とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第45話 脅迫
前書き
病院の検査が終わりました
やっと執筆に戻れます
ジトッとした暑さが立ち込める中で、佐天は、アパート近くのコンビニに立ち寄っていた。
佐天が通う柵川中学校では、常盤台中学のような寮がなく、故に門限はない。
そのために夜に小腹が空いても、簡単に外出出来る。
「まっずいわねー。能力が開花してから食欲が爆発しているわ」
レベルアッパー事件から氷使い(アイスマスター)の能力に目覚めた佐天。
溢れ出す食欲とは打って変わり、佐天の身体はスラリとした身体を保っている。
「能力ダイエットかしらね」
自動ドアを潜り抜けて、雑誌コーナーへと足を運ぶ。
ある週刊の漫画雑誌を読んで驚愕の表情を浮かべた。
チョコ味のソフトクリームを購入し、読んでいた漫画の急展開に頭をボーっとさせる。
「まさか、あのキャラとあのキャラが結婚するなんて......いや、でも互いに好きになったし良いのかな」
前から好んで読んでいた漫画で身分の違いにより、互いに婚約できない二人が最新号ではめでたく挙式を挙げているのに驚きを隠せない。
好きか......
ボヤっとサソリの顔が浮かんだ。いつもすかしたような表情をしているサソリ。
出逢って1か月近くになる。
サソリの事は、未だに不明な部分が多く。分からないことだらけだ。
ただ、誰よりも愛情を求めているのは感覚的に理解していた。
それは論理的でも無ければ、確たる証拠もない解。
佐天の中で流れている力や能力からなんとなく分かっただけだった。
サソリか......あたしはサソリとどんな事を望んでいるんだろ?
友達だったり、友人だったりではない関係......いや、それ以上の関係?
いやいや
別にそんな事は考えた事はないことはないけど
レベルアッパーの時に助けてくれたし
能力を上げてくれたし
間違った方向に行ってしまった自分を本気で叱ってくれたし
良かったじゃねーか、能力使えるようになって
ニッと不器用に笑う彼の顔が印象的だった。
サソリが側に居るだけで安心できる。
なんか、不安や後悔も何もかも解決してしまうような強さを持っている彼。
佐天の心臓が早鐘を打ったかのように激しくなった。
佐天は、胸に手を当てて思わず立ち止まった。
も、もしかして
あたしってサソリのことを......
顔が真っ赤に染まる。能力では冷やせない内なる強い拍動が佐天の身体を波うたせる。
湾内さんが告白した時に感じた騒めき。
首をブンブンと振って、今の思考を打ち消すようにした。
ソフトクリームの入った袋を両手で持ちながら、佐天は静かにその場に立ち尽くした。
なんか......サソリに会いたくなった気がする
照れたように目を細めていると、視界の先で動くものが見えた。
「?」
それは黒い塊の姿をしており、機械的な動きで指先らしき物で道を指し示した。
「な、何?」
佐天は走り寄るが黒い塊は、湯気のように立ち消えた。
サソリヲタスケテ
タスケラレルノハ
アナタダケ
耳鳴りのようにエコーが掛かった音が風のように佐天を一瞬だけ包み、夏の暑さに消えて行った。
「サソリ?」
買い物袋を肩に掛けながら、佐天は空耳かもしれない声を聴き、上空へと視線を巡らす。
佐天の指先から冷気が迸る。北風のようにひんやりとした冷気が何かに導かれるようにボンヤリと結晶を街灯で煌めかせながら、続いている。
何かの意思が宿ったかのような冷気を指先を伸ばしながら感じて、佐天は静かに走り始めた。
理屈よりも行動の佐天の果敢な性格は、指し示す冷気云々よりも胸騒ぎを覚えてしまった。
自然と走る速度は、上がりだしてコンクリートに氷を張るとスケートの要領で滑りだしていく。
胸騒ぎの正体は分からない
サソリの事を考えると鼓動が早まっていく
