とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第46話 サソリvs麦野
前書き
思いの他長くなってしまいました
能力により偽フレンダを粉砕した麦野は、かつてフレンダを形成していた砂の塊を蹴り潰しながら、メンバーのフレンダに連絡を取ろうとしていた。
「......出ないという事はヤラレやがったな」
何回もコール音が鳴り響いているが、何分経っても出る気配が見えない。
舌打ちをしながら麦野は電話を切ると、研究所にある簡易なテーブルに携帯を放り投げた。
麦野と一緒にやって来た黒髪女性の滝壺は正体を無くしている絹旗に膝枕をすると頬を叩いたり、揺り動かしたりして何とか覚醒させようとするが全く反応が無い。
「......AIM拡散力場が変化している......」
滝壺理后(たきつぼりこう)
大能力者(レベル4)
能力名「能力追跡(AIMストーカー)」
一度記録した相手のAIM拡散力場を検索し、どこまでも追跡することが出来る能力を有する。
絹旗から流れ出ている能力者特有の力場が無理やり変化されており、不気味なエネルギーを放っていた。
今までにこんな禍々しいAIM拡散力場を感じたのは初めてだった。
トゲトゲしているような、喰われるような強烈な力場に滝壺は表情をあまり変えないながらも冷や汗をかく。
「こんな弱い奴に負けやがって......後でお仕置きだ」
反面、麦野は敵の呆気なさに苛立ちが隠せないようである。
強いと期待していたが、牽制に近い技で敵は吹き飛んでしまったので不完全燃焼感が拭い切れないようである。
収まらない苛立ちに研究用に用意されていたバケツを蹴り出して、ひしゃげさせる。
こんな砂つぶ相手にアイテムという暗部組織が半壊している現実。
詰めが甘いフレンダならまだしも、絹旗まで敗北した事には納得いかなかった。
絹旗の能力は、あの学園都市第一位の能力を植え込んだものだ......簡単には倒せるはずがない、それなのにどんな細工を?
「むぎの......」
「あぁ!?」
滝壺は、絹旗に手を添えたまま視線をまんじりともせずに一点だけを見つめていた。
それは麦野ではなく、蹴られたバケツでもない第三の地点だ。
「来る......」
「!?」
急速に絹旗から感じ取った禍々しい力場が渦を巻いて、一点から引きずられるように黒い外套に身を包んだ赤い髪の少年が膝を付いて姿を現した。
「ふぅ」
赤い髪の少年は、膝を付いた姿勢から徐に立ち上がると溜息混じりでーーー
「なんでこうも小娘ばかりなんだ」
この場所に来てからというもの女、子供ばかりに当たる頻度が多くサソリは些かうんざりしていた。
このガキ?
一体どこから来た?
空間移動能力者か?
麦野は、突如として出現した少年に疑問を抱きながらも、先手必勝とばかりに身体の前に緑色の光を出しながら、腕を構えて照準を合わせて放つ。
麦野沈利(むぎのしずり)
学園都市第四位の超能力者(レベル5)
能力名「原子崩し(メルトダウナー)」
暗部組織「アイテム」のリーダー格の女性。
微視的な粒子は、本来であれば粒子にもなり、波になったりと状況により変化出来るが、麦野はあえて粒子でもなければ波でもない曖昧な状態に固定し強制的に操る能力を持っていた。
また、曖昧に固定した電子を相手に叩きつけることで絶大な威力で粉砕することが可能となる。
ただし、威力は高いが反動が大きく、連射できないデメリットもある。
サソリは写輪眼が紅く光らせながら、印を結ぶ。
サソリの周りの空気が変わり、放たれた光線を左腕で受けると、軌道が変化してサソリの斜め後方に弾かれていく。
「......」
反動で反り返った左腕を冷めた目で見ながら、麦野を見据えた。
「!?」
は、弾いた?
私のメルトダウナーを......!?
