破壊ノ魔王
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一章
28
「あ、やっときた!」
「あ?もう出番か」
「ギリギリセーフ。次の人のが終わったら控え室行かなきゃ。もちろんぼくだけね」
「そうか。じゃ、最後見とくか」
ふーん
下手くそっていってたわりには気にしてるんだ、他のひと。次は2位のひとだから、まぁ一番の強敵かもしれないけどさ
お。始まった
「…………」
その飛空挺は他とは比べ物にならないほど優雅だった。減速しているはずだけどそれもわからない。ぼくがすごいと言った直滑降だって、華麗に90度折れ曲がってギリギリのところで再上昇。雑なところがない。技の一つ一つがつながって、さぁいくぞ!っていう時間がちょっともない
綺麗にカーブを描き、飛空挺を真下や真上に自由に操る。本当に、鳥のよう……
「……やばいな」
「え?」
空から目を離すと、そこには
なぜか嬉しそうに笑うゼロがいた
「負けたわ、俺」
えええええええええええええ!????
「次、シルクさん。搭乗し準備してください」
「はい……」
サイアクだ
ゼロが負けっていった
いや、わかるよ
素人から見てもアレはすごかった
ほんときれいな演技だった
でも負けるだなんて……
嘘を言わないゼロが負けるだなんて……
「おう。遅かったな」
飛空挺の搭乗口には、けろっとしたゼロが煙草を吸っていた。堂々と、隠れるようすもなく
というか、隣に試験官いるんですけど!?
「ちょ……ゼロ!?」
「静かにしろって。周りに訊かれたら流石に無理だぞ」
「だって試験官!」
隣にいるじゃん!
バレてんじゃん!
めっちゃ堂々と!!
ってか一緒に煙草吸ってるし!
「あーん?言ってないんですかい?ゼロさん。当事者でしょう?あのこ」
「説明するのがめんどくさくてな。それより、いいんだよな?さっきの」
「あぁ……ちょっと待ってくださいよ。長年この仕事やってるけど、そーゆーこと言ってきた人はじめてなんで……」
……あーもう、わからん
わかんないけど
どーせ
負け、だし……
「なんだその面」
「……えーと。ゼロはなんか悪い顔してるね」
にやっとして……悪巧みしてる顔だ
「ま、面白くなってきたからな」
それからまた試験官とぼそぼそと話し、それがおわったとおもったら今度はテキパキと動きだす。手袋して、ドライバーもって、ペンチにごっついハサミ……
「…………なにやってんの」
「改造」
「………………」
はい!????
「お前、俺が負けると思ってるんだろ」
「負けっていってたじゃん」
「技術ではな。でも勝負には負けねぇよ。負けねぇようにする」
するって…………
「改造して?」
「そーゆーこと」
勝つために頑張ろうとか、集中しようとか
そーゆーことじゃなくて 改造
もうどこからつっこめばいいんだろう……
「いやいやゼロさん。新しいパーツを加えるならそりゃ勝てるだろうけど、無理があるよ。いじるだけじゃ。完成したものを壊したら欠陥品にしかならないよ」
試験官はまともなことをいった
「いいから黙ってみてろ。おいガキ、開始10分前になったら教えろ」
「わ、わかった……」
もーよくわかんないけど、どうにでもなれってことだな、うん。もうゼロに任せるしかないんだし
それにしても……
ゼロの手さばきはすごく早くて、迷いもなければ考える時間さえない。さらりとネジをはずして銅線をぶち切ってつなぎ、パーツの位置を入れ換えた
試験の基準としては、指定された飛空挺を利用すること。パーツの追加や変更は禁止、また取り除くのも禁止……とあるらしく、追加や除去をしないというだけで、中身をいじるのを禁止とはないらしい。というのも、それにメリットがないからだと試験官は教えてくれた
でも真剣に作業に取り組む顔を見ていたら……
「あ、10分前!」
「りょーかい。もう終わる」
ゼロがいじった箇所はまた元に戻され、なんの変化もない飛空挺が取り残された。外も中も、上も下もいじったのに何も変わらない
「さて、準備するか」
それなのにゼロは満足げな表情だ
飛空挺のなかは意外と狭くて、運転席と助手席があるだけだった。ということは、座る椅子が足りない
「いいっすよ。シルクさんは席座って。俺は後ろの壁でいいわ」
非常時用のシートベルトがそこにあり、試験官はそれをつけて立った。ぼくはゼロのとなり。サクサクとエンジンとかものすごい数のスイッチを確かめている
「それにしても驚いたなー。あの天下の魔王ゼロが銀の扉の一人だったとは」
銀の扉?
「見る目はいい方なだからな。それより、取引内容は?お前は試験者の変更を見逃すかわりに何を要求するんだ?俺に」
「そーですねぇ……あんただったら金でも命でも何でも揃えてくれるんだろうな」
「割りに合わねぇことはしねぇけどな。考えて物を言えよ?あまりにもぶっとんだこと要求するんだったら、アイツに直訴する」
「あわわ、それは勘弁。銀の会員から外れたら生きる楽しみがねぇや」
「それは結構なこった」
「後日回答させてもらいますわ。あんたほどの大物、簡単に答えたくはないですからね」
「じゃそーしろ。俺がばっくれても知らねぇよ?」
「そういう人じゃないでしょ。そんくらいわかりますよ」
…………なにをいってるのか、さっぱりなんですけど
さっぱりすぎて聞くこともできないや
いいや、またゼロに教えてもらおう
『それではランクナンバーワン、シルク選手!開始してください!!』
は、はじまった…………
「俺との取引は交代を認めただけで、審査は通常どおり厳しくさせていただきますよ?」
「それで十分。お前ら、舌噛まねぇようにしとけよ!」
勢いよくゼロがレバーを引く。徐々に轟音とともに振動する飛空挺は……
当然爆発したようなスピードで空を飛び上がった
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