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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第31話 Past Memory 4

俺はどうしてこんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう




ただ純粋に勉学に励み、友達と青春を謳歌したい




一緒にお気に入りのアーティストのライブに行ったり




ゲーセンに屯して




腹が減ったからおすすめのラーメン食って




カラオケ行って




あ、そうだな....できれば彼女とかいたらとか、そんなごく普通の学生生活が送りたかっただけなんだ




夏は海に行きたいな

サーフィンとか経験できたらいいな....

で、水着の女の子眺めて「いいな〜」と思ったり




夏祭りに花火行って「また来年も来ようぜ?」とか




秋はやっぱり紅葉見ながら温泉だよな




きっと絶景な景色なんだろうな......

温泉からあがったら牛乳飲んで、温泉卓球して......




冬はもちろん山でスキーだ

スノボーも捨てがたいけど、俺は俄然スキー派




スピード出して山を下る時のあの感覚は最高だ










.......それだけど....たったそれだけの夢すら叶えられないなんてな....




俺が何をしたってんだよ




誰か教えてくれよ.....




なぁ.......




..........どうしてみんなそんな事言うんだ?




え?昔何をしたのかって?




悪いな.....俺、小学4年までの記憶が一切無いんだ




俺にもよくわからない。母さんにもはぐらかされてばっかりでさ




........は?




......俺が......なんだって?




.........はは、冗談はよせ




そんなこと、俺がするわけないだろ、いくらなんでも




........




..........わからない....わからない......わからない
















俺は------なんてしてない!!!!




ひ、人違いだろそれは



やめろ.......お願いだ......これ以上俺を苦しめないでくれよ......
















お願いだ.........お願いだ






















----------------------------



















アイツらと初めて出会ったのは入学して1週間程たった昼休み




今日たまたま母さんの作った弁当を家に忘れてきてしまい、初めて食堂に向かったのが不運だった




ここの高校の食堂は全てのメニューがワンコイン以内で食べられるという驚きの安さ、さらにはサイズを変えてもワンコイン以内




学生にとっては美味しい話




さらにはメニューも豊富で和、洋、中と選り取りみどり




ここまでは結構ありきたりな食堂だ




だがウチの高校の食堂にはもう一つ面白い工夫があって.....










定期考査学年10位以内に入った生徒は次の定期考査まで無料という権限がある

その証拠として10位以内の生徒には缶バッチが与えられる




無料.....誰しもが欲するので定期考査はガチで狙う人が多いらしい




ただ、1年生の最初の定期考査が行われるまでは高校入試の結果を扱う

俺は計200人の中の5位という結構いい順位にいたので試しに缶バッチを見せて無料で食おうと考えていた













そして.....食堂のおばちゃんの元へ向かおうとした時に《アイツら》はいた




「なぁばあちゃんよ〜俺らも無料でいいじゃんか」




「ダーメ!これはここの決まりなの!無料で食べたかったら定期考査頑張りな!」




「んなことわかってるからさ〜。ほら、前借りということで」




「ダメダメ!ほら!後ろが突っかえてるから早くメニュー選んで!」




黒髪のオールバックヘア、右目の下のホクロが特徴な男子生徒と




茶髪の肩までかかるロングヘア、右耳たぶにピアスかなんかの痕跡がくっきりと残っている男子生徒




一目見て《近寄るべからず》と警鐘していた




というか、知ってる

この学校で珍しくも不良2人が入ったと俺のクラスで有名な話題となっている




それがアイツらだ.....名前は忘れたけど




「おばちゃん頼むってんだろ....カツカレー大盛り頼むって!」




「はいどいたどいた!あ、そこの兄ちゃん!ご注文いいよ!」




食堂のおばちゃんが指さした相手は俺




へ?俺?




周りを見渡したところでそれらしき人がいない




「あ、はい.....」




おずおずと前に進むと予想通り2人にギョロリと睨みつけられる




ホクロの奴の目つき....どこかで見たような気がする

......?

