八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第八十一話 青い海と白い砂その九
「手には気をつけています」
「そうなの」
「寝る時もです」
「お風呂とかおトイレ以外には」
「お料理の時はビニールの手袋です」
それを付けているというのだ。
「そうしています」
「いつも徹底的なガードを」
「ですから今も」
「そうなの」
「はい、ですが」
「その手を」
「ピアノをしている時に言われます」
早百合さんが手をいつもガードしているのはピアノの演奏の為だ、ピアのは手で演奏するものだからだ。それも素手の敏感な感触と共に。
「白くて奇麗な手だと」
「確かに。早百合の手は奇麗」
エリザさんもこう言う。
「白くて指が長くてすらりとしていて」
「そうなのですね」
「ただ」
「ただ?」
「指の先の形が独特」
エリザさんは早百合さんのその黒い手袋に包まれた手を見つつまた言った。
「先が平たくなっていて」
「そのことですか」
「自覚してるの」
「はい、ピアノを演奏していますと」
「そうした手になるの」
「はい、ずっと演奏をしているということは」
そのことが即ちというのだ。
「ピアノの盤を指で叩いていることですね」
「言われてみれば」
「そうしているとです」
「いつも叩いているから」
「指の先がそうした形になります」
「それでなの」
「私の指の先はそうした形になっています」
先が平たくなっているというのだ、言われてみれば実際にだ。早百合さんの指の先はそれこそへらみたいに平たくなっている。
「へらの様に」
「それでなの」
「はい」
「わかった、ピアニストの指」
早百合さんのその指はとだ、エリザさんは静かに頷いて述べた。
「演奏家の指」
「そう言われますと恥ずかしいですが」
演奏家と言われると、というのだ。
「ピアノを弾いていますと」
「そうなる」
「そうです」
「ピアノをしていると」
「そういえば」
ここでこうも言ったエリザさんだった。
「それぞれの娘で指が違う」
「それは当然でしょ」
テレサさんがエリザさんに応えた。
「それぞれやってることが違うから」
「だから」
「そう、指だけじゃなくて手もね」
「それぞれ」
「そうなるわよ」
「そうしたものね」
「ええ、当然のことよ」
それぞれの人の手や指が違うことはだ。
「もって生まれたものでもあるし」
「やっていることで違ってくる」
「そういうものね」
「要するにね」
「わかった、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「肉食べる」
今度の話はこれだった。
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