μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
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第19話 ミナリンスキーの想い
初めて知ったとき夢なんじゃないかと思った
穂乃果に頬を引っ張ってもらったり、海未に叩いてもらったりしてもらったけど覚めることはなく、現実なんだと感じた
オープンキャンパスから3日経ち、理事長から伝えられた
廃校延期のお知らせ
嬉しくて嬉しくてみんなそれぞれハイテンションだった
特に穂乃果は授業中ずっとニヤニヤしててかなり不気味だった
海未は授業を真面目に聞いているように見えるが心ここにあらずって感じだった。
ことりはノートとにらめっこしてはにこっと笑ってにらめっこしてはにこっと笑って....を繰り返している
そんな中俺はというと......
1つの茶封筒をじっと見つめて落ち込んでいる
そう...中身は.....
「みんなみんな!!ビッグニュースだよ!!」
授業が終わると穂乃果はまっすぐ部室へととんでいき、
先に部室に来ていた花陽と凛と話をしていた。
「大地先輩やりましたね!オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定はもう少し様子をみてから、となったそうです!」
待ちに待った廃校延期
阻止とまでは行かないが廃校に待ったをかけたことは俺たちにとって大きな結果だと思う。
「でも!それだけじゃないんだよ〜!!」
穂乃果はポケットから鍵を取り出して部室の一番奥にある開かない扉に手を掛ける。え?鍵?
ガチャ
「ほら!隣部室なんだよ!広くなったんだよ〜!!」
ロッカーの他に長椅子があり、それ以外は何もない広い広い空間がそこにはあった。
つまり........
「ここで練習できたり?」
「そうですね。雨の日とかはいいかもしれません。少しばかり狭いですが」
海未がそう付け足してくれた
「くるくるくる〜♪いやぁよかったよかった」
穂乃果は広くなった部室でくるくる踊り出す。
「安心するのはまだ早いわよ」
凛とした声が響く。その声の持ち主は先日まで俺達のことを忌み嫌っていた。それが今はこんな感じ....嫌うどころかめっちゃ心配している。
「絵里先輩....」
「生徒がたくさん入ってこない限り廃校の可能性はまだあるんだから、頑張らないと---「ひっく....ぐすっ」
「え?」
絵里先輩が注意している中隣で海未は号泣していた。
「どったの?海未よ....」
「いえ....嬉しいです!まともな事を言ってくれる人がやっと入ってくれました!!」
「ええっ!?....ちょっと大地くん、μ‘sの実態ってこんなのなの?」
海未は泣きながら絵里先輩にしがみつく
絵里先輩はよくわからないというような表情でよしよしと頭を撫でていた
「それじゃあ凛たちまともじゃないみたいだけどー」
「まぁ....個性の強いメンバーしかいないですからね。海未は普段真面目ですけど、あぁ見えて実はいじ--「うるさいです!」
ゴスッ!!
「ぐへぇっ!!」
言葉を遮られて海未のパンチが炸裂した
「な、なにすんだよ.....これからだってのに...」
「大地くん〜ここはひとまず置いといて...ほな、練習しよか?」
海未と俺の間に希先輩が介入し、その場を収める
「そうですね....μ‘sの練習に付き合うのも久しぶりだな〜」
絵里先輩の代わりに生徒会の仕事をこなしていたので約3,4週間くらいはμ‘sのダンスを見ていない。
オープンキャンパスのダンスも見ていないので気になるところだ
「あ...ごめんなさい。私ちょっとこれから用事が.....今日はこれで!」
ことりは颯爽と荷物をまとめて風のように去っていった
あまりの一瞬の出来事だったのでみな、固まってしまった
「なんだ?どうしたんだ?ことりのやつ」
「最近ことりちゃん早く帰るんだよね〜」
「え?そうなのか穂乃果.....」
「うん....オープンキャンパスが終わってからずっとこんな感じ......」
「原因はわかるのか?」
「ん〜」
穂乃果は考え込むように唸る。
ことりと1番中のいい穂乃果や海未ですら知らないのであれば
俺はもちろん他のμ‘sのメンバーも知らないか....
「.........ことり先輩....彼氏でもできたのかな?」
花陽の一言でみんな凍りつく
「「「「「「「「えっ!!!!???」」」」」」」」
ま......まさか...な?
「か、彼氏?あいつに?...ははナイナイ...絶対...ありえない」
俺は平常を保とうとお茶を一口飲む
カタカタカタカタカタカタカタ....
