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夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和

作者:臣杖特
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レベル6前編 人間間ではかなり強力な力を、誇る

「ケート、行こっ」
「うん」
 ハンターに狙われていても、学校には出るし昼食は普通にみんなで取る。
 哀手(アイデ) (モク)はいつものメンバーで昼食でも取ろうかと取り敢えず、同じクラスの九衆宝 (クシュボウ) 毛糸(ケイト)を呼んだ。
「そういえば、たこ焼きの屋台が出てるらしいわよ」
「屋台?」
 今日は祭りの日でもなんでもないのに、珍しい話だ。
「朝からやってるらしくて、噂になってた」
「へぇー。行ってみる?みんな誘って」
「それもいいわね」
 好奇心から予定を変更しながら、折角だからその話を掘り下げてみる。
「その屋台ってどんなのなの?」
「どんなの?」
「えっとほら、客の評判とか値段とか」
 廊下に出ようと目を向けると、何やら人だかりがざわざわしている。
「そうね、一番特徴的なことと言ったら、」
 樢は何かあったのだろうかとそちらに目を向けながら、毛糸の話に耳を傾けていた。
「小学生位の男の子が売ってるってところかしらね」
「はーい、たこ焼き安いですよー。もってけ強盗犯といった感じですよー」
(あいつだぁあぁ!!)
 その声の主は、屋台の経営者は、「樢が日常生活で最も出会いたくない」、老伍路(オイゴロ) 夢値(ムチ)だった。
「あら、例の屋台ここまで来てたの」
 毛糸は呑気に呟いていたが、樢は冷や汗をかいていた。
「え、えっと、ケート?」
「どうしたの?」
「わ、私ちょっと粉物の気分じゃなくなったっていうかその……」
 樢は咄嗟のことに頭を回転させられながら言葉を出した。
「…………ふーん、分かった。これ以上聞かないわ」
「あ、はは、ありがと……」
(よかった。あれと私が知り合いってバレたら流石に……)
「樢さん!」
「!?」
 夢値の呼び声に樢は思わず全身を伸び上がらせた。
「え、えっと……」
 樢はあくまで初対面を装おうと意図的に笑みを引きつらせた。
「初めまして。たこ焼きいかがですか?」
「い、いや、ちょっと、私たこ焼き好きじゃなくて……」
「樢さん、この人と知り合」
「知り合いでも何でもないです!」
 毛糸の疑念を無理矢理解決にもっていこうとするように樢はきっぱりと叫んだ。
「あれ?」
 それに答えたのは夢値だ。
「樢さん一昨日寄り道してお好み焼きのMサイズを1人で」
「わあああああああああ!」
「食べてたので多分たこ焼き辺りも好きかと思ったのですが」
「ちょっともう黙って!ずっと!」
「落ち着いて下さい樢さん。ぼくたちは初対面ですよ?いきなりそんなに怒らなくても」
「どの口がそんなこと言うのよ!」
「ちょちょちょっと、何やってんのさ?」
 中年の男の数学の教師が早足でこの人だかりに寄ってくる。
「君は誰?小学校の時間だろう?ここの許可もらってないよね?」
 そういえば冷静になれば、教室で屋台を開いているのは結構異様だった。
「ええと……」
 この正論にどう反応するかと夢値を見たが夢値は無邪気に見えるニコニコ顔を崩していない。
「美味しいたこ焼き、1ついかがですか?」
「いらないよ!そうじゃなくて!」
「たい焼きの方が良かったですか?」
「違う。廊下に屋台を出すなと言っているんだ」
「そ、そんな。こんな狭い場所でレストランなんて……」
「店の形態の問題じゃない。ここでやるなと言ってるんだ」
「ここですか?この地球ですか?この地球で、この宇宙で、具体的には人工衛星なぎなたの周囲で経営するのもいけないということですか?」
「小学生か!」
 見た目は小学生である。
「ここは学校だ。学校関係無い人は入っちゃいけないんだよ」
 教師も段々イライラしてきているようで、更にガヤもどんどん集まってきた。
「成る程。学校にいなければいいんですね」
「……場合による」
「ケースさんケースさんバイ飛んでケースさんですか。では実際に見て判断してもらいます」
 そういうと夢値は屋台を畳んで質量保存の法則を無視しているような小さなカバンに入れて学校内の階段を登った。遅れて人の山もそれについていく。
 そして辿り着いたのは、いつの間にか施錠の解けた屋上の扉だった。それを教師が開けると、夢値が屋台を開いていた。
 上空で。
 夢値と屋台はおよそ上空10mのところでプカプカ浮いていた。
「え!?」
 毛糸が空を凝視しながら夢値の真下に駆け寄った。やはりというべきか、下に支えのような物は無い。
 おそらく空から何かで吊っているわけでもないのだろう。
(また変なことして目立って……)
 ガヤのざわめきを見聞きしながら、樢は心の中で頭を抱えた。