「やはり、塵遁か......こんなガキがな」
先ほど砂分身で収集した情報と整合して相手の術の正体を暴いた。
麦野は目を見開き、驚きの色を呈するがすぐに笑みを浮かべて居直った。
指をパキパキ鳴らしながら、麦野は緑色の光の球を生み出して、エネルギーを溜め始めた。
「そうこなくっちゃね!さっきみたいに呆気ない終わりだったら許さないわよ」
「悪いな......塵遁使いには容赦しない」
サソリが軽くジャンプをして、身体のチャクラを調節すると、前屈みに構えた。
「少し本気を出す」
サソリから圧倒的な殺気が加わり、辺りの空気が一気に重くなった。
サソリにしてみれば、身体の状態やチャクラ量が一番高まった瞬間での初めての本格的な戦闘だった。
身体から蒼白く光るチャクラが流れ出して、傍から見ていた滝壺は戦慄した。
「な、何これ......?」
何かが根本的に違うエネルギーに、次元が違う異質なAIM拡散力場の反応。
いや、これはAIM拡散力場と呼んで良い代物なのかさえ解らない。
住んでいる世界が異なるような異質な力場に怖れを抱いたが、何かを決心するようにギリっと歯軋りをさせると、赤い髪の少年の一足一挙に集中させる。
「......」
この人の能力を詳しく見ないと、記憶はしたけど分析をしないと......それが私の仕事
すると、麦野の目の前にいたサソリが一瞬にして音も無く、姿を消してしまった。
「!?」
「むぎの、後ろ!」
集中していた滝壺は、咄嗟に声を上げた。
「!」
振り返ると後ろにはいつの間にか移動したサソリが迫っていた。
麦野は振り返りながら、前へと飛び込んでメルトダウナーを打ち出した。
自身のメルトダウナーの中に突っ込んで来ている黒い物体が麦野の懐に入ると、空気を巻き込んだ一撃を繰り出そうとした。
「くっ!?」
飛び込みとメルトダウナーの反動により床に叩きつけられた麦野の上からサソリは拳を突き出す。
麦野は、波紋状に固定した粒子を集めて、掌から放出しサソリからの攻撃を受け止める。
バチバチと火花が飛び散る中での攻防戦。
オレの動きが分かったか......
あそこにいる女
感知タイプのようだな
それに......この塵遁女、防御にも回せるか
オオノキのジジイよりも汎用性が高そうだ
サソリの写輪眼が一層強く光出して、巻き込む空気の量が増えだした。
上から押さえ付けるようにチャクラを放出し、麦野のメルトダウナーの壁を破るように鋭くなっていく。
「ググッ!」
「どうしたその......程度かぁ!」
「ナメん......な!!クソガキめ」
目をぱっくりと開いて猟奇的な目付きになると麦野は攻撃を仕掛けているサソリのすぐ隣に緑の光球を辛うじて出現させると、メルトダウナーの引き金を引いた。
「!?」
メルトダウナーをまともに横から受けたサソリは、真横に吹き飛ばされて研究所の壁へと転がるよう叩きつけられる。
「はあはあはあはあ......どうだこの童貞野郎がぁ!」
麦野が肩で息をしながら、煙が上がっている壁際へとメルトダウナーを複数個打ち出した。
「今からテメェにやられた分兆倍にして......!?」
しかし、壁際に追い込んだはずの赤い髪の少年が忽然と姿を消しており、麦野は辺りをキョロキョロと見渡し探し出した。
滝壺は、不可思議な感知をした後にすぐさま絹旗を隣に置くと、立ち上がった。
「!上」
滝壺の言葉と同じくらいにサソリが上から姿を現して、麦野の背中に着地した。
「がっ!?」
サソリは麦野の片腕を握ると後方へて捻り上げて、拘束した。
サソリのコメカミから血が滴り落ちており、サソリは拭きとって出血量を確認した。
「あー、いつつ......」
「気安く乗ってんじゃねー!」
麦野が背中に乗っているサソリを振り落とそうと力を入れてもがき出す。
「ちっ、生意気な娘だ」
サソリは腕を固めなが、チャクラ糸で麦野の両腕を後ろで縛り上げた。
そして、サソリは悔しそうに立ち上がっている滝壺を見た。
「......大した奴だ。今の動きに付いて来るとはな......」
滝壺にとってもギリギリの反応だった。
ほんの一瞬、時間にすればコンマ何秒かの刹那瞬にも満たない時間に相手の放っているAIM拡散力場がこの世界から完全に消失していた。
検索対象が消えた事に戸惑いが起こり、半ばパニック状態となっている。
