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トラベル・ポケモン世界

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9話目 好敵手(後)

 
前書き
 グレイ側
 ビビヨン(戦闘不能)、ギャラドス(小ダメージ)、チョロネコ(戦闘不能)

 エレナ側
 ジュプトル(大ダメージ)、チルット(小~中ダメージ)、アブソル(無傷)
 

 
(まさかビビヨンが相手を1体も倒せないでやられるとは……)
 グレイはビビヨンが倒された事に唖然としていた。
 グレイとビビヨンは、いつもと同じように心が通じ合っていた。それに加え、全力を出せていた。そうグレイには思えた。
(オレが大雑把な指示をしても、意図を察した動きをしてくれた。切り札の“ちょうおんぱ”を隠すために、オレが焦ったフリをした時もオレに合わせてくれた。全力で戦えていた。なのに……負けた)
 グレイはふと目の前を見る。エレナとジュプトルが抱き合って喜んでいるのが目に入った。
(まだバトルが終わってないのに、あそこまで喜べるとは……向こうは向こうで、オレが知らないドラマがあったんだろうな……それにしても、普段のエレナからは想像できないような喜びようだが)
 グレイはこのバトルの経過を振り返る。
 チョロネコは最後に頑張りを見せたが、結果的には相手にダメージを与える事なく敗れた。
 グレイと心が通い合あうビビヨンは全力で戦い、惜しい所までいったものの結果的には敗れた。
(このままでは終われないな……)
 グレイはとても強く『絶対に負けたくない』と思った。今までのバトルで、これほどに強く負けたくないと思ったことは無かった。本気で戦っているからだろうか? もしそうならば、グレイは今まで勝つために本気でバトルをした経験が無いという事になる。そうなのかも知れない。
(相手はまだ3体も残っている……だがKKなら、残り3体を倒せるかもしれない)
 グレイのギャラドスは普段は戦闘狂で困った奴だが、負けたくない戦いではこんなにも頼りになるのかと、グレイは新たな発見をした。

「ゴメンなさい……恥ずかしいところを見せてしまったわ……」
「いいよ別に。このバトルで最後に喜ぶのはオレだから」
(さすがに……KKに泣きながら抱きついたりはしないがな!)
 とグレイは思った。
「もう落ち着いたから。バトルを再開してもらって結構よ」
「じゃあ、いくぜ」
 グレイはモンスターボールからギャラドスを出した。
 長い胴体をもつ青い龍のようなポケモンが現れる。
 突然の凶悪ポケモンの登場に驚き、相手のジュプトルは力が抜けて攻撃力が下がった。これはギャラドスの特性いかく、の効果によるものである。
「じゃあKK、弱ってる相手で悪いが……止めを刺してくれ」
 グレイの指示に、『まってたぜ!』と言わんばかりにギャラドスが飛び出す。
「ジュプトル! 銃!」
 対してジュプトルは、圧倒的な威力の“タネマシンガン”を連射する。
 しかし、ギャラドスは相手の連射を気にせずに突っ込む。威力の高い銃撃をいくつか浴びるが、ギャラドスの勢いは止まらない。
「ジュプトル! 剣!」
 急接近してきたギャラドスに対し、ジュプトルは右手の草の剣を振るうが、ギャラドスの牙に止められる。そのままギャラドスは草の剣を噛み砕いた。
「っ! 銃で攻撃!!」
 剣を失ったジュプトルは、銃でギャラドスを退けようとするが、“タネマシンガン”の被弾に構わずギャラドスはジュプトルに突っ込み、吹っ飛ばした。
 ジュプトルは戦闘不能となり、倒れた。
 ギャラドスの勝利である。

 エレナは倒れたジュプトルをねぎらっている。そんなエレナを見ながら、グレイは心の中で本音をこぼす。
