って言っているようなものだ。そうそう戦況が思い通りになるなんて稀なうえ、よほど戦力差がないと上手くいかない。それにだスバル。なのはは、優しいから怒るんだよ。君たちが大切だからだ」
「っ・・・!」
「いいか? ティアナ、スバル。模擬戦はもちろん特訓はただ実力を上げて強くなるためだけのものじゃない。君たち自身の生存率も高めるためでもあるんだ。それなのに、こんな無茶をやって自分の身を危険に晒すようなことを続けて、それは君たちの強さになるとでも言うのか?」
「「・・・」」
ルシルさんの言葉にはもう何も言い返せなくなったところで、あたし達を磔にしてた十字架や槍が解除されて、少しぶりに地面に足を付けることが出来た。
「ティアナ。自分に足りないと思った近接戦の練習、それは大いに結構。強くなるための努力をする君の意思は尊重しよう。だがな。教導官であり、なおかつ同じ道を辿ったなのはがそれを解っていないと思うか?」
「なのはさんが・・・」
「あたしと同じ道・・・?」
「ああ。なのはも昔は射砲撃だけがすごかった娘だった。近接戦スキルを身に付けたのなんて結構後だったぞ。それまでは近接戦に優れていたチーム海鳴の誰かと組んでいた。正に今の君たちのように。だからなのはは知っている、解っているんだ。射撃系魔導師のメリットもデメリットも。そんな彼女が、執務官志望である君の個別スキルトレーニングのスケジュールに近接戦スキルを組み込んでいないとは思えない」
――あなたは焦り過ぎてる。なのはの個別スキルの教導も始まったばっか。これから伸びていくんだよ――
ホテル・アグスタでアリシアさんに言われたことが脳裏を過った。あたしはまた、突っ走ってた。そしてまた馬鹿なミスをするところだった。
「・・・スターズのフォワードの候補は君たちだけじゃなかった。それでも、なのは達はスバルとティアナを選んだんだ。俺から言えるのはもうこれだけだ。信じろ。数居る候補の中から選ばれた自分を、そして選んでくれたなのはを」
「自分を・・・」
「なのはさんを・・・」
「「信じる・・・」」
「ティアナ、そもそも君は射撃と幻術しかない凡人だと言っているようだな。しかもスバル達と比べて訓練の成果が出ていないという話だったが」
アリシアさんに言った言葉だ。アリシアさんがルシルさんに言うとは思えないけど。あ、アイリ医務官か。ルシルさんの家族だって言うし。でもプライバシーは守ってほしいかも、医務官なんだし。
「スバル。ティアナは教導を受けてから今日まで、全然変わっていないと思うか?」
「そ、そんなことありません! ティア、すごく強くなりました! 射撃の腕だって上がったし、デバイスの恩恵もあるかもだけど! でもそれを度外視にしてもティアはすごいです!」
「そんなお世辞なんていいわよ、スバル」
素直に受け取れない。スバルは陸士訓練校の頃からあたしのことを持ち上げてたし。
「それじゃあ俺が率直な評価を下すが、ティアナは十分に成長していると思うぞ。射撃系の魔導師は中遠距離での射砲撃をメインとするから、格闘戦を行うベルカ式魔導師に比べて強くなったという実感が持てないことが多い。だからティアナも成長していないと感じるんだろうが、第三者から見ればちゃんと成長している。自信を持っていいんだ」
「そうだよティア! ただ判りにくいだけなんだって! ルシルさんがそう言ってるんだから間違いないよ!」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・」
それでもあたしはやっぱり素直になれない。
「信じようよ、ティア。自分のことくらい、自分で信じてあげないとダメだよ」
スバルと顔を見合わせてると、「6時半。もう良い時間だな」ルシルさんがそう言って踵を返した。ルシルさんの背中に目をやると・・・