初対面だし、気のせいか




「あ?なんだてめぇ......今俺が並んでんだろ〜がよ」




お約束というか.....ホクロの奴は俺の前に立ちはだかる




「陰キャみたいなお前は後からだよボケ!」




「いった!なにすんだよ!」




ピアス痕跡の奴に押され、2,3歩後ろに下がる




「うっせんだよ!てめぇは後からだ!」




厄介な奴らに絡まれたなと心の中で溜息をつく、かと言って他に打開する方法もない




「お前らが金を払えばすぐ済む事だろ?」




「あぁ?ンだとコラ.....」




正論を言ったつもりがどうやら、火に油を注いでしまったらしい

眉間にしわを寄せてホクロ野郎が近づく




「なんだよ.....ほら、俺の後ろにも他に学生いるんだ。いい加減にしろ」




「ちっ....」


































「え?」










気がつけば俺の視界の先は天井だった

そして、俺は何故か床に這いつくばっているようだ




あれ?俺さっきまで立ってて、アイツらと口論なってたよな?

どうして床に寝てんだ?




俺はこの時は初めて殴られていたことに気づいた




右頬と脇腹に激痛が走る




「ってぇ.......」




「てめぇ生意気なんだよ.....ゴミの分際で」




ゴスッ







「ぐうっ!」




腹を圧迫され、胃液が逆流しそうになるもなんとか堪らえる




息苦しかった













周りの生徒達が悲鳴を上げたり、「先生呼んで来い!」と、指示する声も聞こえる







「お前......俺に向かってなんだよその態度は....あぁ?」




襟元を掴んで無理矢理上半身を起こされる




「......」




「シカトしてんじゃねぇよ.....なぁおい!!」




ガンッ!




「.......く、くそ......」




正直展開が急過ぎて思考と身体が追いついていない

だから、彼の返答に答えようにも答えられない




しかも、殴られるなんて経験したのは初めてだ




耐久の無い俺にとってすでにノックアウト寸前だった




足が.....床についていない恐怖




いつ殴られるかわからない恐怖




見世物になってるこの状況




見てるだけの生徒達は助けようともしない

ただ俺らを見て「あれヤバクね?」とか「怖いよ」などと喚いているだけ




先生を呼んだであろう学生も呑気にスマホで写真なんか撮ってる




先生いつになったら来るんだろうな.....




食堂のおばちゃんはもう一人のピアス痕跡野郎の相手に手を焼いている




はぁ.....早く終わんねぇかな....




恐怖にビビったのか、それともこの状況に呆れたのか




よくわからないけど今の俺は至って冷静




冷静過ぎた













「な.....ぁ、早く.....降ろしてくんね?」







「はぁ?おめぇ何言ってんだ?そんなお願い聞き入れるわけねぇだろ!」







頭上に振り上げた拳は俺の鼻先に直撃する




「..........痛い....な」




どうしてだろう......怒りは湧いてこない

湧いてこないんだけど......殴り返したくなってきた







「お前の面、気に入らねぇな.....なに薄ら笑いしんだよ!」




「....お..れ、笑ってる...か?」




「舐めてんじゃねぇぞ三下ァ!」




自分でも理解出来ない

こうして平然と笑ってる自分が何よりも怖いと思った










2度目の拳が振り降ろさせる直後、













「そこの君!いい加減にしなさい!!!」



















ホクロ野郎に注意したその女子生徒は足をガクガク震わせながら睨みつける。女子生徒の後ろには.....確か生徒課の時村先生か?




「ちっ!コイツを相手にしてたせいで時村来ちまった!照澤!ババァナンパしてないでとっととこっから離れるぞ!!」




「えぇっ!?ナンパしてねぇっつうの!」




ホクロ野郎は俺をそのまま突き飛ばし、その場から逃げ去る




「あ!こら!お前たち待ちなさい!」




時村先生はそのまま2人を追いかける

2人と先生が見えなくなってから、生徒達は無関心かのように自分達の食事や会話に戻る




心配して欲しいわけじゃないけど、あまりにも冷徹なその態度に悪寒がした




「笹倉くん大丈夫?」




「え?あ、あぁ.....ごめん、ありがとう」




アイツの前に勇気を持って立ちはだかった女子生徒は俺に手を差し伸べ、それを俺は躊躇いながらもしっかり受け取る




柔らかく、暖かい手だった




「よいしょっと......さっきはありがとな。ええと.....」




「私?私は大槻未遥(おおつき みはる)っていうの。未来は遥か彼方と書いて未遥。よろしくね?笹倉大地くん♪」































.....確かクラスメートの子で、男女両方から好かれている彼女は

何故俺に話しかけてきたのだろうか.....

