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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#7
  SILVER CHARIOTⅡ ~King Crimson~


【1】

 燃え盛る “火時計”
 眼前の白銀の騎士、 「戦車」 を司るスタンドが創り上げた戦慄のオブジェ。
その真紅の文字盤、最初の部分が静かに焼け落ち次の 「2」 が燃え始める。
「この炎が 「12」 を燃やすまでに私を倒すですって? 大した自信ね」
 眼前の銀髪の青年、重装甲をその身に纏った生命の幻 像(ヴィジョン)
「本体」 に向け、真紅の瞳と深紅の髪を携えた少女が言葉を返す。
「……」
 そして少女は纏った黒衣を揺らしながらそのまま青年の脇に在る
“火時計” へと音も無く歩いていきそこで、
「はあぁぁッッ!!」
峻烈なる声で右腕を真一文字に薙ぎ払う。
 抜き放たれたその右腕の先には、少女の身の丈に匹敵するほどの大太刀が
既に握られている。
 冷たい刀身の煌めきに走った刃紋がそのまま空間に鳴動するような大業物。
 異次元世界の討滅刃、その銘を “贄殿遮那”
 少女の手から放たれた脅威の一閃は若干の(いとま) を以てその結果を現し、
眼前の “火時計” は正確に両断され
鏡のような切断面から上部分が滑り落ちる。
「……」
 火時計の倒壊音と共に、彼等の後方にいた無頼の貴公子が微笑を浮かべる。
 相も変わらずの鋭さ、携えた極刀の威力をほぼ完璧に引き出す技の冴え。
 その彼の視線を知ってか知らずか肩口に炎架の紋章が刻まれた制服姿の美少女は、
周囲に舞い墜ちる無数の炎と共に眼前の騎士へ凛々しい視線を返す。
「生憎だけれど、 “炎” よりも 『剣』 の方が得意なのよ。この私は。
どうやら自惚れが過ぎたようね? おまえ」
 そう言って降り落ちる炎の下、
己よりも遙かに長身の男を傲然と見据える。
 しかしその男は眼前の事態にも顔色一つ変えず少女を見据え返す。
「フム、どうやら名前に騙されたようだ。
まさかオレと同じ “剣士” だったとは。
しかしこのオレを自惚れというのか?
このオレの剣捌きが……」
 そう言った男の手には、いつのまにか5枚のフランス銀貨が乗せられている。
「自惚れだとッ!?」
 そう叫ぶと同時に男は、手にした銀貨を全て無造作に空間へと投げ放ち、
炎と共に舞い踊るソレをスタンドと共にライトブルーの瞳に映し、構える。
 そして。
「―――――――――――ッッ!!」
 少女とは対照的に声はなく、しかしその全身から発せられる威圧感は劣るコトなく、
瞬く間の更に一瞬の(まにま) に白銀を撃ち放つ。
 その荘重なる騎士のスタンドが携えるサーベルの切っ先で、
揺らめきと共に光を称えるモノ。
 その存在を認めたジョセフが叫ぶ。
「く、空中に放たれた5つものコインをたったの一突きで!
重なり合った一瞬を貫いたッ!」
「いや……ソレだけじゃあねぇ。よく見て見ろ」
 驚愕する祖父を後目に、その実孫は冷静な視線でスタンドを見据える。
そのライトグリーンの瞳に映るモノは、
中心点を寸分違わず貫かれた銀貨の表面で、それぞれ燃える炎。
 通常の(ことわり) を遙かに超越した光景。
 そのコトに、スタンドの間近にいた少女も同時に気づく。
(コインとコインの間、ソコに炎を取り込んでる……!
それは、つまり)
 その解答を、白銀の騎士を傍に携える 『スタンド使い』 が口にする。
「コレが一体どういう意味を持つか解ったようだな?
オレのスタンドが繰り出す斬撃は、
空気を切り裂き空と空の間に “溝”
乃ち 『真空』 を生み出す事が出来るというコトだ。
ここまでの業前(わざまえ)、果たして君にお有りかな? お嬢さん」
 そう言ってスタンドが軽く右手を引くと同時に、
剣針に突き刺さっていた銀貨と炎が何の抵抗もなく抜け落ちる。
(……ッ!)
 澄んだ金属音を傍で捉えながら少女の眼前の男の想像を絶する剣技に、
その口元を軋らせる。
「是是火!? 忽然子始着火!! 的火燭~~~~ッッ!!」
 背後から、若い男の声がした。
 店のウェイターらしき男が両断されて炎上する円卓を見みながら
しきりに大声をあげている。
(ちょっと調子に乗って騒ぎ過ぎたか。ここは封絶……)
 そのウェイターを視線の隅だけで捉えた少女。
「ッッ!!」
 しかしその次の瞬間には、もう目の前の男はソコにいない。
「……」
 傍にいた騎士のスタンドもいつのまにか立ち消え、
銀髪の男は半開きになった店の扉にその背を預けていた。
「いつの間に外に……」
 頬を伝う冷たい雫を感じながら、少女は言葉を零す。
 その様子を見据えながら男は少女に、否、
その後方にいる3人も含め静かに告げる。
「オレのスタンド、「戦 車(チャリオッツ)」 のカードの持つ暗示は
“侵略と勝利” こんなせまっ苦しい所で始末してやってもいいが、
貴様等の 『能力』 は広い場所の方がその真価を発揮するだろう?
ソコを正々堂々迎え撃ち、そして討ち果たすが我がスタンド、
銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)』に相応しき勝利……」
 そこで銀髪の青年は一度言葉を切って瞳を閉じ、
不屈の信念をその裡に宿らせて再び青い双眸を見開く。
「全員おもてへ出ろ!! 順番に斬り裂いてやるッッ!!」
 一対四という余りにも不利な状況に微塵も臆するコトもなく、
鮮鋭な声でそう叫んだ。
「!」
「ッ!」
「―!」
「!!」
 その声に誘発されるように、それぞれの闘争心を燃え上がらせて
青年の後を追う4人の戦士。
 その中でただ一人。
(むう……アノ者……)
 少女の胸元で揺れる深遠なる紅世の王だけが、
感歎したような声を微かに漏らした。





