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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第28話 二つの存在(中編)




やるべきこと.......俺が音乃木坂学院に来た目的.....

それは音乃木坂学院の存続




転学当初、存続して欲しいとは今程思っていなかった

所詮は他人事。




伝統ある女子高が消えようがどうでもよかった

国立のくせして学力は高くなく、それは俺にとって不便に感じた







まぁそれでも....

少なくとも.....あの高校にいるよりは気が楽だった

女子しかいないものの、俺がむやみやたらに話しかけなければいいだけ。




割り切るしかないな、と思っていた




とにかく母さんや理事長からのお願いだから、存続の為にここに居座っていただけ




高坂穂乃果.......




彼女に.....いや、もしμ'sのみんなと出逢っていなかったら俺はここを存続出来たのだろうか




彼女達に出逢ったことが運命なのだとしたら、出来すぎていた




スクールアイドルを始めて生徒を集める




驚いた。そんなもの不可能じゃないのか?

海未が当時言っていた『思いつきで始めたところで簡単に状況が変わるわけがないでしょう!』は、正論だとは思った




だけど、穂乃果の目を見ると自然とそれが可能なように思えたのだから不思議だった




コイツなら......コイツらなら廃校を食い止めることが出来る!




だからμ'sに賭けることにした







彼女達は廃校を目的に活動していた。それがいつしか皆に魅せるためにアイドルをしていた。それがファンや生徒の目を引き寄せた。

自信のない花陽の背中を押し、1度夢を失いかけたにこをもう1度立ち上がらせ、自分のやりたい事に必死になれない絵里さんに声をかけて....

そして....







廃校は免れた.....俺じゃなく、彼女達の想いがみんなに届いた瞬間だった










俺は居ても居なくても結果は自ずとこうなっていたのかもしれない

俺がみんなを集めたんじゃない。




あくまで、アドバイスをしただけのこと。

それ以上でもそれ以下でもない




この役割は俺以外でもできた
















その役割を終えた今、ここに居座る理由もなくなった

物事には必ず『始まり』がある。




それはつまり、いつかは必ず『終わり』がやって来ることを意味している




その『終わり』が今やってきただけ










テレビではお笑い番組をやっていて、二人組の芸人の一人はリズムにのせて『ちょっと待てちょっと待てお兄さ〜ん♪』と理解不能の芸を繰り広げている




今流行りの芸人らしい......




俺にはこの二人のどこが面白いのかよくわからない




俺と向き合って座っている母さんは『あははっ』と笑いながらさっき俺が煎れたお茶を啜る




「......平和だな」ボソッ







「何か言った?」




「いや......なんでも」




「.......もう......いいの?」




これで、よかったのか?




「.....さぁ」




「未練は無いの?」




音乃木坂を離れて別の学校で生活することが俺にとって有益なことだろうか?




「今更何を.....勉強するために....母さんを楽にさせるために少しでもいい学校に行くだけじゃないか。それだけだよ。」




思っていることとは裏腹に反対の事を述べる




「.......そう」




.........素直に、か




俺も人の事言えないよな







----------------------------

海未side




「海未ちゃん.....いらっしゃい」




ことりが日本を発つまで後4日




どうしてもことりと話がしたくて、弓道の稽古を終えた後

ことりの家に足を運ぶ




本人は意識するつもりも無いらしく、私と顔を合わせてもいつもの笑顔で出迎えてくれました

その態度が私にとって辛いものに感じました




「遅かったね、練習?」




「はい」




部屋のドアを閉める。

振り向いて辺りを見渡すともうほとんど私物がありません

ベッド、机、テーブルのみが残され、前来た時に壁に飾られていた写真などは取り外されていました




「海未ちゃんも断ったの?」




「はい、続けようとするにこの気持ちもわかりますし、出来ることなら....」




先日、絵里の口から告げられた『μ's』活動休止のお知らせ

穂乃果やことり、大地がいない今のμ'sの在り方を見つめ直すべきだと言われたにこの顔を思い出すだけで胸が痛くなります




「じゃあどうして?」




「.....私がスクールアイドルを始めたのはことりと穂乃果が誘ってくれ、大地が背中を押してくれたからです。」




これを期にスクールアイドルを辞めることを決意しました

理由は今言った通りです。

この三人がいないのでは....