 授業が終わり、生徒が散らばっていく中、樢も帰る為に自分の下駄箱に向かっていた。
「はぁ」
 学校でも夢値に困らせられるのかと思うと、自然とため息が出た。
「大丈夫?」
 毛糸が樢の顔を覗き込んでくる。
「え?ああ、大丈夫大丈夫」
 取り敢えず樢は笑顔を作ってから自分の下駄箱にサッと視線を移した。
「……ん?」
 下駄箱の扉を開けたのだが、自分の靴の上に小さな紙が折って置いてあった。
「どうしたの、樢?」
「うん。ちょっとね」
 曖昧に答えつつ紙を開くと、そこにはボールペンの字で『15:30に、体育館の裏に来て下さい』と書かれているだけだった。
(これってもしかして告白!?)
 樢の心臓が跳ね上がった。
「ごめんケート!用事が出来た!」
「どうしたの?」
「ちょっとね」
 スマートフォンを見るともう時間が無い。
「分かったわ。じゃあね」
「ごめんケート、じゃあね!」
 樢は駆け足で校庭を飛び出した。
「……」
 毛糸は駆けていく樢を見えなくなるまでぼんやりと眺めた後、顔を下駄箱の方に戻した。
「何も聞く必要は、無さそうね」
 毛糸はそう呟くと、靴を履き、ゆっくりと学び舎を出た。