「俺の伝えたいことは伝えた。明日の模擬戦。このクロスシフトCを使うかどうかは2人の意思に任せる。自分を貫いてなのはに絞られるか、なのはを信じて練習通りに終えるか、な。・・・っと、そうだ。今日はありがとう。有意義な時間を過ごさせてもらったよ」
あたし達に振り返ることもせずにそう言いながら、ルシルさんはシミュレータから去って行った。それを見送った後、「ティア・・・」不安げな声色でスバルがあたしを呼んだ。明日、シフトCを使うかどうかはあたしたち次第。
「あたしは・・・」
†††Sideティアナ⇒なのは†††
「はーい。それじゃあ午前中の纏め、2on1の模擬戦を始めるよ。まずはスターズからやるから、スバルとティアナは防護服着用」
「「・・・はいっ!」」
訓練中どこか上の空だったスバルとティアナ。クロスシフトCを使うかどうかまだ迷っているのかもしれない。昨夜、終業後にルシル君からクロスシフトCのことについて、模擬戦の映像を交えながら聞かされた。ティアナが何を考えて思って、何に悩んでいるのか、アリシアちゃんから聞かされた話と統合してようやく理解した。
――シフトCの使用についてはスバルとティアナに一任したので、高町教導官も2人が明日の模擬戦で取る行動に相応しい対応をして頂けるようお願いします――
ルシル君はそう言ってた。もしシフトCを実行すれば、私は2人を問答無用で撃墜する。練習の時だけ真面目にやってるフリをして、実戦で無茶をするような馬鹿な子を許せるほど私は優しくない。だけど練習通りにやってくるのなら、ちゃんとティアナと話をしよう。
「(私を信じろ、か。ルシル君も嬉しいことを言ってくれるよね♪)・・・それじゃあ、スタート!」
そして始まる模擬戦。スバルとティアナはクロスシフトAを選択した。スバルが撹乱を担当して、ティアナがビル内部からクロスファイアシュートによる制圧射撃。私はトレーニング用に調整したディバインシューターで全弾迎撃。
「うぉぉぉーーーーッ!」
――ナックルダスター――
スバルの一撃をプロテクションで防ぎつつ、「バリアバースト・・・!」プロテクションを爆発させる。こうすることで攻撃を仕掛けてる相手にダメージを与えて、その爆風と衝撃で吹き飛ばして距離を開けさせることも出来る。
「ぅく・・・!」
「お! やるじゃないスバル!」
「あ、ありがとうございます!」
スバルは爆発に呑み込まれる前に自ら距離を取ったことでダメージを免れた。良い反応速度だ。上の空だった訓練中とは大違い。そんなところに「おっと」レーザーサイトに狙われるのに気付いた。出所を見ればティアナが砲撃の発射態勢に入ってる。発射される前にシューターで潰そうとしたところに「せぇぇぇーーーい!」スバルが再突撃して来た。
「シューット!」
――ディバインシューター――
そんなスバルと、砲撃発射態勢のティアナにそれぞれ4発ずつ発射。スバルはシールドで防御しつつ突撃続行、そしてティアナは・・・
――ファントムブレイザー――
砲撃を発射してシューターを蹴散らした。スバルを見ればそそくさと離脱し終えていた。離脱タイミングも悪くない。私もすぐに空に上がって砲撃を回避。そこからはシフトBに切り替えたりして仕掛けてきたけど、「はい。終了~!」最後までシフトCを使うことはなかった。
「スバル、ティアナ。ライトニングの模擬戦が終わった後、少し時間をくれるかな?」
肩で大きく息をしてる2人にそう訊くと、「・・・はい」頷いて応えてくれた。そして次はライトニングFのエリオとキャロが、フェイトちゃんを相手に模擬戦を開始。それを見守る私たちスターズ。大きな問題が起きることなくライトニングの模擬戦も無事に終了。
「これにて本日の教導訓練は終了。それでは解散」
「「ありがとうございました!」」「「ありがとうございました・・・」」
解散の合図をして、居残るように伝えたスバルとティアナはその場に留まるんだけど、「エリオ、キャロ?」の2人もその場から動かなかった。フェイトちゃんが「2人にも伝えないといけないって思って」そう言ってエリオとキャロを見ると2人は頷いた。