やはり私にとって10人揃ってのμ'sだと思っていますし、何よりも三人がいてくれるからこそのμ'sだと感じています




「......ごめんなさい」




「っ、違いますよことり。人のせいにしたいわけじゃありません。穂乃果にはあんなこと言いましたけど『辞める』と言わせてしまったのは私の責任でもあります--「そんなことないよ!」




「.........」




「あれは.....ちゃんと私が言わなかったから!」




「......穂乃果とは?」




質問に対する返答は.......




「..........」




無言の沈黙でした




「もうすぐで日本を発つんですよね?」




「......うん」




「ことり....本当に留学するのですか?」




私の本音は『行って欲しくない』の一言です。ですが、ことりの将来のことを考えるとやはり行くべき時なのかもしれないと思うのです




だからこそ、私はことりはちゃんと本心で考えて欲しいのです

ここで気持ちを押さてもだめなのです




「........もう無理だよ、今からなんて」
















----------------------------







ぽつんと1人街並みを歩く

ただすることが無かったので暇つぶしに散歩をしてみるのも案外悪くない




どこ行っても見たことある景色ばかりで飽きてしまいがちだが、ここ数日ばかりはそれがありがたく思えてしまう




後4日




もうどうしようもなかった。




まるで明日提出の宿題をそのまま放置するかのようにわかりきっていた結末も放置してしまった




寂しいような....悟ってしまったようなそんな微妙な気分を行き来している




ふと目に止まったのは電柱に貼られた第一回ラブライブ!の宣伝ポスター




A-RISEが堂々と記載されていて「やっぱりすげぇよな...コイツら」などとぼやく。




もしかするとμ'sもラブライブに出場出来たのかも知れない




もしかすると全国にその名を知らしめることができたのかもしれない




だがしかし、それはIFの話

今更どうこうできるような事ではない




でも今更だからといって考えずにはいられない




もし....母さんと理事長が同期じゃなかったら




もし....音乃木坂学院に転入していなかったら




もし.....穂乃果達と出会わなかったら




もし.....俺がちゃんとサポート出来ていれば




こんな最悪な結末はどこかは変わったのかもしれなかった




「はは.....何やってるんだろうな俺は.....廃校阻止できましたおめでとう、貴方は用無しですさようなら......こんなの納得できるわけ無いだろうが....くそったれ」




惨めなこと思いを何処にぶつけたらいいかわからず、舌打ちをして我慢する




穂乃果とことり、海未は大丈夫なのだろうか.....







あの日以来3人が仲良く笑いあっている様子を見ていない

俺自身忙しかったため詳しくはどうだかわからないけど、

教室ではそんな様子は見受けられない

海未と穂乃果が喧嘩もどきをするのは日常茶飯事だが、

ここまで大きくなるのは驚いている




特に穂乃果とことりは絶対無いと思っていた




悪いのは穂乃果かもしれないけど、俺はそんなことは思っていない

誰も悪くないのだ




仕方の無い結果だった




だが




海未が穂乃果を叩いたあの瞬間俺は理解した




《俺にはわからない3人の絆がある》って事に




やはり俺の《彼女達を理解した》と言うのは上っ面なだけで何もわかっちゃいなかったのだ




「きゃっ!」




「うおっ!ごめんな...大丈夫か?」




考え事をしていた為、道を右へ曲がった途端誰かとぶつかる




「いえ....って大地!?」




「あ?......にこ?」




「大地くんだにゃ...ここで何してるにゃ?」




「それに....凛」




ぶつかったた時に制服が音乃木坂の制服だとわかったが

まさか知り合いだとは思わなかった




つか、にこと凛の組み合わせなんて珍しいな




「いや特にすることもないからぶらぶらしていただけだ」




「そ....なら大地、今から練習に付き合いなさい」




唐突の提案に戸惑い、頭をポリポリ掻きながら答える




「.....まぁ...構わない」




「絵里ちゃんがμ'sの活動休止するって言ったんだにゃ」




「え?そうなの?」




「そうよ、でもにこは続けたい。にこと凛、花陽の3人で」




3人と聞いてショックを受ける




他は....どうしたんだろうか




「.....絵里さんや希は?」




「......『μ'sのこれからを見直すべきだわ』と言って活動してないにゃ」




「そ、そうか....」




やっぱり話はそこにいくわけか....




