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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#14
  蒼い霹靂 ~BLACK OR WHITE?!~

【1】

 ジョセフを欠いた3人で一つのテーブルにつき、
朝食をすませた承太郎とシャナはホリィの笑顔に見送られながら
登校のため空条邸を後にした。
 朝の街路に承太郎のマキシコートのように裾の長いオーダーメイドの学ランと、
シャナの綺麗に糊付けされたセーラー服の裾が翻る。 
 昨日の行動をトレースするように無言。
 朝の風に、麝香と椿油の匂いが混ざって靡いた。
 そしてちらほらと、登校途中の他の生徒が見えだした頃
いきなりシャナが周囲を警戒、否、威圧し始める。
 今はまだ来ないが昨日のように女生徒が大挙して自分達に群がってきたら、
今日はフレイムヘイズ自慢の虹彩を射抜くような鋭い眼光で
追い払ってやろうと考えていた。
(ちょっとでも私たちに近づいたら……()る!)
 そう強く胸に誓いシャナは全神経を研ぎ澄ますと、
周囲360度全てに己の「殺し」を張り巡らせた。
 いつの間にか傍へ居た、雇った覚えのない小さな用心棒の先生の
その有り難い(?)御心には気づかず護られる立場の当人は
道を外れて脇に逸れた。
「おまえ? どこに行くの? 学校はそっちじゃないわ」
 問いかけるシャナに、
「今日は気が乗らねぇ、フケるぜ」
と短く承太郎は告げ、潰れた学生鞄を脇に抱えズボンのポケットに
片手を突っ込んだまま正反対の方向へ行ってしまった。
「もう!」
 自分の行為が徒労に終わった事に苛立ったシャナは
すぐに地面を蹴ってその後を追う。
「おい? 何付いてきてんだ? 「不良」でもないのにサボってるんじゃあないぜ」
 残像を映して追いついてきたシャナに承太郎は視線を合わせず言う。
「うるさいうるさいうるさい。何の為に私がおまえの傍にいるのか忘れたのッ!」
 そう言ってシャナは再び承太郎の隣についた。
(むう。此奴(こやつ)、昨日の「あの事」を気に掛けているのか。
自分が接触する事で「あの娘」の「記憶」が戻る事を……
確かに強引な記憶の操作だった故、その可能性は無きにしも在らずだな)
 シャナの胸元で揺れるアラストールは小さくそう呟いた。
 再び互いに無言のまま10分ほど歩き、見えてきた自然公園のベンチに
承太郎は腰を降ろす。シャナも必然的にそれに習った。
 承太郎は広いベンチにゆったりと背を預け、両腕を大きく広げて凭れかかった。
 その躯が大きいのでシャナの座るポジションは必然的にベンチの端になる。
 だがこちらは躰が小さいのでそれでも十分過ぎるスペースだ。
 足を大股に開いて座る承太郎の横に、スカートの中で足を組み
ちょこんと大人しく座っている。
「……」
 承太郎は、そのまま黙って空を眺めていた。
 時折思い出したように煙草を取り出して火を点け、
ソレが吸い終わると足下で吸い殻を揉み消し
再び空を眺めながら時折考え込むように俯く。
(こいつ……空見るのが好きなんだ……ッ!)
 シャナは、承太郎に自分と同じ嗜好が在った事に驚き更に少し嬉しくなる。
 つられて自分もその無限へと続く、広大無辺なる果てしない蒼の空間へと視線を移した。
 そして。
“こいつになら、いつか自分の大好きな景色を見せてやっても良いかな?”
