FGOで学園恋愛ゲーム
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八話:想い
終業式。それは休みに入る前の生徒達にとっての最後の試練。
教師としても浮足立つ生徒に集中させるのに一苦労する行事だ。
しかしながら、この学校の校長のカリスマは一味も二味も違う。
「愛し子よ―――ローマである」
校長を務めるロムルスの言葉が体育館に響き渡る。
その静かでありながら荘厳な声は聞く者に安堵と畏敬を抱かせる。
「校長の話も終わった。では、一年生から速やかに教室に戻るように」
ロムルスの話が終わりスカサハが生徒を教室に戻し始める。
そんな中ジャンヌ・オルタは微妙そうな顔をしてぼやいていた。
「ローマであるって……結局何が言いたのよ」
ロムルス校長の話は非常に短く簡潔に纏められている。
だが、短すぎるが故に分からないこともある。
もっとも、ぐだ男のような分かる人間にからすれば簡単に分かるのだが。
『休み中に事故に遭わないように、二学期に元気な姿で会おうって言ってた』
「ローマしか言ってないじゃない!」
『そんなことない』
「汚染されてるんじゃないわよ!」
「そこ、しゃべらずに歩け!」
ローマ語を喋り始めたぐだ男にふざけるなと食って掛かるジャンヌ・オルタ。
しかし、スカサハに見つかり鋭い眼光を向けられてしまう。
「たく…あんたのせいよ」
『ローマ』
「ごめんじゃないわよ…て、うそ。今ローマで通じた…?」
遂にローマ語を習得してしまったジャンヌ・オルタ。
ニコニコと笑いながらそれを祝福するぐだ男だったが、当の本人は頭を抱えていた。
自分も遂に一般人ではなくなってしまったのかと。
しかしながら、気を落とすことではない。
何故ならローマとは世界であり、世界とはローマであるのだから。
全ての事柄がローマで表せてしまうのも、またローマなのである。
『ラーマ』
「それは別人でしょ!」
「む、今誰かが余を呼んだような……は! もしやシータか!?」
ローマに字面が似ている為に呼ばれたラーマ少年が不思議そうに辺りを見回す。
彼は別のクラスに属する2年生だ。
最近別の高校に通うシータちゃんと晴れて付き合うようになったらしい幸せ者だ。
「お前達……余程お灸を据えられたいらしいな」
『ごめんなさい』
いつまで経っても黙らない生徒に向けスカサハがどこからともなく槍を取り出す。
それを境に水を打ったように沈黙が広がり、教室まで喋ることができるものは一人としていなくなったのだった。
『ふー、疲れた』
「あら、それは大変です。肩叩きでもいたしましょうか、旦那様」
『ありがとう、清姫。でも、いつの間に背後に?』
教室に着き腰を下ろすぐだ男。背後でニッコリと笑う清姫。
ここ最近このクラスでよく見られるようになった光景だ。
「妻は夫の三歩後ろをついていくものですから」
『おかしいなぁ、俺まだ独身のはずなんだけど』
どこか遠くを見つめながらぐだ男はぼやく。
その後ろでは清姫が甲斐甲斐しく肩を叩いてくれている。
取りあえずこの状況を改善できないものかと彼は視線で助けを求めることにする。
ちょうど、ジャンヌ・オルタとモードレッドが視界に入り悩んだ末にモードレッドに助けを求める。
「オレかよ……。あー…お前、ぐだ男の奴が困ってるみてえだぞ」
「それは本当ですか? もし…嘘でしたら、私……自分を抑えきれませんわよ?」
嫌々そうな顔をしながらも助け舟を出すモードレッド。
その言葉に清姫の目がスッと細まり辺りに冷気が満ち始める。
「はぁ!? オレを疑うのかよ!」
「ええ。私、嘘は許せない性質でして。特にあなたのような人は疑わしくて」
「…! お前、まさかオレの…ッ」
嘘を見通す瞳を向けられ瞬間的に自身の服装を確認するモードレッド。
珍しく怒らずに慌てるモードレッドの姿にぐだ男は首を傾げる。
だが、それ以上にこのままいけば喧嘩になると悟り、口を開く。