今まで関わってこなかった彼女が向けるその微笑みは果たして......






















「あ、あぁ....よろしく。笹倉...大地だ」




でも俺を助けてくれたこの子とは仲良くできそうな気がする

























----------------------------










彼女....大槻さんはとても人当たりの良い女の子だ

クラスメートの子が勉強をよく大槻さんに教わっている姿を目撃しているし、結構頼られているみたいだ




俺自身、何度か勉強を教えてもらったこともある




「笹倉くん、本気出せばこの学校のトップ狙える実力持ってるのに勿体ないな〜」




と、笑われた事もあった




洞察力というか.....相手をよく見る人なんだなと実感した




おまけに容姿も悪くない




肩にかかるかかからないかギリギリの髪の長さに二重のパッチリした目、胸はそこまで強調されるような大きさではないがほっそりとした体型は彼女の運動神経の良さを表しているかのようだった




彼女はクラスだけでなく、部活、学校全体で有名になる理由もわかる気がする




そんな彼女はどうしてか男と付き合わないみたいだ

確かに男子といる姿をあまり見かけない




決まって仲の良いクラスの女子、陸上部の仲間といることが多い




何故男子を避けるのか知らないし、知ったところで何かできるわけでもない




だからこそ不思議なのだ







「なぁ大槻さん」




「ん?」




「君はどうして俺に構うの?」




「ん〜....どうしてかな、あはは」




授業と授業の休憩時間、よく俺の席までやってきて話しかけてくるようになった




「君、男苦手なんじゃないの?」




「私がいつ男が苦手って言ったの?」







そりゃそうだ、あくまで男嫌いってのは噂だ




「あんまり男子といる姿を見たことないからな」




「えへへ.....そうだね....言われた通り男子は苦手だよ?」




「理由を聞いてもいいか?」




大槻さんは俺のシャーペンを使って、机に落書きしながら語り出す










「そうだね〜.....じゃあ条件があるの」




「条件?できる範囲でなら」




「笹倉くんの秘密を教えて?」




「俺の?」

























「うん、笹倉くん何か隠し事してるよね?みんなに言えないような....何か」













大槻さんを俺の心を見透かしたような微笑みでそう告げる

彼女は一体何故そう思ったのか不思議でたまらなかった













「.....今はまだ話せない」




だからこうとしか言えなかった

自分から相手へ話したこと無い内容だから




「そう....なら私と《友達》になろうよ」




「俺が......君と?」




「うん!私ね、少し君に興味があるの。あ、決して恋愛とかそういうのじゃないから!」




俺に興味がある

考えてることはイマイチよくわからないけど俺の事を邪険にはしていないみたい




すっ、と大槻さんはシャーペンを握っていた手を出して握手を求める




「よろしく♪」




「.......あぁ、よろしくな大槻さん」




「未遥よ、下の名前で呼んで」




「え?いいのか?」




「うん!私はその方が親しみがあって嬉しい」




「わかった、《未遥》」




「えへへ.....《大地くん》♪」













とってもとっても不思議な彼女は心底嬉しそうににこにこと微笑んでいた

その笑顔を見てると俺も自然と笑顔になってしまった
















彼女とはこうしてめぐり逢い、友達以上恋人未満の関係が続くことになった




























----------------------------







俺と大槻....いや、未遥が友達以上恋人未満の関係が始まってから数ヶ月




1つの噂が広まっていた










『なぁ....3組の大槻と笹倉ってのが付き合ってるらしいぞ』




『なっ!マジかよそれ....噂だと大槻って男嫌いなんじゃないのか?』




『それがどうも違うみたいでさ、大槻の方から笹倉ってのにアプローチかけて付き合い始めたらしい』




『へぇ〜....つか、笹倉って誰?』




『お前知らねぇの?先日の中間考査で3位の奴だよ。ほら、神奈川の横浜東陵中学の』




『あ〜聞いたことあるなそれ、あの中学元々頭いい中学じゃないって聞いてるからここに入学した奴がいるって知った時びっくりした』













俺と未遥が廊下を歩いてる時でもわかりやすくボソボソと噂話をしている

それ、注意して欲しいのか?

「やめろ」とか言われたいのか?




