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甘やかした結果

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1部分:第一章


第一章

                     甘やかした結果
 タマは三毛猫だ。黒と茶色、それに白のよくあるタイプの三毛猫だ。日本の猫だが丸々と太っている。どうして丸々と太っているかというと。
「ほらタマ、御飯だぞ」
「おやつの煮干よ」
「今日はササミあるからな」
「ミルクあるわよ」
 彼女、タマは雌猫である。その彼女にだ。
 飼い主である夫婦、時任義弘と賀代子はだ。せっせせっせと御飯やおやつを与えていた。
 しかもそれがいつもふんだんにある。猫に美食を与えていた。
 そんな二人を見てだ。息子の新太はいつもこう言っていた。
「だから甘やかし過ぎだって」
「別にいいじゃないか」
「そうよね」
 しかし二人はだ。こう息子に返すだけだった。
 そしてそのうえでタマを愛情に満ちた目で見てだ。こう言うのだった。
「今度はタマの毛づくろいをしないとな」
「ブラシ新しいの買ってきたわ」
 賀代子はこう言いながらその新品の見事な猫用のブラシを出してきた。
 そして義弘はそのブラシを受け取ってタマのブラッシングをする。するとタマはその場に悠然と寝てそのうえでだ。女王様の顔でそのブラッシングを受けた。
 そんなタマと両親を見てだ。新太はまた言った。
「猫ってさ。優しくしてもだよ」
「んっ、どうしたんだ?」
「何かあるの?」
 父はブラッシングをして母はミルク用の皿を洗っている。
「こんな可愛い猫いないだろ」
「あんただってそう思うでしょ」
「猫は三日経てば恩を忘れるから」
 よく言われていることをだ。息子は言うのだった。
「優しくしても無駄だよ」
「ははは、そんなのどうでもいいだろ」
「そうよ。可愛いからね」
「可愛いから甘やかすのかな」
「だから可愛いじゃないか」
「可愛いからいいのよ」
 完全にのろけだった。二人の言葉だ。
「ほら、御前もタマ可愛がれ」
「いじめたら駄目よ」
「いじめたりしないけれどね」
 新太もそうしたことはしない。彼はいじめはしないのだ。
 だが釈然としない顔でタマと両親を見てだ。こう言うのだった。
「全く。後でどうなっても知らないよ」
「どうにもならないだろ」
「そうよ。猫が何するっていうのよ」
 両親は息子の忠告を軽く受け流した。そうして優しくブラッシングをして美味しい猫用のミルクをあげるのだった。タマはとにかく甘やかされていた。
 そしてそのタマはだ。家族が新聞を読んでいるとだ。
 そこに絶対に来てだ。新聞の上に寝転がる。その新聞紙の上の猫を見てだ。丁度今新聞を読んでいた新太は顔を顰めさせてこう言った。
「何なんだよ、どけよ」
「新聞読まなかったらいいじゃないか」
「そうよ。後で読めばいいじゃない」
「だからそういう問題じゃないじゃないか」
 新太はそんなタマを怒るどころか頭や喉を触ってあやす親達に返した。
「猫が新聞の上に寝転がるのってさ」
「遊んで欲しいんだよ」
「自分に注意を向けて欲しいのよ」
「それはわかってるよ。けれどさ」
「けれど?」
「けれどって何よ」
「僕が言いたいのはそういうことじゃなくてね」
 むっとした顔のままでだ。彼は言うのだった。
「これ、凄い邪魔じゃない」
「だから後で読めばいいだろ?」
「タマに怒ってるの?ひょっとして」
「ひょっとしなくてもそうだよ」
 その新聞の上でごろりとなっているタマを見ながらの言葉だ。そのでかく太った身体で新聞紙をこれでもかと占領している。確かに迷惑だ。
 
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