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遊戯王EXA - elysion cross anothers -

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PROLOGUE EDITION Volume.1
  PE01-JP002《少年、これが現実だ……》

 魔法陣の光が、徐々に収まっていく。
 目を開くと、そこは既に私達の知る風景ではなかった。
 辺りを見渡す限り、どうやらここは公園のようだ。広場の中、私達を挟むように2人組と3人組が向かい合っている。

 ……いや、そうじゃないわね。
 逃げている2人と追っている3人。雰囲気からして、構図はこうで間違いないだろう。

「行って。ここは俺達が引き受けたよ」

 突然、蓮が口を開いた。その言葉の示す事の意味、2人の少年は瞬時に察知した。

「……すまない、頼んだ! 行くぞユウト!」
「あ、ああ! 誰だか知らねえけど、ありがとな!」

 "ユウト"という名の少年達2人が公園を抜けていく。それを確認し、改めて残りの3人へと意識を向けた。

「先輩、追わなくていいんですか!?」
「追えたら追ってるっての…」
「誰だか知らないけど、私達の敵をかばわれちゃったからね…」
「…面倒だ。夜神(やがみ)、エリュシオンとそこで見てろ」

 そう言って、3人の中心人物だろうか……怖いほどに色白な白髪の少年が前に出た。後ろの女子2人は見るからにこいつの付き添いのようだ。

「……お前等、一体何のつもりだ?」
「「何いきなり話しかけてきてるわけ?」」
「はあ?」

 おおう、蓮も同じこと考えてたか。我ながら見事な返しだと関心はするがどこもおかしくはないわね。

「で、何? デュエルするの?」
「……」
「えーっと。するの? しないの?」
「それ以上いけない。沙耶姉、あいつ反応に困ってるよ」
「えー?」

 私達の存在がそこまで想定外だったのかしらね?

「それに、デュエルディスク持ってないよ」
「……あ」
「あ、じゃないよ……」

 呆れたように蓮が溜め息をついた。
 とりあえず、私達を拉致した張本人に聞いてみることにする。

「で、名前聞いてなかったんだけどさ。私達のデュエルディスク、当然用意してあるのよね?」
「え、は、はい!」

 そう言って、少女は首に掛けていた3つのペンダントを取りだした。赤、黄、青。透き通った宝石のペンダント。
 蓮には赤、ゆみなには青、そして私には黄色のペンダントが手渡された。

「……(ディスク)?」
万能型虹式展装(マテリアル・トランサー)。簡単にいえば、所有者のイメージした物を具現化する装置です。ほとんどのご都合主義はその中に入ってると考えていいですよ」

 え、何それ怖い。

「…沙耶姉」

 その御都合主義物体が3人に行き渡ったとき、弟が私の前に出て言った。

「何?」
「このデュエル、俺にやらせて。どうしてかわからないけど、こいつは……!」

 ……本当が私がやりたかったんだけど。まあ、仕方ない。特別にここは弟に譲ってあげますか。

「いいわよ。ただし、条件が二つあるわ。一つ、次のデュエルは私がやる」
「了解。ありがと、沙耶姉」
「そして、もう一つ……」


 ―――絶対に、勝ちなさいよ。
 ―――絶対に、負けないから。


 ― ― ― ― ― ― ― ―


 異世界の女の子から赤色に光るペンダントを受け取り、目の前の敵と対峙する。

「先に聞いておく。お前等、"望月(もちづき) 黒乃(くろの)"の関係者だな?」
「ごめん、知らない」

 即答。しかし、彼は納得いかないのか問い詰めにきた。

「お前が今さっき庇っていた奴のことだ! 唐突に出てきては奴を逃げさせる……関係者でなかったら何だ!」
「知らない。今さっき偶然ここに召喚されたんだから」

 これは事実だ。正直言って、こんな修羅場の中心に落とされるなんて思ってなかったし。

「それと、勘……かな。君達がやろうとしてることは大体把握したよ」
「……何だと?」
「そうでしょう、"悪の手先御一行様"?」
「……成る程な。裏の裏は表……悪の貴様から見れば俺達は悪者になるわけだ」

