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遊戯王EXA - elysion cross anothers -

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TRICLE STARGAZER
  TRSG-JP001《その粛清に正義はあるのか》

 
前書き
どうも、月詠カグヤです。

デュエルの描写、読み返してみると結構読みにくかったりします。直し方がわからないため放置していますが……それでも、やっぱり読みやすい文章にしたいです。

さて、前書きはこれぐらいにしておきましょう。"TRICLE STARGAZER"、開演でございます。 

 
 窓からの陽光に目を照らされ、体を起こす。

 ……朝だ。異世界で迎えた、最初の朝。
 目を開けると、そこに広がっていたのは昨日の夜と同じ部屋。光の当たり方は違うが、しかしそれだけ。とてもアイシアとクレナの2人暮らしとは思えない大きさのベッドが、ここにあった。

「……異世界なう、か」

 改めて、ここが異世界であることを自覚し……それが夢でなかったことを確信する。
 ……下の階から、朝食らしき匂いがこちらまで届いてきている。ベッドにいないのは……

「蓮とアイシア……あれ、私起きたの3番目?」

 意外だ。蓮はともかく、アイシアも早起きだったとは。未だに多少だるい体を伸ばしながら、私は下に降りることにした。
 そういえば、私は私服だったからともかく、蓮とゆみなは制服で寝てたわけだけど……よく眠れるわね、あの2人。


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「……パスタ?」

 1階のダイニングに降りてきた私が最初に見たものは、テーブルに並べられた5つの皿だった。

「あ、沙耶姉。おはようございま()()
「……え、過去形!? ちょっと待って蓮、今何時!?」
「1時半だよ。おはよう、沙耶ちゃん」
「なん……だと………!? ……あ、おはようアイシア」

 私としたことが、ついあのベッドが気持ちよくて寝てしまったというのか……!

「沙耶姉、ゆみな達も起こしてきて。さすがに昼御飯まで抜きになるのはやばい」
「ああ……うん、了解」

 蓮に言われ、もう一度2階に向かう。今度はゆみなとクレナを起こすために。

 今日の昼御飯は、ほうれん草とベーコンを醤油バターで炒めたもの……に、パスタをぶちこんだものでした。

「さて、今日はどうするんだっけ」

 パスタをフォークに巻きつけながら蓮が話を切り出した。

「今日は新型デュエルディスクの先行体験会があります。午前の部はもう終わってしまったので、行くとしたら3時からの午後の部ですね」
「先行体験会……まあ、デュエルディスクの仕組みを覚えるにはいい機会ね」

 とりあえず、ここに来てアイシアとクレナに教えてもらったこと。
 まず、この世界では「デュエルモンスターズ」「遊戯王」と、2つの名称が存在していた。このカードゲームが世界基準になったときに、正式に「デュエルモンスターズ」という名称になったそうだ。ちなみに今なお「遊戯王」と言っていたら、その人はお爺さんお婆さん、もしくは介入者。

「で、参加費は?」
「当然ながら無料ですね」
「あ、それ当然なんだ……」

 もう1つ、カードが安い。流石に私達の世界より安いなんてことはなかったが、それでも私達の知る原作よりは相当安い。よほどのプレミアがつかない限り、高くて1枚5000円。ちなみにこれは某《TUEEEEE!(ラヴァルバル・チェイン)》さん。
 というのも、国が総力をあげて遊戯王を支援しているのだ。至極当たり前のようにニュースで「決闘省」なんて単語を聞いたときは本当にビックリした。

 ……あれ、ゆみなとアイシアの手が止まってる。

「アイシア、フォーク止まってるわよ?」
「……え? あ、ううん! おいしいよ、蓮くん!」

 私の言葉に対して条件反射のようにそう言うと、アイシアは再び手を動かし始めた。

「あれ? 沙耶姉、俺何か変なもの入れちゃった?」
「いや、どうせ"あれ"じゃない?」
「"あれ"って?」
「ああ!」

 うん、名言よねこれ。「伝説って?」「ああ! それって《ハネクリボー?》」の笑撃は今でも鮮明に覚えている。
 ……蓮が呆れたようにこっちを睨み付けてきた。うん、ごめん。

