FGOで学園恋愛ゲーム
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十話:夏と雨
オープンスクール。それは次年度の生徒を獲得するための私立校にとって欠かせない催し。
それはカルデア学園であっても変わらない。
夏期講習の最終日付近ともなれば教師や駆り出された部活生が慌ただしく準備に勤しむ。
「去年に使った備品は念入りに殺菌を、新しい備品であれば消毒を欠かしてはいけません」
「でもよ、母ちゃん。去年しまう時に消毒しなかったか?」
「先生です、モードレッド。それと使っていないからと言って雑菌が付かないわけではありません。出来れば無菌状態で保存したいのですが、流石にそこまでは設備の都合上できませんので仕方なくです」
保健室で息子と会話をしながらもテキパキと作業をこなすナイチンゲール。
その話を聞きながらモードレッドは雑にではあるが荷物を運んでいく。
「消毒用アルコールが足りませんね……。ヘクトールさん、至急補充をお願いいたします」
「はいよ。はぁ……うちの学校は備品の消費が激しくて楽ちんできなくて困る」
「怠慢は肥満の元です。健康的に過ごすためには働いてください」
「へいへい。まったく、家の女房より怖くて頭が上がらないわ」
丁度訪れていたために頼まれ、嫌々といった体で足早に仕事をこなしに向かうヘクトール。
それ以降は静寂の中にナイチンゲールとモードレッドが作業をする音だけが響く。
といったわけもなく、すぐに慌ただしい音が聞こえてくる。
「ナイチンゲール殿は居られるか!?」
『先生急患です!』
剣道部三年の佐々木小次郎とぐだ男が一人の少女を背負って駆け込んでくる。
「患者ですか? 一体どなたが」
『沖田さんが持病の発作で血を吐いて倒れました!』
ぐったりとした様子で二人に背負われているのは同じく剣道部三年の沖田総司だ。
人斬りというあだ名を持つ凄腕の剣士だが持病には勝てず時折こうして運ばれてくるのだ。
「だ、大丈夫ですよ。沖田さんはこの通り――コフッ!」
「この通り収まりがつかなくてな。早めに治療せねばなるまいと思って連れてきた次第だ」
大丈夫という言葉の代わりにダバダバと口から血を吐き出す沖田。
その光景に溜息を吐きながら小次郎とぐだ男は沖田を差し出す。
「あ、あの、安静にしておけば収まるので……」
「安心してください」
怯えるような目を向ける沖田にナイチンゲールは天使のような笑みを返す。
それにホッと息を吐く沖田であったがすぐに彼女の表情は絶望に染まる。
「私はあなたを殺してでも救います!」
「矛盾してませんか、それ!?」
天使とは花のように愛でられるものではなく、誰かのために闘う者を指すのだ。
「モードレッド、すぐに彼女をベッドに移動させてください」
「暴れてる場合は?」
「物理麻酔をしてもかまいません」
「流石だぜ、母ちゃん!」
「流石じゃありません! もうお菓子をあげませんよ、モードレッドォ!」
やけに息の合ったコントを繰り広げる三人に背を向けながら二人は保健室から出る。
「これで安心でござるなぁ」
『うん。怖いけどちゃんと治してくれるからね、先生は』
二人揃って晴れやかな表情で語り合う。
何より掃除に準備にとやるべきことはまだ山ほどあるのだ。
一人の犠牲で足を止めるわけにはいかない。
「しかし、校舎にいても嫌でも夏だと思い知らされる」
『海にでも行きたくなる』
「海でござるか、確かに夏の定番。……む。拙者、今素晴らしい一句が閃いたので聞いてはもらえぬか?」
特に断る理由もないので黙って頷く。
小次郎はそれを受け自信満々な顔で読み上げる。
