ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D
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ハイスクールD×D 英雄を求めて
side ロスヴァイセ
魔術が使えない。それが私のたった一つの、とても重い問題だ。術式に問題はない。魔力だってある。なのに、何も起こらない。稀にだが先天的に魔術を使う才能が欠如していてどんな魔術も魔法も使えない者がいる。それが認められず、私は努力をし続けた。ありとあらゆる魔術書を読んだ。だけど全てを覚えただけで駄目だった。高名な魔術の使い手に師事を請うた。でも魔力量が増えただけで駄目だった。悪魔と契約した。それでも駄目だった。
何もかもが嫌になり、それでもやっぱり諦められずに、心のどこかでどうせ駄目だと思いながら、一人で練習できる場所を探して森を彷徨い、偶然見つけた開けた場所で私は運命の出会いをした。
「こんな森の深くまで女一人でやってきて、悪い奴に何かされても文句も言えないぞ」
フード付きの空のような水色の服装、空よりも深い海のような青い髪、対照的に目立つ赤い瞳と槍。それが私の戦いの師にして、初恋の人。リンとの出会いだった。
side リン
軽く自己紹介したあとに事情を聞いてやる。まだ中学位の女がこんな森の奥深くまで一人で来るなんて自殺行為だ。まあ魔術が使えれば問題ないと思っていたんだが
「魔術が使えねえ?」
軽く見た所、魔力は問題ない。知識も問題ない。それでも使えない?直接見てみるしかないな。
「ほれ、最高品質のヤドリギだ。とりあえず初歩の矢で良いから見せてみろ」
懐のポケットからヤドリギを取り出して投げ渡す。少しだけ躊躇した後に術式を編んで、発動直前に解かれたのを見逃さない。
「次だ。ルーン魔術だ。氷で構わん」
そしてルーン魔術も発動直前に解かれた。暗示の類でも掛けられてるのか。仕方ねえな。
「手伝ってやるからもう一回だ」
背後から抱きしめてルーンを描く右手を握る。
「ちょっ、ちょっと!?」
「いいから集中しろ」
男に対する免疫が無いようだが今は無視する。同じように氷のルーンを描き、発動直前で解こうとする瞬間にオレの魔力を背中に流して驚かせ、頭を空っぽにさせて暗示を強引に超えさせる。次の瞬間、目の前に氷の塊が現れる。
「お前が魔術を使えないのは才能とか病気じゃねぇ。単純にお前が発動直前に解除してるだけだ。何処の誰が仕掛けたのかは知らないが、趣味の悪い奴がいたもんだ」
暗示の位置は分かったので気付かれないように破魔のルーンを打ち込んで暗示を解いておく。これで問題はないだろう。
「一度でも暗示を乗り越えれば問題ないはずだ。今度は一人でやってみな」
離れて近くの切り株に腰掛ける。もう一度氷のルーンが描かれ、再び氷の塊が現れる。
「ほ、本当に、私が」
「ほれ、ヤドリギも試してみな」
もう一度ヤドリギを渡してやり、初歩である矢として撃ちだす。
「問題はないみたいだな。知識も魔力も足りてるんだ。あとは慣れれば一丁前の魔術師だ」
そう言ってやると、少しの間だけ固まり、ぼろぼろと大粒の涙を流し始める。
「わ、私、いらな、娘だって、ずっと、ずっと」
「あ~、そりゃあ、辛かったな。だけど、それも過去のことだ。これからは今までの努力が認められるようになる。誰もバカにしたりなんてしねぇよ」
抱きしめて軽く背中を叩きながら泣き止むのを待つ。しばらく待っていると、顔を赤くしながら離れた。時間にして10分ほどだろうな。
「お恥ずかしいところをお見せしました。それから、本当にありがとうございます」
「おう、気にすんな。だが、気をつけろ。お前に暗示をかけた相手の目的がわからねえ。成長を促すために身内がかけていたのなら問題はない。そうでなかった場合、お前の不幸を求めた奴か、お前を自分の物にしようと考えた下衆が居やがる。身を守れる自信はあるか?」
「それは……」
「まあ、ないだろうな。仕方ねえ、乗り掛かった船だ。多少の戦闘の手ほどきをしてやる」
「いいのですか?」
「構わねえよ。とは言え、オレが教えてやれるのはルーン魔術とケルト魔術、それと槍だけだ。むしろ槍と体術がメインになるな」
「槍。やっぱりクー・フーリンに憧れて?」
「まあ、そんなところだな」
ある意味でクー・フーリンに最も近い存在と言ってもいいかもしれないが、どうでもいいことだ。オレはオレなんだからな。
それから2週間ほどロセに槍と体術の最低限の基礎を教え込んだ。魔術に比べればそこまで才能はない。とは言え、並よりは上。上の下位の才能だな。体捌きだけは徹底的に叩き込んだから同格の相手に手こずるようなことはないだろう。