【2】

胡 文 虎 花 園(タイガー・バーム・ガーデン)
 軟膏薬 「万 金 油(タイガー・バーム)」 の売り上げで巨富を得た香港の富豪、
胡文虎により1935年、総工費1600万香港ドルという巨費を投じて建設された庭園。
 1950年代に一般公開されその中心となる高さ44メートル、
7層構造のパゴダを始め、周囲に中国仏教、儒教、また様々な故事や説話を題材とした
ジオラマがコンクリートや陶磁器を用いて多数配置され、
これら地獄や極楽を構成する人物・動物・怪物等の人形はスベテ極彩色に彩られ、
見方によってはグロテスクとも取れる造形をしている
 そのセンスと世界観は香港奇妙ゾーン・ナンバーワンと呼んでも過言ではなく、
まさに狂った道化師の造りし庭といった景観を否が応にも視る者に想起させる。
 その道化師の庭、陶器で出来た巨大な白竜と猛虎が口を開く石段の踊り場で、
白銀の騎士を己の裡に秘める精悍なる 『スタンド使い』 が口を開く。
「さぁ、最初は誰が相手だ? 4人同時でもオレは一向に構わんぞッ!」
 敵とは想えない勇猛極まる声でそう叫び、
不屈の信念に充ちた青い双眸で4者を見下ろす。
「……!」
 その声を聞いた、マキシコートのような学生服を風に揺らす無頼の貴公子が、
闘争心に誘発された微笑を端整な口唇に刻み、
眼上の銀髪の男に向かって前へ出る。
「フッ……まさかDIOの配下に、テメーみてぇな男がいるとはな。
堂々と 「本体」 を晒し、ストレートに戦いを挑んでくるヤローがよ」
 そう言ってレザー製のズボンに両手を突っ込み、
勇壮なるライトグリーンの瞳で男を見据える。
「余計な策や小細工を一切使わねぇ。
初めて出てきた 『正統派のスタンド使い』 か。
面白ぇ、ここはオレがやらせてもらうぜ」
(フッ、空条 承太郎か……凄まじいパワーとスピードとを誇るスタンド、
星 の 白 金(スター・プラチナ)』 願ってもない相手だ) 
 無頼の貴公子の上で佇む銀髪の男も、
同じく闘争心に誘発された笑みを口元に浮かべ承太郎の方へと歩み寄る。
 その次の瞬間。
「……ッ!」
 無頼の青年の前進が、背後からの強い力によって止められた。
「……」
 振り向いた先にいたのは、燃え盛る灼熱の色彩をその髪と瞳に宿した少女。
 その少女が、細く可憐な造形からは想像もつかないほどの力で、
自分の学生服の裾を掴んでいる。
 その鮮烈な姿に似つかわしくない、どことなく儚げな、
まるで狂ったこの庭園の迷い子を想わせる様相で。
「先にケンカを売られたのは私よ。おまえは引っ込んでて」
 鷹揚のない声で事務的にそう告げ、少女は青年の前へと歩み出る。
「オイ?」
 以前も似たようなコトが在ったが、そのときとは明らかに様子が違う少女の背中に
青年は怪訝な視線で声をかける。
「うるさいうるさいうるさい。おまえ、怪我してるでしょ。
ベストな状態じゃないのに戦うのは得策じゃないわ」
 再び返ってきた、いつものようなうるさいほどのキレのない声。
 そして少女は青年に背を向けたまま、
眼上のスタンド使いの元へと歩みよる。
「……」
 反対に銀髪の青年は、興を殺がれたような表情で石段を登ってくる少女を見据える。
 そして一度淡いを嘆息を口唇から漏らした後少女に背を向け、
彼女の戦い易い開けた敷地へと移動を始める。
 空間を歪めるような異質な音を伴って右手に細 剣(サーベル)
携えた白銀の騎士が出現し、少女が剥き身の大刀を正眼に構えて対峙したのは
その約2分後。
 遠間に波濤が響き、湿り気のある風が互いの髪を揺らした。
「空条 シャナ? 敬愛する我が主の命とはいえ、
女を斬るのは気がすすまぬが、向かってくるのならば話は別。
覚悟を決めて戴こうか」
 騎士道の礼に失せず、敵であってもその存在に敬意を払う銀髪の青年に、
「情けは無用。さっさと来い」
紅髪の少女は端的にそう告げるのみ。
 その両者を離れた位置で静かに見据える白金の青年。
 己が戦っているわけではないが、その研ぎ澄まされた 「戦闘の思考」 は
既に両者の状況を緻密に分析している。
(あのスタンドの身のこなし、剣の握り具合、構えの姿勢、そして前後のバランス。
どれを取っても完璧だ。それに斬るような殺気を放っているのに
ソレが完全に制 御(コントロール)されてるから一切の “ブレ” がねぇ)
 少女の対峙する相手の、尋常成らざる力量に承太郎はより一層視線を研ぎ澄ます。
(さぁ……どうするシャナ? 今回は力押しが通用するような
スタンド使い(あいて)』 じゃなさそうだぜ)
 そう心中で呟き青年が視線を送った先。
「……」
 少女は戦気が在るのか無いのか、まるで夢遊病者のような漠然とした雰囲気で
ただ大刀を構えるのみ。
 そして口唇からは、譫言のような声無き声が断続的に漏れるのみだった。
 その戦闘中にあるまじき少女の姿に、眼前の青年が訝しげに視線を歪めた刹那。
「――ッッ!!」
 少女は足下の年季の入ったアスファルトを踏み切り、
大刀を斜に構えたまま白銀のスタンドへと突っ込んだ。
(どうした!? 不用意過ぎるぜッ!)
(フッ……! このオレを相手に堂々と正面からとはな! 
舐められたものだッ!)
 少女の取った選択に、白金と白銀の 『スタンド使い』 がそれぞれ対照的な心情で
両目を見開いたのはほぼ同時。
 グァッッッッッッッッッギャアアアアアアアアアアアアアア―――――
――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!
 周囲に響き渡る、空間の軋むような斬撃音。
 少女の斜め上段の構えから撃ち放たれた力任せの袈裟斬りを、
『片手で』 受け止めた騎士のスタンドは、そのまま少女の大刀の腹を
細剣の刃で滑らせ己の脇に逸らす。
“柳に雪折れ無し” 受け止めるのではなく 「抑える」 といった感覚で、
サーベルの刀身を(たわ) ませ大刀の破壊力を弾動した刃の空隙で
()なして無効化させるスタンド剣士。
「……ッッ!!」
 極限の脱力が生み出す、先刻の料理店で見せた技とは対極に位置する
緩やかな剣捌きにより、少女の躰は開いて大きく泳ぎ、
攻撃対象失った大刀と共に前へと流れる。
 その刹那。
 ピィンッ!
 滑らかな半円を空間に描いたスタンドのサーベルが、
突如閃光の如き白銀の刺突と化し、少女の左胸へと急襲した。
「――ッッ!!」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!




