ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D
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ハイスクールD×D ぼくと先生と『私達』
前書き
たぶん、この設定は誰も書いてないと思います。そんな自信があります。
おやおや、またしても『私達』が増えてしまいましたか。今度の『私達』は、なるほど、敵対勢力に襲われてですか。かわいそうに。大丈夫。ここには『私達』が居ます。寂しくなんてありませんよ。おやっ?引っ張られるとは、なるほど。蘇生しようとしているのですか。ですが、力が足りないようですね。仕方ありませんね、『私達』が力を貸して差し上げましょう。行きますよ、『私達』。おやっ?これは、少しまずいですね。『私達』も引っ張られるとは。なるほど、類稀なる魔力量だ。自らの身体が媒体となりますか。まあ、いいでしょう。『私達』は座にも居ます。擬似サーヴァント的な何かなるでしょうが、彼自身も『私達』です。さあ、『私達』、お出かけですよ。
4年前、妊娠中に襲われ一時は危険な状態に陥ってしまった我が子のミリキャス。後遺症らしきものもなく、元気に育ってくれている。サーゼクスはあの事件から私を傍から離し、メイドとしての仕事からも離した。無論、私も異存はない。過保護と言われて何が悪い。我が子を失う恐怖に比べれば周りからの嘲笑などゴミだ。
ただ、友達が居ないのはかわいそうだと思っている。できるだけ私が一緒に遊んであげているけど、それでも同年代の子との接触が一切ないのは将来に不安が残る。探してはいるのだが、出生率の低下から友好的な家の同年代はほぼいない。
そんな考え事をしているとミリキャスが石に躓いて転んでしまった。慌てて駆け寄ると膝から血を流していた。
「ミリ、大丈夫?」
「痛いけど、大丈夫。泣かないよ」
「偉いわね、ミリ」
抱き上げて屋敷に戻り、傷口を洗い流す。それから治療薬を取りに行こうとしたところでミリキャスが針を握っていることに気づく。それを傷口に刺した!?
「何をやっているのミリキャス!?」
「ふぇ?傷を治してるんだよ。先生が教えてくれたんだ。ジャック達も練習に付き合ってくれたんだよ。ほら」
ミリキャスの膝の擦り傷が治っている。それに針も見当たらない。既存の治療術とは全く異なるそれと、それを教えた先生の存在に恐怖する。それにジャック達とは一体誰なのか。怖がらせないように優しく問いかける
「ミリ、その先生っていうのは誰?お母さんはあったことがあるかしら?」
「ううん。先生はね、夢の中で会うんだよ。ジャックお兄ちゃん達やジャックお姉ちゃん達も夢の中だけで会うの。みんな優しくて、僕は『私達』から外れちゃったのに一緒にいてくれる。だから寂しくないんだ」
夢のなかで会うというのはまだ分かる。人間の魔術師にそんな術を使うものがいると聞いたことがある。それが複数同時に使うというのもまだ分かる。だけど、ミリキャスが『私達』から外れたとはどういうことだ?なんとも言えない恐怖が走る。後遺症は見えなかっただけで存在しているのではないのか。『先生』の目的がわからない。問いただしたいが、ミリキャスが信頼しきってしまっている。なんとかできないだろうか。
「ねえ、ミリ、お母さんもその先生に会えるかしら?」
「分からない。今度先生に会ったら聞いてみる」
「そう。ありがとう」
その日、ミリキャスを寝かせた後にすぐサーゼクスの元へと向かい、全てを打ち明けた。最初はノイローゼを疑っていたが、それでも最終的には私のことを信じてくれた。翌日には、ミリキャスが先生はいつでも訪ねると、その間はジャック達が面倒を見ると伝えて欲しいと言ってくれた。ジャック達が面倒を見るということはミリキャスが寝た後ということだろう。そして、サーゼクスの時間が空いている日を伝え、当日を迎える。ミリキャスが眠った後、しばらくして気配が変わる。ベッドから起き上がり、どこからかコートを取り出してそれを羽織る。
「初めましてだ。私が先生だ」
「君は、一体なんなんだ?ミリキャスに取り付いているのか?」