この2週間の間、ロセには魔術を以前と同じように失敗するように言いつけてある。暗示をかけた相手が誰か判明するまでは人前で魔術を使わないように言ってある。だが、それでも相手は気付いたのか、ロセの後をつけてオレ達の前に姿を現した。
「お前か!!オレの邪魔をしていたのは」
「あん?なんだ、てめぇは?」
やってきた男は金髪でオッドアイでそこそこ鍛えられている割には呼吸が多少乱れて、魔力量は多いが全然安定していない、なんともチグハグな男だった。
「折角ロスヴァイセを優しく攻略しようと暗示をかけておいたのによ」
「知り合いか?」
「いえ、知りません。なんで私のことを?それに暗示をかけたって」
「まだ妄想事を垂れてやがるが、アレは殺した方がいいな。見たこともない相手に暗示を簡単にかけれるんだ。どんな隠しダネがあるかわからない。見たくないなら目をつぶっていろ」
「いえ、見届けます」
「じゃあ、見てな。槍術と体術にルーン魔術を加えた最高の一撃を!!」
全力で踏み込むと同時に原初のルーンを刻んだゲイ・ボルグで心臓を貫く。
「はっ、無駄だ!!オレはアーカードのごふぅ、な、なぜ再生が、命がどんどん減って」
「アーカードだかなんだかは知らねえが、オレの槍にぶち抜かれて無事に済むわけないだろうが」
「い、いやだ、こんな所で死んでたまるかああああ!!」
「しぶといな。ならばその命、捧げてもらおうか。燃やし尽くせ木々の巨人、灼き尽くす炎の檻ウィッカーマン!!」
呼び出すのはドルイドの儀式において造られる人形の檻であり、自分ごと体内に取りこんだものを神へと捧げる業火を身にまとう。今回は人一人分だけの大きさなのでそこまで大きくないが、それでも3m程の大きさがある。木で出来た巨人が男を檻に閉じ込めて業火によって自分ごと全てを燃やし尽くした。
「ドルイドの儀式に使われる祭壇に似ていますね。ですが、あれを捧げても良かったのですか?」
「あとでちゃんとまともな物を捧げ直しておくさ。それに昔から人を生贄にしてたからな。たぶん大丈夫だろう」
「それにしても、一体何だったんでしょうか?心臓を貫かれても少しの間は平気そうでしたが」
「おそらくは蘇生魔術の重ねがけだろうな。だが、その再生が覚束なくて焦ってたんだろう」
ルーン系統って訳じゃなかったな。悪魔由来の物か?
「念のためにもうしばらくだけ擬態しとけ。それが終わったら、存分にその力を周囲に見せつけてやれ」
「はい」
その後は平和なもんだった。探査のルーンでも奴みたいなのは他にはいないとわかったからな。ロセも制限を解禁して一気に頭角を現した。その結果、すり寄ってくる奴らがウザいらしい。代わりに、オレの方で問題が発生してきた。ギリギリまで引き延ばして、その後はトンズラだな。
side ロスヴァイセ
リンに出会ってから半年。私の実力が認められてオーディン様付きの戦乙女になることが決まった。私はそれを両親やおばあちゃんよりも先にリンに伝えるためにいつもの森の広場に向かった。そこにはいつものようにリンが切り株に座って私を待っていた。
「リン!!」
「よう、ロセ。何かあったか?」
「ええ、私、オーディン様付きになれたの」
「良かったじゃねえか。ついでに丁度良いとも言えるな」
そう言ってリンが、自分の赤い槍とは別に銀色の槍を私に手渡す。
「卒業祝いと就職祝いだな。ちょっと特殊なルーンを刻んである。槍の練習を怠るなよ」
「リン?」
今になって気づいたが、何処か雰囲気が違う。
「何かあったの?」
「ああ、ちょっとな。いや、はっきり言っておくか。オレは此処を離れる。正確に言えば、親から逃げる」
「どういうことですか!?」
「言葉通りの意味だ。このままだと、オレは歩みたくもない道を歩まされる。だから逃げる。それがダメなら戦って、最終的には死を選ぶ」
「なんで!?そこまで追い詰められているのですか?歩みたくもない道って?」
「ロセ、『英雄』を知っているか?一般的な意味ではなく、裏の意味の?」
英雄。確かそれは
「過去の英雄といわれる偉人の魂か肉体をもって生まれた人。まさか、リンも?」
「いや、違う。オレは『英雄』ではない。だが、『英雄』に近い存在である。オレの親父はクー・フーリンの魂を、お袋はクー・フーリンの肉体を持つ『英雄』だ。つまり、オレは両方を引いているとも言える。そして、この槍は神器にも組み込まれずに現存しているゲイ・ボルグ。今はルーンで封印しているがな。リンと名乗ってるが、親父達にはクー・フーリンと名付けられた。そして親父や他の『英雄』共は英雄の名を汚すことを計画してやがるらしい。オレはそれには賛同できない。そして決起した時は潰しにかかる!!だが、それは最終手段にしたい。だから、逃げる」