「……で、"あれ"って何?」
「あんたの料理で2人の存在意義がやばい」

 そう言って、2人の方を眺めると……。

「……おいしいから、余計に複雑なんですよね」
「うん……。蓮くん、私より上手くなってるなんて……」

 ……まだやってた。とどのつまり、こういうこと。

「わかった?」
「……うん、把握した」

 ゆみなが諦めたように遠い目をしていた。アイシアが同調したことを考えると……そう。

「悔しいでしょうねえ」
「おい、やめろ馬鹿。この話題は早くも終了ですね」

 ちなみに、蓮よりも私の方が料理が上手い。これはお互いに認めてるから確定事項。また、向こうの世界にいる紗姫お姉ちゃんの方が私達よりも上手い。
 そして昨日の晩ごはんの感じだと、クレナが蓮と同じ……いや、もしかして私以上か? お姉ちゃんより、とはいかないけども。

「でさ、クレナ。その会場にはここからどれくらいで着くの?」
「はい、歩いて30分くらいですね」

 時計を見る。1時55分。
 ……嫌な予感がした。

「……定員は?」
「64人でした。たしか……」
「……」

 ……私は黙って立ちあがっていた。蓮も私と同じ考えのようで、全く同じタイミングで席を立っている。

「蓮、私の言いたいこと……わかるわね?」
「当然。何年沙耶姉の弟やってると思ってんの?」

 ……それなら話が早い。


「「クレナ、道案内をお願い! 今すぐにここを出る!」」


 定員があるって時点で、早めにいかないと間に合わないに決まってるじゃないの―――!


 ― ― ― ― ― ― ― ―


 ……そして今、ショッピングモールなう。
 なんというか、でかい。第一印象はその一言に尽きた。
 そして、何より出入りする人々が多い。どこぞの渋谷とか新宿とか、それぐらい多くの人がこの空間を移動している。

「すごいでしょ。ここ、欲しいものは大体揃ってるんだよ!」

 と、昨日アイシアがやや興奮気味に語っていたのを思い出す。なるほど、ここまで大きければ揃わないはずがない。

『大変長らくお待たせ致しました! それでは、これより最新型デュエルディスク《Type-Forza》の先行体験会を行います!』

 4階のカードショップ、その特設会場で壇上に上がった司会者のマイクを通した宣言に、黄色い歓声がそこらじゅうからあがる。
 結論から言えば、私達は受付に間に合った。間に合ったのだが……。

「なんでですか、風見様!」
「諦めなさい、クレナ。じゃんけんの敗者はクールに去る……ただ、それだけよ」

 だが、余っていた枠は4つ。デュエルディスクが1つ足りなかったのだ。それを受け、蓮が提案したのが……じゃんけん。まあ、蓮以外が負けたら代わりに私が辞退するつもりだったんだけど。言い出した奴が抜けることになるのはよくある光景だから、仕方ないわね。
 ……てか、相変わらず私と蓮の直感スキルが凄い。自画自賛になってしまうが、それぐらいの精度なのだ。現に、これがなかったら誰一人としてこの大会に参加できなかっただろう。

「それじゃ、俺は適当にうろついてるから。また後でね」
「ん、りょーかい」

 そう言って、蓮は会場から去っていった……。

「アイシア、体験会って結局何するの?」
「ん? ただのデュエル大会だよ?」
「ですよねー」

 うん、そんな予感はしてた。ここにいるのは私達含めて64人。2の6乗ということは、つまりトーナメントがそのまま行える人数ということだ。

『それでは、トーナメント第一回戦の組み合わせを発表します!』

 司会が言うと同時に、デュエルディスクの中心に埋め込まれたコアから、ソリッドビジョンが浮かび上がってきた。

『三回戦までは、デュエルディスクに映し出されたグループ内でデュエルをしてもらいます。各グループ8人、その中の頂点になった者だけが決勝トーナメントに進むことができます!』

「Fだって。みんなは?」
「私はCですね」
「あ、私Aだよ」
「Hです」

 私、ゆみな、アイシア、クレナの順。うん、被りは無しみたいね。

「それじゃ、解散。決勝で会いましょう!」

 私の言葉を最後に、みんなが人混みに紛れていく。さて、私も……

「すみません、C組の方ですよね?」

 ……私の方も、始めるとしますか!