 うん、やっぱりそう返してきたか。

「違うよ、俺達の視点から見て君達が悪者だったからそう言っただけ。()()()の視点から見て、君達は完全に悪だよ」
「……お前は何を言っているんだ?」
「自分の意思で人を殺しておいて"俺は悪くねえ"? それっておかしいよね」
「お前は死体の首を切り落としたら殺人だと言うのか?」
「うん、息をしてる人の首をはねたら殺人だよね」
「……おい」
「ん?」
「デュエルしろよ」

 そう言って、敵の男はデュエルディスクらしき物を構える。……と同時に、左手に妙な重みを感じた。見ると、左腕に黒い鎖が繋がれている。

「ああ! それって闇のデュエル?」
「……はっ」

 あ、鼻で笑われた。……これ以上語る気はなし、か。
 右手に握った宝石から、淡い光が溢れ出す。頭の中に、言葉が浮かんでくる。思うがままに、俺は言葉を紡ぎ出した。


決闘展装(Duel-Transer)起動(Action)!」


 それは、硝子が砕けるかのように。
 それは、殻が破れるかのように。
 それは、結び目をほどくかのように。
 それは、宝箱が開くかのように。

 幻想的な光を放ちながら、緋色の珠が展開されていく。
 やがて、光は形を成す。俺の周りに浮かぶ、水晶の板がそこにあった。
 使い方が頭の中に流れ込んでくる。俺の正面に展開される大きな水晶板。その右手前に40枚(メインデッキ)を、反対側にに15枚(エクストラデッキ)を。置き終わると同時、俺の右側に大きな水晶盤が生成された。


―――― Turn.0 Are you ready? ――――

1st/Toya Mizusaki
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0


 なるほど、このでっかい水晶(スクリーン)が色々と示してくれるってわけか。

「さあ、満足させてもらおうかな」
「満足? 貴様が?」
「……うん。何か問題でも」
「転生者にそんな権利があるとでも、本気で思っているのか?」

 ……いや、俺達まだ死んでないんだけど。そう言い返そうと……

「……あんた、それ本気で言ってるの?」

 ……しかし、彼の言葉に俺よりも先に沙耶姉が怒った。

「生きて何が悪いのよ!」
「全てだ。"転生者"がこの世界にいること自体が間違ってんだよ」
「ふざけんな! "転生者"ってのは、不幸にも死んじゃった人たちが、ちゃんとまともな人生を送りたいからなるんじゃない! それのどこが間違ってるのよ!」
「その前提自体が間違ってんだよ! 不幸にも死んだ? それは俺も同じだ!」
「だったら―――」
「だからこそだ! 俺は、自分の死を認めない奴らが許せねえ!!」
「許さない!? それが何よ!!そんな自分勝手な理由で、あんたは何人も殺してきたの!?」
「消えろ、"転生者"! 最高神ゼウスの名のもとに、お前達を殺す!」

 ……ああ、確かに。彼女の言っていた通り、これは酷い。

「蓮、やっぱこいつ私に()らせて!」
「沙耶姉、落ち着いて!」

水晶板を見る。俺は後攻。そして、相手の名は……。

「さようなら、水咲(みずさき)凍夜(とうや)。あの世でみんなに謝り続けろ―――!」


「「デュエル!!」」


Turn.1 Player/Toya Mizusaki
 1st/Toya Mizusaki
  LP/4000 HAND/5→6
 2nd/Ren Kazami
  LP/4000 HAND/5


