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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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牛乳買ってくる

 
前書き
シリル「何?このタイトル・・・」
レオン「この間牛乳に当たった奴が作ったとは思えんな」
ソフィア「え?何?賞味期限切れとか?」
違うぜソフィア、普通の牛乳に当たったんだ・・・
シリル「胃弱ッ」
レオン「腸の方じゃね?」
ソフィア「それ実はアイスの食べ過ぎと重なっただけなんじゃ・・・」 

 
シリルside

「ハァ・・・」

ギルドのカウンターで一人ため息をついている銀髪の青年。彼は今日俺たちがギルドに来た時からずっとこの調子だ。普段の威厳のある姿は微塵もなく、まるでうつ病にでもなってしまったかのような元気のなさだ。

「ねぇ、あれどうしたの?」

彼がいるその場所以外は活気があり、皆さんワイワイとしているのだけど、そのせいでより彼の周囲の空気が淀んでいるように感じる。その変わりようが気になって仕方のなかったシェリアが、そばにいたユウカさんに声をかける。

「詳しいことは知らないんだが・・・」
「朝からずっとあんなだったよ!!」
「キレんなよ」

しかし、リオンさんはギルドに来た時からあの調子だったらしく、理由は誰も知らないみたいだ。理由がわからないんじゃどうしようもないと諦めたいところなんだけど、さすがにあの状態の彼を放っておくのは気が引ける。

「ちょっと待ってろ」

すると、見かねた青年のいとこが席を立ち、誰も近付けないようなオーラを放っている彼の元に歩み寄っていく。

「すげぇなレオン」
「無神経さNo.1だね」
「鈍感とも言うけどね」

普通なら誰も近づかないような様子の青年の隣の席に何の躊躇いもなく腰かける少年を見て、その場にいた三人の魔導士はそう言う。

「シャルルたちなら隠れて近付けたかもね」
「いないものはしょうがないよ」

俺たちの相棒であるエクシードたちなら、小柄だからリオンさんに気付かれずに接近してあの落ち込みようの原因を調べることができたかもしれない。
しかし、今は三人ともどこかに行っており、頼ることができないのが現状だ。

「あ!!」
「戻ってきた!!」

しばらくすると、原因の解明が終わったらしくレオンがそそくさと戻ってくるのが目に入る。彼は元いた席に腰かけると、聞こえないようにと配慮してなのか、俺たちに顔を近付けるように指示を出す。

「それで?」
「なんでリオンあんなに落ち込んでたの?」

俺とシェリアが彼が落ち込んでいる理由を聞くと、レオンは一瞬笑いそうになった後、言葉を紡ぐ。

「ジュビア姉に会えなくて寂しいんだって」
「な・・・なるほど」

聞いてみるとわからなくはない理由だったな。リオンさんはグレイさんのことが大好きなジュビアさんに惚れている。大魔闘演武の打ち上げでアプローチをやめると言っていたらしいが、気持ちは止めることができずにいるらしい。以前の留学の際には、グレイさんとジュビアさんの結婚式の日付のことで大喧嘩をしていたそうだしね。

「でもそれってどうしようもないよね?」
「ジュビアさんの居場所は私たちも知らないし・・・」
「このまま放置するしかないのかな?」

原因はわかったのだが、解決策が一切ないのが今回の現状。ジュビアさんはグレイさんとどこかにいなくなってしまったから、俺たちには会う手段がない。こんなことなら行き先だけでも聞いておくべきだったか。

じーっ

半ば諦めかけていると、レオンが俺の方をじっと見つめていることに気付く。

「何?レオン」

なんでこいつにこんなに熱視線を送られているのかわからず聞いてみると、彼は何かをブツブツ呟くだけで一向に答えようとはしない。

「シークレットブーツとパットで誤魔化せば・・・」

何やら聞こえてはいけない単語が聞こえた気がする。俺は彼が何を考えているのかわからないままだったが、耳に微かに届いた単語から嫌な予感が沸き上がっていた。

「シリル、ちょっと来てくれ」
「絶対ヤダ!!」

再度立ち上がり俺の手を引っ張るレオン。しかし、俺は嫌な予感しかしないので拒否することにした。

「大丈夫、ほんのちょっとでいいから」
「ムリムリ!!お前の考え読めるもん!!」

レオンの考えに乗っかったら最悪の未来しか見えない。すると少年は、近くにいる二人の少女に声をかける。

「シェリア、ウェンディ、手伝って」
「う・・・うん、わかった」
「何をするの?」

おおよそレオンのやろうとしていることがわかっているシェリアは困りながら、全く少年の考えが読めないウェンディは進んで、二人でサイドを挟み俺の腕を掴んで連行する。

「い・・・イヤだ!!それだけは絶対ヤダ!!」
「大人しく従ってくれよ、リオンくんのために」

まるで逮捕されたかのような扱いを受けている俺を尻目にズケズケと前に進んでいくレオン。俺は二人の少女に挟まれているせいで抵抗することもできず、ギルドの外へと連れていかれたのであった。




