「夏の青 浜辺でデレる マルタどの……ふ、ふふ…ありえぬ、ありえぬなぁ」
二人は同時に夏の海で水着を着てデレるマルタを想像する。
しかし、小次郎の方は人の夢とは儚い物だとでも言うように諦めの表情を見せる。
勝手に想像して勝手に否定するとは実に失礼なことである。
『小次郎さん……』
「いや、今のは忘れて―――グホッ!?」
『マルタさんがすぐ傍にいるって言おうとしたのに……』
そんな小次郎の体に強烈なボディブローが突き刺さり小次郎は地面に這いつくばる。
まるでゴミでも見るかのような視線を小次郎に向けながら件の人物マルタは指を鳴らす。
「なに変な想像してんのよ、へっぽこ侍! というかあり得ないってどういうことよ?」
『マルタさん、地が出てます』
「あら、こほん。小次郎、人をネタにして笑うのはよくないことですよ」
「笑ってなどおらんよ。ただ、想像することすらできずに嘆いて―――ガハッ!?」
今度は小次郎の体ごと持ちあげる鋭いアッパーを繰り出すマルタ。
彼女は前生徒会長で“笑顔”と“祈り”を武器に学園をまとめ上げた存在だ。
未だに下級生からの信頼は厚い。
「花も恥じらう乙女に対してその態度……悔い改める必要がありそうね」
「最近の乙女とは拳で語り合う娘のことを言うのか。いや、勉強になった」
ふらふらと立ち上がりながらもニヒルな顔でちょっかいを出し続ける小次郎。
彼の精神力は見習うべきところがあるがその生き様は見習わないほうがいいだろう。
校舎中に鳴り響く一際重く鋭い打撃音を聞きながら、ぐだ男はそう思うのだった。
『減らず口 叩けば増える 打撃音』
一句読み上げ、事の次第を剣道部員に伝えるために来た道を戻る。
途中までは何事もなかったのだが、突如として理科室から言い争う声が聞こえてきたので中を覗いてみるぐだ男。
「見学会の体験授業は直流の実験に決まっているだろう! このすっとんきょう!」
「これだから凡骨は、テスラコイルのインパクトこそが生徒の心をつかむのだ! 貴様のような量産豆電球では生徒が逃げていくのがわからんのか?」
言い争うライオンヘッドと天才。
語る必要もない学園の名物教師エジソンとテスラである。
「おっと、手が滑った」
「おっと、電気が滑った」
拳が舞い、電撃が飛び散る。
いい年をした大人が幼稚なケンカを繰り広げる様に何とも言えぬ顔をするぐだ男。
争いは同じレベルでしか発生しないと言われるが。
この二人はどちらも天才であるために争っているという珍しい例である。
もっとも、他人から見ればただ単に迷惑なだけであるが。
「む? ぐだ男君ではないか!」
「おお! グッドタイミングだ。君に聞きたいことがある!」
『……見つかってしまった』
藪を突いてしまったことを自覚するが既に遅い。
教室に引きずり込まれ二人の天才に問われる。
「直流と交流、どちらを授業でやるべきだと思うかね!?」
―――正直どっちでもいいです。
その言葉を飲み込み、仲が悪い割にぴったりと息の合った言葉に内心で辟易しながら考える。
この問いかけでどちらか片方を贔屓することはできない。
後で延々と直流と交流どちらかの良さを説明されるからだ。
故にぐだ男はこう返事を返す。
『いっそ、両方やってそれから中学生にどちらが良かったか聞いたらどうですか?』
筋が通っているような意見ではあるが彼の思惑はそこではない。
ぶっちゃけると彼は未来の後輩へとキラーパスを送ったのである。
それこそ後は任せたと言わんばかりの投げ出しっぷりだ。
「うーむ…確かにそれならば白黒ハッキリつけられるか」
「ふはははは! いいだろう。その勝負受けてやろうではないか凡骨!」
「ぬかせ、すっとんきょう!」
しかしながら、二人には受け入れられ、一応の解決を見せる。