「大地.....手、震えてますよ?」
「え!?そんなわけないだろ海未〜。言いがかりもよしてくれ..ハハ」
カタカタカタカタカタカタカタ........
ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないことりが彼氏なんてありえないありえない
「大地先輩ブツブツ独り言怖いにゃ〜」
「きもちわるい....」
凛と真姫に罵倒されるがそんなことはどうでもいいくらい俺の精神は不安定だった。
μ‘sの天使が男にうつつを抜かすなんて.....
「うわぁぁぁぁぁあっ!!」
「ちょっと大地くん!うるさいわよ!」
「ええやないの、大地くん。ことりちゃんも乙女やし...彼氏の1人や2人いてもおかしくないよ?」
「彼氏2人いたら問題あると思うんだけど....」
矢澤先輩が珍しくツッコミをする。
「あれですか?矢澤先輩は彼氏いないから僻んでるんですか?」
「はぁっ!?あんた何言ってるのよ!アイドルに彼氏は厳禁なのよ!わかる??」
矢澤先輩は憤慨してバンッと机を叩く
「いや知らないっす.....てか、ふと思ったけどμ‘s...君たちは彼氏とかいないんですか?」
「「「「「っ!?/////////」」」」」
発言後、約5名の周りの温度が上昇した....ような
「真姫?お前はいるの?」
「はぁっ!?なんで私が!イミワカンナイッ!」
「矢澤先輩.....はいるわけないか....(ちらっ)」
「ん?なによ!文句ある?」
やべ、俺のつぶやき聞こえてしまったか....
「絵里先先輩は背が高くて容姿もバッチリですし、すらっとしてて相手いそうですね......」
「え?わ、わたしは....いないわよ」
目を逸らしてもじもじ始めた
「希先輩は......その素晴らしい...ゲフンゲフン。先輩の包容力で男を虜にしてそうですね」
「大地くんはウチのことそんな目で見てたんね....最低や......(ウチなんでこの子に告白したんやろ)」
「いや違いますって!いつもμ‘sを影でサポートしてくれたってことですよ!いやぁ〜先輩の彼氏になった人は羨ましいですね!」
「や...やめてよ///」
お〜照れていらっしゃいますな〜。
「凛......お前はがんばれ」
俺は優しく肩をポンとたたいてなぐさめる
「なにかイヤミにしか聞こえないんだにゃ〜.....」
そりゃ....矢澤先輩といい勝負だからな。
そーゆーのもありって人なら救いはあるけど
「花陽!君は絶対できる!男性は君のことほっとかない!守ってあげたくなるからな!だから俺も守ってやるよマイエンジェル〜♪」
「ふぇぇぇぇぇぇっ!!大地先輩!そ、そんな恥ずかしいこと.....///」
真っ赤になって縮こまってしまった。
やばい可愛すぎてお持ち帰りしたい
「海未は.....きっといい相手見つかるな!家庭的スキルも高そうだし....意外と『お帰りあなた!ご飯にする?お風呂にする?それとも..わ▪た▪し?』ってセリフ似合う気が.......あれ?」
話している途中、海未が涙目で穂乃果の後ろに隠れてしまった
その顔を見るといじめたくなってしまうよ.....うへへ
「は!破廉恥です!大地破廉恥です!そう言う話は人前でしないでください!」
怒鳴られてしまった。でもいつもと違って涙目上目遣いなため、全然怖くないむしろめちゃ可愛い。
最後に.....
「...ごくり」
「穂乃果の相手は苦労しそうだな」
「えぇっ!?なんで!?」
「だって、一直線に進んで周り見えなくなって人に迷惑かけるから....」
「そ、そうかなぁ〜」
「ま、それが穂乃果のいいところだからいいんじゃねぇか?」
なでなで....
「そ、そうかな....///えへへ、うん。そうなのかもね」
穂乃果って猫みたいだよな...人懐っこいっていうか...
「ん゛ん゛!!」
絵里先輩がわざとらしく咳払いをして注目を集める。
「話が逸れたわね。まず今日はことりがいないなかでの練習ね。この前のオープンキャンパスで踊った曲の復習をしてから基礎トレをやります」
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「お疲れ様でした〜!」
「「「「「「「「お疲れ様でした〜!」」」」」」」」
「さてさて....今日はどうするかな〜」
家に帰って勉強するのもいいけど、微妙な時間なんだよな。
少し秋葉原で暇でも潰すかな.....