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「「デュエル!」」


―――― Turn.0 Are you ready? ――――

1st/Shion Yukikaze
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0


 私の最初の相手は、黒髪を銀色のリボンでツインテールにした少女。私より身長が少し高い位だから、多分高校生。

「私の先行、ドロー!」


Turn.1 Player/Shion Yukikaze
 1st/Shion Yukikaze
  LP/4000 HAND/5→6
 2nd/Saya Amakawa
  LP/4000 HAND/5


「私は手札から《黒い旋風》を発動!」

 あ、【BF(ブラックフェザー)】だ。

「そして、手札から《BF-蒼炎のシュラ》を召喚!」

 彼女の場に現れたのは、二つ名の通りに紺色の鳥人。蓮のドラグニティとは違い、鳥が二足歩行になったような感じ。

 BF-蒼炎のシュラ
 ☆4 ATK/1800

「BFの召喚に成功したとき《黒い旋風》の効果発動! 召喚したモンスターより攻撃力の低いモンスターを手札に加える!」

 少女の周りに黒く、しかし澄んだ風が渦を巻く。

「"シュラ"の攻撃力は1800、デッキから攻撃力1400の《BF-月影のカルート》を手札に!」

 まあ、それ加えるわよね。効果はダメージ計算時に戦闘中のBFの攻撃力を1400上昇させるという……うん、強い。この効果を使えば、打点は一瞬にして3000を上回る。《黒い旋風》とのシナジーもあり、ほとんどのモンスターを一方的に葬り去るこの効果は、一時期は確実に【BF】を環境トップへと至らせていた。

「カードを3枚セットしてターンエンド!」


―――― Turn.1 End Phase ――――

1st/Shion Yukikaze
◇LP/4000 HAND/2
◇《BF-蒼炎のシュラ》ATK/1800
◇《黒い旋風》continuous
◇set card/mo-0,ma-3

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0


 ガン伏せか……。こういうのは大体《スターライト・ロード》も一緒にセットされている。そう簡単に《大嵐》を撃てるほど遊戯王は甘くない。
 そして、【BF】相手で怖いのが《ゴッドバードアタック》。2:2交換のフリーチェーンであり、一時期は【BF】の天下だったこともあり準制限にもなったカード。
 …まあ、結局はドロー次第ね。

「私のターン、ドロー!」


Turn.2 Player/Saya Amakawa
 1st/Shion Yukikaze
  LP/4000 HAND/2
 2nd/Saya Amakawa
  LP/4000 HAND/5→6


 ……何これ。

「んー、とりあえず《サイクロン》で。対象は左のそれ」
「……っ、通すわ!」

 緑の竜巻に巻き込まれ破壊されたカードは……《ゴッドバードアタック》。うん、いい感じ。

「《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚!」

 私の場に白く輝く剣士が現れる。相変わらずの先陣です。

 フォトン・スラッシャー
 ☆4 ATK/2100

「いきなり攻撃力2100のモンスター!?」
「特殊召喚ね。チェーンは?」
「……それも通すわ」
「ん、了解」

 これが通る……奈落もなさそうだし、動いちゃっていいかな。

「私はまだ通常召喚を残しているわ。《セイクリッド・ポルクス》を召喚!」

 私の場に描かれる、双子座の紋章。そこから降り立ったのは、右半身に金色の鎧を装備した騎士。

 セイクリッド・ポルクス
 ☆4 ATK/1700

「せ、"セイクリッド"!?」

 少女が、突然大きな声をあげた。それに反応して、周りでデュエルをしていた同じグループの人達が一斉に私の方を向く。

「"セイクリッド"……あの、伝説の!?」
「間違いねえ、あれは《セイクリッド・ポルクス》だ!」
「でも、どうして"セイクリッド"が……」

 あ、なんか……まずかった?