サソリ......サソリ
まさか、いや......そんなことは
考えたくもなければ、予想したくもない現実。
無残に闘いに敗れて、傷だらけの身体で地に伏せるサソリのビジョンが浮かぶ。
何か、サソリを上回る強烈な闇の力が出現していくように感じた。
******
とあるビルの屋上でサソリと木山は、待っていた。
「サソリ......君。やはり誰か居たのか?」
木山が先ほどから柵に寄りかかって両眼を瞑っているサソリに問いかけた。
「ああ......」
それ以上は説明せずに、サソリは何か別の事に集中するように黙ったまま、腕を首の後ろに回した。
木山はその様子を恐れのような視点で眺めていた。
先ほどサソリと繋いだ『幻想御手(レベルアッパー)』には能力付与の副作用の他に一部の記憶が流入する作用があった。
木山は、サソリの知られざる記憶の一部を垣間見て、恐怖した。
人間を切り裂き、内臓を燻らせる禍々しき所業の数々。
血抜きをした人間の顎下からメスで喉を切り、真っ直ぐステーキでも切るかのように上下に揺り動かす。
肉が断たれ、肋骨を折っていく。
血の匂い、気化した脂肪分がベタッと肌に張り付いて汗と馴染んでいく。
そして内臓をごっそりと取り出すと慣れた手付きで水場へと重量を失った死体を水洗いをしていき、赤々とした波紋が排水口から渦を巻いて落ちていった。
なんとも楽しそうな気持ちだったが、木山は早く離れたくて堪らない。
それでも関係なく、映像は続く。
組み木のように精巧に組み立てられた死体に刃物や針を仕込んでいく。時折、指先を動かして仕込みが作動するか確認している。
それはまるで人形を使い、人間に復讐しているように見えた。
目の前にいる無邪気に眼を瞑っているサソリという存在を震えながら見ていることしか出来なかった。
ここで真偽を確かめてしまえば、楽になるだろうか?
だが、決定的な決裂を意味することにならないだろうか?
研究者としての木山が様々な可能性を浮上させては消去を繰り返す。
この少年は、本当に信用して良いものか......
折角のチャンスであるが、これは賭けに近い。
表面上では、教え子を助ける事と引き換えに『ゼツ』という協力者の情報の譲渡という取引が成立している。
だが、裏までは分からない。
信じていた研究に教え子を奪われた木山は、迷いから唇を軽く噛み締めた。
「ふぅ......倒しきれなかったか......」
サソリが静かに伸びをして、立ち上がった。
首をポキポキと鳴らしながら、木山の異変に気付いたサソリは首を傾げた。
「どうした?」
「......」
わずかに口を動かすが、言葉に成らない。
「?」
サソリは、木山に近づこうとするが反射的に木山は後方へと退いた。
サソリは終始驚きの表情を浮かべていたが、やがて半眼になると木山を見下したように溜息を吐き出した。
「はあ......お前さ......教え子を助けたいの、助けたくないのどっちだよ」
「わ、私は......」
「何考えているか知らねーけど。ここで怖気付くんだったら、足手まといだからくんな。オレ独りでやる」
突き放すように、サソリは木山に言い放った。
「!?」
「ちっ!」
「ま、待ってくれ......」
木山は去ろうとするサソリの手を掴んだ。それは大人の女性としての握力ではなく、何かに怯える子供のように震えていた。
「?!」
サソリは振り払うこともせずに、掴まれたまま木山と向き合った。
「き、君は......何者だ?」
「!!」
サソリの殺気が一段と強くなった。周囲の空気に亀裂が走ったかのように鋭敏となり、木山の肺を切り刻まんばかりだ。
「どこからだ?」
「?」
「どこからその疑問が生じた?と訊いている」
木山は、初めて自分が相対している者が唯の少年ではないと悟った。
何か返答を間違えたら、自分の首が飛ぶかもしれない恐怖。