(相手は弱っていた訳だから、KKには無暗に突っ込むずに相手の隙を見て倒して欲しかった。戦い方を工夫すれば、ダメージを受けないで倒せただろうに……)
 しかし、先ほどはグレイはあえて自分の意見を飲み込み、ギャラドスのやりたいようにさせた。
 グレイのギャラドスは戦闘狂である。日々強敵を求め、暴れることを好む。自分の欲望に極めて忠実で、暴れるためならばトレーナーであるグレイの指示を無視することもある。
 そんなギャラドスを従えるためには、どうすればいいのか? その問いに対し、グレイは1つの答えにたどり着いた。
 それは、利害の一致である。
 ギャラドスを都合良く使うために、ギャラドスに都合良く使われる。
 ギャラドスに要求を飲ませるために、ギャラドスの要求を飲む。
 そして、重要な場面でギャラドスに指示を通すために、あまり重要でない場面ではギャラドスに好きなようにさせる。
 これがグレイなりのギャラドスとの接し方であった。
(できればビビヨンのように、心を通わせて信頼関係の上に成り立つ絆を結びたいものだが……)
 そう思い、そして、ふとグレイは考えた。もしエレナがこのギャラドスのトレーナーならば、どう従わせるのだろうか? と。

 エレナはチルットを繰り出した。空色の丸い体と、雲のような綿のような翼をもつ鳥のようなポケモンが現れる。
 ギャラドスとチルット、本日2回目の対峙である。
「チルット“みだれづき”」
 先ほどのギャラドスとの小競り合いで“みだれづき”が不発に終わった反省からか、エレナはチルットを出すなり、すぐさま指示した。
「KK! 攻撃!」
 グレイは迫りくるチルットに対し、避けるよう指示することもできたが、殴り合うことを選んだ。ギャラドスが喜びそうな指示を優先した結果である。攻撃方法を指定しないのも、ギャラドスの好きなようにさせるためである。
 チルットの“みだれづき”の連撃によってギャラドスの体力が削られていくが、お構いなしにギャラドスはチルットに“かみつく”を当て、そのまま地面に勢いよく叩きつけた。
 なおも“みだれづき”を当てようとするチルットに対し、ギャラドスはチルットの雲のようなフワフワな羽に噛みついてそのまま振り回し、地面や大木に何度も叩きつける。
 チルットが叩きつけられる度に、地面に亀裂が増え、大木にヒビが入る。
 抵抗するチルット(高さ0.4m)を痛めつけるギャラドス(高さ6.5m)は、傍から見ればタチの悪い虐待のような光景であった。
「チルット! “うたう”」
「KK! 吹っ飛ばせ!」
 壮絶な虐待のような状況から逃れるため、チルットは相手を眠らせる“うたう”を使おうとする。それを阻止するため、ギャラドスは長い胴体で遠心力を利用して思いっきり尻尾を叩きつけ、チルットを吹っ飛ばす。
 両者の距離が開く。
「チルット“うたう”を準備してから近づいて」
「KK! “りゅうのいかり”」
 眠らせる技を使いながら突撃してくるチルットに対し、ギャラドスは炎のような大きな弾を1発チルットに放った。突然の遠距離攻撃にチルットは技を中断して回避する。その隙にギャラドスが近づく。
 “りゅうのいかり”は、遠距離まで届き、相手にダメージを与える技である。この技には、使用するポケモンに依らず誰が使用しても同じ威力になる、という特徴がある。
 遠距離にも届く技ということで、“りゅうのいかり”を覚えた当時にはそれなりに重宝した技であった。しかし上記の特徴のせいで、ギャラドスがどんなに強くなろうとも“りゅうのいかり”の威力が上がることは決して無い。そのため最近ではすっかり使わなくなった技であった。