「……」
「……」
 炎の紋章が刻まれた特製のセーラー服、
その左胸の位置でピタリと停止した白銀の切っ先。
 そして。
「チェック・メイト」
 揺らぎのない鮮鋭な声で戦いの終焉を告げる、
精悍なる白銀のスタンド使い、J・P・ポルナレフ。
 一瞬の交錯。
 余りにも速過ぎる決着の光景。
 湿った海風が一迅、ソレを物語るように傍らを通り抜けた。
「む、むう、何という強さだ。まさかシャナが手も足も出ないとは……」
 脇でそう声を漏らす祖父を後目にその孫は、
(確かに相手は強ェが……ヒデェな、今日のシャナは)
心中で呟き紅髪の少女を見据える。
(全然戦いに集中してねぇ……今の一撃も心此処に在らずといった、投げ槍なカンジだ。
ソレに、いつものアノ焼け付くような雰囲気(オーラ)がまるで伝わってこねぇ……)
 どういうことだ?
 落胆にも似た表情で視線の先の少女を見据える無頼の青年。
「不調、のようだね。シャナは。
やはり、まだホリィさんの事を引きずっているのかもしれない」
 己の隣で佇む花京院が、静かな声でそう語りかけてくる。
「……」
 そうは見えなかったが。
 ちゃんとフッ切れたように見えた。
 旅立ちのアノ朝に。
「兎に角、ボクが代わった方がよさそうだ」
 そう言って歩みだそうとする翡翠の奏者を無頼の貴公子は引き止める。
「待ちな。まだ肩の傷が治ってねーだろ。ここはやはりオレが行く」
 鋭い意志をその瞳に宿して花京院にそう告げ、
少女の左胸にサーベルを突き付けるスタンドへと
空条 承太郎は歩みを向ける。
 その背後でワシは? とジョセフが己を指差していたのは余談。
 歩きながら勇壮なるその声で承太郎は白銀のスタンド使い、
J・P・ポルナレフへと言い放つ。
「オイ、選手交代だ。どうやらソイツは本調子じゃねぇらしい」
「――ッッ!!」
 承太郎のその言葉に、少女の首筋が羞恥で赤く染まっていった。
 その胸中を知ってか知らずか、無頼の貴公子は言葉を続ける。
「昨日ロクに寝てねーし、飛行機ン中でクワガタのスタンドとヤりあったからな」
 言いながら襟元から垂れ下がった黄金の鎖を鳴らし、
長い学生服の裾を海風に靡かせる。
「ベストの状態じゃねーヤツ、それも女に勝った所でなんの自慢にもならねーだろ。
勝手なコトを言うようだが、オレとテメーで仕切直しだ」
 そう告げる無頼の貴公子に対し、
白銀のスタンド使いは少女の左胸からいともアッサリとスタンドの剣先を引き、
三度闘争心に誘発された瞳で向き直る。
「フッ、ようやく真打ちの登場というワケか」
 耳元の特殊なイヤリングを揺らしながら、
ポルナレフはスタンドのサーベルを鮮鋭に構え、承太郎へと突き付ける。
 最早自分のすぐ傍にいる少女は、眼中に入っていない。
「今度は、失望させないでくれよ……」
「絶望させてやるぜ。オレのスタンドのパワーとスピードでな」
 互いにそう言い、近距離で真正面から対峙する二人のスタンド使い。
「うるさい……」
 傍らでそう漏らした、少女の言葉は両者のどちらにも届かない。
「フム。その意気や良し。
どうだ? せっかく互いの射程距離にまで歩み寄ったんだ。
ここは一つ、スタンドを引っ込めて
完全なる “ゼロの状態” からでの勝負にしないか?」
 鋭い芯はあるがどことなく戯れるような明るい声で、
真剣勝負の方法を提案する銀髪の青年。
「西部劇のガンマン風に言えば、“抜きな、どっちが素早いか試してみようぜ”
というヤツか? 良いだろう」
 承太郎はその提案を受け、銀髪のスタンド使いから一歩距離を取る。
「うるさい……!」
 自分を見ない、見てくれない青年に対し、今はその聞き慣れた声すらも
少女にとっては悲痛な響きとなる。
「カウント・ダウンは?」
「任せる……」
 最早完全に互いの存在しか眼に入らず、
二人のスタンド使いは戦闘時微弱に流れる 『幽 波 紋 光(スタンド・パワー)』すらも裡に留め、
発動の時を待つ。
(サンク)
 銀髪のスタンド使い、J・P・ポルナレフが制 限 時 間(タイム・リミット)
を母国の言葉でまず口にする。
(キャトル) ……」
 承太郎もそれに倣い、同じ言語で返す。