「あ!笹倉大地!ちょっと待ちなさい!」
聞こえない....俺はなにも聞いていなかったんだ。
よし、急いで秋葉原に向かおうそうしよう
「ちょっと!待ちなさいって言ってるの!」
..........
「シカトしてんじゃないわよ!!」
ドゴッ
「う......ごっ......」
海未に暴力を振るわれるのは決まって腹とか頭。
だが初めて鳩尾をされてしまった。
肺から酸素が一気に吐き出され苦しくなる
「おえっ....てめぇ....矢澤先輩いきなり鳩尾とかえげつないことしますね...」
「あんたがシカトするからよ、フンッ」
このやろ....謝る気一切無しですか
これはなにかやり返さないと気が済まない
あ、そうだ......
「矢澤先輩この後暇ですか?」
「え?ひ、暇...だけど」
「ならこれから俺とデートしてもらっていいっすか?」
「は、はぁっ!?///な...ななななんであんたと!」
「ん?まぁ....それは行ってからのお楽しみってやつですよ。どうです?」
「い、行かないわよ!あんたなんかと絶対行かないわよ!」
「へぇ.....そうですか....じゃあパフェとか奢るって言ったら来てくれますか?」
ピクっ
あ、ちょっと反応した。
「........」
「.........」
「私がそんなことで釣られると思う?」
----------------------------
「で?どうしてデート先がメイド喫茶なのよ...」
「それは前に母さんからここの割引券をもらったから使わないともったいないな〜と思いまして....」
「はぁ〜」
文句を言いながらしっかりついてくるところあたり矢澤先輩らしいというか....真姫並にツンツンしてるな...いつデレデレしてくれるんだろう
ちょっぴり期待してしまった
「ま、入りますか。ネットによるとここのメイドカフェ人気らしいんですよね」
「ふんっ」
矢澤先輩はそっぽを向いて先に中へ入ってしまった。
カランカラン♪
「いらっしゃいませ♪ご主人さ.........ま?」
「「.....えっ?」」」
あれ〜?俺、視力悪くなったのかな....?
どうしてだろう、今目の前にいるメイドさんが....俺の友達に似ているぞ。
てか、瓜二つ?同一人物?
どうして....南ことりさんがここでメイドさんなんかやってるんだろうね
「あ、あの〜ことりさん?」
「ぴ、ぴよっ!!」
なんだ?今の悲鳴は
「なんでことりちゃんがここにいるのよ...」
「こ....ことり?WHAT!?ダレノコトデスカー?そ、それでは2名様ですね。席へ御案内致します。こここちらへ...どうぞ」
ことり(?)は冷や汗を流しながら席へ案内する。
足....震えてますよ?
「なにやってんだあいつ」
案内されたのは一番置くの二人用の席だ。
「そ、それでは只今お冷をお持ちしますね!」
ことり(?)は早足で逃げていった
「練習休んでた理由はこれだったのね....」
「あぁ....まさかことりがメイドさんやってたとはね...なんていうかめっちゃ可愛いし似合いすぎて鼻血出そう」
「んん?はぁ〜あんたも懲りないわね〜」
矢澤先輩はおしぼりで手を拭きながら呆れる
だって可愛いんだもん。仕方ないだろ
「ことりがメイド服着るから俺もこんなにワクワクドキドキするんだよ。でもμ'sのみんながメイド服着たら天国に行けそうだなー」
そう言って俺は矢澤先輩をチラチラと見つめてはため息をつく
「ふ〜ん.....どーせ私は色気なんて全くないですよーだ」
「んなこと誰も言ってないですよ。矢澤先輩には矢澤先輩の魅力ってのがありますから」
「ほんと?」
ずいっとテーブルに身を乗り出して顔を近づける
「や....先輩近いですって。大丈夫ですよ、そんな体型でもOKと言ってくれる人も世の中にはいますから!」
「.....そこはかとなく私のことバカにしてるよね?」
ジト目でイラつきを見せながらも時々微笑む様子からはほんとに怒ってるわけじゃないんだなと思った。
「で、何頼みますか?」
「ここはあんたの奢りなのよね?なら私はこのパフェとショートケーキとレモンティー頼むわ」
「ちょ....いくら割引券があるとはいえ、俺の財布に優しくないことしますね」
急に不安になってきたので財布の中身を確認し「よし、2000円はあるな」と、呟いて財布をしまう。
割引券もあるし俺が安いの頼めば大丈夫だろう
「すいませ〜ん。オーダーお願いします」
「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」
しばらくして俺の前にコーヒー、矢澤先輩の前に特大パフェとショートケーキ、レモンティーが置かれた
「うわぁ.....」
矢澤先輩はめちゃめちゃ目をキラキラさせる。
「先輩、ヨダレ、ヨダレ垂れてますよ」
「え?....あ///」
「まったく....しょうがない人ですね」
ずずっ
「お、ここのコーヒー丁度いい苦さだな」
「こっちもパフェとかケーキおいしいわよ?食べる?」
「いいんすか?んじゃあ遠慮なく....て、え?」
「はい、あ〜ん」
............はい、あーんって.....