 “りゅうのいかり”のおかげでチルットに接近したギャラドスは、暴力的な攻撃を再開する。負けじと相手のチルットも反撃し、ギャラドスにダメージを与えていく。
 しかし、やがてチルットは体力が尽き、戦闘不能となって倒れた。

「アナタ、さっきから全然、回避の指示をしないわね」
 倒れたチルットをねぎらったエレナは、そうグレイに声をかけてきた。
 エレナが指摘した事は事実である。このバトルで、グレイは1度もギャラドスに回避行動を指示していない。
「もっとダメージを受けなくて済む戦い方、あったんじゃないかしら?」
「確かにあったかもな。でもな、このKK……ギャラドスは、そういう逃げの姿勢をとる戦い方は嫌いなんだよ」
「ポケモンの意思を尊重するってこと? でもアナタの戦略や作戦はどうするの? アナタはギャラドス言いなりになるの?」
「要所では指示してるだろ?」
「確かに要所で指示はしているけれど……あれはアナタの意思なの? ギャラドスの意思に反しない範囲で提案しているだけではないの?」
(よく観てるな……相手のことも、相手のポケモンのことも……)
 グレイはエレナの観察力に驚いた。
 エレナの言うことは確かに当たっている。グレイとギャラドスの関係は、司令官と戦士の関係というよりは、相談役と戦士という表現の方が正しい。
「……あえて言うけど、さっきアナタのチョロネコを倒したアタシのアブソルはね、今のアタシのポケモンで一番強いコなの」
 続けてエレナは言う。
「確かにアナタのギャラドス、とんでもなく強いってことは分かるわ。でもアタシのアブソルも負けないくらい強いの。ダメージを受けているアナタのギャラドスが、何の考えも無しに突っ込んできても勝てないと思うわ」
「忠告どうも。でもな、出会ってまだ3週間だが、このギャラドスを世界で一番良く知っているのはオレだ。オレはオレのやり方で、こいつの強さを引き出す」
「そうね、アナタのギャラドスを一番よく知っているのはアナタだものね。余計なお世話だったわね」
 エレナは言い終わると、最後のポケモン、アブソルを繰り出した。
 顔の横の片方側だけ鋭い鎌の形をした角が生えていて、尻尾も鋭い刃の形をしている、白い体毛に覆われた四足獣のポケモンのアブソルが再び現れる。
「アブソル“かげぶんしん” フォームA!」
 アブソルは2体に分身し、お互い正反対の方向からギャラドスを囲い込む。この様子にギャラドスはどちらを攻撃すべきか一瞬判断に迷う。
「KK! 片方に“りゅうのいかり”! 片方に突撃!」
 グレイの指示にギャラドスは『頭いいなお前』と言いたげな視線を送り、グレイの指示を実行に移す。
 ギャラドスは右に回り込んだアブソルに突撃しつつ、左に回りこんだ方に“りゅうのいかり”を放つ。
「跳んでアブソル! “でんこうせっか”」
 左のアブソルは“りゅうのいかり”をジャンプして避ける。標的を外した“りゅうのいかり”は地面にぶつかった。
(左が避けた! 左が本物か!)
 そう思ったグレイは左のアブソルを指して「本物はあっちだ」とギャラドスに指示する。
 同時に迫りくる2体のアブソルの内、ギャラドスは左のアブソルに攻撃した。しかし右のアブソルがギャラドスに“でんこうせっか”を決め、あっという間に距離をとった。ギャラドスが攻撃した左のアブソルは消え失せた。
(影分身のくせに避けたりできるのかよ!?)
 驚くグレイに、ギャラドスは『違うじゃねーか』と言いたげな目で見てくる。
(こりゃ本物か偽物かを判別するのは諦めたほうがいいな)
「アブソル“かげぶんしん” フォームA!」
 アブソルは再び2体に分身し、お互い正反対の方向からギャラドスを囲い込んだ。対してギャラドスは中心に位置したまま動かない。相手の攻撃を受けてから反撃するつもりだとグレイには分かった。
(やるしかねえ!)