「ある意味ではそうだ。まあ、イレギュラーが発生した結果こうなっていると告げよう。これは私に取っても『私達』に取っても想定外の出来事だ」
「『私達』?なんらかの組織を指しているのか?」
「違う。『私達』は組織でもなく、名前でもない。そうだな、説明が難しい。強引に解釈するのであれば『私達』は生まれてこれなかった命であり、漂ってしまった命だ。それらは私を中心として集まり、『私達』を構成する。『私達』はただ帰りたいのだが、帰れない。帰れないのは寂しい。温もりを強引に求めてしまうこともある無垢なる邪悪。言語化するのは難しい。つまり何が言いたいのかといえば、ミリキャスは一時『私達』になっていたがそれを引き戻そうとする力があった。私はそれを手助けしたのだが、予想以上に引っ張られてしまった。心当たりがあるはずだ」
先生の言葉に思い当たる節がある。お腹の中のミリキャスが流産しそうになったときのことだ。確かに最初は蘇生に手応えがなかった、諦めかけたその時に急に手応えを感じた。先生の話と合致する。
「つまり、ミリキャスに害を及ぼさないと思っていいのかい?」
「無論だ。『私達』を害するつもりはない。私は須らく子供の味方である。同時に殺人鬼でもあるがね」
「「殺人鬼!?」」
「正体がわからなければ不安だろう。くくくっ、だから私が誰か当ててみたまえ。私は生前は人間だ。望まぬ殺人を多数行ない、望んだ殺人を多数行ない街を恐怖のどん底に陥れた殺人鬼だ。狂ったわけではない、殺人が好きだったわけでもない。だが、やらねば耐えきれなくなった弱い人間だ。だけど、『私達』は私のそばに集まってきた。だから私は『私達』に私の全てを与える。いつか『私達』がここ以外の場所でも生きていけるように。ヒントはほとんど与えている。さあ、私は誰だ?」
先ほどの話のキーワードは殺人鬼、人間、望まぬ殺人、望んだ殺人だろう。これだけではさっぱりわからない。いや、『私達』に私の全てを与えると言っている。全て、それには名も含まれているのではないだろうか?だからミリキャスはジャックお兄ちゃん達、ジャックお姉ちゃん達と言ったのではないだろうか。ジャックの名を持つ殺人鬼で真っ先に思いついたのがこの名前だ。
「切り裂きジャック、ジャック・ザ・リッパー」
「正解だ。堕胎と言う望まぬ殺人を行なわされ、それを行わせる娼婦を望んで殺した存在。まあ、交じり物の贋作だがね」
「交じり物の贋作?」
「あの事件は未だに解明していない。無論、犯人も不明だ。そして私自身も名を忘れてしまった。だが、明らかに私が殺した覚えのない者の殺人の記憶がある。つまり模倣犯の物や物語の物、簡単に言えばジャック・ザ・リッパーの全てが本来のジャック・ザ・リッパーに混ざってしまったのだよ。よって私は贋作だ。贋作であるが心は本来のジャック・ザ・リッパー。それが私だ。むっ、そろそろ私は引っ込むとしよう。これ以上はミリキャスの負担となる。できる限り、そちらからの会談を受け入れよう。ミリキャスの負担にならない程度にな。では、また会おう」
その言葉と同時に気配がミリキャスのものに戻り、コートが消え、ミリキャスが倒れる。確認してみてもただ眠っているだけのようだ。
「サーゼクス、どうします?」
「予想の斜め上を行かれてしまったね。なんと言えばいいのだろうね。ミリキャスを救ってくれたのは感謝する。あのままだったら死んでいたというのは、多分本当だろう」
それは私にもわかる。
「『私達』とミリキャスを大切に扱っているのも、本当のことだろう。問題は先生自身だ」
「それは、どういうこと?」
「彼が切り裂きジャック本人だというのはこの際どうでもいい。だが、混ざっているといったよね。私もジャック・ザ・リッパーの本はいくつか読んだことがある。その多くは享楽殺人犯や狂人だった。そちらに流れてしまうのではないか。私はそれが怖い。そしてそれにミリキャスが影響を受けるというのも」
「……私は、それはないと思うわ」
「なぜだい?」
「少しだけ、『私達』、ミリキャスが言うジャックお兄ちゃん、お姉ちゃん達の話を聞いたの。『私達』は本当に純粋な子供達ばかりだっていうのがミリキャスを通して観れたわ。むしろ怖いのは『私達』の方ね」