「ねぇ大地くん」




「ん?なんだ?」




「あの噂.....嫌?」




上目遣いでそんなん言われたら『嫌』なんて答えられるわけないだろ

元々そう答える気なんてないけどさ




「全然、そんな噂くらいなるなんて予想ぐらいできてた。それを覚悟でこうして未遥と仲良くしてんだ.....気にすることはないさ」




「えへへ.....さすが大地くん。わかってらっしゃいますね〜」




未遥が俺の脇をガシガシ啄くのでお返しとばかりに

そのサラサラな髪を思いっきり撫でる




「きゃっ!ちょっとやめてよ大地くん!髪が乱れちゃうじゃないの!」




「嫌がる割には楽しそうだな〜」




傍から見るとバカップルのような会話だが

俺としてはすごく心地の良い関係だった




未遥にとって俺はどんな風に見えてるかわからないけど、きっといい風に見えてるんじゃないかな?




さすがに自惚れすぎか.....













「そうだ!これからすぐそこの商店街のゲーセン行こうよ!この前友達と行ったんだけどあそこのマルオカートすごく面白かったんだよ!」




「俺は構わないけど、部活は?」




「大丈夫!今日は久々のオフだから!」




Woo Uでしかやったこと無いからどんなもんなんだろうな....ゲーセンのマルオカートって










「さ!行こう!」




「え?ちょっと待て引っ張るな〜!!!」




思い立ったが吉日

未遥はスクールバッグを片手に空いてる左手で俺の手を握って走り出す




その走る時の後ろ姿はとても魅力的で、綺麗だった










すぐ行動にする未遥は俺に無い《何か》を埋めてくれるような気がして




そのままされるがままに昇降口まで突っ走る
















その時、俺の目には確かに映った













小学5年生前後の女の子

頭の右側に黄色のシュシュで結び上げ、それをぴょんぴょん揺らしながら俺の手を引っ張る女の子が




何が楽しいのだろうか....俺を見る彼女の顔が太陽のように眩しくて

俺を包み込んでくれるような柔らかな匂いが
















とても懐かしく思えて






















その女の子と.....どこかで会った事のあるような気がして......


































----------------------------










夏休みは終わりに差し掛かる




俺は未遥が部活が終わるのを見計らって家を出、丁度学校から出てきたところに遭遇した




「あれ?大地くんどうしたの?私に会いたくなったの?」




「まぁ......そんなところかな」




「ははっ、冗談よ冗談。真面目に答えなくていいわよ」




「わかってるって。少し、話がしたかっただけなんだ」




「ならここだと人目に付くから帰りながら聞かせてよ」




俺は手ぶらだったので、未遥から部活の道具などを入れているであろう手提げ袋を受け取り、ゆっくり歩き出す




「それで、どうしたの急に」




「あの時の話....そろそろ聞かせて欲しいな」




あの時....俺と未遥が出会って間もない時に俺が尋ねた質問の事




「どうして.....男を避けてたんだ?」




「........」




暫し、無言が続く

それはたった1分程度の時間しか経っていない筈なのに

10分のようにも、20分のようにも思えた




「昔ね.....付き合ってた人がいたの」




「付き合ってた.....過去形か」




「うん、付き合い始めた頃は心配性でいつも私のことを気にかけてくれてたの。『具合悪くないか?』とか『無理するなよ』とか。私自身少し我慢して溜め込む性格だからその人のおかげで溜め込む事なく外に分散してスッキリしたりできたの」