(まだ……終わってない……!)
 その両者の間に割って入るように、傷心の少女の声。
(トロワ)
(ドゥ) ……」
 その少女の存在を無視して、無情にカウントされていく戦いへの秒読み。
(まだ終わってない!!)
(ユヌ)
 そし、て。
「ZEROッ!」
「ZERO……!」
(ZEROッッ!!)
 三者三様の想いを込め、爆発する精神の波動。
 そこに。
「待てぇいッッッッ!!!!」
 雷神の放つ霹 靂(かみとき)
 ソレが急転直下で招来したかのような峻厳なる声が、三者を直撃した。
「……」
「……」
「……アラストール」
 再び三者三様に、声を発したペンダントへと視線を向ける
二人の 『スタンド使い』 と一人の “フレイムヘイズ”
「この勝負、我が預かる……」
 各々戦闘態勢を執ったまま己を見る3人に対し、
深遠なる紅世の王は静かな声でそういい放った。
 ソレは、我が子を慮る父親の如き心情。
 そして、遙かなる悠久の刻の中、確かに感じた感情。
“それほどまでにか”
 己を、見失ってしまうほどに。
 半ば諦観にも近い想いで炎の魔神は自分の上、
いま現在酷く不安定で暴走状態にも近い少女を見る。
「……」
 戦いの 「結果」 だけを求めるのなら、
先刻の一合で決着は付いていたのかもしれない。
 しかし。
 一対一。
 ソレも、男と男の真剣勝負。
 そこに横槍を入れるような、しかも一人の者を二人で討ち果たすような
「勝ち方」 は、眼前のこの男は絶対に納得しないだろう。
 その事が、余計にこの少女を傷つける事になる。
 少女の想いは、至ってただ純粋なだけ。
 しかし純粋で在るが故に、時に傷つき苦しまねばならないコトも在る。
 その想いに 「自覚」 がなければ尚更。
 そしてソレは、眼前にいるこの男も同じ事。
 互いが互いを想い遣るが故に、そしてその想いが純粋で在るが故に、
誤解を生じ、擦れ違い、傷つく事になる。
 そして想いの深さ故に、それは時に愚かな行為をそうだと気づかずに
行ってしまう事にも繋がる。
“そのような悲劇” だけは避けねばならない。
『そんなコト』 はもう、 “自分達だけで” 十分だから。 
 消えない過去の記憶を一度心中で深く噛み締めた紅世の王は、
同時に焼け付くような視線で眼前の 『幽波紋(スタンド)使い』 を見る。
 そして、厳かに口を開く。
「白銀の騎士よ。まずは非礼を詫びよう。
一対一の果たし合いに、余計な横槍を入れてしまったな」
(アラストール……!)
 自分の所為でアラストールにまで責任が及んだコトに、
少女は衝撃を受ける。
「Non、オレも戦いの熱に浮かされ少々性急過ぎたようだ。
どうやらまだまだ精進が足りぬらしい」
 少女の胸元から上がる声に、銀髪のスタンド使いは敬意を失さずそう返す。
「しかし、“預かる” とは一体どのような御意向かな?
まさか、もう一度そちらのお嬢さんと立ち合えと?」
「……」
 垢抜けた振る舞いでそう問うフランス人の青年とは対照的に、
その手前から鋭い視線でアラストールを見る無頼の貴公子。
 あくまで少女の代わりに自分が戦う、その立場を譲る気はないようだ。
 その両者を見据えながら、深遠なる紅世の王は言葉を続ける。
「先刻の貴殿の “(ワザ)” は見事で在ったが、
戦いの終局とするには少々言い過ぎだろう。
そのような脆弱な鍛え方はしていない。
何より、アノ時この子はまだ剣を放してはいなかった」
 そう問う異界の魔神に対し白銀の騎士は、
「Oui、ごもっとも。しかし気が進まぬな。
このお嬢さんの剣には “迷い” が在る」
そう言って鍛え絞られた両腕を厳粛に胸元で組む。
「剣は心以上にその人間の 『真実』 を、残酷な迄に映し出す。
幾らパワーとスピードが在っても、ソノ太刀筋が見切られてしまえば
それはもう勝負等という領域に属するモノではない、一方的な惨殺だ。
そのようなモノは我が 『スタンド』 の名誉に似つかわしくない」
「うむ」
『剣技』 の腕では明らかに少女を上回る力量を持つ騎士に、
アラストールはその事実を認めた上で頷く。
 そして。
「そうだな。ソコで貴殿の相手を仕るのはこの子ではない。