「俺の先攻、ドロー!」

 目の前の敵がカードをドローする。そのカードを確認するや、すぐにデュエルディスクに読み込ませた。

「俺は《ジェネクス・ウンディーネ》を召喚!」

 奴の場の先陣を切ったのは、ガラス瓶を繋ぎ合わせたような人形。腕の辺りからは、何本もチューブが露出している。

 ジェネクス・ウンディーネ
 ☆3 ATK/1200

 ……ああ、【ジェネクスガエル帝】か。面倒な相手だな……。

「《ジェネクス・ウンディーネ》が召喚に成功したとき、デッキから水属性モンスターを墓地へ送り効果発動! デッキから《ジェネクス・コントローラー》を手札に加える!」

 効果はおまけ。コストに水属性専用《おろかな埋葬》を内蔵するモンスターだ。

「さらに、《ジェネクス・ウンディーネ》のコストで墓地に送られた《海皇の竜騎隊》の効果発動!」

 ……は?

「こいつが水属性モンスターの効果コストにより墓地に送られたとき、デッキから同名カード以外の海竜族モンスターをデッキから手札に加える!」

 コストで発動!? そんなカード、聞いたことないよ!?

「俺は《水精鱗(マーメイル)-メガロアビス》を手札に加える。リバースカードを2枚セットしターンエンド!」

 マーメイル? メガロアビス?
 やばい、聞いたことないカードだ。……と思った矢先、水晶板に一枚のカードが映された。

「(すいせいりん、めがろあびす……これか!)」

 スクリーンに映し出されていたのは、胴体だけ人間という奇妙な赤い鮫だった。うわ、面倒な効果を……あれ、さっきの猟奇なんとかと組み合わせたら大変なことになる?

 やばい。これ、もしかしたら結構苦戦するかも……!


―――― Turn.1 End Phase ――――

1st/Toya Mizusaki
◇LP/4000 HAND/5
◇《ジェネクス・ウンディーネ》ATK/1200
◇set card/mo-0,ma-2

2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0


 ……うん、まずは落ち着こう。冷静にならないと、勝てる勝負も負けてしまうから。

「俺のターンだね、ドロー」


Turn.2 Player/Ren Kazami
 1st/Toya Mizusaki
  LP/4000 HAND/5
 2nd/Ren Kazami
  LP/4000 HAND/5→6


 引いたカードは……おお、いい引きだ。

「《調和の宝札》発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー《ドラグニティ-ファランクス》をコストに、デッキからカードを2枚ドローする」

 そして、ドローしたカードを確認した……が、何ということでしょう。

「《大嵐》、発動!」
「な―――!?」

 俺を中心に、未曾有の突風が吹き荒れる。それは、全てを薙ぎ払う破滅の風。
 全てを巻き込み、やがて嵐は去った。しかし、先程まで存在していなかったはずの物が、そこにはあった。


 水精鱗-アビスパイク
 ☆4 DEF/800


 慌ててスクリーンに目を通し、相手の手札を確認する。しかし、枚数は減ってない。デッキから出てきたのか?

「お前の《大嵐》にチェーンし、永続(トラップ)《アビスフィアー》を発動した。この効果でデッキから《水精鱗-アビスリンデ》を特殊召喚した」

 "アビス"。さっきの赤いサメにもついていたけど……。

「《大嵐》の効果で《アビスフィアー》は破壊され、"フィアー"の効果で"アビスリンデ"も破壊。このタイミングで《水精鱗-アビスリンデ》の効果が発動。デッキから《水精鱗-アビスパイク》を特殊召喚した」

 リクルーターか。しかも、効果破壊に対応してるし……。

「そして《水精鱗-アビスパイク》の効果を発動! このモンスターが場に出た時、手札の水属性モンスターを捨てることで、デッキからレベル3の水属性モンスターを手札に加える!」