 と、密かに想った。
 空と大地、その水の鏡に全く同じ色彩が映った、特別な景色を。
(喰われそうだな……)
 その水晶のようなライトグリーンの瞳に広大なスカイブルーの光景を映しながら、
承太郎は心の中で呟いた。
 眩いばかりの、陽の光。
 頬を撫ぜ、髪を揺らす早春の息吹。 
 巨大な雲海が、少しずつその形容(カタチ)を変えながら緩やかに流れていく。
 その、今にも落ちてきそうな空の下で、
承太郎は学帽の鍔で目元を覆いその瞳を閉じた。
 シャナは脇の承太郎が微睡みの世界に落ちた事に気づかず、
そのままベンチの縁に両手をつき無言で空を見つめていた。
 そのまましばし、時が流れる。
 公園の花壇に設置された花時計の針は、気がつくともう10時を指していた。
 足下の吸い殻はもう十本以上になっている、
沈黙の中シャナがおもむろ口を開いた。 
「さて、と。いつまでも此処で空見てても仕方ないし。昼食の買い出しにでも行くわ」
 そう言って脇に立てかけてあった真新しい学生鞄を手に取り、
ベンチから腰を浮かせる。
「おう行ってこい。ついでに煙草も頼むぜ」
 心底無関心な口調で承太郎は両足を開いたまま、
両手をズボンのポケットに突っ込みながら言った。
 シャナが消えるのでこの後は久しぶりに雀荘にでも行くか、
それともバカラにするか、午前中からでも酒を飲ませてくれる
BARは近くにあったか、等と健全な不良に相応しい思考に耽っていた
承太郎の襟首が、いきなり強い力で引っ掴まれ無理矢理ベンチから引き起こされる。
「!」
 一瞬の浮遊感の後、黒い有名ブランドの靴底が
アスファルトへ接地するのと同時に、
「何言ってるの? おまえも来るのよ」
シャナが澄ました表情で言った。



【2】

 外資系の企業がスポンサーとなって設営された
巨大なアメリカン・スーパーマーケット。 
 平日の昼間、しかも早朝セールが終わった後なので
広い店内は閑散としている。
 静かに開いた自動ドアから中に入ったシャナは、
青い網の目状の買い物カゴを手に取ると目の前の生鮮食品には目もくれず、
通常の買い物順路を無視してその中心辺りにあるお菓子売り場に向かった。
 その中からスナック類などは度外視してチョコレートのクッキーや
カスタードクリームの入ったマドレーヌ、マカロンなどを手当たり次第に
次々とカゴに入れている。 
「……」
 その様子をしばらく見ていた承太郎は、
やがてやれやれと軽い溜め息をつき傍にあった冷蔵庫から良く冷えた
緑色のビールの缶を取り出し何本もそのカゴの中に放り込んだ。
「真っ昼間(ぴるま)からお酒飲むの? おまえ?」
「感心せんな」
 ジト目でこちらを見るシャナとアラストール (?) に、
「 “不良” だからいいんだよ」
と滅茶苦茶な論法で返す承太郎。
 シャナはその脇に設置された冷蔵棚から
子供用の甘いコーヒー飲料を取りカゴに入れた。
 承太郎は同じ冷蔵棚にあったブルーチーズを
クラッカーと一緒にカゴへ放り込んだ。
 いつしか大量のお菓子と少量の食品でいっぱいになった買い物カゴを
ちゃっかり承太郎に持たせたシャナは、最後にレジ近くの棚でパンを選ぶ。
 何故か少女がその視線を釘付けにしているモノは “メロンパン” だった。
 紅くはないがまるで戦闘中のような真剣な表情で、
何種類もあるメロンパンを慎重に吟味している。
「……」
 甘いものが嫌いな承太郎には、顔面からジッパーで無線機(トランシーバー)を取り出すくらい、
永遠に理解不能の感情だった。
 そのシャナの真剣さにつられたのか承太郎は何となく
メロンパンの入った袋を一つ手にとり、
まるで新種の海洋生物でも見るかのようにしげしげと眺める。
「こんなモンの一体どこが美味ぇんだか? 果汁入り、ね……」
 その承太郎の呟きにいきなりシャナが立ち上がって
胸を張ったまま凛々しい視線をブツけてくる。
 今にも髪と瞳とが炎を撒いて、真っ赤に変質しそうな勢いだった。
「メロンパンってのは、網目の焼型が付いているからこそのメロンなの!