「....?まぁいいわ、とにかく行くわよ」




明らかに不機嫌そうなにこは俺の右手をがっちりホールドしてスタスタ前を歩き出す




「.....(大地までいなくなるなんて嫌よ)」




「(大地くんまでいなくなるのは寂しいにゃ)」




にこと凛の呟きは俺には聞こえなかった































「よ〜いっ、ドン!」




俺の合図とともに男坂で合流した花陽と凛、にこは一斉に階段を駆け下りる




彼女たちが階段ダッシュに励む間、俺は周囲をぐるりと見渡しμ'sの練習光景を思い浮かべた




主にここと屋上だった....

学校が変わるとはいえここでの練習が見れないというわけではい




だが、転学先は京都なため来れる日は少なくなる

しかも向こうは日本で2番の実力を誇る進学校

部活に参加していない所謂帰宅する人は平日講習という授業とはまた別の勉強会がある




どう頑張っても来れるわけがない




「.....お別れ...か」




唐突に胸いっぱいにこみ上げてくるものがあった

半年の付き合いとはいえ、俺に足りなかったものを埋めてくれたμ's

μ'sに足りなかったものを俺は埋めることができたのか?




「勉強と.....仲間....どっちを取るのが正解なんだ?」




俺には選べない

勉強はもちろん大切だ。なんとかして大学に入って母さんを楽させてるために良い仕事を就きたい

だけど仲間も掛け替えのない存在だ

小学高学年の時の俺とは違う

仲間と一緒に何かを成し遂げようとすることに喜びを感じている




「にゃ〜っ!おっわりにゃ〜♪」




凛が到着したのでストップウォッチを押して時間を確認




「お疲れ、タイムはいつも通り。相変わらず速いな」




「凛体動かすの好きだし、中学の頃陸上やってたからにゃ〜」




「そうか......」




凛の笑顔はいつもなら励まされるのに今回ばかりは俺を苦しめる




「凛はどうしてアイドルを続けてるんだ?」




愚問だ、と自分でも思う

でもどうしても聴きたいんだ。バラバラになった今、μ'sとして活動を続けるみんなの本心が




凛は眉毛をハの字にさせて唸るもそれは数秒の出来事で、返答は早かった







「やっぱり楽しいからかにゃ」




「楽しい?」




「うん!こうやって体一杯でダンスを踊って表現する感覚が楽しいにゃ。自分に自信が無かった時とは違ってスクールアイドルを続けることに誇りを持ってる......」




迷いの無い真っ直ぐな瞳はただ俺一点を見つめる

その真剣さに見とれてしまった




「はぁっ!はぁ....はぁ.....」




続いて花陽とにこが同着で戻ってきた




「遅いにゃ〜かよちん」




「はぁ....はぁ....ご、ごめ〜ん...でもひ、久しぶりだから結構キツいね〜」




「こ、こんなところで....バテてる場合じゃ....はぁ...はぁ....ないわよ」




とか言いつつ、にこも肩を上下させて息を切らしているため、説得力を感じない




「でもまぁ....タイムは悪くないんじゃないか?」




ストップウォッチには凛ほどではないが2人ともかなり速くなったと思わせる結果となった

最初の頃と比べると断然よくなってる




「ホントですか!?やった〜っ!」




花陽は嬉しそうに笑って俺が渡した水筒に口をつける




「ほら、にこと凛も飲め。ここで倒れたりでもしたら困るからな」




「ありがと.....」




「ありがとにゃ〜♪」




2人にも同じやつを渡して休憩させる




花陽が持ってきたクーラーボックスの中には3人分の水筒しかない

いつもなら9人分ちゃんとあるのに.....