 今度はサーチ。すごいだろ? これ、俺のターンなんだぜ……。

「《海皇の竜騎隊》を墓地へ送り、デッキから《海皇の狙撃兵》を手札に加える」

 うん、さっきも猟奇なんとかって聞いたんだけど。

「そして墓地に送られた《海皇の竜騎隊》の効果、俺は《海皇の重装兵》を手札に加える!」

 ……うわ、結局手札増えてるよ。
 相手の手札は6枚。そのうち、判明しているのは《ジェネクス・コントローラー》《水精鱗-メガロアビス》《海皇の狙撃兵》《海皇の重装兵》の4枚。
 とりあえず、"狙撃兵"と"重装兵"のテキストをスクリーンで確認する。


海皇(かいおう)狙撃兵(そげきへい)
効果モンスター
星3/水属性/海竜族/攻1400/守 0
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、デッキから「海皇の狙撃兵」以外のレベル4以下の「海皇」と名のついた海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。
また、このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた時、相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して破壊する。

海皇(かいおう)重装兵(じゅうそうへい)
効果モンスター
星2/水属性/海竜族/攻 0/守1600
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分のメインフェイズ時に1度だけ、自分は通常召喚に加えてレベル4以下の海竜族モンスター1体を召喚できる。
また、このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた時、相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。


 ……ああ、こいつらだったのか。
 ストラクチャーデッキ【海皇の咆哮】に収録された比較的新しいカードだ。再録枠は全部持ってたからこれは完全にスルーしてたけど、まさかこんな効果だったとは。
 そして、さっき確認した《水精鱗-メガロアビス》のテキストをもう一度スクリーンに表示させた。


水精鱗(マーメイル)-メガロアビス》
効果モンスター
星7/水属性/海竜族/攻2400/守1900
自分のメインフェイズ時、手札からこのカード以外の水属性モンスター2体を墓地へ捨てて発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、デッキから「アビス」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。
また、このカード以外の自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する水属性モンスター1体をリリースする事で、このターンこのカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


 あ、これ次のターンに死んだね……なんて心にもないことを考えながら、改めて自分の手札を確認する。

「……フィールド魔法《竜の渓谷》を発動」

 風景が、俺を中心に切り替わっていく。日の昇り始めていた空は夕焼けに、揺れる草原は荒れた大地に。
 ……前言撤回だ。

「このターンで、終わらせる!」

「…… は?」
「《竜の渓谷》の効果発動! 手札1枚をコストに、2つの効果から1つを選択して発動する! 俺は1つ目の効果を選択し、デッキから《ドラグニティ-アキュリス》を手札に!」

 デッキから、赤い鎧を装着した小さな竜の描かれたカードを手札に加える。1枚の黒い羽根が風に揺られ、何もない荒野を舞い上がった。

「そして、たった今墓地へ送った《BF-精鋭のゼピュロス》の効果を発動! 俺のフィールド上に表側表示で存在する《竜の渓谷》を手札に戻し、"ゼピュロス"を特殊召喚!」

 1枚の羽を中心に、再び風が吹き荒れる。漆黒の竜巻が全てを巻き上げ、視界を奪う。
 視界が晴れたとき、荒野は既に面影もなく消えていた。

 BF-精鋭のゼピュロス
 ☆4 ATK/1600

 そこには、黒き翼をもった翼人の姿があった。"精鋭"の二つ名を持つ黒翼の戦士、ゼピュロス。

 Ren LP/4000- 400=3600

「この効果の発動後、俺は400のダメージを受ける。だけど、このターンで終わるから関係ないよね。もう一度《竜の渓谷》を発動」

 世界が、三度切り替わる。夕焼けの射す荒野、足の無い水生生物には酷だろう。

「"渓谷"の効果発動。さっき手札に加えた《ドラグニティ-アキュリス》を墓地に送り、今度は《ドラグニティ-ドゥクス》を手札に加えるよ」

 手筈は整った。ここから先、ずっと俺のターン(ワンサイド・ゲーム)だ―――!





 ……って、思ってたんだけど。

「あのさあ、どうして何も言わずに《増殖するG》発動してんの!?」

 俺の足元に黒い何かがあーもう、気持ち悪い!