「それはどうしてだい?」
「言っていたでしょう。温もりを強引に求めてしまうこともある無垢なる邪悪だって。悪気はなくてもやってしまう。子供としてはごく当たり前の行動。それがどう出るのかがわからないわ」
「なるほど。そちらもあったか。難しいな。こんなに悩むなんて。相談は、できそうにもないな」
悩みは増えてしまったが、それでもジャック・ザ・リッパーはこちらに協力的であるだけでも収穫があったと言えるだろう。
その後も週一でジャック・ザ・リッパーとの会談は続いた。基本的に肉体の主導権はミリキャスが所有し、寝ている時やミリキャスが強く願ったとき以外は表に出てくることはない。夢の中でのみミリキャスとのパスが繋がりやすいため、そこで色々と『私達』と同様に知識を与えてくれている。戦う方法を遊びを取り入れて教えているので本人は遊んでいる感覚なので、命の尊さを教えるのはこちらに丸投げされた。人間の感覚と悪魔の感覚は違うだろうからと言っていたが、あれは明らかに面倒だからだろう。しかも、戦い方が暗殺者のそれだ。霧の生成、印象操作、気配遮断、音を出さずに走る方法、人体の急所の位置、ナイフやメスの扱い方・手入れ法。完全にジャック・ザ・リッパーの戦い方だ。
それとは別に色々な動植物の知識に、人間界の各国の童謡や童話などの子供のための知識も豊富だった。自分と似たような存在に誰かのための物語がいるそうだ。ミリキャスや『私達』はそれが大好きでいつも楽しそうに私に聞かせてくれる。
医療魔術の方に関してはちょっとした切り傷やすり傷を直せる程度。ジャック・ザ・リッパーならちぎれた腕をくっつける程度は出来るそうだ。医者としての技量がそのまま回復力に繋がるため、医者だったのは本当なのだろう。腕は確かだ。まあ、ミリキャスが再現しようとしても荒さばかりが目立ちます。練習には刺繍がいいらしく頑張っているが、まあ、年齢を考えれば上出来といった腕前だ。ナイフさばきは洒落になりませんが。他にも普通の応急処置の仕方なども教えているようです。
元気で素直なのもいいことですし、概ね問題はないでしょう。ちゃんと直接お会いして歓迎できないということだけは惜しいですが、本人は気にする必要はないとおっしゃってくれていますが、ミリキャスの命の恩人ですしね。
「先生」
「どうかしたかい、ミリキャス?」
「先生は猫さんの怪我も治せる?」
「あまり得意ではないけど大丈夫だよ」
「お願い、助けてあげて」
「わかったよ。それじゃあ、代わろう。歌は覚えているかい?」
「うん。此より開幕。私達は歌手、役者、交響団。終幕までの夢を此処に」
「「霧の中の殺人鬼」」
ミリキャスと私の意識を入れ替える。目の前にはひどい怪我を負っている猫の姿に化けた転生悪魔がいる。さて、どうしたものか。まあ、頼まれた以上は助けよう。後のことはグレイフィアに任せよう。
「聞こえているか?これから治療する。もう少しだけ頑張りたまえ」
魔力でスキル【外科手術】に必要な縫合用の針と糸を作り出し、傷口を縫い合わせていく。体内の異物は同じく魔力で生み出したメスとピンセットで取り除く。やれる限りの事をやった後はハンカチを裂いて包帯代わりに巻きつける。
「とりあえずはこんなところだろう。これにて幕は降り、夢は覚める」
再び意識を入れ替える。頼まれたから治療した。それだけだ。だが、グレイフィアは納得しないだろうな。案の定、ミリキャスが眠った後にグレイフィアに会って欲しいと頼まれたので表に出る。
「昼間の件か」
「分かっているなら何故!!」
「ミリキャスに頼まれたからだ。情操教育に関しては親に一任すると言ったはずだ。危険であれば私も対処したが、重傷相手にそこまで危険は感じなかった。治療後に意識もなかったからな。それで、件の転生悪魔はどうした?」
「ミリキャスのこともありますから監視をつけるだけにしてあります。ただし、グレモリー家でもトップクラスをですが」