「なら、よかったじゃないか.....」




「でもね、ある日突然態度が変わったの」




未遥の表情は前髪で顔が隠れてしまいよくわからない

だけど、肩が僅かながら震えている




「なんていうのかな.....私に関心が無くなった、そんな感じだったの。何があったのか聞こうとしても『お前には関係ない』ってばかり言って。そしてわかったの」




「な、何が?」




「........他の女と付き合ってたって事を」




「......」




「もちろんその事を聞いてみたよ。説明してって頼んだら、『お前、すごく重たいんだよ!』って言われちゃった....てへへ〜」




お茶目っぽく笑っているが目だけは悲しそうな....悲愴に溢れた目をしていて、俺自身なんて声をかけていいのかわからなかった




「私はただ大切にしていたかっただけなの。大好きなその人の傍にいたい、励ましてくれる、心配してくれる彼を.......」




話の続きは涙へと変わり、先を聞くことは無かった




ただ無言で頭をゆっくり撫で、泣き止むのを待っていた

俺はソイツのことを知らない




だからなんて声をかけてやればいいのかなんてわからない




今俺が出来ることは彼女の泣いている姿をただ黙って撫でてあげることだけだった



















「ぐすっ....えへへ、ごめんね?泣き顔見せちゃって」




暫くしていつもの未遥に戻り、近場の公園のベンチに座らせる




「いや、未遥の泣き顔可愛かったから問題ない。むしろもっと泣いていいんだよ?」




「まったく....変なこと言わないでよね」




未遥は少しばかり頬を染めて呟く




「ほれ、飲み物だ」




俺は自販機で買った缶ジュースを未遥に投げる

それを上手くキャッチした




「あ、私の大好きなぶどうジュース!なんでわかったの?」




「お前、いつも飲んでる飲み物がぶどう系だったから」




「そ、そう.....(私の事よく見てるのね...)」




「うん?......じゃあ次は俺か」




「そうだね、大地くんはどんな秘密があるのかな?」




未遥の隣にどかりと座り、買ってきた缶コーヒーを口につけて苦い液体で喉を潤す




「ふぅ.....」と息をついてから



















「俺は.......記憶を失ってるんだ」



































----------------------------










寒さが厳しくなり、昨日の夜からしんしんと降り積もる雪はとても神秘的で美しかった




今日は午前中は降る確率は低いらしいが、午後から降るらしい

と言っても大雪にはならないから天候としては絶好だ




「よし、んじゃあ行きますかな」










いつもより服装に気を使い、整髪剤で髪を整え、靴も外出用のスニーカーを履いて家から飛び出す













珍しく胸がウキウキとしていた













「おはよう大地くん♪」




「おはよう未遥」







今日はクリスマスイブ










数週間前に未遥から誘われ、一緒に遊ぼうと言われた




俺と未遥は恋人同士ではない

だけど、俺にとって彼女の存在は大きなものであり

また未遥にとって俺の存在は無くてはならないものとなっていた




表面的なものは理解出来ていても俺は彼女の内面的なものは全て理解できたとは思っていない




でも、笑って、泣いて、時には喧嘩して、助け合い、励まし合い

そうやって信頼を築き上げてきた




同じ時間、同じ場所で過ごしてきた俺と未遥に《嘘》というものはない




きっとそれが《恋》なんだと未遥は気がついていた




前の彼氏がどうこうじゃなく

今、彼女の目の前で一緒に笑い合う大地こそ、今の彼女の原動力なのだ




だから未遥はこの大切な日を彼と過ごそうと決めたのだった






















「未遥のその服、似合ってるよ」




「うん♪ありがと。大地くんのその服、シンプルな感じだけど大地くんが着ると全然違うね!かっこいいよ」




未遥の左手は既に俺の右手と繋がっていた




胸にジンとくる暖かさはすごくこそばゆい




「で、どこ行くつもりだ?」




「えっとね....まずはあそこの店!」













2人にとってこの時間は至福の時だった

誰にも邪魔されず、またちらりちらりと降ってくる雪は大地と未遥の世界を創り出す




























「.....なぁおい、あれ.....」




「っ!?あのクソ野郎.....」







2つの黒い影はその様子を見ていた






























----------------------------
















「お〜すっ」




「おはよ〜」







「...............」







年が明け、学校登校初日

俺と未遥は一緒に登校する約束をしていたので、教室に入るのも一緒だ

そしていつも通り先に来てるクラスメートに挨拶する




「「.......?」」




だけど、今日は教室の雰囲気が明らかにおかしい.....




まるで、俺を....いや、俺と未遥を無視するような重たい雰囲気が充満していた

よくわからないと言った顔つきで未遥はクラスの女子に挨拶する




「おはよ!リナちゃん!」




「あ....うん、おはよ」




未遥が声を掛けた女子生徒は目を合わせず俯きで挨拶してそそくさ教室から出ていく




「おはよシオリちゃん!」




「ご、ごめん先生から職員室に呼ばれてるから!」




見え透いた嘘をついてまたしても教室から出ていく




一体どういうことだ?

未遥が挨拶する生徒はいつも未遥と仲良さそうにしてる奴ばかり

なのに妙に他人行儀な態度に未遥はさっと青ざめる




虐め......そう予想した




「なぁショウタ、これはどういうことだ?」




俺の席の右隣、ショウタに話しかける




「......すまねぇ笹倉」




ぼそっと耳元で囁き、席を立つ




.....すまねぇ?俺、何かしたか?