 体育館の裏へと駆けると、既にそこで待っている人影がはっきりと見えてきた。
「……あれ?」
 明らかにそれは学生の姿にしては年老いすぎていた。更に言うなら、その人の殺気立った雰囲気は、恐らく教師でも無さそうだった。
「…………あ」
 このパターンは想像がつく。部外者が樢を呼び出すなら、理由はおそらく……
「引っかかったな哀手なんちゃらぁああぁああ!サンサーヴを寄越せぇぇぇえぇえぇええぇえ!!」
「あーもうこんなんばっか!」
「なんだとぉおお!俺をそこんじょそこらの一山すじこのハンターと一緒にするんじゃねぇよ哀手なんちゃらぁ!」
 そう吠える彼は二十歳を少し過ぎた辺だろうか。染めて日が経ってしまったのだろうか、髪の上半分が真っ白で下半分が黒い。
「俺はなぁ!俺にしか出来ない必殺技があるんだよ哀手なんちゃらぁ!」
「哀手 樢です!」
「哀手なんちゃらぁ!」
「……」
 樢は諦めた。
「必殺!《万華鏡-華麗なる分身》!」
 彼がそう叫ぶと、
「ひぇああああ!」
「でいちぇらああああ!」
「コングラフィアアアアア!」
 彼の背後から3人の男が飛び出してきた。
 彼らも最初の男とそう変わらない年齢だろう。それぞれ髪を白に染めているが、髪の根元からある程度は黒いままだ。
「うわ!?」
 驚きというよりかは単純な恐怖心と嫌悪感で樢は声を上げた。
「「「「フハハハッハハハハアハハハアハ!年貢の納め時だ、哀手なんちゃら!」」」」
 高笑いするハンター達、怯んでいる樢。
 そしてそれ以外にも、音が聞こえる気がする。それも地下から。
「……って」
 地面に人工的に綺麗な丸い穴が空いた。
「万華鏡なのになんで4人いるんだよ!」
 そこから叫びながら飛び出してきたのは、犬だった。
「え!?」
 明らかに先程の言葉はこの犬から発せられていた。
 犬は茶色で滑らかな毛を持つ大型犬。そしてそれはねずみ色のバックパックを背負っていた。
「犬だ!おっきい犬だ!」
 樢は喝采を上げた。樢は猫派だが犬も結構好きである。
「何ぃ!?万華鏡は《ハーピィ・レディ三姉妹》を……」
 突然中央の男が固まった。
「確かに!?」
「アホかお前ら」
 犬は人間に呆れ顔を向けた。
「……って君、日本語上手ね」
 樢は犬に笑みを見せた。
「あぁ?ガキ扱いすんな。俺はダード。もうとっくの昔に大人になっているんだよこの小娘」
「へぇー、ごめんなさいねぇー」
 睨んでいるダードもなかなか可愛いと思いながら樢は生返事をした。
「き、貴様は誰だ!?」
「だからダードって言ってんだろ」
 ダードは怯える男達を睨みつけた。
「じゃ、じゃなくて、何者だ貴様!」
「俺か?俺はただの決闘(デュエル)(けん)だよ」
「「デュエル犬!?」」
 樢は真ん中の男とハモってしまった。
「ぁんだよ、んなに珍しいもんでもねぇだろ」
 ダードは渋い顔をした。
「決闘犬って何?」
 樢は正直に尋ねた。
「あー、もしかしてここでは珍しいのか?……決闘犬っつうのは、決闘に不正が無いか、決闘者(デュエリスト)やデッキの臭いで判断する犬のことだよ」
「その決闘犬がなんでここに?」
「はぁ?夢値から聞いてねぇのか」
「夢値!?」
 ということはサンサーヴ絡みだろう。
「あぁ。お前の遊戯王のオベンキョーに付き合ってやれってよ」
「私犬に教えてもらうの!?」
「はぁ?嫌だっつっても」
「いいじゃん!なんか興味湧いてきた。教えて教えて」
 樢は急かすようにダードを揺さぶった。
「……お前、夢値が言ってたのとキャラ違わねぇか?」
「犬はいいじゃん可愛いじゃん」
「……」
 気分のいい樢に閉口するダード。
「あ、ダードも樢さんも仲良くなってきたみたいですね」
 そこに徒歩で駆けつける夢値。
「待て待て俺は仲良くなってな」
「あ、夢値。ダードありがと!」
 樢は大きく手を振った。
「お安いご用です」
 夢値はにっこりと微笑むと、置いてけぼりの白黒髪男達に対峙した。
「それで、ぼくは誰と闘えばいいんですか?」
「っしゃあ!まず俺が行くぜ!」
 左にいた男が夢値の眼前に飛び出した。
「エントリーナンバー4!エル!俺の個性は2ヶ月前から1ヶ月間、クレーンゲームでニワトリのドデカぬいぐるみを取った唯一の人間ってことさ!」
「それって個性なの?」
 樢は冷静にツッコんだ。
「個性だ!唯一無二!それこそ個性!」
「……成る程」
 夢値はデッキを構えた。
「「決闘(デュエル)!」」


「先攻を頂きます。ぼくのターン《BF(ブラックフェザー)上弦(じょうげん)のピナーカ》の召喚します。更に僕の場に『BF』モンスターがいるので、手札から《BF-砂塵(さじん)のハルマッタン》を特殊召喚します」

ピナーカ 攻1200
ハルマッタン 守800

「ぼくはレベル2の《ハルマッタン》に、レベル3の《ピナーカ》をチューニングします。レベル5、《(アサルト) BF(ブラックフェザー)五月雨(さみだれ)のソハヤ》をシンクロ召喚」

ソハヤ 守2000

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです。エンドフェイズに《ピナーカ》の効果を発動します。デッキから『BF』モンスター、《BF-疾風(しっぷう)のゲイル》を手札に加えます」
「俺のターン、ドロー!俺は《ゼンマイラビット》を召喚」