リオンside

「ハァ・・・」

どうしたのだろうか、最近気力が湧いてこない。いや、理由はわかっているんだ。同じ師の元で共に高め合い、競い合ってきたライバルに会えない・・・それに、ジュビアの顔を見ることもできないというのがこの無気力さの原因なのだ。

「ジュビア・・・」

胸の内ポケットに入れられている少女の写真を手に取る。それを眺めていると、彼女の可愛らしさに癒され、心が洗われていくようだ。

「全く・・・グレイとどこにいるんだか・・・」

弟弟子である青年のことを思い出す。ジュビアは彼とどこかに行ってしまったとシリルたちから聞いていたから、ようやく結ばれたのかと思ったが、何の知らせもない。

普通結婚なんかすれば、二人に関わりのある俺にも連絡の一つもあってもいいのだろうが、全くそれがないのだ。となるとグレイの性格だ。ジュビアに対する答えをいまだに渋っていると簡単に推測することができる。そう思うと、彼女のことが不憫で仕方がない。

「ハァ・・・」

そんな彼女のことを想い、またため息が出る。最近ジュビアにもグレイにも会っていないからか、気持ちの高ぶりが得られない。まるで七年前のあの時のような、そんな感じがする。

「り・・・リオン様」

一人物思いに耽っていると、後ろから小さな声で自分を呼ぶ声が聞こえてくる。その呼び方に覚えがあった俺は、後ろを振り向きその人物の姿を確認する。

青いニット帽と同色の厚手のドレス、太ももの半ばまである茶色のブーツを履いた水色の髪をした少女は恥ずかしそうに顔をうつ向けながら、その場に立っていた。

「ジュビア・・・」

それはどこからどう見ても、俺が初めて惚れた相手、ジュビア・ロクサーだった。



















レオンside

「ジュビア・・・」

席から立ち上がり目の前の少女に見入っているリオンくん。その姿を見て、うまくいったと俺たち三人はガッツポーズしていた。

「とりあえずはうまくいったね」
「うん!!よかったね!!」

二人から見えないようにギルドのテーブルから顔を覗かせているシェリアとウェンディ。実は今リオンくんの目の前にいる少女、ジュビア姉ではないのである。実際、じっくりと見てみると色々と違うところが見受けられる。
シークレットブーツでかさ増ししているが、本物のそれには及ばない背丈。家にあるものを使って無理矢理に作った胸。艶々しているものの、エクステンションを使ってウェーブをかけただけの髪。他にも目が垂れていたりと違う部位が多く見受けられるが、パッと見だと意外とわからないところまではできたと思う。

「ねぇ、本当にあれで大丈夫なのかな?」

心配そうにそう呟いたのは幼馴染みの天空の神。彼女の心配は久しぶりのジュビア姉を観察してしまい、正体がバレてしまうのではないかというところである。

「大丈夫、もうやりたいことは終わってるから」

この作戦の一番の狙いは、リオンくんを励まそうとしているのに気付いてもらうこと。だからこのジュビア姉がシリルだと気付いてくれれば、それでお役御免なのだ。
だが、俺のその考えは簡単に打ち砕かれてしまう。

「ジュビア!!久しぶりだな!!」
「「「・・・え!?」」」

先程まで落ち込んでいたのがウソのように明るくなり、シリルの手を取るリオンくん。あれ?まさか気付いてないのかな?

「お久しぶりです、リオン様」

自分が偽物だと気付いてないことに驚いていたシリルだが、柔らかな笑みを作ると慣れない呼称を扱い、彼に答える。

「元気そうだな」
「はい!!リオン様もお元気そうで」
「グレイはどうしたんだ?」
「グレイ様は一人で仕事に行ってしまって・・・」
「何!?全くあいつは――――」

ジュビア姉になりきりリオンくんと近況(ウソ情報)を話しているシリル。あいつ、嫌がってたわりにもノリノリだな。意外と演技が得意なのかもしれない。

「ん?ジュビア、少し小さくなったか?」
「リオン様が大きくなったんじゃないですか?」
「おいおい、俺はもう26だぞ。さすがに背は伸びんだろう」

リオンくん・・・違和感を持っているならとっとと気付いてくれ。いい加減シリルが辛そうだぞ。泣きそうな目でこっちに助けを求めてきてるし。

「そうだ!!ジュビア!!よかったら街に出ないか!?」

すると、テンションが上がってきたのか、リオンくんがそんな提案をしてくる。

「えっと・・・」

ここまで気付かれないと、バレた時のリオンくんの落胆ぶりが想像できる。なので、長時間一緒にいると正体がバレ、リオンくんがさらに落ち込むかもしれない。そう考えたシリルは、これからどうすればいいのか目で指示を煽ってきた。