どうやら未遥だけじゃないらしい




「......なんなんだこれは?」




全くもって意味がわからない

俺はともかく、何故未遥までなんだ?




「どうしよう......大地くん」




「わからねぇ.....だけど、下手に行動起こさない方がいいかもな。」




「私、なにか悪いことしたかな」




不安そうに俺に寄る未遥の頭を撫でる




「お前が人に嫌がるようなことする人間じゃないってのは俺がよくわかってる。心配すんな」




「うん.....ありがと」




だからこそ、謎なんだ

未遥は女子とはもちろん仲がいい

男子とは相変わらずアレだけど、害になるようなことは一切していない

いくら苦手だからといって愚痴を零したりなんてしてないし、

俺の前でさえもそんなことは言わない










だから女子から嫌われるなんてことは勿論、男子からそう思われるなんてありえないんだ







.......と、なると......この状況を引き起こした要因の奴らがいる







「よぉお二人さん〜....相変わらずラブラブっすねぇ〜!」




この、人を見下すように気持ちの悪い喋り方をする知り合いなんざアイツしかいない




「どうだ?この状況を目の当たりにしてどんな気分だ?」




そして俺のやる事ほぼすべてを妨害してくる奴は面白い玩具を見つけたように心底楽しそうに笑みを浮かべている




「....やっぱり西井と照澤か。毎度毎度ごちゃごちゃうるせぇな」




「てめぇこそ目障りだ。どんなに俺と愁季で邪魔しても仕返し一つしてこないとか.....もうちょっと骨のある奴かと思ってたんだけどな〜」




「ねぇねぇ!この前の学祭の火事を見てどう思った?怒りを覚えた?へへっ!」




やはり10月頃にあった学祭の件もコイツらだったか




俺らのクラスは模擬店で焼きそばとお好み焼きを販売していた

その時に控え室から火が引火し、すぐ消したものの

ちょっとした騒ぎとなっていた




それだけじゃない




テストの点数もどこをどうやったのか知らないけど、細工により下がっていたり、はたまたカンニングしたと教師陣から誤解されたり




あの日.....春に食堂でひと悶着起こしたあの時から理不尽な出来事が続いていた




心の底ではまぐれだと思っていたが、次第に手口が薄くなり

誰がやっているのかも何となくであるが気づいていた




「で、今回の目的はなんだ?」




呆れてものも言えない、そのレベルに達した俺は頭を抱えつつ尋ねる



















「お前ら......クリスマスイブデートしてただろ?」







「なっ!?」「えっ!?」




ど、どうしてそんなこと知ってるんだよ!







「《どうして知ってるのか》って思ってる顔してんな.....簡単なことだ。お前らが手を繋いで歩いてるのを見かけた、それだけさ」




「付き合ってない付き合ってないとか言っておきながらなんなんですかあのザマは!?ひひっ!嘘ついて何が楽しいんですか?笹倉ぁ....」




もはや言い訳する言葉が浮かばない







「おい待て!俺は嘘なんてついてない!俺と未遥は--「おいおいそこで《友達だ》って言っちゃうのか?」




「くっ.....」




「ここまで来てそれはないだろ〜がよ.....大槻未遥、笹倉大地は《嘘つき》」







「ち、ちがう!!」




「あぁ?どこが違うんだよ!言ってみろ大槻未遥」




もはやすでに向こうのペース

このまま話すと付け込まれる.....




「やめろ未遥」




静止させようと肩をつかむも




「私と大地くんは《友達》なの!《友達》なら手を繋いだり遊びに行くなんて当たり前でしょ!」




「だがよぉ.....男と女が2人っきりで遊びに出かけてるの見せられると誰だってそう思うわけですよ...なぁ諸君?」







気が付けば俺と未遥を中心に人混みのように集まっている




「大槻さん嘘だったんだな....男嫌いってのは」




「未遥ちゃんあなた《男嫌い》って言ってたよね?嘘だったのね.....」




「嘘つき....」




「嘘つき.....」

























---嘘つき---










「やめろ....未遥を苦しめるな!」




「笹倉も結局は嘘つきなんだろ?」




「なに?」




ショウタは目を細めていつもよりトーンを低くして威圧する




「お前以外にも大槻さんと付き合いたいって思ってる男はいたんだ。だけど大槻さんが《男嫌い》って知ってたから遠慮してきた。だがお前はなんなんだ?そんな彼女と付き合ってデートしてキスしてホテル行ったんだろ?」