本物のメロン味なんて、ナンセンスである以上に、邪道だわッ!」
 突然の大声と主張に、周囲の買い物客たちからも、おお、と声が漏れる。
「やれやれだぜ……」
 承太郎は学帽の鍔で目元を覆い、苦々しく呟いた。
 結局、厳選の作業にはそれから十分の時を要した。


 商品を選び終わり、買い物カゴをレジに置いたその刹那
自分の脇にいたシャナが絶妙の間とタイミングで
「今日はありがとう♪ “お兄ちゃん” 」
と、言った。
 声色を使い、顔に年相応の無邪気な笑顔を浮かべて (無論演技である)
 その所為で周囲の買い物客の注目を浴びたので
空気的に代金は承太郎が支払う事となった。
(このクソガキ……長生きするぜ……)
 心中でそう毒づきながら (無論自分の「分」は出す気だったが)
承太郎はシルクリンクのウォレット・チェーンで繋がれた
パイソンの財布から黒いクレジットカードを取り出し
レジの中年女性に手渡した。
 日用雑貨からは個人専用のジェット機まで買える、SPW財団特性のモノだ。
服装(ナリ)は不良でも、その風貌と風格は永い歴史を持つ貴族のソレであるので、
承太郎がブラックカードを所持している事に特に違和感はない。   
 レジ係の女性は目を白黒させて手渡されたカードと承太郎とを何度も見たが、
剣呑な表情を崩さない承太郎の雰囲気に気圧されてカードを素早く
CAT端末のスリットに通した。
 支払いを終え備え付けの台の上でそれぞれの品物を
店のロゴがプリントされたビニール袋に入れる。
 承太郎はビールとチーズとクラッカー、それと店内に出店していたS市杜王町を
本店とする某有名店のパンしか買ってないので、ものの数秒で作業を終える。
 シャナは慣れた手つきでお菓子やパンを袋の中に入れていたが、
その量が膨大に及ぶので全体の作業工程はまだ半分と言った所だった。
「ぼさっとしてないで手伝いなさい」
「……」
 荷物持ちに加えて代金まで払わされ、その上最後の手伝いまで強制される
筋合いは全くないのだが、承太郎は昨日の自在法と花京院の礼だと割り切って
この小さな暴君の命令に黙って従った。
「やれやれだぜ……」
という苦々しい呟きは抑えられなかったが。
 店を出るとき、互いの手から下げた買い物袋は何故か自分の買った品物ではなく
相手のものだという奇妙な構図ではあったが、
ともあれ 『スタンド使い』 にも “紅世の徒” にも襲われる事なく
二人は無事に買い物を完了した。
 さて、次なる問題は、 “一体どこで食べるか?” という事だった。
 先程の公園でも別に良いのだが、二人で居るとただでさえ目立つ上に
平日の昼間、潰れた学生鞄を持った派手な服装(ナリ)の男がベンチで酒を飲んでいたら、
良識ある御夫人方にまず間違いなく通報されるだろう。
 オマケにその脇には大量のお菓子を抱えた
自分と同じくらい目立つ存在感の美少女が居る。
 警察官に職務質問を受けたら最悪、幼児誘拐だという疑いを掛けられかねない。
 なので、承太郎は仕方なく「学校」に向かった。






【3】

 ギギ……ギギギギギギ……
 表面の塗装が剥がれた木製のドアが重苦しい音を立てる。
 承太郎とシャナは、近々取り壊される予定の木造旧校舎3階、化学実験室に来ていた。
 荒れた外見とは裏腹に、その中は意外と片づいている。
 埃が綺麗にふき取られ、ゴムチューブで繋がれる錆びたガスバーナーが
二つ並ぶ中型の机の上には、海洋生物や遺跡、地理、歴史書、哲学書など
多数のジャンルの書物が無造作に置かれていた。
 元は、2、3年の (進学校にありがちな陰湿なタイプの)
不良グループがたむろしていた場所であったが、
偶然迷い込んだ承太郎に人数と所持していた武器の虚勢と、
加えて他の女生徒達からの人気への嫉妬も相まって、
よせばいいのに薄ら笑いと薄汚いガンツケを浮かべながら絡み初め、
その後全員まとめて顎を砕かれ、その他色々潰されて血祭りに上げられた為
ソレ以降は誰も此処には近寄らなくなった。
 なので。
 承太郎が学校での自分専用の個室 (というには少々大きすぎるが)
にしてしまったのである。
 かったるい体育の授業や無能なボンクラ教師の授業をサボる時には、
大概ここに来て煙草を吸うか本を読むか机の上で寝るかしている。
(サボリ場所の定番、保健室でも別に良いのだが仮病を装って隣で寝よう
とする女生徒が大挙して押し寄せるのでウットーしいのである)
 ちなみに、取り壊しの具体的な日時が決まっていないので一応水や電気も通っている。