 グレイはある決心をして、ギャラドスに指示する。
「KK! 上空に移動しろ!」
 このバトル初めての回避の指示である。
 ギャラドスは不満気な様子を見せるが、これまで好き勝手に暴れさせていたおかげか、グレイの指示に素直に従った。
「KK! “りゅうのいかり”」
 グレイは、上空から遠距離攻撃を撃ちまくって影分身を消す戦法をとった。殴り合いを好むギャラドスが嫌がりそうな戦法だが、この際仕方がない。
「アブソル! フォームC! 跳んで!」
 2体のアブソルは、先と後に分かれ、ギャラドスがいる方向に走り出し、大ジャンプでギャラドスに迫る。
 まず先にジャンプしてきたアブソルがギャラドスに攻撃する素振りを見せる。
「KK“りゅうのいかり”」
 ギャラドスは先に来るアブソルに“りゅうのいかり”を放つが、アブソルの鎌の形をした角に切り裂かれ、そのままギャラドスごと斬られ、その上“かみつく”をくらった。後からジャンプした方が偽物だったようだ。
 ギャラドスも仕返しと言わんばかりに“かみつく”を決め、長い胴体でアブソルを締め上げる。締め上げられたアブソルも“かみつく”攻撃をしたり、爪や角や尻尾でギャラドスを切り裂く。
 ギャラドスは今度はアブソルを更に空中に投げ飛ばし、その後アブソルよりも上空に回り込んだ。
「アブソル“かげぶんしん”」
 アブソルは空中だが構わず分身を作り出した。
「KK――」
 グレイはギャラドスに“りゅうのいかり”を指示しようとしたが、それより早く既にギャラドスは“りゅうのいかり”を放っていた。
(さすが! もう戦い方が分かってきたかKK!)
 “りゅうのいかり”は相手の影分身の偽物判定に使う。というグレイの戦法を、ギャラドスは理解し始めたようだ。
 当てずっぽうで放った“りゅうのいかり”が片方のアブソルに命中するが、アブソルは消えることなくダメージを受けた様子を見せた。どうやら本物だったようだ。
 本物が分かるや否や、ギャラドスはアブソルに突っ込む。
「アブソル! 角で!」
 アブソルはとっさに角で切り裂こうとするが、ギャラドスの牙で止められる。ギャラドスは頭突きをくらわし、アブソルを地上へ叩きおとす。
 アブソルは地上の大木に衝突する直前、態勢を立て直して大木の枝に着地した。直後、ギャラドスの追撃が迫る。
「角と尻尾を向けて!」
 エレナの指示により、アブソルは刃の形の角と尻尾をギャラドスに向けるが、ギャラドスは怯むことなくアブソルに勢いよく突っ込んだ。
 ギャラドスの突撃により、アブソルが足場にしていた枝はバラバラに砕け折れ、アブソルは木の幹にめり込んだ。大木自体も根本から折れ始め、メキメキ……と音を立てている。
 大木の幹にめりこんだアブソルを、ギャラドスは幹ごと締め上げる。
「幹を斬って脱出!」
 エレナの指示で、アブソルは刃の形をした角と尻尾で幹を斬り、ギャラドスの締め上げから脱出し、ギャラドスに攻撃する。
 ギャラドスは頭突きをかまそうとアブソルに突撃するが、
「返り討ちにしてアブソル!」
 なんとアブソルはギャラドスの突撃を受け止め、逆にギャラドスを地面に投げ飛ばした。
 墜落したギャラドスの横にアブソルが降り立ち、“かみつく”をくらわし、爪や角や尻尾を使い、まるで舞うように次々とギャラドスにダメージを与える。
 対するギャラドスも、再びアブソルに巻きつき、締め上げる。
 アブソルも抵抗してギャラドスをあらゆる手段で切り裂く。
 ギャラドスはアブソルを締め上げたまま、近くの大木にアブソルを叩きつけようとする。