それを見届けぐだ男は再び歩き出すのだった。
「しかし、時間はどうする?」
「勿論、公平に半分だ。後でエルメロイ2世に時間割の修正を頼むとしよう」
後に問題になるであろう苦労人の胃痛に背を向けて。
剣道部の手伝いも終わり自販機で買ったジュースを飲んで一息をつくぐだ男。
そこへ意中の女性の声が響いてくる。
「あ、ぐだ男君も準備の手伝いをしていたのですか」
『ま、まあね』
本当は少しでもジャンヌと会えるかもしれないと思って残ったなどとは言えない。
勿論、純粋に人助けの意味合いもあるが大部分は彼女と会える可能性に賭けただけである。
『ジャンヌは生徒会長だしスピーチの練習とかあって大変じゃない?』
「大変ですけど、私達の時のことを思い出して楽しいですよ」
そう言いながらジャンヌも自販機に金を入れジュースを買う。
どうやら彼女は炭酸飲料を買ったようだ。
「ぐだ男君の方こそ関係のない行事でも手伝ってくれて大変じゃありませんか?」
『自分の学校だから関係あるでしょ?』
当たり前のことをしただけだと不思議そうに首を傾げるぐだ男。
そのどこまでも素直な仕草にジャンヌはクスクスと笑う。
「ぐだ男君のそういったところ、私は好きですよ」
『それ褒めてる?』
「ええ、凄く褒めてます」
ぐだ男は単純だと言われたような気がして複雑そうな顔をする。
しかし、ジャンヌが笑っているのでそれでいいかと割り切り自身も頬を緩める。
『ところでジャンヌ。今日はもう終わり?』
「はい、後片付けも終わったので。……何かあるのですか?」
『いや、ジャンヌと一緒に帰れたら嬉しいなって』
内心ではドキドキとしながらも精一杯取り繕ってお誘いをする。
ジャンヌは一瞬、頬を染めてから少し困ったような表情を見せる。
「もう……そんな言われかたをしたら断われないじゃないですか」
『嫌だった?』
「いえ、私も嬉しいですよ。では、一緒に帰りましょうか」
OKを得ることができて内心でガッツポーズを取りながらジャンヌにお礼を言う。
友人達と相談した結果、とにかくチャンスがあれば彼女の傍にいるようにする決定された。
ぐだ男はその計画をとにかく実行し続けていくつもりなのである。
『……あれ? 雲行きが怪しい気が』
浮かれる彼の心情とは反対に空には夏特有の入道雲が立ち込めていた。
これは一雨きそうだと思いカバンから折り畳み傘を取り出す。
「雨が降りそうですね…。ぐだ男君は準備がいいですね」
『エミヤが持っていけって』
「よく気が回る人ですね。私は……今日は晴れると思っていましたので」
どうしたものかと可愛らしく眉を寄せるジャンヌ。
彼女の仕草一つ一つにドキドキとしながらぐだ男も急ぐ。
『濡れるといけないから早く帰ろう』
「そうですね」
二人並んで足早に歩いていく。
しかし、夏の天気の変わり易さを舐めてはいけない。
二人がレオニダスに見送られ校門を出たあたりでポツポツと雨粒が落ちてくる。
「これは……困りましたね」
『帰るまで保ちそうにないね』
少し駆け足気味に進みながら話をしていく。
その間にぐだ男は自身の傘とジャンヌを交互に見てあることを決める。
『はい、これ使って』
「え? でも、ぐだ男君が……」
『走って帰ったら何とかなるはず。それじゃあ』
戸惑うジャンヌに傘を押し付け、振り返ることなく駆け出していく。
ぐだ男は思う。今の俺は―――輝いていると。
「待ってください、ぐだ男君!」
『ヘバァ!?』
「ご、ごめんなさい」
しかし、そんな輝きは続くことなくジャンヌに腕を掴まれた反動でこけ、アスファルトと熱いキスを交わす。
「大丈夫ですか。私が急に掴んだせいで……」
『ほ、星が見える、スター』