「……えっと、続けていい?」
「え、ええ……」

 クレナ、後で覚えてなさいよ……!

「それじゃ、手札から永続魔法《セイクリッドの星痕》を()()発動!」

 今回も手札に来てくれた、このデッキのドローソース。来ないと大変なのにサーチ手段は皆無。こればかりはどうしようもない。
 ……たくさん来るときに限ってエクシーズできないのもお約束だが、別にそんなことはなかった。

「いくわよ! ()()()レベル4《フォトン・スラッシャー》《セイクリッド・ポルクス》の2体をオーバーレイ!」


 (われ)(きざ)みしは(せい)なる(つるぎ)()しき(むくろ)への(さば)きの(ひかり)

 役目(やくめ)()えし聖鎧(せいがい)よ、遺志(いし)(いだ)きて再臨(さいりん)せよ!

    ☆4×☆4=★4

 エクシーズ召喚(しょうかん)邁進(まいしん)せよ、白銀(しろがね)騎馬(きば)


「《セイクリッド・オメガ》、光臨(こうりん)!」

 聖騎士達が2つの光となって……以下略。現れたのは、白き鎧を纏った神星の騎馬。

 セイクリッド・オメガ
 ★4/2 ATK/2400

「"セイクリッド"の……エクシーズモンスター………!?」
「《セイクリッドの星痕》の効果……」

 こいつ、ことあるごとにリアクション大きいわね。……あ、また嫌な予感が
『ああっとおおおお!?』
……的中してほしくなかった。

『皆様、Fグループのデュエルをご覧ください! たった今! 我々は! 奇跡を! 目の当たりにしています!』

 Q.……奇跡って?

『今の今まで誰も見つけられなかった、"セイクリッド"のエクシーズモンスター! その1体が!』

 A.ああ! それってエクシーズモンスター?

『たった今! 天河沙耶の手によって! この世界に降臨したああぁぁぁぁあああ!!』

 周りがこぞって、こちらを注目しては興奮している。しくじった! この世界での"セイクリッド"って、そんなに稀少価値高かったのか……!
 ……あ。今ので別の反応してる奴、絶対に介入者ね。ゆみなとアイシアと……あと20人ほど。案外多いわね。
 ……そして、クレナが私から目をそらした。あいつ後でアームロック決定。こうなるんなら最初から説明しとけと。

「……続けていい?」
「え? ……あ、はい!」
「《セイクリッドの星痕》の効果発動! 1ターンに1度、"セイクリッド"のエクシーズモンスターが自分フィールド上に特殊召喚されたとき、デッキからカードを1枚ドローするわ! 私の場に"星痕"は2枚! よって、2枚ドロー!」

 引いたカードは……ああ、うん。残念でした。
 いや、これはこれであり? じゃあ、相手にカルート使わせて……何が来るかわからないけど、やってみる価値はある!

「バトルフェイズ、《セイクリッド・オメガ》で《BF-蒼炎のシュラ》に攻撃。さあ、ダメージ計算時までいいかしら?」
「……っ!?」

 私の場、騎馬が天空へと駆け昇っていく。この後、天空から突撃するわけだけど……

「させない! 攻撃宣言時、トラップ発動! 《次元幽閉》!」

 ……あれ、《オネスト》警戒されちゃった? まあ、いいわ。

「それにチェーンして、《セイクリッド・オメガ》の効果を発動! エクシーズ素材を1つ使うことで、このターン中自分の"セイクリッド"は魔法・トラップの効果を受けなくなるわ!」
「そんな!?」

 セイクリッド・オメガ
 ★4/2→1 ATK/2400

 オメガの周囲を回っていた星が、1つ砕け散る。砕けたところから光が溢れだし、虹色の障壁が騎馬を包み込んだ。

「……使うしかない! 《セイクリッド・オメガ》の効果に対してリバースカードオープン!」

 あ、嫌な予感。

「《ブレイクスルー・スキル》発動!」

 相手の場に突如として0と1が溢れだし、白い翼竜が構成されていく。バリアを纏いながら突撃したオメガを、構築された白竜が真正面から……障壁を殴りつけた。

「……は?」
「《ブレイクスルー・スキル》の効果で、相手フィールド上のモンスター1体の効果をエンドフェイズまで無効にするわ!」

 ああ、うん。アニメとかだとこんなカードあるよね。既存カードの下位互換。《デモンズ・チェーン》とか《禁じられた聖杯》でいいんじゃないの?