ゼンマイラビット 攻1400

「そして……ターンエンドだ」

夢値 LP8000
モンスター  ソハヤ(守2000)
魔法、罠   伏せカード1枚
ペンデュラム 無し


エル LP8000
モンスター  ゼンマイラビット(攻1400)
魔法、罠   無し
ペンデュラム 無し

「ねぇねぇ今どんな状況?」
 樢は早速ダードに尋ねた。
「そうだな、お互い何のデッキか分かんねぇ」
「分かんないの?」
 樢はダードの顔を覗き込んだ。
「分かんねぇのが変なんだよ。普通に考えるなら、『BF』モンスターを並べるデッキと、『ゼンマイ』モンスターを並べるか《ゼンマイラビット》と罠で相手を妨害していくデッキだ。だが2人共静かすぎる。残りの手札どうなってんだ?」
「気になりますか?」
 夢値はダードににっこりと微笑みかけた。
「お前は決闘に集中しろ!」
 ダードは吠えた。
「ぼくのターン、ドロー。通常魔法、《(やみ)誘惑(ゆうわく)》を発動します。2枚ドローして手札の《ピナーカ》を除外します。……さて、ダードと樢さんの為に、ヒントを出し合いましょう」
「は?」
「速攻魔法、《手札(てふだ)断殺(だんさつ)》です。お互いに手札を2枚墓地に送って、2枚ドローします」
「これでお互いに墓地に送ったカードから、デッキ内容を類推しろってか」
 ダードは前足で器用に何らかの機械を操作して、樢に見せた。
 機械によると、夢値が墓地に送ったカードは《龍大神(りゅうおおかみ)》と《レベル・スティーラー》、エルの捨てたカードは《ゼンマイラビット》と《ファイヤー・ハンド》だ。
「何!?」
 ダードは目を見開いた。
「どうしたの?」
「夢値のデッキは、大方予想がついた。だが、あの対戦相手……」
「変なの?」
「普通、《ゼンマイラビット》と多くの罠で戦うデッキは、《ゼンマイラビット》の効果で自分のフィールドを空けやすいことを利用するもんだ。だが、《ファイヤー・ハンド》はフィールドに残りやすいモンスター。この2つを両立するデッキというのが想像つかない」
「……成る程」
 樢は大まか理解した。
「安心しろよ!」
 外野にいるどこにいたか忘れてしまった男がガヤを飛ばした。
「俺達のデッキがどんなのか、その身を以て思い知らせてやるからなぁ!哀手なんとかぁ!」
「闘ってるのは私じゃないけどね」
「でも、もしこのターンでぼくが勝っちゃったら、思い知れないかもしれませんよ?」
 夢値は自分の手札を眺めながら呟いた。
「安心しろ」
 外野の男はニヤリと笑った。
「機会は全部で4回あるんだからよぉ」
「4回、まさかあいつら」
 ダードが唸った。
「その通りだ犬!」
「俺はダードだ!」
「犬!俺ら4人、全員と相手してもらうぜ!」
「相手すんのは夢値だがな」
 ダードはそう呟くと、夢値の方を見やった。
「大丈夫か夢値?」
「ん?4連戦ですか?」
 夢値は首を傾げた。
「それぐらいどうってことないですよ。ダードは安心して樢さんに色々教えてあげてて下さい」
「分かった教わる」
 樢は即座に頷いた。
「……俺の方が安心出来ないな」
「いいからさっさと決闘を続けるぞなんちゃらぁ!」
「そうですね」
 決闘者2人が対峙した。
「俺達のデッキでサンサーヴを手に入れ、その力で俺達はオンリーワンになる!それが、俺達の最後で最強の個性だ!」
 エルは握りしめた拳を突き出した。
「……あなた達は悪人ですが、一番好きなあなた達の個性というのはあります」
「なんだ?言ってみろなんちゃらぁ!」
 叫ぶエルに、夢値は笑顔で手札を構えた。
「決闘が出来るということです」
  
 

 
後書き
後半に続きます。後半は2週間ぐらいで書きたいなぁ。
ともかく、この時点で感想や指摘などありましたら気軽に下さいね 
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