 旧式の黒いスイッチを入れると、
黒カーテンに包まれた空間に蛍光灯がの明かりが灯った。
 先刻。
 承太郎とシャナは学園裏口の高い壁をスタンドとフレイムヘイズの力を使って
軽々と飛び越え、外縁に設置された螺旋階段を使い非常口からここに侵入した。
 当然、新校舎の方はまだ授業中なので周囲は静寂に包まれている。
 グランドの方からは球技でもやっているのか、生徒達の遠い歓声が聞こえてきた。
「やれやれだぜ……」
 と承太郎は今日何度目か解らなくなったお馴染みの台詞を呟き、
大量の甘さのみを追求したお菓子の山が入っている袋を机の上に置くと、
背もたれのない直方体型の椅子に腰を下ろしその長い脚を組んだ。
 シャナも若干の食品と缶が入った軽い袋を机に置くと、
彼の真向かいの位置に座る。
「まさか 「学校」 とはね。おまえ? 教師に見つかったら色々と面倒じゃないの?」
「ブッ壊される予定の校舎だから誰もここにはこねーよ。
まぁ来たところでセンコーの一人や二人、軽く撫でてやるがな」
 と、承太郎は簡潔に答える。
「ふぅん。ま、邪魔が入らないなら私はなんでも良いけどね」
 承太郎はクラシックなタイプの不良なので、
基本的に彼の生き方のスタンスはロックでストイックな反体制である。
 まぁ彼がそうなった理由は、肩書きだけの無能教師があまりにも多過ぎた
という事実も多分にあるのだが。
 自分の周囲にいる人間はジョセフやホリィ、祖母であるスージー、
更に(よわい)100を越える超高齢にも関わらず、
女神のような若さと美貌を誇る 『最強の波紋使い』
曾祖母エリザベス等あまりにも偉大過ぎる人物が多過ぎるので、
どうしても肩書きだけで無能のくせに知ったふうな講釈を垂れ、
そのくせイジメや差別等を見て見ぬフリをしている
ことなかれのサラリーマン教師がどうしようもないただのアホにみえるのである。
 承太郎は袋から緑色のビールの缶を、シャナはイチゴミルクの缶を取り出し
無論乾杯などはせずタブを捻ってそれぞれの口元に運んだ。
 一息で半分以上飲み干した承太郎は、袋からブルーチーズを取り出し
机の上に放られていた刃渡り15㎝の良く磨かれたジャックナイフでビニールを切り裂き、
慣れた手つきでソレをまな板代わりにチーズを切り先端に刺して口へと運ぶ。
 何度か噛んで独特の味と香りを楽しんだ後
クラッカーの袋を破り数枚まとめて口の中へ放り込んで
一緒に咀嚼(そしゃく)した。
 そのまま後を追うようにビールの缶を手にして残りを一気に呷る。
 淡い吐息が短く形の良い口唇から漏れた。
 シャナはメロンパンを取り出して袋を開け、両手で持ってぱくついた。
 相当に美味しいのか、顔が綻び容姿が見かけ通りの年齢に戻る。
 承太郎は2つ目のビールの缶を手に取り
袋からはビニールに包まれ金色の紐で先端を結ばれたホットドッグを取り出した。
 紐を解き本体に囓りつくと、先程と同じようにビールの缶を口元へと運ぶ。
「?」
 小気味よく喉を通り過ぎる、泡立つ黄金色の液体にシャナが反応した。
 綺麗な焦げ目がついたソーセージに露で濡れたレタスとオニオンが
挟まれたホッドドッグに囓りつきながら、あんまり美味しそうに喉を鳴らしているので
なんとなく興味が湧いたシャナは、承太郎の袋の中から緑の缶を一つ手に取り
そのタブを捻る。
「おい?」
「こら……」
 剣呑な視線を自分に送る承太郎とその行為を(たしな)めるアラストールを
無視して、蓋の開いた缶を口元へと運ぶ。
 その直後。
「――――――――――――――――ッッッッ!!!!????」
 未だかつて経験した事のない、
途轍もない苦さと筆舌に尽くし難い異様な味。
 鼻に抜ける発酵した麦の匂いと口内を流法の如く暴れ回る刺激に、
想わず中身を吹き出したいという欲求が耐え難く迫り上がってくる。
 が、そこは誇り高きフレイムヘイズ、炎髪灼眼の討ち手。
 顔をしかめ目元をいっぱいの涙で滲ませながら、
口の中の液体を無理矢理嚥下(えんか)する。
 小さな喉が、液体の通り抜ける音と共にコクリと動いた。
「ッッくはァッッ……!! ハァ……!ハァ……ハァァァ……」
 ある意味DIOとの戦い以上の死闘をなんとか征した少女は、
心中に溜まった憤懣(ふんまん)やるかたない幾つもの感情を
八つ当たり気味に (最も完全な八つ当たりだが) 承太郎にブツけた。
「スッッゴクスッッゴクマッッッズイッッ!! 信じらんないッッ!!