「これにより《セイクリッド・オメガ》の効果は無効、そして《次元幽閉》の効果は有効になる!」

 白き竜の一撃で障壁が崩れ去り、役目を終えた竜は量子の海へと還っていった。しかし騎馬の勢いが収まることはなく、そのまま鳥人に向けて突撃する。
 ……そこに、未来を奪う罠があるとも知らず。

「《セイクリッド・オメガ》を除外するわ!」

 騎馬の眼前、突如として開かれる異界への片道切符。それに気づいたとき、彼は既に異世界の中に閉じ込められていた。身を翻してこちらに戻ろうとするも、時既に時間切れ。その叫び声も届かずに、時空の歪みと共に跡形もなく消え去った。

「あらら……。仕方ない、メインフェイズ2に入るわよ」

 情報アドバンテージこそあったものの、3枚あった相手の伏せカードをこの短時間で使いきらせた。そして、私の手札は……

「《セイクリッド・シェアト》は《サイバー・ドラゴン》と同じ条件で特殊召喚できるわ! 来なさい、"シェアト"!」

 ……この手札なら、もう一度展開できる!

「そして、手札の《セイクリッド・カウスト》を()()召喚!」

 私の場に現れた、2体の星騎士達。水瓶座の紋章からは、壺とその妖精が。射手座の紋章からは、半人半馬の弓兵が。

 セイクリッド・シェアト
 ☆1 DEF/1600

 セイクリッド・カウスト
 ☆4 ATK/1800

「《セイクリッド・ポルクス》の効果……!」
「あれ、知ってるの? じゃあ、説明は要らないわね」

 さっき召喚した《セイクリッド・ポルクス》は、召喚時に"セイクリッド"の召喚権を1回増やす効果を持っている。今《セイクリッド・カウスト》を通常召喚できたのはこの効果のお陰。
 本当は"カルート"を使わせておきたかったんだけど……伏せが全部消えたし、結果オーライってことで。

「《セイクリッド・カウスト》の効果で、自身のレベルを1つ上げる。そして、《セイクリッド・シェアト》の効果でフィールド上の"セイクリッド"、《セイクリッド・カウスト》のレベル5に自身のレベルを変更する」

 自分の場で、あっという間に2回目の準備が完了した。こっちの世界では一度も出せなかったけど、ようやく出番よ!

「光属性レベル5《セイクリッド・カウスト》《セイクリッド・シェアト》の2体をオーバーレイ!」


 (われ)(きざ)みしは(せい)なる(つるぎ)()しき(むくろ)への(さば)きの(ひかり)

 希望(きぼう)(たば)ねし聖騎士(せいきし)よ、悪夢(あくむ)(はら)(ほし)となれ!

    ☆5×☆5=★5

 エクシーズ召喚(しょうかん)浄化(じょうか)せよ、白銀(しろがね)(つるぎ)


「《セイクリッド・プレアデス》、光臨!」

 二つの光が渦を巻き、天へと続く道となる。夜空へと続く光から降り立ったのは、神話に語られる伝説の騎士。

 セイクリッド・プレアデス
 ★5/2 ATK/2500

「"星痕"の効果は1ターンに1度だけだから、ドローは無し。《セイクリッド・プレアデス》の効果を発動するわ!」

  "プレアデス"が手に持つ剣を構える。同時に、光子の風が彼を中心に吹き荒れる。

「1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を取り除くことでフィールド上のカード1枚を持ち主の手札に戻す!」