紅世の王、“天壌の劫火” 足るこの我だ」
「!!」
「アラストール!?」
 想定外の提言に、同時のその瞳を見開く青年と少女。
(ペンダントのオメーが、一体ェどうやって戦う気だ?)
「アラストール……まさか、“アノ方法” を遣うつもりなの?」
 心中と口頭にて少女と青年がアラストールに問うたのはまた同時。
「うむ。すまぬがおまえの 『器』 借り受ける。
我が、出よう」
「……」
「でもそれじゃ、痛みも傷もアラストールが……!」
 意味不明の言葉が飛び交う為怪訝な表情を浮かべる青年とは裏腹に、
少女は心痛な瞳で胸元の契約者を見つめる。
「よい。戦場に赴く以上、血を流すのは当然のコト。
逆に怯懦に屈し、己だけ無傷な場にいるコトは相手に対し無礼に当たる」
「アラストール……」
 荘厳だがその裡に緩やかな温かさを遺した王の言葉に、
少女はその名を呼ぶ以外術をなくす。
「よいな? 空条 承太郎」
 同様の響きを以て、無頼の青年に問いかけられる声。
「……」
 青年は訝しげにペンダントを見つめていたが、
代わってやりたいのは少女だけではなかったのだが、
アラストールの心中の想いを察し、仕方なく折れる。
「アンタの戦い、オレも興味が在るな。お手並み拝見といかせてもらおうか」
 そう己の心を偽り、白金の青年は炎の魔神に背を向ける。
「フッ……」
 青年の意図を察したアラストールも、
その口唇から淡い微笑を漏らす。
「気をつけて、アラストール。手強いわ、あの男」
「うむ、ソレは解っている。紛れもない。
『一流』 の遣い手で在るコトはな」
 己を気遣う少女に、アラストールは悠然とした声で応じる。
 しかし、その裡では。
(うむ。血が騒ぐ、というヤツか……久しく忘れていた感覚よ)
 かつて “彼女” と、幾多の戦場を駆け巡ったアノ時、ソノ時、
確かに感じた熱が、今再びアラストールの心中に甦りつつ在った。
(アノ者、(まご)うコト無き 『一流』
その “技倆” は許より心根に於いてもな。
アレほどの遣い手。ごく稀にしか邂逅出来ぬ)
 心中でそう呟き、紅世の王は眼前で傲然と構える一人のスタンド使いを見る。
「では、御武運を……」
「うむ」
 最後に少女がそう言って、その真紅の瞳を閉じた刹那。
 彼女の纏っていた紅世の黒衣 “夜笠” が、
突如海面を走る波紋のようにザワめいた。
「!!」
「!」
「ッ!」
「!?」
 眼前の騎士を始め、その様子を遠間にみる3人の男達も、
少女の変異に視線が釘付けとなる。
 そし、て。
 黒衣は通常の嫋やかな風合から一転、
さながら激龍の竜鱗(うろこ)を想わせる硬質な質感へと即座に変貌し、
ソレと同時に彼女の火の粉撒く炎髪が逆巻くように立ち昇り、
その全身から紅蓮の炎が多量の不可思議な紋章と紋字と共に迸る。
「!!」
 その刹那の合間に一瞬、少女の背後に垣間見えた姿。
 ソレを彼は、空条 承太郎は視ていた。
 巨大な漆黒の塊を中心に秘め、灼熱の衣たる炎を纏その身に纏い、
紅蓮の両翼を天空に向けて拡げた紅世の王。
“天壌の劫火” アラストール、 ソノ真の姿を。
 まるで、この世界史上最大最強のスタンドを、
眼前で見せつけられたかのように。
 そし、て。 
 静謐な光を称える胸元の球が深紅に染まり、
通常よりも遙かに紅度を増した炎の片鱗を周囲に振り飛ばしながら、
少女は、ゆっくりとその双眸を開く。
 その輝度を遙かに増して、この世に顕現した “本物の灼眼” を。
 そして虹彩の裡で揺らめく真紅の煌めきが、
静かに眼前で屹立する一人の 『スタンド使い』 へと向けられる。
「――ッ!」
 その、有無を言わさぬ強烈な威圧感。
 百戦錬磨を誇る白銀の騎士でさえ、想わずその構えを強固にしてしまう程に。
 開戦の合図も無しに臨戦態勢を執った、否、執らされたスタンド、
銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)
 遠方より蒼き波濤が一際大きく鳴り響いた瞬間。 
「待たせたな。白銀の騎士」
 アラストールが喋った。
「いざ、参られよ」
“シャナの声” で。




