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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第38話 尾行

 
前書き
リアルでゴタゴタしてました
遅くなって申し訳ないです 

 
常盤台での盗撮騒動もサソリの活躍により、無事解決した......かに見えたのだが

「だからやってねえって言っているだろ!」
盗撮現場である、常盤台のプールサイドにて御坂からの通報を受けた白井がサソリから話を訊いていた。
「しかし、あの盗撮魔が『あの赤い髪の子供と共犯でやったんだにゃ』と言っていますし、何よりサソリが無実だという証拠が見つかりませんの」

どうやら、現場の状況や証拠があまりに断片的でサソリが共犯でもおかしくない事態になってしまっているようだ。
実際に盗撮犯を目撃したのがサソリしかいないということで湾内達の証言も客観的な証言にはならない。

「ちっ!」
プールサイドに腰を下ろしながら、サソリが不機嫌そうに口を尖らせた。
「映像を確認しましても、録画する前でしたの」

例の眼鏡を掛けた盗撮犯が意識を取り戻してからサソリも一緒に計画した共犯者であると言い張って譲らない。

「誰がなんと言おうと、あの少年とは何ヶ月を前から計画を立てていた仲間、同志だにゃ!」
縄で縛られた盗撮犯は、勝ち誇ったようにニタニタと笑いながら、サソリを見ていた。
「素晴らしい女体を観察しようと誓いあったんだにゃ」
盗撮犯の舌なめずりの音に被害者になりそうだった水泳部を始め、白井や佐天、御坂も身震いして「気持ち悪さ」を感じ、ゾッとした。

明らかに計画の邪魔をしたサソリに復讐するかのように饒舌に舌を動かす。
「てめぇな......」
根も葉もない事を言われているサソリは、イライラが頂点に達したのか、立ち上がると縛られている盗撮犯の襟首を掴むと拳を固めて殴り飛ばした。
「フギャアァァー!痛いにゃ、痛いにゃ」
サソリの強烈な一撃にその場に倒れて転がる盗撮犯。
鼻から血が勢いよく流れ出していて、涙顔だ。

サソリは倒れている盗撮犯の服を掴むと無理矢理起き上がらせる。
「バラバラにしてやろうかキサマ」
サソリから凄まじい殺気が溢れ出す。
「ぼ、暴力反対だにゃ......」
サソリが語気を強めながら右手に力を集中させる。
そこへ白井と佐天が振りかぶっているサソリの右腕を掴んで止めた。
「お気持ちは分かりますが!これ以上は無視できませんわ!」
「そうそう!サソリが不利になっちゃうよ」

「離せ」
「で、でも」
サソリが冷酷な目つきになっていて、佐天達は言葉に詰まる。
しかし、そんなサソリの姿なんぞお構いなしに太った盗撮犯は、佐天が自分のために行動を起こしていると勝手に解釈して嬉しそうに顔を赤く染めた。
脳内補完

ダメですよ!
それ以上、お兄ちゃんを虐めるのは
わたしが許さないんだから

「流石、我が天使ちゃん......僕ちんの為に。嫁になることを認めるにゃ」
佐天の方を見ながら熱視線を送る。
「はい?」
佐天はその視線に疑問符を浮かべた。

「はいはい!そこまでよサソリ」
手をパンパン鳴らしながら御坂が止めに入った。
電撃をビリリと放っている。
「.........」
サソリは察したように御坂を睨みつけると掴んでいた手を離して盗撮犯をプールサイドに落とした。
「痛いにゃー!」
縛られているため受け身が取れなかった盗撮犯は、盛大に尾骶骨から落ちて痺れるような痛みが走る。
しかし、盗撮犯は驚異的な執着心で芋虫のように這いながら、佐天と足元へとやって来て、佐天の履いているスカートを見上げようと動いた。
「えっ!!ちょ、ちょっ!?」
佐天は、足先から冷気を飛ばして盗撮犯をカチンコチンと凍らせた。
人間離れした盗撮犯の動きに思わず身を捩る。
「や、やり過ぎでしょうか?」
「別に良いんじゃない」
凍り漬けにされた盗撮犯をたたきながら御坂が興味無さげに応えた。

「はあ......」
サソリは疲れきったかのように足を投げ出して座り出した。
多分、御坂達が居なかったら確実にこの男を躊躇なく殺していただろうな。
自分の変化に驚く。

「ねえ、黒子。どうにかならないの?サソリは絶対にやりそうにない気がするんだけど」
「うーん、何か物的証拠でも証言でも出れば良いんですけど......この状態ではなんとも」
御坂と白井が悩んでいると
「はい!」
制服に着替えた湾内が勢い良く手を上げた。