「花陽とにこは......どうしたい?」




「え?」




「なによ急に」




「みんなでライブしたい?」




「........そんなの当たり前じゃないですか。私にとってμ'sというのは私の夢を叶える場所でもあり、私の居場所なんです。きっと凛ちゃんも...にこちゃんもそうじゃないんですか?」




「にこも花陽と同じよ。アイドルが好きなにこはここで夢を叶えたい....でも3人じゃ夢は叶えられない....9人....いや、10人で夢を叶えたいの!!」




俺を見つめるその瞳はなんの迷いも感じなかった

それと同時に申し訳なさが胸いっぱいにあふれる




「凛は大好きなμ'sと大地くんと一緒にアイドルがしたい!誰も居なくなって欲しくないにゃ!絶対みんなそう思ってる!海未ちゃんもことりちゃんも、真姫ちゃんも絵里ちゃんも希ちゃんも!」




3人の想いは.....一致していた




10人で頑張ることに意味があるんだと、彼女たちは言葉でなく目で訴えてきた




「....そんなの俺だって同じだ....転学なんてしたくねぇよ...ここまで来たらみんなと一緒にラブライブ出てぇよ....」
















「あれ?花陽ちゃんに凛ちゃん、にこちゃんに.....大くん?」




唐突に聞こえた声は俺が今1番聴きたい人の声

制服姿の穂乃果は俺達を見て目を丸くする




「穂乃果.....」




目の下に隈ができている。

寝てないのか....?

それほどまでに穂乃果は.....




「練習続けてるんだね?」




「当たり前でしょ?スクールアイドル続けるんだから!」




「え?」




にこは語気を強めて苛立ちを見せる




「μ'sが休止したからってスクールアイドルやっちゃいけないって決まりはないでしょ?」




「でも、なんで--「好きだから」




「え?」




穂乃果の質問に即答したにこの目は真剣そのものだ




「にこはアイドルが大好きなの!みんなの前で歌ってダンスして、みんなと一緒に盛り上がって.....また明日から頑張ろうって...そういう気持ちにさせることができるアイドルが....にこは大好きなの!!!!」




「にこ....ちゃん」




凛は花陽に寄り添いながらも2人の様子を見守る




「穂乃果みたいにいい加減な《好き》とは違うの!!」




「違う!穂乃果だって---「どこが違うの?」




穂乃果の否定を一蹴する




「自分から辞めるって言ったのよ?やってもしょうがないって」




「そ、それは......」




流石に止めた方がいいな......

ここで口論したところでどうしようもないので俺は止めに入る




「やめろにこ....今話すべきじゃない」




「大地....アンタはいいの?アンタはこのままでいいの!?」




「良いとは思っていない....こんなことになったのは確かに周りを見ていなかった穂乃果に責任があるのかもしれない....だからと言って穂乃果を攻めたところで何が残る?」




「で....でも...だったらにこ達はこれからどうしたらいいの!?にこはみんなとまたステージに立ちたいの!!こんな.....こんな終わり方なんて....」




「.....凛」




「にゃ?」




俺は凛に向き直って




「今日はもう帰る...怪我しないように練習してくれ.....(少しにこの事落ち着かせてくれ)」




最後の一言を凛の耳元で告げ、俺は穂乃果の手を引っ張ってこの場を離れる




「ちょっと!大くんどうしたの!?」




訳がわからないといった表情をするも無視して引っ張る




「大地くん!」




凛に声をかけられたので立ち止まる




「.....大地くんは....戻ってきてくれないの?....明後日.....だよね?」




「........」




それができれば苦労しない、と思いつつも胸の中に止めておく













わかってる......そんなの...わかってるさ










----------------------------

穂乃果side













何故か大くんが隣合わせで歩いている

今回ばかりは穂乃果は望んでいない

1人にして欲しかった.....

何も考えたくなかった.....