もうあることない事言われるも.....黙る事しかできなかった







隣で目に涙をうっすら浮かべ方を震わせる未遥




照澤と西井は「やった」とばかりに満面の笑みを浮かべている

ゲスのような笑いに怒りを覚えた




周りの連中はこぞって根掘り葉掘りブツブツ呟いている







『お前らが付き合わなければこんな事にはならなかった』




『結局は笹倉が悪い、嫌がる大槻さんを無理矢理彼女にしたんだ』







「なぁ笹倉大地」




西井の声のトーンは1オクターブ下がる

それは、話の話題を変えるような合図のように思えた




「俺が何故お前の事を邪険にするか考えたことあるか?」




「何故って....春の食堂の1件があったからだろ?」




「......」




俺が考え得る理由なんてこれしか浮かばない

彼の攻撃対象になった輩なんてごまんといる

その理由がとてもくだらないものもあればそうじゃないものもある

ただどんな理由であろうと、西井らに狙われれば辛い思いをするのは同じだった




はっきり言って目障りだった

たかがちょっとした揉め事から始まった奴の嫌がらせ










「違う.......お前、ふざけてるのか?」







だけど何故だろうか

この拭いきれない恐怖心はどこから来てるのか




「ど、どういうことだ?」




























「6年前のこの時期.....お前は何をした?」













直後、周りの生徒何人かが青ざめた顔で俺《だけ》を凝視する




6年前....小学4年のこの時期......わからない

俺はこの時なにをしたんだ?




コイツとそもそも接点があったのか?































「まさか.....忘れたわけじゃないだろうな!《アレ》だけのことをして!!《アレ》だけの犠牲者を出して!!挙句の果てには俺の兄貴まで殺しやがって!!それでお前だけ何故のうのうと生きてんだよ!!!」


































なん.......だっ....て?







俺が......殺した?




.......コイツの兄を?




























コイツの言ってる事は全部出鱈目だと思う




小学4年生のガキが人を殺せるなんてできる訳ない

ましてや相手はコイツの兄










.......手が震えている



俺の体から汗が尋常じゃない速さで吹き出る

俺は.......なにをしたんだ?










周りのその目は好奇心、恐怖心、それぞれではあるが

「やっぱりあの事件は.....コイツだったのか」

と言っているような眼差しを向けていた




隣の未遥は何がなんだかわからなそうに俺と西井を交互に見る







未遥やめてくれ.....俺は君にそんな風に見て欲しくない







助けて......誰か......俺を助けてくれ










負の連鎖は断ち切れない




そう感じた




























----------------------------










俺はいきなりの母さんからの提案をのまざるを得なかった




自室のベッドに身を投げ、母さんから受け取った高校の資料を片手に眺める




「......にしても....これでよかったのかな」




確かに今の高校に身を置いているよりは気が楽かもしれない

俺が悪いのかどうかは定かではない

だけど西井、照澤から離れられると考えると

俺の判断はあながち間違いではなかった気がする




「音ノ木坂......か」




もう忘れよう.....過去なんて振り返って至って無駄なだけだ




もし仮に俺があんなことをしていたのであれば

今ここにいる理由がない

少年院なり拘置所にいるはずだから




きっとアイツの被害妄想、あるいは勘違いだ




忘れよう忘れよう忘れよう




「....ふ〜......あ、そうだ」







いくら離れると言っても唯一ずっと傍にいてくれたあの子にはこの事を伝えなきゃいけないな




俺に手を差し伸べてくれた日から今日までずっとずっと、それこそ、恋人のように励まし、助けてくれた彼女に




「この事を言ったら未遥.....なんて言うだろうな」




絶対怒られるかもな




泣かれたりして













でも、それだけ俺のことを大切に思っててくれたんだよな?




あの時だって...俺が殺人者かもしれないってのにずっと隣で笑っててくれた。




その優しさは本物だ




「.......さて、明日.....言わなきゃな」










俺は起き上がり、資料を机の上に置いて眠ることにした
















夢の中で....未遥はとてもさみしそうに微笑んでいた 
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