【3】




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



 海から吹き抜ける蒼き風が、伝説上の妖魔や魔獣を象った巨象群の周囲で舞い踊る、
狂った道化師の造りし庭。
 その中心部にて、少女の躰を依り代として現世に降臨した、
一人の強大なる紅世の王。
 その真名を “天壌の劫火” アラストール。
 視線を合わせるだけで、心は疎か魂までも焼き尽くすような灼紅の神眼。
 その瞳で眼前の白銀の騎士をしんと見据えながら、
少女の姿をした王は口を開く。
 己がたったいま行使した、紅世禁断の秘奥の名を。
「“霞現(かげん)ノ法” 神器を介し、契約者を 「休眠」 の状態へと陥らせ、
代わりに 『王自身がフレイムヘイズと化す』 (いにしえ) の禁儀。
今や遣える者も少なくなったがな」
「い、一体どういう事じゃ?」
 遠間で二人の対峙を見据えるジョセフが、
盟友の未だ視ぬ姿に困惑した言葉を漏らす。
 しかしその脇で傲然と佇む実孫は、
先刻の王の言葉を正確に理解していた。
「さっきの言葉を鵜呑みにするのなら、
おそらくアラストールがシャナの精神を支配し、
その躰を 『スタンド』 みてーに操ってるんだ。
ヤツら、“グゼノトモガラ” とかいうのは
妙な能力(チカラ)で人形や石像を自在に動かすのはお手の物。
なら “人間” を、テメーの思い通りに操ったとしても、別に不思議はねぇ」
 そう言って無頼の貴公子は、いつもより遙かに強い印象で心に灼き付く少女を見る。
「フ、フフフフフフフ……コレが、コレが異次元世界の能力者、
“フレイムヘイズ” その真の姿か!
ヘカテー嬢から聞き及んではいたが、まさかコレ程とはなッ!」
 少女の風貌を取った王の前で凛然と屹立していた白銀のスタンド使い、
J・P・ポルナレフは驚嘆の中にもそれを上回る歓喜を織り交ぜて、
眼下のアラストールにそう告げる。
「相手にとって不足なしッ! いざ存分に剣を交わらせようぞ!!
アラストール殿ッッ!!」
 そう言って猛るスタンドの切っ先を、より鋭く少女へ向ける。
 しかしソレに対してアラストールは、
手にした大刀の柄頭を一度その細い指先で軽やかに反転させ煌めく刃を己に向けると、
そのまま竜鱗と化した黒衣の内側に納めてしまう。
「……ッ!」
 疑念から瞳を歪ませる青年に対し、
アラストールは少女の声で端然と告げる。
「期待に添えなくてすまぬが。我は(いくさ)(つるぎ) は用いぬのでな。代わりに、」
 そう言った刹那、眼前で構えた少女の手の中で
紅蓮の焔が不可思議な紋章と共に燃え上がる。
「この “焔儀” にて御相手する。存分にな」
 しかしアラストールのその申し出に対し、
白銀の騎士はやや白けたような表情を精悍な風貌に浮かべる。
「これは異なコトを……オレの剣に炎が通用しないのは既に承知の筈。
端から勝負を投げ、我がスタンドを愚弄するか?」
「ならば試してみるがよかろう、貴殿の剣技で本当に我の炎を封殺出来るか、を」
「なれば予言しよう……貴公は、
“貴公自身の放った炎で滅び去る” というコトを……」
 そう言って互いに距離を取り、その全身から空間の軋むような
威圧感(プレッシャー)を立ち昇らせる。 




