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ソードアート・オンライン stardust=songs

作者:伊10
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アインクラッド篇
movement Ⅲ 迫り来る狂気の行進曲
  迷いの森にて

三十三層転移門前

「悪いな。待たせた、アマギ。」

「気にすんな。呼び出したのはこっちだ。」

オレンジギルド《タイタンズハンド》を牢獄に送り込むと約束したが、流石に一人でギルド一つを相手にするのは骨が折れる。そこで助っ人を頼むことにした。それが、目の前にいる《黒の剣士》ことキリトだ。

「で、この層にいるのか?」

「………多分。」

「多分?」

正直に言えば確信はない。何せ目撃証言頼りなのだ。

「この層でそれらしい奴を見たって話なんだが………残念ながらここのフィールドダンジョンは………」

「『迷いの森』だったな。」

ランダムにエリアが入れ替わるダンジョン。地図さえ持っていれば何とかなるが人探しとなると此処ほど面倒な場所はそうそう無い。それにここは―――――



「………もう平気か?」

「…………ああ、忘れる事は絶対に無いだろうが、少なくとも乗り越えたつもりだ。」

「そうか、ならいい。」

そう、ここはあの《背教者ニコラス》と激戦を繰り広げた場所だ。立ち直っていたとはいえ、中々キツいものが有るかと心配したが、杞憂だったようだ。

「じゃあ、行くか?」

「ああ、これ以上の被害が出る前に止めなきゃな。」

そう言って二人で歩き出した。















時間は進み既に日も暮れた。

「………いないな。」

「………ああ。」

二人してため息をつく。散々探したがどうにも見つからない。途中幾つかのパーティーに出会ったが、皆見ていないという事だった。

「……仕方ない、次のエリアに居なかったら引き上げるか。」

「そうだな。昼から探索(もぐ)ってるなら向こうも街に帰る頃合いだしな。」

俺の提案にキリトも頷く。そして目の前で揺らめく転移門に一歩足を踏み入れた。

飛び出した先で見たのは戦闘。それ自体は珍しくもなんとも無いのだが……

「ドランクエイプ三体か。それもソロ。よっぽど自信があるのか?」

「……いや、大分厳しそうだぞ。」

そう、戦闘中のプレイヤーは消耗が激しそうだ。恐らくドランクエイプの特殊能力、体力回復の薬品に手こずっているのだろう。プレイヤーの少女も、隣にいる青い小竜も大分キツそうだ。

……………青い小竜?

「あの子、ビーストテイマーか?」

ビーストテイマー。超低確率で遭遇する非攻性(ノンアクティブ)モンスターを手なずけると使い魔モンスターとしてプレイヤーをサポートするようになる。それに成功したプレイヤーをそう呼ぶのだ。

とにもかくにも、助太刀しようと走り出す。敏捷値の関係でキリトの方が速い。

と、その時だった。主に迫る一撃を、テイムモンスターが身を挺して庇ったのは。

そして、少女の目の前で青い小竜は四散した。

少女は怒りに身を任せた様に、小竜を殺したドランクエイプに集中攻撃を仕掛ける。他の二体は眼中にないらしく、捨て身の連撃を加える。その一体のHPを削り切った時には、少女のHPは真っ赤に染まっていた。と、そこでようやく、先行していたキリトが間合いに入った。

一閃

ドランクエイプ二体が横薙ぎに引き裂かれ、次の瞬間にはその全身をポリゴンへと変えた。

「………済まない。君の友達、助けられなかった。」

「………いえ、ありがとうございます。助けてくれて……。」

キリトの言葉に涙を流しながら応える少女。その背後に、何やら不自然な木があった。と、その木から手が生え、目が開き、奇声と共に腕を振り上げた。――――タイミングで俺が投げた短剣が突き刺さった。

「キリト、詰めが甘いぞ。」

「悪い、助かった。」

「……まぁ、索敵に反応しないトレントだから仕方ない部分もあるけどな。」

言いつつ、トレントが四散して地面に落ちた短剣を拾い上げる。ジャケットの内側にしまい直すと、少女の方を振り向いた。

年齢12~3歳といったところか。軽装鎧のダガー使い。間違いない、この子は《竜使いのシリカ》だ。何度か星月夜亭に来たことがある。

「えっとぉ………シリカちゃん、だよね?俺の事分かる?」」

「あ……はい、星月夜亭のウェイターさんですよね?三十一層にある……。」

うぉう………俺の扱いウェイターなのかよ。まぁそう間違っても無いのが痛いが。

と、そこでシリカは傍らに落ちていた青い羽を拾い上げる。

「ピナぁ………私を一人にしないで…………お願い……。」

その様子を痛ましく思いつつも何か引っ掛かる。何だ?

「ちょっと待ってくれ。その羽、アイテム名登録されてるか?」

キリトが割ってはいる。アイテム名?何か思い出せそうなんだが……。

シリカはポップアップメニューからアイテム名を確認する。名前は……《ピナの心》。それを見てシリカは再び泣き出してしまった。

心?そういやどっかで聞いたな。あれは……確か………。

「わっ!?な、泣かないで!心アイテムが残ってるならまだ可能性はある!」

キリトのその言葉で思い出した。あれは確か四十七層にある………。

「『思い出の丘』か?キリト。」

「思い出の……丘?」

「ああ、四十七層にあるダンジョンなんだけど、そこでテイムモンスター蘇生用のアイテムが採れるんだ。」

「ほ、本当ですか!?」

目を輝かせるシリカ。しかし、その表情は直ぐに曇ってしまう。多分レベルの問題に思い当たったのだろう。四十七層で必要なレベルは安全マージン込みで50後半から60。それに対し彼女のレベルは……恐らく40と少し。一般なRPGなら問題無いだろうが、ここはSAO、デスゲームなのだ。

「ん~、俺達で採ってきてもいいんだけど、ビーストテイマー本人が行かないと肝心のアイテムが出ないらしいんだよな。」

「そう、ですか………。」

一瞬表情が暗くなる。が、直ぐに顔を上げた。

「ありがとうございます。どれくらいかかるか分からないですけど、いつか必ず、ピナを復活させます!」

見上げた決意だ。だが……

「……残念だが、三日以内に蘇生させないと、心が形見に変わってしまって、二度と蘇生できないらしい。」

「そんな………。」

再び絶望に顔を歪めるシリカ。さて、どうしたものか。

「………アマギ。」

「皆まで言うな。お前の言いたいことは想像できる。」

そう言うと俺はストレージを開く。よし、ドロップ品なら幾つかのある。

そのままトレードタブに移動し、幾つかのアイテムを選択してシリカにトレードを申し込む。

「こいつら使えば、3レベル分は上乗せできる。あとは俺達で脇を固めりゃどうとでもなる。」

「え…………良いんですか!?」

突然の俺の申し出に、シリカは喜びよりも警戒心が先に立ったようだ。まぁそうだろう。上手い話は裏がある。現実でもSAOでも、不変の法則だ。

「あの、どうしてこんなに良くして
くれるんですか?」

「俺はお節介でね。キリトは?」

「うっ、わ、笑うなよ?」

そう念をおして、キリトが言ったのは……

「君が妹に似てるから。」

……不覚にも吹き出した事をここに謝罪します。

「笑うなって言っただろ!」

「す、スマン………ププ。」

「あ、え、えぇーっと。その宜しくお願いします!………あ、」

「ん?」

「まだ、お名前を聞いてませんでした………。」

「っと、そう言えば。俺はアマギ。そっちの黒いのはキリトだ。」

「……なんか雑だな。」

「いいんだよ。じゃあ改めて、宜しくな、シリカちゃん。」 
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