「それに関しては私は何も言わない。ミリキャスに危険が迫らない限り、私が自主的に動くことはない。さらに言えば危険から遠ざかるのを優先するつもりだ。私の優先順位はミリキャスだ。今回は傷ついた生き物を救いたいという純粋な願いだ。これだけなら問題がない。むしろ、優しい良い子だ」
「それは、そうですね」
「問題だったのは相手側だ。その点で私を責めても御門違いという奴だ」
「……申し訳有りません」
「いや、子供を大切に思う気持ちは尊いものだ。気にすることはない。問題はこの後だ。あの転生悪魔をどうするか。ミリキャスは飼いたそうだぞ」
「そこが問題なんですよね」
「まずい相手なのか?」
「SS級のはぐれ悪魔、主人殺しの黒歌です」
「主人殺しのはぐれ悪魔か。ふむ、あれが?」
「何か疑問が?」
「はぐれ悪魔とは欲から体に変質をもたらすと聞いていたが、それにしては綺麗な体をしていたな。生物学的観点から言わせて貰えば種の変化は悪魔になった時のみだろう。その主人殺し、主人側に問題があったのではないのか?」
「本気で言っているのですか?」
「これでも多くの人を見てきた。あの眼は精々スラム街で生きている子供ぐらいの曇り方だ。十分矯正は可能だな。調べる価値はあるだろうな」
「基準がわかりにくいのですが」
「生きるために悪いと思っていてもやるしかない。そういう奴の眼だ。うん?やれやれだ、まだ完治していないのにな」
たまたま視界に件の猫が見えた。気配遮断でグレイフィアを振り切り、魔力で肉体を強化して走り、そのまま拾いあげてミリキャスの部屋の窓からこちらの方を見ているグレイフィアに向かって投げる。投げる瞬間に攻撃態勢と認識されたのか、私の姿を見て驚いている顔と目が合いましたが、まあ頑張って耐えてください。ここから部屋まで1kmほどありますから、全力で投げるんで。
甲高い猫の鳴き声が聞こえる中、見事にグレイフィアがキャッチするのを見届けてから再び気配遮断を行ってからゆっくりと部屋に戻る。気配遮断を切ると同時にグレイフィアと黒歌が振り返る。
「相変わらずの隠密性ですね」
「自慢の技だ。それで話は終わったのか?」
「とりあえずわね。調べ終わるまでは監禁させてもらうわ。ミリにはちゃんとした病院で診てもらっていると話を合わせて」
「分かった。それでは私は引っ込ませてもらおう。それではまた、いや、少しだけ」
針と糸を作り出し、黒歌の開いた傷を再び縫合しておく。
「無理だけはしないように。それではまた会おう」
ベッドに戻り、寝る体制を整えてから内側に戻る。そこではミリキャスと『私達』が誰かのための物語の劇をやっている。ここは夢の中だからこそ何でも出せる。それにも関わらず加工しやすい紙や段ボール、テープや絵の具を使って舞台や簡単な衣装を作っている。私はそれを生み出した椅子に座って微笑ましく眺める。
少しずつではあるが、『私達』の数が減っている。満足して流れに乗って次の命として生まれるために。座の方の私の元には新たな『私達』が生まれているのでしょうが、ミリキャスの中にいる私の元には生まれてこない。パスが微妙に絶たれているようですね。いずれは私を含めて誰もいなくなってしまうでしょう。まあ、ミリキャスが大人になる頃でしょうから焦る必要はありません。それまでにミリキャスには多くのものを残してあげましょう。それが私という存在ですから。
後書き
型月のジャック・ザ・リッパーが元ネタですが、型月の設定だけではどう考えてもジャック・ザ・リッパーになることはないと考え、中心核となる先生を用意してみました。
ちなみにジャック・ザ・リッパーとは日本やアメリカで言う名無しの権兵衛やジョン・ドゥと同じで特定の人物を指す言葉ではありません。なぜなら未解決事件群であるからです。犯人がわからず、類似事件らしきものが混ざったりしてしまったために何人のジャック・ザ・リッパーが存在したのかがわからないのです。色々な小説や漫画で登場するジャック・ザ・リッパーはどれもが本物であり、どれもが偽物である。そんな不確定な謎の殺人鬼。それがジャック・ザ・リッパーの魅力でしょうね。
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