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!




 両者とも、超の付く一流の遣い手同士。
 真正面から向き合えば、付け入る隙は無きに等しい。
 そうして視る者の神経を否が上にも張り詰めさせ、
下腹部に緩慢な痺れを催す緊迫感が周囲に滲みだした刹那。
紅 蓮 珀 式 封 滅 焔 儀(ぐれんひゃくしきふうめつえんぎ)……」 
 アラストールがシャナの声で、
これから刳り出す己が存在を司る、
究極焔術自在法大系内の一領域の深名を、静謐に呟く。
 その声の終わりと同時に、少女の足下から迸る深紅の灼光。
 そしてアラストールは己の眼前で握った拳から、
厳かな仕草で人差し指をピンと立てる。
(えん)
 少女の声でそう呟くと同時に、
銀のリングで彩られた白き指先に灯る、紅い炎。
(がい)
 続いて同じように立てられた中指に。
(ごう)
 薬指。
(れん)
 小指に。
(だん)
 そして最後に立てられた親指に。
 真紅の炎はそれぞれの指先で気流に揺らめくコトもなく、寂然とその光を称える。
「ムゥ……!」
 ソレを認めたアラストールは鋭い呼気と共に
もう一度堅く握った拳を己の内側に大きく引き込み、
そして荘厳なる言葉を凛然とした少女の声に乗せて告げる。
「その身に受けよ……報いの劫火を……!」
 声と同時に、アラストールの灼眼が大きく見開かれ、
堅めた拳が竜の(あぎと) を想わせる勢いで開きその指先から、
5つの巨大な炎弾が凄まじい存在感を伴って飛び出してくる。
 そのたった一つだけでも、眼前に屹立する重装甲で覆われた白銀の騎士を
跡形もなく灼き尽くすのは可能と想わせる、超絶の焔儀。
 神炎爆裂。灼絶の煉撃。
 天壌の流式(ムーヴ)
『炎劾劫煉弾』
流式者名-アラストール
破壊力-AA スピード-AA 射程距離-AA
持続力-AA 精密動作性-AA 成長性-完成