ちょっと無神経だなぁと、だけど、ありがとう、と感謝の気持ちを心の中で思いながらぼちぼち帰り道を歩く




彼の横顔をちらりと覗く

空をぼ〜っと眺め、時々微笑む姿はドキッとさせてくる




「そうだ穂乃果、俺と付き合ってくれるか?」




「....え?」




一瞬だけ別の意味を想像しちゃって顔を赤くさせてしまう

何考えちゃってるんだろ.....///




「まぁ...断られても連行するつもりだったからいいか」




穂乃果の返事も待たずに大くんは手を取って走り出す




「えええっ!?ちょっとどこ行くの〜〜っ!!」




途中、家の方向とは全く別の道を走り抜く

大くんは何を考えているのか、一切口を開かずただ一点を見ている




時は夕暮れ。公園で遊ぶ小学生も帰り支度を始め、中・高校生はゆっくり歩いて帰っている

スーパーで買い物を終えた人もいたり、近所のおばさんが集まって世間話をしたり.....




空を少し見上げると「カァカァ」とカラスが電線で泣いていたり....




ずっと走り続けているためそれらが全て刹那の如く変わってしまう
















「さぁ......着いたよ」




しばらくしてどうやら目的地に着いたみたい




「大くん....ここは?」







「ここ?そうだなぁ.......




























《秘密の木》とでも名付けておくか」










音乃木坂から少し離れ、やって来た場所は自然に溢れた雑木林

緑の間から差し込む太陽の光がとても神秘的










そう、ここは......







「あの時の....」




それは穂乃果達がまだ小学4年生の時、穂乃果とことりちゃん、海未ちゃん、大くんと一緒に登ろうとした《あの時》の大木であり







穂乃果の......私の思い出の場所







数年前と違うのは1本だけ枝が折れていて、さらには人気がなくなってしまった、それだけだった。そして、その中でも堂々とそびえ立つ大きな木

尊厳のある木は穂乃果に何かを伝えるかのような雰囲気を漂わせている




でも、どうして大くんはここに連れて来たのかな?




「ねぇ大くん....どうして--「穂乃果はどうしてスクールアイドルに興味を持ったんだ?」




「え?」




「どうして......スクールアイドルを始めたんだ?」




「.......廃校を止める為に...」




「本当に?」




「......」




「本当にそれだけか?」




そんなわけない......穂乃果は好きだったんだよ?

スクールアイドルをやる事が....

皆を笑顔にさせたかった......皆と歌って踊りたかった!




そう.....穂乃果の《太陽のような笑顔》で!




いつからだったかな.....穂乃果の笑顔は皆を笑顔にさせることができるって言われたのは......




.....そうだ.....思い出した




























『うぇ.....ひっく....うぇぇぇん!』




小学4年の冬.....雪がちらほら降ってきたその日の放課後、1人公園でしくしくと涙を流していた

その原因はもちろん覚えている




『やだよぅ.....ひっく....ひとりにしないでよぉ.....』




ことりちゃんが大くんに手編みのマフラーを渡していた現場を目撃してしまった。

普段ならなんとも思わないその光景だけど何故かその光景は穂乃果の胸を酷く苦しめるものだった




『なんでぇ.....なんでだいくんはそんなかおするのぉ.....うぇぇぇん!』




ことりちゃんからマフラーを貰った時のその表情は穂乃果も見たことのない優しげな、それでもって照れている表情だった




『だいくん.....ほのかをおいていかないで.....』




穂乃果の上に雪が積もっている....冷たさなんか感じなかった

それくらい.....辛かった




『だいくん.....』




『あ!みつけた〜』




え?




『ほのちゃん.....よくわかんないけど.....ないちゃだめだよ』




『ひっく....ひっく...』







『ほのちゃんのえがおはね.....たいようなんだよ!!たいようのようなえがおだから....みんなをえがおにできるんだよ!』




『ひっく....ほのかのえがおが....たいよう?』




『うん!だからわらって!』




『ひっく.......うん!』




悔しかった感情なんてどっか行く程.....嬉しかった




穂乃果の笑顔は.....太陽のような笑顔
















「ううん、違うよ....それだけじゃないよ」




穂乃果のやりたいことは、



















「穂乃果はね、穂乃果の笑顔で皆を笑顔にさせたかったからだよ!」






















「......そうか......なら、どうして穂乃果は今ここにいる?」




先程までと違い、優しい目つきで穂乃果に問いかける




「穂乃果はここで足踏みしてちゃダメだろ?穂乃果の笑顔、それは《太陽の笑顔》だ。人を不幸な気持ちにさせたらダメなんだ。俺は.....穂乃果の笑顔に何度も救われたんだよ....気づいてたか?」




自覚していなかった。

何度も大くんを助けたの?