「どうする?」
「どうするも何も・・・」
「ここは行くしかないんじゃ・・・」

このタイミングで断るのは後々のリオンくんとジュビアさんの関係に関わってくる。となると、バレる可能性が高くても行くしかない・・・

【もう少し付き合ってあげて】

氷の文字でそう指示を出すと、ガッカリとした後、急いで笑顔を取り繕いリオンくんの誘いを受ける。

「いいですよ」
「オオッ!!わかった!!今度グレイと来た時に役立つデートスポットでも回ろうか!!」
「そ・・・そうですね!!よろしくお願いします!!」

グレイさんのためというより、自分が回りたいだけなんじゃないだろうか?そんなことを思いながら、シリルはリオンくんと腕を組み、ギルドの外へと出ていった。





















「どうだ、ジュビア」

家の影に隠れながら前を歩く二人を追いかける俺たち三人。リオンくんはまだ偽ジュビアさんに気付いていないようで、腕を組んでいる彼女ととても楽しそうにしている。

「はい!!とってもいいところですね!!」

そして、シリルもまた彼を励まそうと笑顔を作り、なかなかいい雰囲気を醸し出している。

「お!!リオンさん、彼女か?」
「いやいや、そんなんじゃないよ」

二人が街を歩いていると、大通りを行き交う人たちにそんな声をかけられる。だが、彼らはこの女の子の正体がシリルだということはちゃんと知っている。
リオンくんたちがギルドを出る前に、街の人たちに大急ぎでそのことを知らせたからだ。おかげで、俺は汗が止まらず服の袖口で拭いながら尾行している状態だ。

「レオン、飲む?」
「ごめん、助かる」

それに気付いたシェリアがどこからか飲み物を買ってきてくれたらしく、それを受け取り一口口に含む。その間に、二人が角を曲がり視界から消えてしまったので、ペットボトルの蓋も閉めずに大急ぎで後を追いかける。

「いた?」
「うん。全然大丈夫」

見失ってしまうかと心配したが、そんなことは起こるはずもなく、二人はこの街の探索を楽しそうに続けていた。

「シェリア、レオン。見失わないように、横から追いかけない?」

すると、ウェンディがこの通りのすぐそばにある公園を指さす。うちの街には魔法学校があることもあり、公園はそれなりの規模を誇っている。公園で玉遊びをした際、ボールが外に出ないようにと草むらがたくさんあるのだが、そこに隠れれば、近くで二人の様子を観察できるとウェンディは考えたようだ。

「いいね!!それ」
「見失うこともなくなりそうだ」

ウェンディの意見を取り入れ、すぐさま場所を移動する。シリルは俺たちが後ろから付いてきていることに気付いているから、移動した際にこちらをチラッと見てたけど、リオンくんは全然気付く様子がないのでひと安心だな。

「ん?どうした、ジュビア」
「え!?な・・・何がですか!?」

俺たちが移動を終える間際にシリルから何かを感じ取ったリオンくん。もしかして彼の視線でこちらの存在がバレたのかと焦り、滑り込むように草むらに飛び込む。

「お前が汗をかくなんて、珍しいな」

しかし、そんな心配はどうやら必要なかったようだ。リオンさんは普段厚着をしているにも関わらず、汗をかくことがないジュビアさんの額に浮かぶそれを見て、心配しているだけだったのだから。

「きょ・・・今日は暑いですからね!!ジュビアも少しくらいは・・・」

シリルは水の魔導士だからか、それなりに体温調節はうまい。しかし、ジュビアさんのような厚手のドレスにニット帽まで被っているとなると、さすがの彼にも限界があるようだ。

「全く・・・風邪をひいてしまうではないか」

そう言ってリオンくんはポケットからハンカチを取り出すと、彼女の顔を優しく触る。その際彼の顔があまりにも近付いてしまったこともあり、シリルが顔を赤くしていたが、なんとか耐えてくれたようで事なきを得る。