「木を斬って!」
 エレナの指示により、アブソルは大木に叩きつけられる寸前に大木を角で切り裂く。アブソルは大木に叩きつけられたが、切り裂かれた大木はアブソルに大きな衝撃を与えることなく、根本を残して倒れただけであった。
 今度ギャラドスはアブソルの角に噛みつき、岩に全力で叩きつける。角を抑えられているアブソルは、顔面から勢いよく岩に叩きつけられた。
「アブソル! 角で攻撃して! 頑張って!」
 顔面を岩に思いっきりぶつけられること数回、アブソルは刃の形の角を抑えているギャラドスの牙を振り払い、ギャラドスの顔に角を突き刺した。
「今! 脱出してアブソル!」
 ギャラドスが一瞬怯んだ隙にアブソルはギャラドスの締め上げから脱出する。
「アブソル! 全力攻撃!」
 アブソルは爪や角や尻尾を使い、まるで舞うようにギャラドスに攻撃する。
 ギャラドスはアブソルの尻尾を牙で捕え、投げ飛ばす。
 アブソルが投げ飛ばされたことで、両者の距離が開いた。
 両者が戦いを繰り広げた場所は、花は全て散り、岩は砕け、木は折れたり切られたりしていた。
 激しい肉弾戦によって、ギャラドスもアブソルも大きなダメージを受けていた。お互いに息を整えており、しばらく静かな時が流れた。
 そうして睨み合う両者を見ながら、グレイは思う。
(思ったより良い展開だな)
 激しい肉弾戦になれば、有利なのはギャラドスの側である。肉弾戦になればギャラドスはグレイの指示など必要とせずに十二分に戦える。対してアブソルは、エレナの指示なしで十分にギャラドス相手に戦えているとは言えない。
(相手のアブソルも肉弾戦が相当強いことは間違いないが、相手が悪かったな……それに、あのアブソルの一番の脅威は、エレナの考えた綿密な戦略と指示を確実に実行してくることだ。激しい肉弾戦になれば、その強みを十分に生かせないだろ)
 激しい肉弾戦を展開したおかげで、エレナの戦略はうやむやになってアブソルに大きなダメージを与えることが出来たのである。

 睨み合っていた両者だが、突然ギャラドスがアブソルに向かって飛び出した。
「アブソル“かげぶんしん” フォームA!」
 迫りくるギャラドスに対して、アブソルは2体に分身してお互い反対の方向からギャラドスを囲い込もうとする。
「KK! 上空に移動して“りゅうのいかり”」
 グレイは再び上空から遠距離攻撃を撃ちまくって影分身を消す戦法を指示した。ギャラドスはやはり一瞬嫌そうな顔をしたが、グレイの指示に従った。相手のアブソルがギャラドスを囲い込もうと移動している隙に、ギャラドスは上空に移動した。
 上空に移動したギャラドスは“りゅうのいかり”で地上のアブソルを攻撃する。アブソルはエレナの的確な回避指示により“りゅうのいかり”を避けていくが、影分身の偽物に攻撃が当たり、偽物は消滅した。
「アブソル“かげぶんしん”」
 エレナは新たに“かげぶんしん”を指示した。しかし攻撃を指示する素振りはない。
 ギャラドスは上空から“りゅうのいかり”を撃ち続け、アブソルの偽物を破壊した。
 するとエレナは再びアブソルに“かげぶんしん”を命じる。
 エレナはアブソルに攻撃命令を出すことなく、偽物が消える度に“かげぶんしん”を命じ、後はひたすら回避に徹する。エレナの的確な回避指示を完璧に実行するアブソルは“りゅうのいかり”を本物側に一切被弾させることなく回避し続けている。
(エレナの指示内容と、アブソルの動きをよく見れば、どちらが本物か分かるんじゃないか?)