おまえ! よくこんなもの平気な顔して飲めるわね!!」
 目元に涙を浮かべたまま真っ赤になって抗議の声を上げるシャナに承太郎は、
「ガキに酒の味は解らねーよ」
缶を口元に運んだまま眼を閉じて返す。
“天道宮” で修行時代の、彼女の 「養育係」 がみたら
「ご自身の失態の結果であります」
と評しそうな、いっそ清々しいくらいの逆ギレっぷりだった。
 目元の涙を拭いムクれたまま口直しにシャナは袋からチョコスティックの
入った箱を取り出す。
 その前に、それとは別の箱が差し出された。
「……?」
「酒は口に合わなかったみてーだな? ならこっちはどうだ? 試してみな」
 承太郎が表情を変えないまま、袋から最後に残ったボックスのサンドイッチ
を取り出してフタを開け、ソレを目の前に突き出していた。
 半透明の容器の中に白いパンに挟まれた綺麗に揚がったチキンカツ、
照りのある焼き色の付いたローストビーフ、艶めかしい色彩の
スモークサーモン等がバリエーション豊かに並んでいる。
「……」
 特に断る理由もないのでシャナは左端のカツサンドを手に取って口に運んだ。
「……ッッ!?」
 柔らかいパンの感触にこんがりと揚がった香ばしい衣が調和し、
特製のソースが脂の乗った肉と歯応えが良い野菜とに絡みついてパンと融和する。
 久しぶりに (初めて?) 甘い物以外に美味しさを感じ、
「お」
と思わず本音が口を付いて出そうになるが、そこは誇り高き (天の邪鬼なとも言う)
フレイムヘイズ、炎髪灼眼の討ち手。
「ま、まあまあねッ!」
 そっぽを向いて残りを口に運んだ、
ちゃっかり左手で2切れ目を取りながら。
 承太郎はホットドッグの残った切れ端を口の中に放り込むと
そのまま2本目を飲みきってしまう。
 袋の中の新しい缶に手を伸ばす前に、承太郎はシャナの目の前で
放置されている、中身が殆ど減っていない缶を手に取った。
「あ……ちょ、ちょっと」
 その缶を口元に運ぼうとしていた承太郎をシャナの声が制する。
「アン?」
 承太郎は缶を口に持っていく仕草のままでシャナを見る。
「その……だ、だから……」
 そう言ってシャナは口籠もる。
 口の中で何かごにょごにょ言っているが、言葉になっていないので判別不能だ。
 しきりに承太郎の口唇と缶の飲み口とを気にしていた。
「やれやれだぜ……」
 その意図を解した承太郎が目を閉じて静かに呟くと、
背後でスタンド、スタープラチナが異質な音と共に出現した。
 そして人差し指を立て(おごそ)かに構えると、
「オッッッラァァァッッ!!」
精悍な掛け声でその指先が鋭く缶の底辺部を刺し貫いた。
 あまりの速さとキレに中の液体も一瞬反応が遅れ、
凹凸が全くない綺麗な楕円状の空洞から泡立つ黄金色の液体が勢いよく流れ落ちる。
 承太郎はその放物線の下で口を開くと、
所謂 “ショットガン” の方式で喉を鳴らしながら
流れる液体を全て飲み干す。
 そして中身が全て無くなった缶を手で潰すと
微かな音を立てそれをシャナの前に置いた。
「これでいいんだろ?」
 件の如く剣呑な瞳を向ける承太郎。
「う、うん……」
 力無く頷いたシャナを一瞥すると承太郎は袋からまた新しい缶を取り出した。
 そのまましばし、無言のまま互いの食事に専念する。
 何故か2つ目のメロンパンを口に運ぶシャナの手つきは辿々(たどたど)しかった。
 そして中身の無くなったビニール袋に、不用物が詰め込まれ先端が結ばれた後。
「よぉ?」
「ひゃわッ! ななな、なに!? 何か用!?」
 ビールの缶を運びながら口を開いた承太郎に、シャナが過敏に反応した。
「オメーが属してるとかいうその戦闘組織……
“フレイムヘイズ” っつーのは一体何なんだ?」