「だな。なのは、お前の教導の意味を教えてやれ。2度と馬鹿なミスしねぇようにだ」
ヴィータちゃんがそう言うとティアナが体を縮めた。もう解ってるんだよね、アリシアちゃんとルシル君の話から、無茶と焦りがどれだけ自分や周りに迷惑が掛かっちゃうか。まず昨夜ルシル君に見せられたスバル達とルシル君のやり取りの映像を、2人が磔から解放されるまでをモニターに流して、見終わったところで私は口を開く。
「ティアナ。昨日のルシル君との模擬戦についてはこの通りルシル君から窺ってるよ。クロスシフトCの危険性や、さっきの模擬戦で使うかどうかの選択が2人に委ねられていたのも。それで、どうして使わなかったの? 私に使うために組んでたんでしょ」
「・・・あたしが、使わないと決めたから、です・・・。ルシルさんにも言われましたから。使い物にならない、ただ危ないだけのものだと」
「そっか。でも未だに完全には納得はしていないっぽいね」
ティアナの表情を見れば判る。自分が間違っていたことについては納得も理解もしてるようだけど。こりゃ私の失敗談を明かさないとダメみたい。ちょっと恥ずかしいけど、ティアナに解ってもらうにはこれしかない。
「ティアナの誤射未遂。あれ、結構無茶をやったよね。ヴィータ副隊長との合流を待つことも出来たし、アリシア捜査官の援護だって待てたし、シャーリーから無茶をしてるって警告も受けた。それを無視して無理やり攻撃を実行、スバルを誤射しかけた」
ちょっと意地悪く言ってみる。ティアナは俯いて、拳をギュッと強く握り締めた。
「そしてクロスシフトC。ルシル君の言うようにリスクだらけで、自分たちの身を危険に晒すコンビネーション。強くなろうっていう姿勢は評価できるよ。でも、何か勘違いしているみたいだけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ? 練習じゃ真面目に聞いているフリで、本番でこんな無茶をするなんて、練習の意味ないと思うんだけど。私の言ってることややってること、間違ってるかな?」
「いいえ・・・」
「間違っていない、です・・・」
「ん。ねぇ、ティアナ。アリシアちゃんから似てるって言われたでしょ?」
「え? あ、はい・・・。フェイトさんを誤射した過去を話してくれました」
「これ、恥ずかしながら私にも当てはまるんだよ。私も昔ね、ミスショットじゃないけどティアナと同じ失敗をしちゃったんだ。ヴィータちゃんやアイリからの忠告を無視して、フェイトちゃんたち応援がもうすぐ来るって知っていながら、私は突っ走った」
リンドヴルムの置き土産となった神器回収任務。その1つだった“スフィー・ダンテ”の回収時、私は無茶をやって撃墜されてしまった。その時の戦闘映像をみんなに見せる。
「リンドヴルム事件の後始末だったロストロギア回収任務だ」
ヴィータちゃんがそう補足した。神器の力で炎と一体化してる剣士と戦う私、ヴィータちゃん、シグナムさん、セレスちゃん。でも圧倒的な火力と予想の出来ない攻撃によって・・・
「ヴィータちゃん達は墜ちて、そして馬鹿みたいに突っ込んだ私も墜ちた」
「「「「っ!!」」」」
私もバッサリと斬られるシーンが流れて、スバル達がモニターから目を逸らした。“スフィー・ダンテ”による右肩から左脇腹への創傷、重度の火傷、刃が地面を砕いたことで発生した石礫による裂傷、爆風によって吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた際の骨折、打撲、擦過傷などなど。挙げればキリが無い怪我の数々。
「それで、仲間の忠告を無視して突っ走った結果がこれ」