「少し休もうか、今日は暑いからな」
「え!?」

シリルの汗を拭き取ると、リオンくんはそんな提案をする。しかし、シリルは何か驚いたように首をブンブン振っている。

「い!!いえ!!大丈夫ですよ!!」
「気にするな。ちょうどこの店のアイスラテを紹介したいと思ってたんだ」

現在リオンくんたちがいる場所の目の前にあるカフェ。そこはよくカップルが訪れるデートスポットなのだが、一人で入るにも適しているので、よくここで休憩にコーヒーを頼む人もいるらしい。

「あ・・・そういうことだったんですか」

それを聞いたシリルは、自分が勘違いしてたようで、ホッとひと安心していた。彼が何を考えていたのか、少々追求したいところではあるが、リオンくんはジュビアさんと来てみたいと前々から話していたこともあり、偽物の手を引き店内へと入っていく。

二人が店の中に入った後すぐに茂みから現れると、カフェの窓から店内を覗き込む。その位置にリオンくんたちが案内されてきたので、監視のために移動する手間がなくなり、ちょっとラッキー。

「あれ?」
「シリル、どうしたのかな?」

店員に案内され、早々に席についたリオンくん。それに対し、ジュビア姉に扮したシリルはソファに腰かけたのに、なかなか座る位置が決まらずモジモジしている。
リオンくんも気になったようで声をかけたが、シリルは苦笑いするだけで理由を話そうとしない。

「・・・あ!!」

店内の声が聞こえないためどうしたのかわからずにいると、シリルの視線から落ち着かない理由がわかった。
シリルはシークレットブーツで身長を盛ってはいるものの、本物のそれには遠く及ばない。せいぜい俺やシェリアくらいのがいいところだ。リオンくんも最初は気にしていたが、今は何とも思ってないようで気にしなかったけど、今はそれが仇となっているのである。

身長が低いということは、椅子に腰かけた際の高さも低いということなのは言うまでもない。普段は何の問題もないのだけれども、今日のシリルの胸には、ジュビアさんを模して作った大きな膨らみがある。
彼が座ると、それがちょうどテーブルに当たり潰れるのである。だから距離を置こうとすると、今度はリオンくんとの距離感が微妙になる。だから彼はどうすればいいのか迷っており、モゾモゾとしているのだ。

暫しの時間配置を考えていると、少女はある結論に至ったらしく、背筋を伸ばしそこに腰かける。

「「「!!」」」

彼のその判断に思わず突っ込みそうになった。窓を突き破ってド突きたい衝動を堪え、気持ちを落ち着ける。
少年はあろうことか、作られた大きな胸をテーブルの上に置くように座ったのである。その行動にはリオンくんも目を疑ったが、その話題に触れるのは邪道だろうと何も言わずにメニューを広げ、シリルと一緒にそれを見ている。

「ねぇ、シェリア」
「何?ウェンディ」

まさかの選択に衝撃を受けたものの、なんとかなりそうだと思い黙って見ることにしていると、隣の少女たちが声をワントーン落として話を始める。

「なんで私たちの周りにはお胸が大きい人が多いのかな?」
「なんでだろうね」

負のオーラを放ちながら自分たちの胸を触っている天空の魔導士たち。そのどす黒いオーラに、俺は戦慄し、距離を置くことにした。

「私、牛乳買ってくる!!」
「あたしも行く!!」

思い立ったらすぐ実行、そう言わんばかりに勢いよく立ち上がったウェンディとシェリア。彼女たちは知らない振りをしている俺をにらみ向けるように見てくる。

「「レオン!!二人の監視よろしくね!!」」
「行ってらっしゃい」

あくまで冷静を装いながら二人を送り出すと、彼女たちはどこかに向かって走り出す。よほどやる気にスイッチが入ったようで、その背中はすぐに見えなくなっていた。

「女って怖ぇな」

ジュビア姉はルーシィさんを恋敵と見ていて時々ダークサイドに落ちるし、エルザさんはかなり凶暴だし、シェリーさんは愛がどうのこうの語ってくるし、カグラさんは圧力ヤバイし・・・知ってる女の人ってみんな怖いよな。
シェリアとかシリルとかウェンディも普段は大人しいから人気あるけど、実際本性はヤバそうだし・・・

「怒らせないように気を付けないとな」

何が怒りスイッチかわからず、時々押してしまうこともあるけど、これからはそうならないようにしようと心から誓ったのであった。









 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルにジュビアの格好をさせたかっただけのお話となっております。
次は後編ですね。結末も決まってるので、うまく行けるんじゃないだろうか。 
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