矢澤先輩が笑顔でスプーンを俺の顔に近づける
「ちょ先輩...自分で食べれますって」
「む?ほらやっぱり私じゃ嫌なんだ」
「そうじゃないです...ただ人前では」
「いいじゃないの...ほら、あ〜ん...」
ちくしょう、不覚にも心臓が鳴り止まない
なんなんだ?今日の先輩は
覚悟を決めるしか....
「わかりましたよ...あ、あ〜ん...」
パクっ
「あ、うまいっすね」
「でしょでしょ?」
矢澤先輩はニコッて笑って楽しそうに自分も食べる
関節キスとか...気にしない人なのかな...
ゾワッ!!
「っ!!!!!」
なんだ?....今一瞬背後から殺意を感じたぞ?
恐る恐る後ろに振り返る
「.........(じ〜)」
ことりがカウンターから俺のことを睨んでいる
ことりに睨まてたの初めてだ。
怖い......怖いよ
「一応お礼だけは言っておくわ。ありがとう、ご馳走様」
「いえいえ....先輩、また誘ってもいいですか?」
「.......勝手にすれば?」
少しの間のあとそっぽを向いて答える
「やれやれ...先輩も素直じゃないですね」
と、いつもの癖で穂乃果にするように頭を撫でてしまった
「ちょ....//////あんた!なにするのよ!」
「あぁ、すいません。つい癖で...」
とか言いつつ撫でるのを止めない。
矢澤先輩は先輩だけど意地っ張りの妹みたいでなんかいいな...
「......ねぇ」
「はい?」
「なんであんたはいつも私のこと苗字で呼ぶの?みんなのことは名前で呼ぶくせして...」
確かに言われてみれば矢澤先輩以外の人は名前で呼んでる.....
だからなに?って思うけど
「名前で呼んだ方が嬉しいんですか?」
「違うわよ!どうしてそうなるの!ただ......」
「ただ?」
「.....///なんでもない!じゃあね!また明日」
先の言葉は言わず別れを告げる
その背中は少し寂しそうに見えて
「さよならです!『にこ先輩』」
ピタッと立ち止まり、振り返らず手を振って帰る
(......なんなのよ....なんで私はあんなこと..........)
ピロピロピロリン〜♪
スマホにメールが入った
相手はことりからだった
『これから大地くんの家に言ってもいいですか?』
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ピンポーン
「はーい」
パタパタと母さんが玄関に出る。
もう来たのか....早いな
「あら」
「大地ー、お友達が来たわよー」
「俺の部屋まで通して〜」
コンコン
「どうぞ〜」
「お邪魔しま〜す....」
そろそろと入ってきたことりはすぐに部屋の中を見渡し「へぇ〜」と感嘆する。
「大地くんの部屋って綺麗なんだね...それに何もない...」
「何もないとは失礼だな。机にベッド、ミニテーブルにタンスにクローゼット。ちゃんと備えあるじゃないか」
「違うよぉ〜なんていうか、さみしい?飾りとかないし、この様子だと勉強道具以外ないんじゃないの?」
「まぁ.....ことりの言う通りだな、別に必要とか思ってないしあまり余計なもの部屋にあると集中できなくなるんだよ」
俺はペットボトルの蓋を開け、コップにお茶を注ぐ
洒落っけがないっていうのかな。男子高校生の割には漫画やゲームも持ってないし。
「そんなことよりほら、そこの座布団に座って茶でも飲め。」
「うん、ありがとう」
「大地くん、頼み事があるの....」
「ん?」
「今日のことについて穂乃果ちゃん達に内緒にしててくれない?」
「え?」
てっきり俺だけが知らないのかと思ってた。でも思い返してみれば部活前に穂乃果が知らないようなこと言ってたからほんとに誰にも言ってないみたいだ
「別に構わないけど...意外だな〜。ことりが1番仲のいい穂乃果や海未に言ってないなんて...」