「ぐだ男君!?」
頭を打った衝撃で目の前に星がクルクルと回る状況になるが何とか立ち上がる。
だが、ぐだ男は自分が何故止められたのか分からず困惑している。
そこへ、一気に雨が降り出してくる。
「すみません。と、とにかく一緒に傘に入ってください」
『でも、狭いよ』
「全身ずぶ濡れになるよりはマシです。では…えい!」
可愛らしい掛け声と共にぐだ男の隣ピッタリとくっついてくるジャンヌ。
世間でいう相合傘という状況にぐだ男の頭は軽い混乱状態に陥る。
「後はぐだ男君が私を家まで送り届けてくれれば完璧です」
『う、うん』
緊張を隠すことが全くできずに顔を真っ赤にして何度も顔を上下させるぐだ男。
そんな彼の様子にジャンヌは笑うかと思ったが彼女もまた恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「そんなに緊張しないでください。あなたにそんな顔をされると私も……緊張しちゃいます」
消えるような小さな声で呟かれた彼女の言葉に内心身悶えしながらぐだ男は歩き出す。
ザーザーと降りしきる雨の音がうるさいが彼にはそんなものなど聞こえてはいなかった。
ただ、触れ合う彼女の温もりだけに神経が異常に反応し彼女の横顔を見ることしかできない。
「……あの、肩がはみ出ていますよ?」
『俺が全部入るとジャンヌが濡れちゃうでしょ』
「私は気にしないでください。悪いのは傘を持ってこなかった私ですから」
『……俺も男だからさ。女の子の前ではカッコつけたいんだ』
気を遣うジャンヌから傘を奪い取りジャンヌ一人がすっぽりと収まるようなポジションをとる。
そして、照れ臭そうに笑いながら彼は濡れた頬を掻くのだった。
「もう…そういう言い方は……卑怯ですよ」
若干潤んだ瞳で目を逸らし大人しくするジャンヌ。彼女の見た目に変化はない。
しかしながら、彼女の心臓はドクドクと普段よりも大きな音を立て続ける。
それからはどちらも言葉を交わすことはなく、ただお互いの距離だけを意識して家路に着いていく。
「……あ、ここが私の家です」
『うん。じゃあ、ここまでだね』
ジャンヌを送ったことに満足し彼女の家から歩き去っていくぐだ男。
だが、次第に強くなっていた雨は今やゲリラ豪雨並みの雨を降らせており、その足を物理的にも精神的にも重くさせた。
「あの、ぐだ男君。もし、よかったら家で雨宿りしていきませんか?」
『え? じゃ、じゃあ、お邪魔します』
そんな彼の様子にジャンヌは黙っていることができずに声をかける。
彼女の申し出に驚くぐだ男だったが彼女と共にいられるのなら断る理由などないので二つ返事で頷いてみせる。
『あ、でも制服がずぶ濡れだから迷惑じゃ……』
「でしたら、乾かしましょう。今からやれば雨が止む頃にはきっと乾きます」
『そこまでお願いするのは……』
「私も女の子ですから、男の子には家庭的なところを見せたいんですよ」
先ほどのお返しとばかりに茶目っ気たっぷりに言い返すジャンヌ。
ぐだ男はしてやられたと笑い肩をすくめてみせる。
『そっか、ありがとう』
「いえ、お互い様です」
良い雰囲気で笑い合う二人。
後は穏やかな時間が流れていくだけのはずであった。
しかし、それはジャンヌの天然な言葉のせいで木っ端微塵に砕け散ることになる。
「それと、風邪を引くといけないので、まずは―――お風呂に入ってください」
後書き
次回、お風呂イベント!
後、イベントのサモさん可愛すぎじゃないですかね?
思わずモーさん√を真っ先に書きそうになってしまった。
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