 と思ったグレイは、相手のアブソルの動きに注目しようとするが、自分にそんな悠長なことをしている時間がないことに気がつく。
(ああ……なるほど、やべえなこれ……)
 ギャラドスがアブソルに一方的に攻撃している状況は、傍目から見ればギャラドスが優勢のように見えるが、グレイはこの状況のマズさに気がついた。おそらく相手も意図してやっているのだろう。
 グレイは恐る恐るギャラドスと視線を合わせる。案の定、グレイの予想通り、ギャラドスはグレイに殺気立った視線をよこした。『いつまでやらせんだ! 早く殴らせろ!』と言いたげな目であった。
(全くその通りだエレナ……そう、KK相手に自分から攻める必要なんて全くないんだよ……待ちに徹していれば、そのうちコッチが痺れを切らすんだからな……)
 グレイは、上空から威力の低い技をちまちま撃ち続ける作業に飽きたギャラドスが勝手に相手に突っ込むのも時間の問題だと判断し、ならば命令を無視されて動かれるよりは自分の指示で動かす方が良いと思い、指示する。
「KK! 突撃!」
 その言葉を言い放った次の瞬間、ロケットスタートをきったギャラドスが2体いるように見える相手のアブソルの片方に向かって突っ込む。
「避けてアブソル! 後ろ!」
 上空から迫るギャラドスをアブソルは後ろに避けた。この動きが偽物のフェイクの為なのか、本物がダメージを受けない為なのか、グレイには判断できない。
「アブソル! フォームB・ミラー」
 エレナが指示すると、2体のアブソルはお互い並列になるように移動した。並列に立つアブソルの片方にギャラドスが攻撃しようとすると、
「避けて! 後ろ!」
 2体のアブソルはまるで鏡のようにぴったりと同じような動きでギャラドスから素早く離れた。
「後ろ! 外! 前! 今よ“でんこうせっか”! 後ろ! 内!」
 次々に攻撃を繰り出すギャラドスに対し、エレナはアブソルに避ける方向や攻撃のタイミングを逐一指示する。
 並列した2体のアブソルは、まるで実像と鏡に映る虚像のように全く左右対称な動きでギャラドスの攻撃を避けながら攻撃する。
 唯一鏡と異なるのは、アブソルの片側だけ生えた角の位置だけは左右逆になっていない事くらいである。
(本物偽物以前に! そもそも攻撃が当たらねーじゃん!)
 ギャラドスは攻撃しようとするがアブソルに避けられ、攻撃でできた隙を“でんこうせっか”で突かれてしまう。
「落ち着けKK! 一旦攻撃やめろ!」
 グレイが指示するがギャラドスは無視し、アブソルへの考えなしの攻撃を続ける。
「相手を殴る方法! 教えてやるから攻撃をやめろKK!!」
 グレイが怒鳴るとギャラドスは攻撃の手を止めた。『殴る方法』という言葉に反応したのだろうか。
「こっちから先に殴ろうとしても、避けられて隙を突かれるだけだろ! まずは相手が近づくのを待て!」
 ギャラドスはグレイの言葉を参考にしてその場に佇んだ。
「アブソル“かみつく”!」
 エレナが指示すると、2体のアブソルが同時にギャラドスに迫った。
 迫るアブソルのタイミングを見計らい、ギャラドスは攻撃しようとするが……
「内! そして“でんこうせっか”」
 ギャラドスの攻撃はアブソルに横に避けられて失敗し、そのまま隙を突かれアブソルに攻撃されてしまう。
(マジかい……)
 打つ手なし。グレイは困り果てた。
「もう……あれだ……まずは黙って相手に殴られろ! その後で殴り返せばいいんじゃないか?」
 もはや指示というよりアドバイスになっているグレイの言葉だが、ギャラドスは納得したらしい。
「あら、自由に攻撃させてくれるの? なら遠慮なく……アブソル“かみつく”!」
 アブソルの“かみつく”が命中した。ギャラドスは、急いで自分から距離をとるアブソルを素早く追い、攻撃をくらわせた。アブソルはギャラドスの攻撃で強く吹っ飛んだ。
 ギャラドスは追撃するが、