『モードレッドの言ってることは本当だよ』
「旦那様……私のことはお嫌いですか?」
『嫌いとかじゃなくて、清姫みたいに可愛い子と密着すると恥ずかしいだけだよ』
悲しそうな顔をする清姫を慌ててフォローする。
突然惚れこまれて困惑しているが別段彼女が嫌いというわけではない。
寧ろ、積極的なスキンシップにドキドキとしている。
「嘘…ではないのですね?」
そして、彼女が嘘という言葉を口にする度に別の意味でドキドキしている。
『本当』
「まぁ、嬉しいですわ、旦那様。では、結婚しましょう」
『どうしてそうなるの?』
清姫は、基本的に気立ても良く可愛い女の子である。
時々、というより常に狂ったような過剰反応を示すところがあるが可愛い娘である。
「さー、今学期最後のホームルームよ。座った、座った」
『ほら、三蔵ちゃんが来たから席に戻らないと』
「……仕方がありませんね」
名残惜しそうな声を残して自身の席に戻る清姫。
その背中を見つめながらぐだ男は悩む。
素直に好意を向けてくれることは嬉しい。
しかしながら、それを素直に喜べるかどうかは別だ。
「明日から待ちに待った夏休み! ……と、言いたいけど午前中は夏期講習があるわね。御仏もおっしゃる通り世の中は無情なものね」
三蔵ちゃんの話を聞きながらジャンヌ・オルタの後姿を見つめる。
自分は既に二人の女性を気になってしまっている。
不誠実なことだとは理解している。それにこの感情は本当の意味での好きではない。
誰よりも一人の人を好きになる。愛とはそういうものではないのか。
少なくともぐだ男はそう思っている。
「でも、負けないで! 夏期講習さえ乗り越えたら後は本当の休みよ! 勿論、宿題も山のように出すけど、それはそれよ!」
本当に好きな人を選ばなければきっと後悔する。
何より相手に対して申し訳が立たない。
幾人もの女性を愛せる程甲斐性があるわけでもない。
ただ、一人を愛するのだ。
三蔵ちゃんの話が右から左に流れていくが彼は気づかない。
「じゃあ、色々ある休みだけどみんな頑張って! 頑張れば必ず功徳は来るから!」
締めの言葉を言い終わり満足そうに頷く三蔵ちゃん。
その様子にぐだ男は今更ながらに話を聞いていなかったことに気付く。
しかし、気にしても仕方がないので流れに乗り立ち上がる。
そこへブリュンヒルデに纏わりつかれ鬱陶しそうにしたジャンヌ・オルタが来る。
「ちょっと、ぐだ男。あんた夏休み暇? というか暇よね」
『どうしたの?』
「食べログって知ってる? 最近はまってるのよ。おごり高ぶった有名店をボロクソに評価をして地獄にたたき落とす最高の趣味なんだけど」
見下したような顔をしながらも喜びを隠しきれない表情をするジャンヌ・オルタ。
どうやら叩き落すと言いながらしっかりと美食に満足している模様だ。
『それに付き合えってこと?』
「そうよ。このテケテケ槍女も行くんだけど……こいつだけだと何かと不安だからあんたも付き合わせてあげようってわけ」
抱き着いているブリュンヒルデをビシバシと叩きながら語るジャンヌ・オルタ。
なんでも趣味であるブログのためにグルメハントをしているらしい。
ぐだ男にとっては気になる相手と一緒にいられるチャンスである。
以前であれば二つ返事で了承していただろう。しかしながら。
『ごめん。予定が入るかもしれないから確約はできない』
ぐだ男はやんわりではあるが断った。
「はあ? 何よ、それ」
『行ける時なら手伝うから。それで許して』
しかめっ面をするジャンヌ・オルタに手を合わせて謝る。
彼女は魅力的な女性だ。そんなことは百も承知だ。
だが、そんな彼女よりも彼には気になる女性がいた。
「……そう、仕方ないわね」
そんな彼の想いを薄々感じ取ったのかどうかは分からないが彼女は諦める。
今まで見せたことがないような寂しげな表情を一瞬だけ覗かせ彼女は立ち去っていく。
『……帰ろう』