麦野の上に座りながら、サソリは印を結び出して床に転がっている砂を集めると滝壺を覆うようにして拘束した。
「あ......」
土砂のように溢れ出した砂は、滝壺と絹旗を巻き込んで、呼吸路を確保した形で身体に密着して動きを封じ込める。
「た、滝壺!」
「ごめん......なさい」
関節を捻り上げられながら、チャクラ糸で固定された身体をなんとか揺り動かそうとするが、サソリの呪縛から逃れることが出来ないでいた。
「ふぅ......木山からの脅しで痛めつけるのはダメだからな。それに」
流れ出る出血を確認した。
「惜しかったな......反応が遅れたら頭が吹き飛んでいたぞ」
麦野の上で腰を掛けながら、拘束した二人を見据え、今後の策を練りだした。
「ンググ!」
麦野は自分の前方に蛍のように小さい緑の発光体を生みだすと、自分と研究所の床を狙い放ち出す。
床が抉れるように爆発するとサソリと麦野を巻き込んで吹き飛ばした。
「!?」
チャクラ糸が衝撃で解けて、自由になった両腕を開いて、吹き飛ばされながらも体勢を立て直して、サソリの黒い服の襟を引っ掴むとそのまま壁に叩きつけた。
「......自分ごとか......」
「形勢逆転ね。私をここまでコケにしたのはアンタが初めてよ」
麦野は右半身には爆発による衝撃のために火傷を負い、衣服がボロボロとなって麦野の胸を支えている何とも艶やか紫色のブラジャーが完全はみ出しており、非常にセクシーな格好になっていた。
しかし、本人は羞恥心云々より戦闘へと意識を向けていて、愉しげに勝ち誇った表情をしていた。
「そりゃあ、どうも」
サソリは一応その事に気付いたが、別段に特別な反応をせずに冷めたような眼で麦野と目線を通わせる。
「だけどここまでのようね......ミンチにしてあげるわ」
麦野がポツポツと緑色の光を造りだしている時にサソリは、頭を掻きながら掴んでいる麦野の腕を通り抜けるに前のめりで歩き出した。
そのまま、何も障害物がないかのように平気で移動していき、麦野の身体を通り抜けていく。
「えっ!?」
これには、麦野の能力が解除されて緑色の光が次々と消え出し、目の前で起きている超常現象に釘付けとなった。
砂に拘束された滝壺もその光景に釘付けとなる。
「無い......むぎのに触れている場所が無い」
「ああ、使っちまった......」
そのまま、固まっている麦野を通り抜けるように後方に移動した。
サソリが扱える万華鏡写輪眼に施されたもう一つの時空間忍術。
それは身体全体ではなく、身体の一部を別空間に飛ばして、あたかも攻撃をすり抜けたかのように見せる術だ。
だが、相手の攻撃をすり抜けてしまうこの術はサソリは好きではないらしく。
あまり使わずに戦闘をしていた。
「なんかダレるから使いたくねぇんだよな」
戦闘において、相手の攻撃が自分に通用しなくなるのは緊張感に欠けて、楽しむことが出来なくなるらしい。
しかし、麦野の捨て身の攻撃に躱すことが出来ずに咄嗟に使ってしまった。
「やはり戦闘の勘が鈍っているな」
サソリが腰に手を当てて、足下を見た。
足の指を感覚上動かして機能の確認をする。
「ん?」
目の前に緑色の束が出現し、メルトダウナーがサソリの顔面目掛けて放たれた。
「よっと!」
サソリは後ろへと反り返って、間一髪で躱した。
やはりなー
最初に比べれば、威力も速度も落ちている
それに溜めるのに時間が要るみたいだな
そこが弱点か......
ここはオオノキのジジイの塵遁と一緒のようだ。
「な、何をしやがったテメェ......」
麦野がワナワナと震えながら、幾つものメルトダウナーの球を造り出すと一斉にサソリに放った。
サソリはそのまま自分の目で軌道を計算すると、メルトダウナーを一発一発見切って、避けていき前へと一気に踏み込んでいく。
「っ!?」
気が付けば、サソリは麦野の目の前に移動していた。
サソリは自分より身長の高い麦野を見上げる形となる。
「!!」
分からない
分からない分からない
分からない分からない分からない
こ、このガキの能力が一切なにも
「な、ナメんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
腕を振り上げて、サソリの頭を殴り付けようとするが。
ガシッ!