「な、何でいきなり、そんな事訊くの?」
 まだ動揺が収まらないシャナが、そう聞き返す。
 どこぞの殺人鬼が聞いたのなら “質問を質問で” 以下略。
「さぁな? ただ何となく興味が湧いただけだ。
ジョースターの男は昔ッから妙な事に首を突っ込みたがる性質があるようでな。
オレもその血を引いてるって事だろ?」
 ビールを飲みながら承太郎は他人事のように言った。
「ま、言いたくねーんなら、無理には聞かねーがよ」
 そう言いながら4本目を空にすると、承太郎は制服の内ポケットから
煙草のパッケージを取り出し口に銜えて火を点けた。
 端正な口唇の隙間から紫煙が細く吐き出される。
 シャナは煙草は味(無論未経験故の独断)も匂いも死ぬほど嫌いだが、
何故か承太郎が吸っている仕草には嫌悪感が湧かない。
 未成年が煙草を吸うのは堕落した行為の筈だが、
承太郎の煙草を吸う仕草は不自然なほど自然に感じられた。
「“紅世の徒” によって、世界が歪んでしまうのを防ぐために“徒”と戦う者達。
世界の歪みを憂い、同族を倒す決意をした“紅世の王”をその身に宿す事によって
不老の肉体を持ち、死ぬまで”紅世の徒”との戦いを続ける「使命」を負った者」
 胸に手を当てて動揺を抑えたシャナは可能な限り簡潔に、
“フレイムヘイズ” の概念を承太郎に説明する。
 承太郎はその説明を鋭敏な頭脳で即座に呑みくだすと
口唇の端に煙草を銜えたままシャナを見つめた。
「その中の一人がオメーか。シャナ」
「そう」
(……)
 承太郎は灰皿代わりの空き缶に慣れた手つきで煙草を弾く。
「王を “その身に宿す” っつーことは、
そのペンダントはアラストールの 「本体」 じゃあねーのか?」
 それにはシャナの代わりに胸元のアラストールが答える。
「うむ。これはこの子の内に蔵された “紅世の徒” たる我、
その意思だけをこの世に顕現させる、 『コキュートス』 という神器だ」
 承太郎は二本目の煙草に火を点けながら静かに呟く。
「コキュートス……嘆きの川、氷縛の巨人、か……
なかなか洒落が利いてんな……? 炎の魔神さんよ……」
 細く紫煙を吹きながらアラストールに向けて言う。
「多識だな? 貴様」
「別に。サボって暇つぶしに読んだ、古典の受け売りだ」
(ダンテの『神曲』……第九圏…… “裏切者の地獄” ……)
 承太郎の呟きに “天道宮” の書庫で読んだ古典文学の原本をシャナは思い出した。
 承太郎の自分に匹敵する知識の量に、シャナは高揚する気持ちを押し隠しながら
アラストールの説明を補足する。
「つまり、アラストール本人は契約者であるこの私の(うち)にいて、
このペンダントはその意思を表に出す仕掛けってことよ」
「契約者、ね……それで王と契約した者が、特殊能力を持った
“フレイムヘイズ” になるってわけか?」
「その通りよ」
と言って思わずニッコリ微笑みそうになるが、
そこは強靭な意志の力で言葉と表情を押し留める。
「じゃあオメーは、元は 「人間」 なのか? シャナ?」
 剣呑な瞳で自分を見てくる承太郎にシャナはキョトンと返す。
「何だと想ってたのよ?」
(あけ)ぇ眼と髪のうるせーガキ」
「こ、こいつ!」
「冗談だ」
 拳を振り上げたシャナを承太郎は新しいビールのタブを捻りながら押し止めた。
「まぁ、大体の(コタ)ァは解ったぜ。
要するにシャナ、オメーが 「本体」 で
アラストールが 『スタンド』 みてーなモンだな」
「ぜッッッんぜん違うッッ!!」
 そう言って缶を口元に運ぶ承太郎にシャナの怒声が轟いた。
 あながち間違いではない、独特な解釈なのだがそこは強く否定する。
 そしてアラストールが承太郎の結論に付け足した。
「まぁこの子は、フレイムヘイズの中でも少々異質な存在でな。