「アブソル“かげぶんしん” フォームはBのミラー。そのあと“かみつく”」
 アブソルは再び分身し、エレナの的確な回避指示を正確に実行することでギャラドスの攻撃を避けながら、自分の攻撃を加えていく。
「落ち着けKK!」
 グレイの言葉で、ギャラドスは再びその場で佇む。
 すると先ほどと同じく、アブソルが“かみつく”攻撃をしてくる。相手の攻撃が命中し、ギャラドスはアブソルを素早く追って攻撃した。しかし今度は、攻撃したアブソルは偽物だったらしく跡形なく消えた。
 その様子を見ているグレイは、自分の不利が覆っていないと実感する。
(相手に与えるダメージに比べて、こっちが受けるダメージの方が大きい……このままやったら負けるな……)
 相手側は、無防備なギャラドスを自由に攻撃でき、さらに影分身の偽物がいるのでギャラドスの攻撃を受ける確率は1/2である。
(せめて本物がどっちか分かればいいんだが……無理だな。完璧すぎる)
 2体のアブソルは鏡のような完璧に左右対称な動きをしているので、見た目での判別は不可能である。さらに、ギャラドスに攻撃する時に限り一点に集まって攻撃するので、実際のダメージを与えているのがどちらか判別できない。
 アブソルの動きもそうだが、エレナが指示に使っている言葉も偽物の判断を困難にしている。
 アブソルが分身して鏡のような左右対称な動きをするより前は、エレナは回避の指示を『前』『後ろ』『右』『左』の4方向で行っていた。アブソルが向いている方向を基準として90°ずつ方向を指定する方法である。
 しかしアブソルが2体で左右対称な動きをしてからは、『前』『後ろ』『内』『外』という言葉を使うようになった。『前』は相手がいる方向。『後ろ』は相手がいる方向の真逆の方向。『内』は分身した2体の距離が縮まる方向。『外』は分身した2体の距離が離れる方向である。
 このように横方向への移動の指示を、『右』『左』の代わりに、『内』『外』を使うことで、左右対称な動きをする2体(つまり右と左が異なる2体)のどちらが本物かを判別されないように工夫しているのである。
 ややこしい話はこれまでとして……。
 グレイはどうすれば勝つことができるか考える。
(エレナの鏡アブソルの戦略を攻略するのは無理だな……やはり激しい肉弾戦を展開して、戦略とか関係ない泥仕合にもちこむしかない! もっとも……体力の限界が近そうなKKが肉弾戦で勝てるかは分からんが)
 方針を決めたグレイはギャラドスに指示する。
「KK! 殴るよりも、相手を捕まえろ! 吹っ飛ばすのはダメだ!」
 グレイの指示をギャラドスは受け入れたようだ。
 アブソルの攻撃を受けた時、ギャラドスは長い胴体を絡ませてアブソルの逃亡を阻止し、そのまま締め上げた。アブソルは本物だったらしく消滅しない。
「KK! とにかく攻撃! ただし吹っ飛ばすのはダメだ!」
「アブソル“かみつく”! 爪でも攻撃して!」
 ギャラドスは長い胴体でアブソルの首を強く締め上げ、背中に噛みつき、アブソルを顔面から地面に叩きつけ、全体重で潰す。
 アブソルもギャラドスの体に“かみつく”をくらわし、爪や尻尾で切り裂いて攻撃する。顔から地面に叩きつけられる寸前に角を地面に向けてダメージを減らし、体重で潰そうとするギャラドスの体に角を立てて抵抗する。
 体力がほとんど残っていないギャラドスにアブソルの抵抗は響くが、なおお構いなしにギャラドスはアブソルへの暴力を続ける。アブソルもそれに激しく抵抗する。
 ギャラドスの締め上げが一瞬緩くなった隙にアブソルに脱出されてしまうが、ギャラドスは素早くアブソルに頭に噛みついてアブソルを逃がさない。アブソルの角が食い込むことも気にせずに、今度は空中に思いっきり放り投げる。
 投げられたアブソルは、エレナに指示されて刃の形の角や尻尾をギャラドスの方に向けて防御の姿勢をとる。するとギャラドスはアブソルの尻尾に噛みつき、空中で振り回して勢いをつけてから地面に向けて投げつける。