易々と止められて、捻られるとそのまま麦野の胸部に自身の肘を押し戻されて衝突させた。
「かはっ!」
ボロボロになった衣服の上から胸を抑えて顔を歪ませる麦野。
「はあはあはあ」
何の解決策も対策も手段も思い付かない。
この少年の正体も能力も何もかもが未知数過ぎて、混乱してきてしまう。
頭に浮かんだのは
『敗北』
という二文字。
ふざけんな
ふざけんなふざけんな
ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
私は、学園都市で七人しかいない
レベル5だぞ!
こんなガキに私が
私が負ける訳がない
麦野は指先で照準を合わせ、メルトダウナーを発射しようとするが、サソリが一瞬で飛び上がり麦野の腕を蹴りあげた。
放たれたメルトダウナーが天井に激突して走っていたパイプが寸断された。
勢い良く蒸気が噴射する。
「うっ!?」
「悪いが、何回やっても同じだぞ」
全てを見透かすかのようにサソリは不敵な笑みを浮かべた。
「な、何者?」
「!......忍だ。そろそろ時間なんでな、決着を......」
とサソリが言った所でバランスが崩れた天井から上階が崩れ落ちて来て、二人目掛けて落下してきた。
迫り来る落下物が目の前に迫る中、麦野はスローモーションに物事が見えた。
サソリが麦野の襟首を掴んで、身体中から蒼色の莫大なエネルギーを放出しだした。
「!?」
ちっ!
麦野は来るべき衝撃に備えて、目を瞑って防御の姿勢を取っているが幾ら待っても落下して来たものが自分に当たり圧し潰す感覚が走らなかった。
「?」
おそるおそる目を開けてみると、蒼色に燃え上がる何かに覆われていた。
赤い髪の少年は麦野の襟首を掴んだまま、瓦礫を蒼色に燃え上がる巨大な骸骨の上半身が弾いたり、握り潰していて防いでいた。
「あ、アンタ......?」
「ん?ああ、大丈夫そうだな」
サソリが万華鏡写輪眼のまま二人揃って時空間へと移動させて、瓦礫から離れた所にへたり込んでいる麦野を座らせた。
主の消えた骸骨は燃え尽きるように辺りに四散して消えていった。
積み上がった瓦礫が軽く崩れ落ちる。
「さて......」
サソリは外套の上を脱ぎだすと、麦野の肩に掛けた。
「あ......?」
サソリは頬をポリポリ掻きながら、外套に触れる。
な、何を考えてんだこのガキ!?
さっきまで命のやり取りをしていたのに
するとサソリは、掴んでいる外套の上着にチャクラを流しながら印を結ぶと
「土遁 加重岩の術」
ずっしりと麦野に掛けられた外套が重くなって、麦野は前屈みになり苦しそうに声を漏らした。
「お、重い......」
外套が重しとなり、麦野が動けなくなっているのを確認するとサソリは、裸なった上半身のまま踵を返して出口に向かい出した。
「チャクラ使い過ぎたな」
指から一本の糸が伸びていた。それを確認するかのように何回も動かしている。
「ま......待て......逃げん......のか」
「ん?お前の相手をしている暇がなくなったからな。それに」
そこでサソリは会話を打ち切った。
そして、やや言いずらそうに
「それは一定時間で元に戻るし......その、目のやり場に困る」
そこで麦野は自分の服装に気が付いた。
メルトダウナーの能力を自分に放って脱出した際に衝撃で衣服は吹き飛び、紫色の過激なブラが露出している状態だった。
麦野はカァーと顔を真っ赤にしながら慌てて、腕を前にして隠し出した。
「最初から見てやがったのか......」
「お前が勝手にやった事だろ。じゃあな」
サソリは腕を振りながらその場を後にした。
出入口の自動ドアを開けて、飄々とした感じで出て行く後ろ姿をポカンと眺めていると麦野の身体か震え出した。
「ぷっ!?ギャハハハハハー。乳ぶん回しながら闘っていた訳ね!傑作だわ」
麦野が吹き出して笑い出した。
「むぎの?」
滝壺が心配そうに麦野を見ていた。
「反則だわ......あんなもん出されたら勝てるわけないわね」