「リン、それは本当なの?だったらオーディン様にも報告しないと」
「無駄だ。まだ何もしていない奴を裁くことはできないし、どんなことをするのかも分からないんじゃな。今逃げ出さないとゲッシュを結ばれる可能性がある。そろそろ行くわ。最後に会えてよかった」
「待って!!もう、会えないの?」
「さあな、分からん。まあ、お互いに生きていればいずれ会う機会はあるだろうさ」
ダメだ、リンを止めることはできない。もう決めちゃってる。もしかしたらこれが本当に今生の別れになるかもしれない。そう思うと涙がこぼれ落ちる。
「あ~、もう、泣くなって。側には居てやれないが、半年前のあいつみたいな奴から身を守れるものをやるからよ」
リンが右耳に付けていたイヤリングを外して、それを私が付けていたものと付け替える。
「そいつにはオレのルーンを片っ端から組み込んである。そいつがオレの代わりに守ってくれる」
「でも、貴方じゃない」
「聞き分けてくれ。ゲッシュはクー・フーリンを殺した原因であると言ってもいい。それだけの物がある。死ぬことはまあいい。だが、英雄を汚す行為に加担はしたくない。誰もが憧れる英雄。それを汚すっていうのは親殺しよりも罪深いことだとオレは思っている」
「私は、私はそれでも構わない。英雄なんて過去のことよりも、私を救ってくれた『リン』っていう英雄の方が大事なの!!」
「例え、英雄を捨てたとしても、オレはこのままなら使い捨ての道具にされるだけだ。だから、側には居てやれない」
本当は分かっている。だけど、それでも、リンに側にいてほしいと私の心が叫んでいる。
「許せ、ロセ。世界は動乱期を迎えようとしている。久々の動乱期だ。あちこちで不満が大爆発する。それらが全て片付いたら、オレは再び戻ってくる」
リンが見たこともないルーンを刻んでいる。
「これがロセにしてやれる最大限の祝福だ」
私の意識が遠のいていく。ああ、私を置いてリンは行ってしまう。せめて、これだけは
「愛、してま、す」
「すまんな。今は答えてやれない」
side ゲンドゥル
夜になってもロセが帰ってこない。遅くなるときは必ず連絡を入れてきたあのロセが。森のどこかへと入っているのは分かっている。だが、後を追いかけさせてもロセを見失ってしまう。何らかの魔術による結界で隠蔽されているのはわかったが、それだけだった。その結界が急に消え去った。戦えるものが臨戦態勢で森の入り口に集まる。精霊たちが入り口から奥へ奥へと向かっていくからだ。精霊の申し子とも言えるものがいる。誰もが緊張しておった。そして、それが現れる。
全てが青色で固められた服に深くかぶったフードの奥からはみ出している青い髪。対照的に目立つ赤い槍を背負う男がロセを抱きかかえて現れる。
「この子の家族はいるか?」
若い男の声が響く。儂が一歩前に出ると、男が歩み寄ってくる。意識がないロセは見たこともない銀色の槍を抱きしめている。
「この子から、俺の記憶を封印してある。再び俺と出会うか、こいつを使えば封印は溶ける」
そう言って男がロセと共にペンダントを渡そうとして、ロセが服を握り絞めていることに気づき、優しく丁寧に指を一本ずつ緩めていく。それだけで大体の関係がわかった。記憶を封印して去ろうとする理由も。
「こいつをかけてやれば封印は解ける」
「なぜ、そんなことを?」
「色々あるんだよ。騒がせたようですまないな。森はもう元に戻っている。俺はここから離れる」
男はそのまま踵を返して去ろうとする。
「待て!!」
「何か用か?」
男は歩みを止めずに背中越しに返事を返してきた。
「この子が、孫のロセが色々世話になったようじゃな。魔術が使えるようになったのも、お主のおかげじゃろう。ありがとう」
「気にするな。人助けは趣味みたいなものだ。俺も出来る限りの事をしてやったから、もう大丈夫のはずだ」
「そうかい。それでもありがとう」
男は軽く手をあげるだけでそのまま去っていった。あれは、いい男だ。同時にひどい男でもある。巷で言われる『英雄』共よりも英雄に近い魂を持つ男だ。過去の英雄たちの中に紛れておっても、違和感などない。だから、いい男だ。同時に、英雄は女を泣かせてばかりだ。あの男もロセが泣くと分かって記憶を封印した。泣かせたくないから。ロセも難儀な男に惚れたものだ。泣かずに済むには、背中を預けれるほど強くなるしかない。共に戦えるほどの強さと覚悟を。全てを叩き込んでも追いつけるかどうか。まあ、ロセ次第か。それ自体もあの男がどれぐらい記憶を封印したかにもよるじゃろう。願わくば、ロセが笑顔で入られますように。
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