とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第39話 牢屋
前書き
今回から文字数を少なくしました
リアルが忙しくなり、今までの文字数ではキツくなりました
せんせー
木山せんせー
せんせーのお家に行って良いの!?
やったー!!
ポツポツと夕立が降り始めている。
あの時に私の家に来て喜んでいた教え子の女の子と時間的にも気候的にも一致している。
何故あの時に「逃げなさい!」と言わなかったのか......
私とみんなで遠くへ行こうとしなかったのか......
手錠を繋がれ、血色の悪くなった指先を眺めては後悔の念に駆られる。
助けを求める手を掴もうと躍起になった数ヶ月間がまるで覆い被さるかのように背骨を曲げていく。
レベルアッパー事件を引き起こした張本人の木山春生は一人拘置所の牢屋に収監されていた。
学生から始まり、院生へ
修士を経て博士へ順調にキャリアを積んできた木山にとって研究外の世界は重すぎた。
闇に閉ざされ、一閃の光も泡のように立ち消える。
優秀な頭脳は、自責で木山を追い詰めていく。
時間が経過してもなお、残り続ける血の匂い、薬品の匂い。
耳から発せられるアラーム音。
そして、力無き者達の叫び。
私も同じだ
あの時の大人になっていた。
子供達の声にならない声を聞かずにコーヒーを飲んでいた
友人を助けたいと申し出た子を横目で見ながら砂糖を入れ続けた、
計画に着手してから、砂糖を多く摂るようになった気がする。
苦い大人の味(ブラック)ではなく
甘い純白の子供の味を求めたのだろう。
せめてもの抵抗だ。
だが、それを飲み干して満足するのは自分独り。
マグカップは、変わらずに穴の空いたトポロジーのまま。
近く、処分が決まる。
研究生活はもうできない
社会復帰も難しいだろう
底知れぬ闇が心の奥から迫り出してくる。
助けられなかった教え子
巻き込んでしまった学生
どうすることも出来ない無力感に襲われる。
体育座りで病的なまでに動かない木山が膝を抱えて頭を膝蓋にコツンと当てた。
そこへ、入り口の引き戸が重々しく開く音がして木山の向かい側の牢屋に誰かが通された。
また軽微な罪で捕まった不良の者達だな
万引きをしたり、暴力沙汰を引き起こした学生が入れ替わり、立ち替わりに入っては出て行った。
見張りに食って掛かったり、罵声を浴びせたりと無常なエネルギーを使っている者達だ。
頼むから静かにしておいて欲しいものだ
「ったく......何でオレが」
木山は聞き覚えのある声に顔をパッと上げた。
向かい側の牢屋には、赤い髪に黒い外套を着込んだ『サソリ』が壁を背にして不機嫌そうに舌打ちをしている。
「!?赤髪君か!?」
木山は反射的に声を掛けていた。
一時とは言え、顔見知りの少年だ。
「んあ?」
油断していた様子てサソリが素っ頓狂な声を上げた。
「誰だ?」
サソリは眼を細めた。暗がりで顔の微妙なラインがはっきりしない。
「私だ......君に計画を邪魔された」
「!木山か?お前」
牢屋を照らす電灯が揺らめきながらサソリは木山の顔を朧げながら確認した。
視覚情報というより認識から入った確認だったので、予想よりも早い。
更に、目の下の隈が酷くなっている。
まるで死人のようだ。
あのレベルアッパー事件から二週間程が経過している。
「何でお前がここに居る?」
「それはこちらのセリフでもあるのだが」
「女が泳いでいる所を覗いたという疑いが掛けられただけだ」
サソリは恥ずかしげもなく言った。
「やってしまったのか......」
「やってねぇよ」
木山は隈だらけの目を見開いて頭を下げた。
あの時の私の忠告が原因か?
赤髪君が頭に花を咲かせた女の子に変装した時。
今度は女性の羞恥心でも学ぶ事を勧めておく
まさか、赤髪君はこの忠告を間に受けて覗きを......
確かに覗きなら、バレたら女性の羞恥心の良き反応は期待出来るし
バレなくても、女性の身体をじっくりと見ることが出来る
彼らしい理に叶ったやり方だ
彼も小さいとはいえ、男性だ
女性の身体に興味を持つのは仕方ないこと......