 セイクリッド・プレアデス  ★5/2→1 ATK/2500

「あんたの《BF-蒼炎のシュラ》を飛ばす! 原初に帰す星々の輝跡(コンシュテリア・クローシェ) !!」

 私の宣言と同時に、騎士が剣を振りかざす。 巨大な剣閃は津波のごとく押し寄せ、蒼き黒翼を抵抗も許さずに飲み込んだ。

「……ふう。それじゃ、1枚セットしてターンエンドよ」


―――― Turn.2 End Phase ――――

1st/Shion Yukikaze
◇LP/4000 HAND/3
◇《黒い旋風》continuous
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/0
◇《セイクリッド・プレアデス》ATK/2500
◇《セイクリッドの星痕》continuous
◇《セイクリッドの星痕》continuous
◇set card/mo-0,ma-1


 私のセットしたカードは《エクシーズ・リボーン》。墓地のエクシーズモンスターを蘇生して、このカードをエクシーズ素材にするという変わった効果。
 特殊召喚と素材化は同時処理だから、召喚成功時のタイミングを逃すことはない。だから"奈落"とか"激流"とかにあっさりやられることも。
 だが、現時点で私の墓地にエクシーズモンスターはいない。"オメガ"は除外されちゃったし。使うことがあるとするなら、それはこのターン中に《セイクリッド・プレアデス》が墓地に送られた時ぐらい。また除外とか言われたら終わる。このカードは間違いなく腐るだろう。

「私のターン、ドロー!」

 さて、相手はどう動いてくることやら。


 ― ― ― ― ― ― ― ―


 夜神(やがみ)(さくら)は転生者だ。
 水咲凍夜をサポートするために、神によって殺された。しかし彼女は神を憎んでいない。神には"不慮の事故"やら"操作ミス"やらという露骨な言い逃れ手段が豊富にあるからだ。
 それに気づくことなく、彼女もまた他の転生者狩りと同様に、水咲に好意を抱いていた。それさえも、神の用意した"設定"だと気づかずに。
 ……その彼女が、彼の遺した【水精鱗(マーメイル)】を使っていることは、まあ必然と言えるだろう。しかし、しかしだ。
 ……その神さえも、予想していなかったのだ。

「大丈夫? えっと……」
「黒乃だ。望月(もちづき)黒乃(くろの)
「了解。望月黒乃ね」

 転生モノの二次小説を全面的に否定するために創り出した最強の主人公。転生者を見抜くだけでなく、その転生者の能力を無効にする能力。加えて、闇のゲームを生成する能力とどんなことであっても絶対に勝つ能力。
 それが、転生者・水咲凍夜であった。故に、彼に勝つことは誰であっても許されない。それなのに彼は……殺された。

「ありがとうな、何度も……」
「何度も? ……ああ、あの時桜井君と一緒にいたね」

 ……まさに今、闇に飲まれようとしていた転生者・望月黒乃を救出した、この少年に。

「なんで、ここにいるんですか……!」
「ん? ああ、デュエルディスクの先行体験会に間に合わなかったから適当にうろついてただけ。それで、偶然地面に埋もれてる人がいたから引っ張っただけだよ」

 嘘だ。これが偶然? たかが偶然ごときに、転生者を二度も守られてなるものか。

「さて、悪の手先さんもしつこいことだね。そこまでして彼を苦しめたいの?」
「悪者のくせに人を悪役扱いしないでください! 先輩を殺しておいて……!」

 憎悪に満ちた少女の声。彼女の持つそのデッキが、それに応えるように蒼き光を放つ。
 対して水咲の仇、風見蓮の返した言葉は……

「水咲凍夜……ああ、あれか。よかったじゃん、闇に魂を喰われる前に成仏できて」

 ……しかしその言葉は、2人にとってはあまりにも常軌を逸した発言であった。

「何がよかったですか! 先輩を殺しておいて、よくもそんな……!」
「待ってくれ風見! 闇に魂を喰われるって、どういうことだ!?」
「……あれ、まさか知らないままデュエルしてたの?」

 まるで、それは彼にとっては常識であるかのように驚愕する。
 しかし、彼がどんなリアクションをとったところで望月が理解することはない。諦めたように溜め息をつき、彼は言葉を紡ぎ始めた。


「じゃあ、教えてあげようか。闇のゲーム……その本質を」


    to be continued... 
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