麦野の脳裏に先ほどの燃え上がる巨大な骸骨が過った。
砂を使った能力にエネルギーの糸、空間移動とすり抜け......巨大な骸骨
「あははは......チートだわ完全に」
重くなった外套を慎重に後方に向けながら、大の字に横たわり麦野の満足そうに笑った。
反則の反則
終わった後のあの対応も反則だった。
敵に服被せるバカがいるか。しかも重くて動けないし。
「最高の気分。ここまでやられたのはいつ以来かしら?」
久しぶりの心からの笑いだった。
「ん......?」
幻術に罹っていた絹旗が目を覚ましたようで、起き上がりながらキョロキョロと辺りを伺った。
「気付いた?」
砂に高速された滝壺が目線を横に向けながら、絹旗に問い掛けた。
「まだ超フラフラします......ってどんな状況?!」
隣には砂の塊に沈んでいる滝壺に、大の字で倒れて笑っている麦野というカオスな状況だった。
「んあ?ああ、気付いたようね絹旗......負けたわ。完敗」
絹旗の声に気が付いて、麦野が天井を向いたまま応えた。
「麦野が超敗北ですって?!」
「うん、すご~く強かったよ」
「その割に超満足そうですけど」
「そうね。楽しみが増えた感じかしらね......また逢ってみたいわね」
麦野のあっけらかんとした笑いに絹旗と滝壺はホッとしたように息を吐き出した。
「任務は失敗したけど......どうでも良くなっちゃったわ」
「久しぶりに反省文書かされますかね」
「たぶんね、適当にでっち上げるわ」
「疲れた......」
こっくりこっくりと滝壺が舟を漕ぎ出した。
サソリの能力を掴むために張っていた緊張が解けたのであろう。
睡魔が襲ってきた。
「その状況で超寝れますね」
「......結構、あったかい」
ん?砂風呂みたいな感じ?
「ああー!?名前訊くの忘れていたわ」
麦野が声を上げた。
「麦野が興味持つって超珍しいですね......ん?どんな侵入者だったか?思い出せない......?」
??
絹旗は腕を組んで、頭を捻るが誰に倒されたのか?そもそも侵入者がいたのだろうか?
と不明確となっていた。
「何よ、呆けたわけ?」
「いや.......ん?」
写輪眼の能力により、記憶の改竄が行われており、絹旗にはサソリの情報が不明となっています。
すると、室内から片言の声が聴こえてきた。
「ソウカ」
直後、大の字に横になっている麦野の背中側から黒い手が這い出て来て麦野の身体を掴むと黒く侵食し始めた。
「!?」
「今度ハ、オレガ使ッテヤロウ」
突如として出現した黒ゼツが麦野の身体半分を覆い、自由を奪っていく。
「が......んぐぐ!て、テメェェェェ!」
何とか脱出を図るが、能力のスタミナが切れた今では徒労に終わる。
「弱ッタ身体デ抗ウカ......無駄ダ」
必死に抵抗を続けている麦野だったが、黒ゼツが出現させた闇の中へと引きずり込まれていった。
「麦野!」「むぎの!」
二人が声を出して、唯一自由が利いている絹旗がオフェンスアーマーで強化した拳を振りかざして麦野を助けようとするが、拳が貫いたのはただの平凡な床面だ。
闇の穴はすっかり無くなってしまった。
サソリが残した外套だけがその場にあるだけだった。
「嘘......麦野」
どうする手立ても見つからず、リーダーを失った絹旗と滝壺はその場で項垂れる事しか出来なかった。
黒ゼツにジワリジワリと身体の所有権を奪われていく麦野は、一種の冷たいプールに沈められていくような感覚を味わっていた。
指先から冷たく麻痺していき、思考が鈍っていく。
「あ......あ.......」
呻き声近い声を上げて、麦野は気を失った。
閉じた目の隣には黄色のポッカリと空いた穴のような眼と耳まで裂けたネバネバした口が開いている。
階層下のパイプを伝いながら、目的の場所へと身体を引きずるように黒ゼツは突き進む。
サア
始メヨウカサソリ
本当ノ殺シ合イヲ.....,
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