 アブソルは着地の姿勢をとろうとするが、さらに上からのギャラドスの頭突きをくらい、地面に勢いよく衝突した。
 アブソルは立ち上がったが、足がガクガクと震えている。おそらくアブソルも限界が近いのだろう。
「アブソル! もう少しだから! 頑張って!」
 エレナがアブソルを励ましていると、ギャラドスの長い体をつかった足払いがアブソルに迫った。
「跳んで! “でんこうせっか”」
 アブソルはなんとか跳んで避けて“でんこうせっか”をギャラドスにくらわせた。
 次にギャラドスはアブソルを上空へ連れ去り、空中で攻防を繰り広げる
「アブソルそこ! “かみつく”! 負けないで!」
 静かに見守るグレイと、声援と指示を送り続けるエレナ。対照的な2人であった。
 2人はそれぞれ異なった考えの元に、それぞれの行動をとっている。
 グレイは、この肉弾戦こそギャラドスが最も望む状況であり、ギャラドス自身が最高に力を発揮できる状況であり、そこにトレーナーの指示は不要だと考えていた。
 エレナは、自分の指示を信じて戦っているアブソルに応えるために、自分が今できる事を全力でしなければいけない。そう考えていた。
 2人の考えは全く異なるものだが、その根底にある思いは同じであった。ポケモンの力を最大限に引き出したい。そして勝ちたい。その思いである。

 ギャラドスとアブソル。両者とも限界が近いように思われたが、肉弾戦は思いのほか長く続く。
 しかし、ギャラドスはダメージの影響か、アブソルの攻撃を受ける度に怯むようになった。
 対するアブソルも、ダメージの影響か動きが次第に鈍くなり、ギャラドスの攻撃を避けられない場面が目立つようになった。
 ギャラドスが上に振り上げた尻尾を勢いよくアブソルに叩きつけた。アブソルは避けられず、ギャラドスの尻尾の攻撃が直撃し、ギャラドスと地面との間に潰された。
「アブソル!!」
 エレナが悲痛な叫びをあげた。
(これはやっただろ!)
 そう思ったグレイだが。
 次の瞬間アブソルは立ち上がり、自分の角をギャラドスに押し当てる。ギャラドスが怯んだ隙に爪や尻尾で攻撃を加えた。
(マジか! これは……やられたか?)
 相手の攻撃をまともに受けたギャラドスを見て、グレイはそう思った。
 しかしギャラドスは攻撃を耐え、再度アブソルに攻撃をぶつける。
 ギャラドスの攻撃をまともに受けたアブソルは、それでも立ち上がった。
 両者とも体力の限界を超えており、気力で持ちこたえている状態であった。目の前で展開されている精神論の世界を見ながら、グレイは考える。
(戦闘狂のKKが、この楽しい時をいつまでも続けるために気力で耐えているのは納得できるが……あのアブソルの気力はどこから湧いてくるんだ?)
 考えていたグレイは、ふと、アブソルに声援を送り続けるエレナを見て、1つの仮説を思いつく。
(トレーナーであるエレナの声援に応えるためか……? エレナの思いに応えるために、気力で立っているのか?)
 繰り広げられるギャラドスとアブソルの精神領域の戦いに視線を移し、グレイは考え続ける。
(じゃああいつらは、自分の戦闘欲求と主への忠誠心、どちらの思いが強いか比べてるのかもな)
 突如、アブソルの攻撃を受けたギャラドスが派手に吹っ飛んだ、
 グレイは飛ばされたギャラドスを視線で追った。墜落したギャラドスは、なぜか動く気配がない。殴り合いを望むギャラドスが、相手に攻撃をやり返さないのは不自然である。
(……勝ったのは忠誠心だったか)
 グレイは気がついた。ギャラドスが攻撃を返さずに動かない理由。それが戦闘不能になったからであると。
「楽しかったか? KK?」
 グレイはギャラドスにそう声をかけた。

 
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