「お前が「わかってるよ!どうせ"ゼピュロス"効果にチェーンしてあーもう気持ち悪いっ!!」……お前が特殊召喚するたびに俺は1枚ドローする。お前の【ドラグニティ】はこのターンで俺に何枚ドローさせてくれるんだ?」
「連続ドロー? 知ったことか! 手札に加えた《ドラグニティ-ドゥクス》を召喚!」

 ドラグニティ-ドゥクス
 ☆4 ATK/1500→1700

「《ドラグニティ-ドゥクス》の効果発動。このモンスターの召喚時、墓地のレベル3以下のドラゴン族"ドラグニティ"を自身に装備する!」

 俺の場に降り立った翼人が、天から落ちてきた金色の槍を掴む。

 ドラグニティ-ドゥクス
 ☆4 ATK/1700→1900

「そして、装備カードとなった《ドラグニティ-ファランクス》は自身の効果で特殊召喚することができる! 《ドラグニティ-ファランクス》を()()()()!」

 天へと放りあげられた金色の槍。放物線を描き、黄金の光は小さな竜となって俺の場に帰還した。

 ドラグニティ-ファランクス
 ☆2T DEF/1100

「レベル4《BF-精鋭のゼピュロス》にレベル2《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」


 (われ)(つむ)ぎしは地天(ちてん)(きずな)(すべ)てを(つらぬ)真竜(しんりゅう)(やり)

 刹那(せつな)(ひび)黄金(おうごん)よ、()()れる疾風(かぜ)(とも)()れ!

    ☆4+☆2=☆6

 シンクロ召喚(しょうかん)天地(てんち)(つな)げ、雷撃(らいげき)よ!


「《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》、降臨!」


 俺の場に舞い降りる、雷を纏った金色の竜。神穿つ雷の牙(ヴァジュランダ)の名を冠する【ドラグニティ】の中核を担うシンクロモンスター。

 ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
 ☆6 ATK/1900

 一度深呼吸し、心を落ち着かせる。
 ……そうだ。なにも、いつもみたいに()()()()()展開する必要はないんだったね。

「……さて、ここまで特殊召喚は3回。その3枚、君の望むカードはあった?」
「さあ、どうだろうな?」
「そう、来なかったんなら終わりだね。《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》がシンクロ召喚に成功したとき効果発動。内容はドゥクスと同じだから以下略」

 天から飛来する真紅の槍。金色の竜に乗る騎士が、それを掴み取った。

「……あれ、無効にしないの?」
「わかんねえのか? まだ発動するタイミングじゃないだろ。《聖刻龍王-アトゥムス》を無効にするだけだ」

 ……あれ、本当に引いてない?
 相手の手札は8枚、内容が把握できているのは4枚のみ。正体不明の残り4枚は、何を握っているのか全く分からない。

 だけど、その中に"手札から効果を発動するモンスター"がいないのなら。

「続けるよ。ヴァジュランダの()()()()()効果を発動!」


 ……彼に希望はもう残されていない。


「なん……だと………!?」


 俺はもう、特殊召喚しないのだから。彼はもう、ドローできないのだから―――!


「このカードに装備されたカードを墓地へ送り、このカードの攻撃力を倍にする。竜槍雷閃の構え(インサイド・スパーク)!」

 竜騎士の持つ朱槍が、真紅の輝きを帯びて天に放たれる。同時に荒野が雨雲に覆われ、大空は嵐を以って竜騎士に応えた。


 ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
 ☆6 ATK/1900→3800


 ……そして。

「《水精鱗-アビスパイク》、破壊」

 天空からの紅き一閃が、魚人の肉体を貫いた。

「てめえ……!」
「言わなくてもわかるよね? 装備されている《ドラグニティ-アキュリス》が墓地に送られたとき、フィールド上のカードを1枚破壊する。強制効果だからタイミングは逃さない」