ただ、元教師としてそんな不埒な行為を見過ごす訳にはいかない。
ここははっきり注意しなければ
「赤髪君!そこで正座をしなさい。覗きはいけないな」
「だから、やってねぇって言ってるだろ」
牢越しに二人の人物が言い争う。サソリは事の発端から事件の概要を掻い摘んで説明した。
「なるほど......眼鏡を掛けた男に嵌められたと......」
「そうだ。あの野郎め」
「しかし、それでも中学生の水着姿を見たことに変わりないな」
「勝手にしろ。ガキには興味ねぇよ」
サソリの言葉に木山は首を傾げた。
手入れが行き届いていない癖っ毛が大きく揺れた。
「まさか、私が狙いか?」
両腕で自分の身体を覆い隠して、機械的に身体を揺らした。
「しねーよ!いい加減にしろよ」
「そうか。君の好みはもっと年上か......」
隈だらけの眼で木山は天井を見上げた。
何日かぶりにマトモな会話をしたような気分だ。
「お前さ......研究者だっただろ?」
サソリが不意に木山に質問した。
「ああ」
「じゃあ、大蛇丸っていう奴を知っているか?」
「おろちまる......?」
木山は記憶を探りだすように顎に手を当てた。
「アイツも関係しているはずだ」
「その者は学者か何かかい?」
「それに近いな。確か不老不死の研究をしていたはずだ」
「不老不死か......漠然とし過ぎてなんとも言えないな」
木山ほどの研究者でも、大蛇丸を知らないとは......偽名でも使っているのか。
「そうか」
サソリは手掛かりがなくなった現実を受け入れながら、頭を引っ込めた。
「いや、でも待てよ......確かそんな単語を言っている奴がいた気がするな」
「ん?」
「不老不死に興味はないか?と訊いてきた。だが、名前が違った気がするが」
「どういう奴だ?」
「奇妙な形をしていた男だった。黒い身体と真っ白な身体が半分ずつくっ付いたかのような姿に突き出た......あれは棘かな......研究の協力者で何回か話したことがある。変わった名前だったな」
「!?」
サソリだけがいち早く該当人物に行き着いたが、もう一度頭の中で情報の精査をしていく。
大蛇丸ではなく、アイツが関与している
「ゼツ......そうだ思い出したゼツだ」
サソリの帰結した答えと木山の発した人物が完全に一致した。
「ゼツ......だと!?」
サソリは大きく身を乗り出した。
信じられないものでも聴いたかのようにサソリの表情が固まった。
ゼツ......暁の組織の中でも最古参に位置する人物。
黒と白でそれぞれ独立した人格を有する人間離れした外見をしている。
「知り合いか?」
サソリの尋常ではない反応に木山が聞き返した。
「前にオレと同じ組織にいた奴だ。アイツがか」
暁時代から一番何を考えているのか分からないメンバーだ。
サソリ自身にも『ゼツ』の能力について知っている事の方が少ない。
何故だ。なぜアイツは、オレをここに連れてきたんだ?
そして、ここで何をするつもりだ?
「奴の目的は何だ?」
「そこまでは......ただ、何かを復活させる為に活動しているとは言っていた」
何かの復活......
サソリは考え込んだ。嫌な予感が頭の先から足先までどっぷりと横たわる。
「確か、私がいた研究所に彼のデータがあった気がするが......まだ私のアカウントで観る事が出来るかもしれないな。この状況ではなんとも」
手錠をジャラジャラと鳴らした。
黙り込んでしまったサソリに向けたが無反応だ。
「ちっ!ロクな事はしねーな」
サソリは、立ち上がって牢屋の前に来ると木山に言った。
「木山......取引だ。オレにゼツの情報を寄越せ。その代わり実験に巻き込まれたお前の教え子を助けてやる」
サソリからの予想外の取引に木山は豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くした。
「どういうことだ?!そんな事が」
「なんとかしてやる。一刻も早くゼツの目的を知らないとヤバイ気がしてな」
サソリはチャクラを眼球に集めると万華鏡写輪眼を開眼させて、時空間忍術を使い、すり抜けるように牢屋から外に出た。
「!?」
木山は初めて目の当たりにする『すり抜け』に口を少しだけ開いて、思わず混乱により一歩引く。
そして、木山の牢屋にサソリが軽々侵入すると手を差し伸べた。
「案内しろ。助けたくないのか?」
力強い口調で木山を奮い立たせた。
今を逃したら、もう助けるチャンスなんて来ないかもしれない。
自分の計画を潰した、能力未知数の赤髪の少年に全てを賭けてみようと思った。
木山は、手を伸ばしサソリの手を握り返して立ち上がった。
取引成立。
木山の教え子の奪還及び救出。
ゼツの目的の確認。
敵同士だった木山とサソリが手を組み、学園都市に根付く闇を知るために牢屋からすり抜けて行った。
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