「廃校の件、俺は諦め半分だった。もしかすると8割諦めていたかもしれない。たかが異質の男子が転入してきたところで何ができるんだ?むしろ逆効果じゃないのか?俺に何をさせる気なんだ?あの時はただ前の学校にいなくて済むと思って楽観的に考えていたんだ。そんな時に俺の前に現れた9人の女神、その中でも穂乃果、お前の真っ直ぐな瞳は俺に決意させてくれた。それと同時に笑顔が俺を奮い立たせてくれた!《皆の役に立って存続させたい!》って.....俺の力じゃどうしようもなかった廃校阻止を救ってくれたのは穂乃果なんだ.....」




「.......ううっ....」




「お前がいなかったら...ここまで来れなかった.....お前がいなかったらμ'sだって存在していなかっただろうし、何より、スクールアイドルそのものが音乃木坂学院に存在していなかったのかもしれない!だから!!穂乃果には諦めて欲しくない!自分の出来ること、望むこと、すべき事....それは穂乃果自身がよく知ってるはずなんだ!自分の気持ちに嘘をつくな....穂乃果」







涙が止まらない

拭いても拭いても溢れてくる




「うっ....うっ.........だ」




「え?なんだって?」




そして遂には零してしまう




























「嫌だよ......辞めたく......辞めたくないよぉぉぉぉっ!」

























「穂乃果......」




「わかってた!...気づいてた!本当はまだスクールアイドル続けていたいって!仲間と一緒に頑張りたいって知ってたのに!」




溢れんばかりの涙に埋もれた顔を大くんに押し付け、胸板でわんわんと泣き出す




「ことりちゃんが居なくなると知って...大くんが《また》居なくなるって知って.....嫌だった!怖かった!うわあぁぁぁぁぁんっ!!!」







そのまま大くんはぎゅっと抱きしめて離さないよう力を込める

その力のこもった腕や体から感じる温もりが嬉しくて....嬉しくて.....




「ごめんね.....ごめんね穂乃果....俺がちゃんとするべきだった」







「うわぁぁぁんっ......ふぇっ...えっ.......」




























そよそよと風が吹く




ここには穂乃果達しかいないような幻想世界を創り出している気がした




ことりちゃん......ごめんね?




穂乃果は.....ことりちゃんと一緒にアイドルを続けたいんだ




お願い.....戻ってきて.....行かないで!




























----------------------------







「あ〜あ、俺の《秘密の木》バレちゃったな〜穂乃果のせいで」




「ええっ!?あれ穂乃果のせいなの!?連れてきたのは大くんでしょ!?」




すっかりいつもの穂乃果に戻ってからというもの、やたら声がでかいし騒ぐし....笑顔で手を繋いでくるし、しまいには抱きついてくるし

テンションの低い穂乃果の方が扱いやすかったなと思って口に出そうとするもあえて堪える。




「穂乃果が辞めるなんて言わなければこんなことにはならなかったよ」




「ひっど〜い!穂乃果だって......」




「穂乃果だって?」




「.........ふんっ!もう知らない!!」




あまりにいじり過ぎた為、拗ねてしまった

そんな所がまた可愛いなと思ったり




「なぁ穂乃果......明日は--「わかってるよ、ことりちゃんでしょ?」




「そうだ.....大丈夫か?」




「......ことりちゃんは穂乃果の親友だもん!絶対離さないもん!」




穂乃果は決意は本気だった

だからこそ、俺はもう一度訪ねた







「お前にできるのか?」














































「うん!穂乃果はやる!やるったらやる!!」 
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