私が本局医務局へ運び込まれるまでの間と、手術後の写真を見せる。改めて見ると本当にエグイというかグロイというか。ズタボロの血まみれな私の姿に、キャロはモニターに視線を戻してすぐに両手で顔を覆って見ないようにして、スバルとティアナとエリオは目を見開いて顔を真っ青にした。
「なのはの受けたダメージは甚大で、魔導師として再起できるどころか、もう2度と歩けないかもしれないって言われてたの。応援に向かっていた私たちは自分を責めたよ。もう少し早くついていれば、って。でもね、意識を取り戻したなのはが謝ったきたんだ。迷惑をかけてごめんね、って・・・」
「無茶をしなきゃいけねぇ、無理でもやらなきゃいけねぇ、無謀だろうが命懸けになろうが一歩も引けねぇ、そんな状況だってあるさ、戦闘も仕事にする局員ならな。このなのはみたいに街を守らなきゃいけねぇっつう無茶はまぁいいさ。守るためのもんだ。でもよティアナ。お前の無茶、あのミスショットは本当にあの時、自分や仲間の安全や、命を懸けてでも撃たなきゃいけなかったのか?」
馬鹿って。まぁあの時の私は確かに馬鹿だったけど・・・。
「私も、アリシアちゃんも、みんなに同じ道を辿ってもらいたくないんだ。無茶をしなくていいように、ちゃんとお仕事から無事に帰って来られるように、教えてきたつもりだったんだけど・・・」
――高町教導官。いや、なのは。ティアナやフォワード達と1度腹を割って話し合ってみろ。昔の君は、ちゃんと話をしようっていう強い意思があった。しかし今は教導官という立場からか一方的に教え子に、解れ、というスタンスだ。ティアナも兄ティーダ一尉の一件でがむしゃらになり過ぎている。このままでは破綻する未来しかない。ちゃんと話をして、お互いの気持ちをぶつけ合ってみるのも大事だ、と俺は思うよ――
ティアナには伝わらなかった。昨夜の別れ際にルシル君から言われた言葉。六課みたいに長期間同じ教え子に教導をすることなんてなかったし、ティアナみたいな反抗する教え子は居なかったから、話をする、って簡単で当たり前の行動を忘れてた。ティアナの抱える悩みを解っていながら、私は話をしてこなかった。ダメダメな教導官でごめんね。
「つうかよ、ティアナ。お前、射撃と幻術しか出来ねぇ凡人だって言ってるようじゃんか。馬鹿言ってんじゃねぇって話だ。お前も含めてフォワードはまだ原石っつうか、まだ完成されてねぇ魔導師なんだよ。まだまだこれからだってぇのに勝手に限界作るなよ」
「うん。私もなのはも、当たり前だけど初めから今の実力じゃないんだよ? 10年と弛まぬ努力を続けて至れたのが今の私たち。みんな、本当にこれからなんだから」
「うん。スバルはクロスレンジの爆発力。エリオはスピード、キャロは優しい支援魔法。そしてティアナは、仲間を射撃と幻術で守って、指揮をしてどんな困難な事態でも切り抜けるチームリーダー。ティアナは自分には才能がないって言ってるけどそんなことない。立派な資質がちゃんとある」
自分では判らないかもしれないけど、まだ完全には開花してないけど、確かにそれは存在してる。
「ティアナの射撃魔法クロスファイアシュート。ルシル君から受けて見てどうだった?」
「え?・・・ちょっと対処しづらい感じ・・・でした。複雑に動きますし、速いですし、威力もすごくて・・・」
「でしょ? あれ、ティアナのベストデータと全く同じ弾速・精度・威力に調整されてたんだよ。これがどういう意味か解る?」
「・・・あ、あたしにも同じようなことが出来る・・・?」
ティアナの目に僅かばかり強い光が灯った。私はその言葉に同意するために強く頷き返した。
「1つの魔法でもしっかり極めればそれは奥義となる。クロスファイアはティアナの大事な魅力なんだ。それを蔑ろにするのは本当にもったいないって思ってる。だから中途半端に別の魔法や技術の練習に入ると危ないよ、って教えたかった。それと、ティアナ、クロスミラージュをちょっと貸して」