 自分の場には1900と3800の2体、対し敵の場には1200が1体だけ。
 合計ダメージ、4500。通れば俺の勝ち。もし通らなくても……いや、通るか。何故かはわからないけど、俺にはそんな確信があった。

「バトルフェイズだ。《ドラグニティ-ドゥクス》で《ジェネクス・ウンディーネ》を攻撃!」

 翼人が手に持つ指揮棒を横に構えると、彼の周囲が風に包まれた。

疾風旋弾(スパイラル・ブロウ)!」

 放たれる、風の弾丸。疾風は斬撃を纏いながら敵に直撃し、水入りのガラス瓶を粉々に切り刻んだ。

「ぐっ……!」


 Toya LP/4000- 700=3300


「ねえ、《トラゴエディア》は出ないの?」
「―――っ!」
「……そう。じゃあ、さようなら。《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》でダイレクトアタック」

 竜の咆哮が、辺り全域に響き渡る。金色に煌めく竜と、その主たる騎士。その絆は、雷嵐となって具現化する。

「……ふざけんな! なんで"ヴェーラー"も"かかし"も引かねえんだ―――」
滅神-竜槍雷閃(ログナスヴェルク-ティルフィング-)!!」

 闇に染まった天空から、無数の光が降り注いだ。
 その熱と轟音を以って、天雷は全てを殲滅する。それは、彼が上げたであろう断末魔でさえも。

 遺されたのは、未知のカードがセットされたデュエルディスク。そして……


 Toya LP/3300-3800= 0


 ……そして、かつて人であった有機物の塊だけであった。



―――― Turn.2 Battle Phase ――――

1st/Toya Mizusaki
◇LP/ 0 HAND/8
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/3
◇《ドラグニティ-ドゥクス》ATK/1900
◇《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》ATK/3800
◇《竜の渓谷》FIELD
◇set card/mo-0,ma-0

 Ren WIN


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「……よし、終わった」

 黒焦げになった少年の体は、闇が飲み込もうとする気配がない。
多分、今ので即死だったんだろう。闇に落とされるよりは、もしかしたらこれで良かったのかもしれない。
 機能を停止したデュエルディスクから、彼の使っていたデッキが排出された。

「……うわ。あの電撃で焦げ跡の一つも無しか……」

 驚いた。
 俺のいた世界……否、どこの世界であっても木でできた紙は少量の電気だけで無残な姿になるだろう。
 やっぱり、ここは異世界なんだ。そう、思わされた。
 好奇心に駆られ、彼のデッキの上から1枚をめくる。


「―――っ!?」


 表になったカードは、《エフェクト・ヴェーラー》。相手のメインフェイズにのみという制約こそある物の、手札から相手フィールドに存在するモンスターの効果を無力化する効果モンスター。

 恐らくは、水咲凍夜が最も望んでいたカード。
 そして、俺が最も恐れていたカード。

  ……終わっていた。

 もし、この世界でのルール"初期ライフポイント4000"を失念していたら?
 もし、慢心に溺れて展開を続けていたら?

  俺は、負けていたんだ。

「―――っ!」

 急に頭痛を感じ、膝をついてしまう。
 人を、殺してしまった。その事実に、心が痛む。殺さなければいけない奴だった。それなのに。

 ―――ああ、そうか。人を殺すって、こんなにも苦しいことだったんだ。

 人を殺そうという時、それ相応の覚悟を……俺は果たして持っていたのか? 逆に、返り討ちになって殺されるかもしれないという覚悟が、彼には果たして出来ていたのか?


「風見様!」


 俺達に助けを求めてた少女の声が微かに聞こえた。

 ……意識が、暗く、深く、霞んでいく。
 次に目を覚ましたとき、きっと視界の先には部室の天井がある。そうであってほしかった。

 この世界が、どうか悪夢(げんそう)のままで終わってほしい……そう祈っている、自分がいた。


    to be continued... 
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