フレイムヘイズの大半は紅世の徒に強い恨みを持ち、
「復讐」を戦いの動機と目的とする者が多いのだがこの子は違う」
「ほう? じゃあこいつの 「家族」 とかは、
別にあのバケモン共に喰い殺されたってわけじゃあねーんだな?」
「ッ!」
「家族」 と言う言葉にシャナの小さな肩がピクッと反応する。
「……」
 その反応が少々過剰だったので失言だと判断した承太郎は、
「あぁ、そいつぁオレの知った事じゃあねー話だな。わりーが忘れてくれ」
と、静かに自分の言葉を取り消した。
(此奴……)
 承太郎のその想いに、心の中でほんの少しだけ笑みを浮かべたアラストールは
厳かに話を続ける。
「この子は幼き頃からフレイムヘイズになるべくして養成された子。
“在るべくして在る者” とでも今は言っておこう」
 そのアラストールの言葉に、承太郎はビールの缶を口に運びながら静かに言った。
「“在るべくして在る” ね。似合いの呼び名のようだな? シャナ」
 剣呑なその視線に、何故か自分を見透かされたように感じたシャナは強く反発する。
「お、おまえなんかに! 私の何が解るっていうのよッ!」
「さぁな? 会ったのはほんの2日前だが、
オメーが “悪いヤツかそうじゃあねーか” 位は解る。
悪いヤツならわざわざ身体張ってバケモン共と戦おうとはしねーだろ?
ガキで女のくせによ」
「うるさいうるさいうるさい! ガキっていうなッ!」
「ガキはガキじゃあねーか。
嫌なら “お嬢ちゃん” とでも呼んでやろうか?」
「うるさいうるさいうるさい! もっとイヤッ!」
「やれやれ、わがままなヤローだ」
 そう言いながら承太郎はビールの缶を口元に運んだ。
 終始承太郎のペースに乗せられたまま会話が終了してしまい、
なんだか面白くないシャナは捨て台詞のようにそっぽを向いて言った。
「おまえに、私たち “フレイムヘイズ” の事は解らないわよッ」
「オメーにも、オレ達 『スタンド使い』 の事ぁ解らねー」
「……」
「……」
 折り重なった、二つの言葉。 
 振り向いた自分を剣呑な瞳で見ている承太郎。
 そして、奇妙な沈黙。
 それがなんだか可笑しくて。
「ククッ」
「フッ……」 
 シャナは思わず吹き出し承太郎の口元にも微笑が浮ぶ。
“そのとき” だった。
 突如、世界が裏返ったかのような異様な体感が二人の身体を貫いた。
「!!」
「!?」
 弾かれるように二人同時、窓の方へと向かって飛び出す。 
 窓の手前で勢いよく停止したシャナの脇で、
承太郎が両手で黒のカーテンを掴み引き裂くように押し拡げた。
 開いたカーテンの、先。 
 薄白い炎が奇怪な紋様を浮かべながら
承太郎とシャナの頭上でドーム状に拡がっていた。
 いつか見た光景。
 悪夢と絶望への地獄門。
 因果孤立空間 “封絶”
 ソレが、新校舎を中心に学園全体を覆っていた。
「来やがったな……ッ!」
 歯をギリッと食いしばった承太郎の瞳に、決意の光が宿る。
 同時にシャナの髪と瞳が炎髪灼眼に変わり、
その紅い虹彩の奧に使命の炎が燃え上がった。
 華奢なその躰を、黒衣が舐めるように足下から迫り上がり絡まり合って
全身を覆っていく。
 そして一度、全身から鳳凰の羽ばたきのように紅蓮の火の粉を振り撒くと
勇ましいその声で開戦の始まりを宣言した。
「さあッ! 始めるわよ! 承太郎!」
「上等だッ! 行くぜッ! シャナ!」
 承太郎は猛る闘争心を言葉で吐き出し、
そしてその背後から流星を司る 『幽波紋(スタンド)』 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』が