ティアナはカード型の待機モードの“クロスミラージュ”を起動させて、「どうぞ」渡してくれた。私はお礼を言って「システムリミッター、テストモード・リリース」“クロスミラージュ”に施してあるリミッターの内の1つを解除する。
「モード2って命令してみて、ティアナ」
「・・・モ、モード2」
私から受け取った“クロスミラージュ”にティアナが命令を出すと、その姿を変形させた。銃口からは大きな魔力刃が伸びて、グリップ先端と銃身下部からも魔力刃が伸びてナックルガードを形成した。
「ティアナの着眼点も間違いじゃなかったんだよ。ティアナは執務官志望だから、部隊を卒業したら個人戦がどうしても多くなるだろうから、将来を考えて用意はしていたんだよ」
驚くティアナにそう伝える。執務官は本当に激務だから、射撃だけだとすぐに限界は訪れる。そのための近接戦用形態、ダガーモードだ。そこまで伝えて、“クロスミラージュ”に再度リミッターを掛けた瞬間、ティアナは嗚咽を漏らし始めた。
「近距離も遠距離も、もう少ししたら教えるつもりだった。だけど今すぐにでもスクランブルが入るか判らない今、現状で使いこなせてる大事な武器をさらに確かなものにしてあげたかった。だけど私の教導って地味だからティアナは、自分だけ成果が見えないって辛くて、苦しんでたんだよね。やっぱダメだね、こうして真っ向から話をしないとお互いに理解は生まれないってことくらい、昔から解っていたのに・・・。ごめんね」
「っ! ち、ちが・・・あたし、あたしが・・・ごめんなさ・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
私はティアナの側に寄り添ってそっと肩を抱くと、ティアナは私にしがみ付いてただ泣いた。ヴィータちゃんとフェイトちゃんが私とティアナを2人きりにしようと、スバル達と一緒に隊舎に戻って行った。それからティアナが落ち着くまで待って・・・
「あ、あの、すいません。制服、あたしの涙でぐしょぐしょに・・・」
「にゃはは。気にしないで、元より陸士隊服に着替える予定だったし。・・・もう大丈夫?」
「はい、あたしはもう大丈夫です。なのはさん達の思いをしっかりと受けましたから」
「うん。それじゃあ行こうか。みんな食堂で待ってるかもしれないし」
「はいっ!」
ティアナと一緒に寮へと戻る。まずは着替えるために更衣室へ向かうんだけどその途中、「ルシルく――っと、セインテスト調査官!」が前から歩いて来たから呼びかける。
「ん? あぁ、高町教導官、ランスター二士。ご苦労様。私に何か用でも?」
「昨夜のアドバイス、ありがとうございました」
「あたしも。いろいろお話を頂いてありがとうございました。おかげであたしはもう大丈夫です」
私とティアナは揃ってルシル君に頭を下げてお礼を言った。ルシル君のおかげで私たちはより一層絆を深められたと思うから。ルシル君は「そうか」嬉しさがにじみ出る声でそう言ってくれたと思えば、すれ違いざまにティアナと一緒に頭を撫でられた。そしてルシル君はそのまま歩き去ってった。
「あたし、ルシルさんが見せてくれたようなクロスファイアを撃てるまで・・・ううん、さらにもっと極められるまで精進したいです。ですからなのはさん。これからもご指導よろしくお願いします!」
「ティアナ・・・。うんっ、ビシビシ行くからね♪」
後書き
ラーバス・リータス。ラバ・ディアナ。ラーバス・ヴァーカラス。
スバティア暴走回の後半をお送りしました。原作にあったティアナの撃墜、シグナムからの鉄拳制裁などなどは没にし、アリシアとルシルの言葉でなんとかティアナは踏み止まれた、という感じでしょうか。
出来るだけ原作とも前作とも違う流れになるように頑張ってみました。ルシルは基本的に裏方に回ります。本作の主人公なのにね! ま、大人しくしているのもあと少しの間の予定ですがね。
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