あの時と同じ、レベルアッパーを発案した時と同じ感覚に陥った。
硬直したかのように固まった木山にサソリは、ゆっくりと木山の腕を屈曲させながら近づくと深紅に煌る万華鏡写輪眼で木山を捉えた。
気が付けば木山は、大量の傀儡人形に囚われて拘束されていた。
「こ、ここは?」
ガチャりと傀儡人形を解こうとするが女性の力ではどうすることも出来ず、身体を揺り動かすだけだった。
「なるほど......初期設定はそうなるのか......」
全ての色が反転したかのような景色の中で燃えるような青色の燐光が集まりだして、サソリが出現した。
サソリが腕を振り下ろす動作をすると、木山を拘束していた傀儡人形が砂のように崩れ落ちて、木山は自由の身となる。
「ここでは、時間があまり経たん......さて、話して貰うぞ」
木山の額に汗が滲み出た。ゼツの話をしてからサソリの警戒心は一層強くなっている。
圧倒的な力を有するこの少年がここまで敵意を剥き出しに私に訊いている
木山は、先ほど見てしまった悪魔のような光景から生じる恐怖心を必死に抑えながら、息を整えた。
ここで退く訳にはいかない
私の教え子を助ける為には、このサソリという少年の力が必要になってくる
しくじれば殺されるかもしれないが......覚悟はしている
「れ、レベルアッパーだ」
「あ?!」
「君が使ったレベルアッパーのえ、影響だ。私はそれで一部であるが君の過去を観た」
「な、何!?」
サソリの顔が大きく歪んだ。怯んだかのように一歩木山から退く。
木山は更に畳み掛けた。
「君は人を殺した事があるな。それを人形に造り変えていた」
「!..........」
「私に協力しないと......御坂美琴達に告げるつもりだ。私は、教え子を救う為なら何でもするぞ」
はあはあ、言った
言ってしまった
付け焼き刃の情報にあまりしたことのない、根拠のないハッタリだ
論理も整合性もない酷い言葉の羅列だ
「ククク......」
サソリの身体が小さく震え出した。
「あはははははははははははははははははー!オレを脅迫するつもりか木山?」
木山は、サソリの初めて見る笑いに反射的に身体を強張らせた。
「そ、そうだ......私の言う通りに」
と言った次の瞬間には、サソリは木山の目の前に一瞬で移動していた。
「アホか。この場でお前を殺してしまえば関係ない」
抜手を構えた状態でサソリが冷酷な眼で木山を見据えた。
「私を殺せば君が欲しい『ゼツ』の情報が手に入らないが良いのか」
木山は一歩も退かずに声を荒げて、対抗した。力では到底敵わない相手。
危ない橋は、もう渡り始めている。
ここまで来たら引き返すことはできない。
「.........」
「.........」
木山とサソリは互いに睨み付けあった。身体を震わしながらもサソリを真っ直ぐ見つめている。
サソリは黙ったまま構えていた抜手を突き出した。
木山は思わず目を瞑ってしまうが、予期していた衝撃とは違った。
コツン
サソリの指先が木山の額を軽く弾いた。
「?」
「気に入った」
サソリはうすら笑みを浮かべながら、はだけた外套を直した。
木山は腰が抜けたかのように崩れるように座り込んだ。
「お前の覚悟に免じて脅迫されてやるよ」
サソリの言葉を皮切りに世界が融けていき、元居た屋上に立っていた。
木山は前屈みになると、滴る冷や汗をポタポタ垂らしながら荒くなった呼吸をしている。
生きている......私は勝ったのか?
吐き出してしまいそうになるほど、心臓の鼓動が速く胸を手を当てる。
「少し休憩を挟んだら行くぞ。ここからは命懸けだ」
サソリは、柵に手を当てながら静かに言った。
ゼツ......
何を企んでいるか知らねぇが
オレが叩き潰してやる
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