勢いよく長い鬣を揺らし白金色の燐光を漲らせながら高速出現する。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァ―――――――――――――ッッッッ!!!!」
 すぐさまに繰り出されたスタープラチナの多重連撃が
目の前の窓ガラスを粉々にブチ破り、衝撃でミクロン単位にまで爆散した
硝塵(しょうじん)が煌めきながら空中へと振り撒かれる。
 素早く窓の(さん)へと同時に足を掛けた承太郎とシャナは
砕けたガラスのシャワーの舞い踊るキラメキの中、
学ランと黒衣の裾を渦巻く気流に靡かせ
スタープラチナの放つ白金の燐光と炎髪の撒く深紅の火の粉とを
振り捲きながら共に空中へと舞い上がった。


←To Be Continued……

 
 

 
後書き
はいどうもこんにちは。
男が女に好き勝手に引っ張り回される事ほどカッコ悪いコトはないので
このような展開になります。
まぁ、前回の話の続きじゃありませんが○○な人が描くと
その作品の中に作者の「願望」が透けて見えるンですよネ・・・・・('A`)
「女の子に自分からは話かけられないしその勇気もないけど
美少女には好かれたいから何もせず向こうからやってきて
内気な僕を引っ張り回して欲しい」と
まぁよっぽどつまんない学生生活送って華々しい事など
何一つ起こらなかったからソレを作品の中で晴らすという
怨 讐(ルサンチマン)の一種なんでしょうガ
(そりゃ「待ってるだけで」何もしなけりゃ何も起こりようがないだろ・・・・('A`))
自分の「分身」まで出してあの醜悪さでは
最早何も言うコトはありません。
(「哀れ過ぎて何も言えねぇ・・・・」というヤツですか・・・・・('A`))

コレに対してジョジョの話となりますと(「本編」の始まり始まり~♪)
意外かもしれませんが承太郎やジョルノ等のあの異常なモテ方は、
決して漫画的な「誇張表現」ではなくおそらく荒木先生の「実体験」に
即したモノだとワタシは考えます。
だって『この人』がモテないワケがないでしょう!

ttps://www.youtube.com/watch?v=ImktRhu3TGQ

溢れる才能に加え容姿も整い知性を感じさせ人柄も良い。
おそらく街中を歩けば引く手あまたで「うっとうしいぞ!」
という承太郎のセリフは当時の荒木先生の心の叫びだったのかもしれません。
何より女性には本能的に優れた男(雄)を見分ける「能力」があり、
ソレが恋愛感情へと昇華するワケですから、ロクでもない男(雄)を
選んだら「自分がバカだ」と告白しているようなモノです。
(だからロクでもない男に引っかかると
周囲の忠告も聞かず認めたがらないのです)
別に男女差別でも何でもありません。
「子供を生み育てる」という可能性が出てくるのですから
本来誰かを好きになるというのは命懸けの行為なのです。
少なくとも「ただ待ってるだけの軟弱な男(加え○タレで優柔不断で無責任)」を
まともな女性は相手にしたりしないでしょう。
だから本編でシャナが承太郎に恋愛感情を抱くのは
至極「自然」な行為なのです。
別にモテる人間にしか「恋愛」を描く「資格」が無い
と言っているのではありません。
でも「経験」ないならせめて「勉強」してくれよという話です。
映画でも小説でもエッセイでも参考資料はたくさんあるワケですから。
なのに「経験」ないのにアニメやマンガ(ラブコメ作品のみ)だけの知識で
作品描けば、ソレはキ○オ○の「妄想」でしかないので
「醜悪」なのは当たり前でそんなモン読まされる
コッチに身にもなってみろという話です。
ソレでは。ノシ 
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