何か心に重いものが載ったような気分になりながら荷物を纏める。
終業式ということもあり基本的に学校に物は置けない。
そのため計画的に持ち帰っていない生徒はこの日に大量に持ち帰るはめになる。
ぐだ男もそのような生徒の一部だったために両手に荷物を持った状態で廊下を歩いていく。
「ぐだ男君」
聞き覚えのある柔らかな声が耳に届く。
胸の高まりを感じながら、ぐだ男は静かに振り返る。
『ジャンヌ』
「重たそうですね。あの、いくつか持ちましょうか?」
『大丈夫。大したことないよ』
ぎこちない笑みを浮かべながら心配するジャンヌに断りを入れる。
しかし、その不自然さはしっかりと彼女に伝わってしまった。
心配そうに近寄ってきてぐだ男の顔を見つめる。
「顔色が優れませんが……どこか悪いのではないですか?」
『べつにどこも悪くないよ』
「本当ですか?」
身体はどこもおかしくないと答えるがジャンヌは納得しない。
さらに体を近づけぐだ男の様子を確認する。
「顔が赤いですよ、ぐだ男君」
『い、いや。本当に体はどうともないから』
「ジッとしていてください」
ジャンヌのシルクのように白く柔らかな手がぐだ男の額に当てられる。
一気に火照りが体中に広がっていき、しどろもどろするぐだ男。
「熱があるのではないのですか」
『だ、大丈夫だから』
「ナイチンゲール先生を呼んできましょうか?」
『―――ごめん。それだけはやめて』
ナイチンゲールの名前を聞いた瞬間に真顔に戻り拒否するぐだ男。
「ですが……」
『ほら、今日はもう帰って安静にしておくからさ』
なおも心配してくるジャンヌを振り切るために笑顔で告げる。
流石のジャンヌもこれ以上無理強いできないのか困ったような顔を浮かべる。
その様子に罪悪感を抱くが保健室送りにはならずに済むと胸を撫で下ろす。
だが、ジャンヌは次の瞬間に名案が思い浮かんだような顔をする。
「分かりました。では、一緒に帰りましょう」
『え…? いや、別に一人で帰れるし』
「ダメです。一人で帰って途中で倒れでもしたら一大事です。ぐだ男君は私が責任をもって送り届けます」
使命感に満ちた表情で頷き宣言するジャンヌ。
ぐだ男はそんな彼女にどうしたものかと頭を悩ますが結局何を言っても無駄だと判断し諦める。
『ありがとう。それじゃあ、帰ろうか』
「はい。辛かったらいつでも言ってくださいね」
太陽のような笑顔で見つめられ胸が苦しくなるが何とか押し隠す。
開放感溢れる空気の中、いつの日かのように二人で並んで下校する。
隣を歩く彼女の姿をチラチラと盗み見ながら自身の心を整理していく。
「そう言えば……最近はよくぐだ男と一緒にいますね」
『そうだね』
誰にでも優しく、それでいて気高い心を持つ彼女。
見た目は勿論だが、彼女の美しさとはその心にある。
「人の縁は不思議ですね。初めて出会ったのがぐだ男君が廊下を走って転んだ時でしたね……」
『もしかして怒ってる?』
「ええ、ほんの少しだけ」
そう言って苦笑するジャンヌ。
特別な仕草でもなければ、褒められているわけでもない。
だというのにぐだ男は彼女に見惚れていた。
それは、彼が彼女という存在すべてにある感情を抱いているからにならない。
「でも……こうして仲良くなっていくのは嬉しいものですね」
『……うん』
「私、ぐだ男君ともっと仲良くなれたら良いなと思います」
聖女のような微笑みには言葉以上の思いは込められていない。
彼女にとって彼は仲の良い友達の一人でしかない。
だが、しかし。それを理解してなお、ぐだ男の想いは変わらない。
『俺も、もっとジャンヌと仲良くなりたい』
その言葉と共に彼は心の中で盟約を読み上げるように宣言するのだった。
俺は―――ジャンヌのことが好きだと。
後書き
[壁]⌒ ₋ ⌒ )旦那様…?
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