 ソノ己を灼き尽くさんと向かってくる5つもの巨大炎弾を
銀髪の男性は鮮鋭に見据えると、
「無駄だ!! 如何に威力が在ろうと “炎は” オレに通用しない!!
我が剣の斬撃は真空を生み出しッッ!!」
精悍な声でそう言い放った刹那、その5つの巨大な炎の塊は、
嘘のようにスタンドの繰り出す旋風斬撃にスベテ斬り裂かれ、
後に遺った無数の炎の断片は捲き起こった真空に拠り自由を奪われ、
空間に固定されたように縛り付けられる。
「“弾き返す” と言っただろう……」
 周囲で紅蓮の迸りと共に己を照らす炎の断片に精悍な風貌照らされながら、
白銀の 『スタンド使い』 は勝利を確信したように微笑を浮かべる。
「“真空の中で炎は存在出来ない”
故にソレを極めれば炎を支配するなど至極簡単なコト。
貴公の技は確かに素晴らしいが、『風』 制するオレのスタンド能力は
どうやら “天敵” だったようだな?」
 そう言ってその強靭な意志の宿った青い瞳は、
目の前の少女の姿を執った王を見据える。
「不憫だとは想うがコレも勝負ッ! 引導を渡させて戴こう!!」
 鮮烈なる声と共に、スタンドが眼にも止まらぬ剣捌きで旋風を巻き起こし、
ソレが空間に拘束されていた総数30以上の巨大な炎の断片をスベテ、
超高速で前方へと弾き飛ばし微塵の回避空間も遺さずにアラストールへと襲い掛かる。
 ヴォッッッッッッッグオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ
ォォォォォォ―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!
 凄まじい爆熱音と共にアラストールの放った超絶の焔儀が、
形容(カタチ)を換えしかし威力はそのままに、否、
ソレ以上の猛威を以て弾き返され、華奢な躰に全弾直撃する。
「――ッッ!!」
 声は発しなかったがその全身を周囲の空間数十メートルと共に炎で覆われ、
その内で瞳も口唇も判別出来ずただ黒い影が微かに蠢くのみとなった少女の姿。
「……ア、アラストール……己の放った炎が余りにも強すぎるので、
自分自身が灼かれてしまっている……!」
 輪郭を震わせながら、紅蓮狂い乱れる眼前の驚愕に
ジョセフが信じがたいといった表情で声を漏らす。
「……」
 その脇にいた無頼の貴公子もまた同様に、
しかし視線はあくまで、炎の中で揺らめく少女の影に釘付けになったまま。
「……ッ!」
 やがて青年の淡いライトグリーンに映るその “影” は、
まるで生きた屍のように両手を大きく開いて前に突き出し、
ゆっくりと、本当にゆっくりと眼前のスタンド使いへと前進を始める。
 己の放った劫火の嵐の中を、まるで死出への路を模索するかのように。
 その姿を認めた白銀のスタンド使いは。
「フッ……全身を炎で灼かれながら、
それでも尚戦おうとするソノ気概は称賛に値するが、
貴公ほどの遣い手。コレ以上長引かせて苦しみを与えるのもまた不憫。
このオレが介錯仕ろう!!」
 そう言って青年は、炎の燃焼圏内からようやく抜け出そうとしていた少女の影に、
微塵の躊躇もなく白銀の斬閃を繰り出す。
 瞬く間に上下左右ありとあらゆる方向から斬り裂かれ、
空間に5つに分かれて崩れ落ちる少女の影。
「――!?」
 だが、次の刹那。
 確実に止めを刺した筈のその青年の方が、
手の先から伝わる違和感に両目を見開く。
「な、何だ!? 今の奇妙な手応えは!!
まるで紙人形でも斬ったかのように手応えがない!!」
 その青年の驚愕と同時に彼の背後死角の位置から、
静かに到来する少女の声。
「炎の揺らめきに、その眼が眩んだか……?」
「!?」
 己の背後に、先刻確かに自分の放った炎で灼かれた筈の少女が、
纏った硬質な黒衣にも焼け焦げ一つない清冽なる姿で、
その長く美しい焔髪を紅蓮の火の粉と共に熱風へ舞い踊らせていた。
「……!」
 無防備な、背後の死角の位置を取られる。
 コレは、実力の拮抗した強者(もの)同士の戦いなら、その決着を意味するのに十分な光景。
 云わば、己の首筋に剥き出しの短刀を宛われているに等しき状況。
 互いにそのコトが解っているのか、青年は何も言わず、否、言えず、
少女の姿をした紅世の王は、静かに言葉を続ける。
「貴様が先刻斬ったのは、我が己の存在の裡で生み出せし “陽炎(かげろう)
いわば空身(ウツセミ)の如きモノ。
貴様が我の焔儀を制した時点で、もう既に生み出し始めていた。
そして貴様が我の炎を弾き返した刹那、
その第一波が我に触れ得た瞬間にソレと入れ替わった。
後は燐子と同じように “陽炎” を自在法で操り、
虚を実と貴様に想い込ませるのみ」
「……ッ!」
 己の背後で、静かに響き渡る少女の声。
「己が異能に脚を掬われたのは、貴様の方だったようだな?
さて、今 生(こんじょう)への別れはすんだか?」
「……ッ!」
 騎士らしく潔く散るという選択肢も在る。
 しかし、ただでヤられるのは誇りが赦さない。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!




銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)ッッッッッ!!!!!』 」
 乾坤一擲の想いで、己がスタンド名をアラストールに刻み付けるにように叫び、
白銀の一閃を背後の少女に振り下ろすJ・P・ポルナレフ。
 しかし、ソレよりも一瞬速く。
「その意気や良し……」
 眼前のスタンド使いに告げたアラストールの右指先スベテに、
先刻と同様の寂然なる炎が宿っていた。
「改めてその身に受けよ……炎劾劫煉弾ッッ!!」
 その巨大な5つの炎弾は、眩い真紅の閃光を放って再び、一斉に散華した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ
――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 鋼の融解する音。
 鉄の蒸発する音。
 ソレ以上に、鼓膜を劈くような爆裂音。
 その何れもを絡まり合わせながら、背後に超高速で吹き飛ばされる騎士のスタンド、
銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)
「……」
 その姿を静かに見据えていた真紅の王は。
「紅世の王足るこの我に “予言” で戦おう等とは、
幾星霜の時の流れを経ても、まだ遠かったようだな……」
 森厳なる少女の声で、そう漏らすのみだった。


←To Be Continued……


 
 

 
後書き
どうも、作者です。
不覚にも夏風邪でブッ倒れてしまい更新がまちまちになってすいません。
まだちょっと毎日は厳しいので気長に待ってくれるとありがたいで御座います。


胡 文 虎 花 園(タイガー・バーム・ガーデン)”は
現在はもう閉鎖されてしまったようですが、
『この世界』では存在しているとお考えください。
やっぱりジョジョの方は「原作」に忠実に、
あんまりイジりたくないのです。
(シャナの方はメチャクチャイジってますガw)
ソレでは。ノシ
 
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