「い、いじわるで内緒にしているつもりはないよ?」
「わかってるわかってる、いろいろあるんだろ?その『いろいろ』ってのはわかんないけど」
ことりは不安そうにじぃっと俺を見つめているので
俺は頷いた
「大丈夫、俺の口からは漏れないようにするよ」
「ありがとう大地くん♪」
「でもいずれかはバレるよ?今日だって俺とにこ先輩にバレたわけだし」
「ううっ....でも今はこのままで。にこ先輩にはさっき電話で同じこと言ったから先輩の口からも漏れないよ」
ことりのバイト先のメイド喫茶はそんなに行くわけではないが、花陽の大好きなアイドルショップの近く。下手すると接触する可能性も無くはない
時間の問題だった
「でもことりって....どうしてバイトなんか始めたの?そんなにお金とかないの?」
ことりはテーブルにコップを置き、思い悩むようにだんまりとなる。
そこまで悩むようなことりは始めてみた
「私は穂乃果ちゃんや海未ちゃんと違って、何もないから...」
「何もない?」
「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張る事もできないし、海未ちゃんみたいにしっかりしてない」
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ことりside
「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張る事もできないし、海未ちゃんみたいにしっかりしてない」
大地くんの真剣な眼差しを見ていると自然に言葉が出てきちゃう。
大地くんなら笑わないで私の話を聞いてくれそうな気がするから
「........」
返答は沈黙だった
口を開いて同情するわけではなくただ私のことを見つめる。その茶色の瞳で....
「だから私は穂乃果ちゃんや海未ちゃんについていく事しか出来ないの」
「それで....バイトをすればどうなると思ったの?」
「...自分を変えられると思ったの。少しでも役に立ちたい、いつまでもついていくだけじゃダメなんだって...」
最初始めた時はメイド服が可愛くて着たかったら。
でも今はこのバイトをして自分が変われるかもしれない
成長したいと願ってやってきた。
それが私を変えるどころか日に日に自信とかなくちゃって.....
結局私はなにもできなかった
「でも..どれだけ頑張っても穂乃果ちゃんや海未ちゃんみたいになれなくて....」
「そっか.....」
大地くんはただ頷くだけ。一口コップに口を付けてからふぅっと息を漏らしてこっちを見つめる
「ことり、どんなに頑張ってもお前は穂乃果や海未にはなれないよ」
ズキン
大地くんは冷たく言い放った。それだけで胸が苦しくなる
『穂乃果や海未にはなれないよ』
大地くんがそんなこと言うなんて....
悲しくて涙が零れそうだった
「だってさ.....ことりはことりだろ?穂乃果でもなく海未でもなく、君は南ことりだろ?」
「え?」
悲しい顔をしていた私と対照的に大地くんは笑っていた
「なにを勘違いしてるんだか知らないけど、君は南ことり。おっとりで前に積極的に出てなにかするわけでもない、でも穂乃果や海未の2人を支えながら対抗心をメラメラ燃やしている女の子。それでいいじゃないか」
「た、対抗心?」
「そうだろ?2人に負けたくないから自分を変えるための手段を見つけた。ことりが自分自身の意思で何かを得ようと頑張っているならそれは立派なことだよ。胸をはっていいんだよ。」
2人に負けたくないから......大地くんの言葉は胸に染み込んできた。
そっか。私はついていってる訳じゃなかったんだ
一緒に歩んでいるんだ....
私は勇気づけられた
「ありがとう大地くん、私明日話すよ」
私は大地くんにぺこりとお辞儀をする
「そっか...がんばれよ。」
大地くんはにこりと微笑んでくれた。
「お邪魔しました」
用が済み、あたりも暗くなってきたので私はお暇することにした
と、キッチンからパタパタと歩いてきたのは大地くんのお母さんだった
「え..と南ことりちゃん?でいいのよね」
「は、はい」
「いつも大地が迷惑かけてるわね」
「いえいえそんな」
そんなことないです。むしろ私が大地くんに迷惑かけてますから
「もうこんな時間は1人で帰るなんて危ないわ。うちでご飯食べていきなさい?帰りはうちの大地を連れていっていいから」
「え!?で、でも...」
「ことりちゃんのお母さんにはもう連絡したから」
「え?な、なんで?」
「ふふっ、私とことりちゃんのお母さんは実は同期なの♪」
そうなんだ....でもお母さんはそんなこと言ってくれなかったな
あとで聞いてみようかな
「...じゃあお言葉に甘えて」
「うんうん♪そうしなさいな。大地ぃ〜!ちょっとお使い頼むわ!」
大地くんのお母さんは部屋にいる大地くんに声をかける
「あ〜?なに?お使い?わかったわかった」
すぐに大地くんは降りてきてまだ帰ってない私を見て驚く
「あれ?なにか忘れ物?」
「ううん、さっき大地くんのお母さんにごはんたべていきなさいって」
「え!まじか.....俺はいいけど」
少し赤くなった大地くんは「母さん金くれ、行ってくるから」とお金を受け取り玄関を飛び出していった
「廊下にいるのもあれだし、リビングでちょっと待っててね」
大地くんのお母さんに案内されてリビングにやってきた
そんなに広いリビングではないけどやたらでかいソファはふかふかで気持ちよかった
「この家に大地は暮らしてるんだ〜」
そういえば大地のお父さんってどんな人なのかな?
やっぱり顔とか似てるのかな〜
ふふっ...なんかいいな〜
ごとっ
ソファで体勢を変えたときになにか固いものが背中に当たった
「なにかな..これは」
ソファのふかふかのあれ(作者名前知らない)を外して中を確認する
「あれ?これは......」
なにやらアルバムみたいなものだった。
見てはいけないんじゃないか...と思いつつも
大地くんの小さい時の姿も見てみたいと思い、葛藤した末に後者が勝ってしまったので閲覧することにした
「.....ふふっ、大地くん幼いな〜。あ、これは穂乃果ちゃんだ、今と変わらず可愛いね〜♪」
入園式の写真や幼稚園で砂遊びしてたり、お菓子を食べていたり。運動会やプール開きなど....2人の仲睦ましい様子が収められていた
大地くんと穂乃果ちゃん...昔から仲良かったんだよね
大地くんは穂乃果ちゃんの予想だと記憶がないとか前に言ってたし...
私自身も穂乃果ちゃんに言われるまで気づかなかったし
小学校のときいつも穂乃果ちゃんの隣にいた男の子が彼だったなんて....
ちくり........
なにか胸がちくちくするような痛みが起こった
「.....どうしてなの?私は大地くんも穂乃果ちゃんも好きだよ....でも....」
穂乃果ちゃんが羨ましい。
こんなに大地くんの側にいて......
ちくり.........
「あ!それは」
いきなりの声に我に返る
「あ、すいません。なんかソファの中にあったので....」
大地くんのお母さんは見つかってまずいというような微妙な顔つきになる
そんなに見られてダメなものだったのだろうか
「ごめんなさい、すぐにしまいます」
「ねぇことりちゃん」
「なんですか?」
「ことりちゃんは.....大地が記憶無くしているの知ってる?」
大地のお母さんは先程の柔和そうな雰囲気はなくなり、私の顔つきもこわばってしまった。
「前に穂乃果ちゃんに教えてもらいました」
「.....そう」
大地くんのお母さんは私のこと隣に座り、アルバムを手に取り懐かしそうに眺める
「穂乃果ちゃんは大地が記憶を失った理由を知らないの。もちろん大地も」
「え?そうなんですか?」
「本当は話してはいけない...話したくないのだけど、ことりちゃんがこれからも穂乃果ちゃんや大地と仲良くしていっていうのなら....話しておくわ」
あまりいい話ではない事はわかりました
私はゆっくり頷き、話されるのを待ちました
「事のきっかけは良く分からないのだけど......小学5年になる直前だったわ......大地はね----------」
「え...................そ、そんな......」
私は大地くんのお母さんが何を言っているのかわかりませんでした
「これは...誰にも言ってはいけないわ。本人たちは勿論のこと他の子にも絶対」
私は..........涙を流していました
「ただいま〜!母さん頼まれたやつ買ってきたよ」
「お帰り大地。ささ、ことりちゃんも今の忘れてご飯にしましょ?」
大地くんのお母さんはさっきの話は無かったかのように振る舞い、
食卓の準備を始める
帰ってからも.......忘れることができなかった。
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