おっ、湾内さんが何か目撃して証言を言ってくれれば話は終わりかも!
と期待する。

「わたくしでしたら、サソリさんに盗撮されても構いませんわ!むしろ......して欲しいかと」
顔を赤くしながらピントの外れた事を言っている。
「......悪いですけど、黙っててくださいな」
全く役に立たない情報でした。
「あたし達でサソリの無実を嘘でも良いから証言するのはどうでしょうか?」
「あまりオススメしませんわ。嘘だとバレたらマズイですわよ」
「そうですか......」
がっくりと佐天が肩を落とした。

「仕方ありませんわ。読心能力者(サイコメトラー)に協力してもらい、記憶や思考を観てもらいますわ」

「今日中に可能なの?」
「確か休暇を取られていますので二、三日は掛かるかと。その間は、サソリも拘留という形になりますわね」

「確かオレの写輪眼で奴の記憶を読むことができたな」
ついでに写輪眼には相手を自白に追い込む能力があるのを思い出したサソリが声を出した。

「悪いですが、その眼の能力は未知数の部分が大き過ぎますので客観的な裏付けにはなりませんわ」
写輪眼という未知の能力で手に入れた物証であったり、証言は残念ながら証拠能力を持たないらしい。

「こればっかりは、仕方ないわね。大丈夫よすぐに出て来れるから」
「わたくし保釈金を用意して待っていますわ!」
御坂と湾内が面倒くさそうに頭を掻いているサソリに声を掛けた。
「保釈金はまだ要らないんじゃない?」
「御坂さん!どのくらい用意すれば良いんですの?」
「ごめん、分からないわ」
湾内が真剣な顔で御坂に質問した。
鬼気迫るというか必死というか......

「サソリ元気出しなよ。なんならあたし達も協力するし」
ポンポンと座っているサソリの頭を叩く佐天。
「?」
サソリは何か違和感を感じて、佐天の顔をジッと見つめた。
「?どうしたの?」
「いや」

やはり、コイツの雰囲気が変わったな
昔にコイツと同じような奴と会ったような気がする
誰だったかな?

******

「しっかしまぁ、サソリも災難ね。良いことしたのに」
まあ、かく言うあたしもレベルアッパー事件解決に尽力したけど、門限破りの罰でプール掃除を命じられたしね
どうも正義って報われないことが多いわ
この世の不条理さを嘆き節で呟きながら歩いて帰路へと向かう御坂。

黒子達はサソリの手続きをしに行って、湾内さんも付いていっちゃったし
病院から今度は拘置所か......なかなかの波瀾万丈な人生ね

腕を組みながら通りを御坂が歩いていると、路地裏から数人の男性の話声が聴こえてきた。
「ホントだって。ションベンしようと路地入ったら、女が例の封筒を置いてんのが見えてさ。後を尾けたんだよ」
例の封筒?
あのマネーカードの入った封筒の事かしら?
御坂はポケットに無造作に突っ込んでいた封筒を取り出した。

「雑居ビルみてーなトコに入ってったから、そこがアジトだぜ。外から見た感じ居んのは女一人だけっぽいから楽勝だろ」

これってヤバイんじゃない?
あの男たちは完全に悪い事をしようと企んでいるわ

移動して行く不良グループの後を御坂は後ろから密かに付いていった。
時刻は夜の六時を回った辺りだ。薄暗くなる中でビルの電灯が煌々と点いている。
雑居ビルの中には、壊れた木箱や机の破片などが床や散乱してあり、ボロボロの棚が置いてある。
おそらく、何処かの会社のオフィスだったのだろう。

「ハーイ、お邪魔しますよー。大人しくしてくれりゃ、乱暴しねーからよぉ。ウチのリーダーは女子供に手出すの禁止してっからな」
階段を上がり、最上段の部屋まで不良グループが来ると、鞄を閉じている白衣の女性が立っていた。
女性は黒髪の癖っ毛にギョロっとした目つきをしていた。

「何か用かしら?」
「オマエがバラまいている例のカード。オレ達がもらってやろうかと思ってさ。どうせ捨てんだろ?」
ヒゲを生やした男がギョロ目の女性に近づいた。
女性がカチッと鞄を開けるのを見ると、パーカーを着た男が鞄を取り上げる。
「おっと、防犯ベルでも出されたら面倒だからな。こっちで調べさせてもらおうか」
鞄を開けて中身を確認して見るが出てきたのはバラまいて来た後なのか、二枚分の封筒しか入っていなかった。
「何だ?二枚しか入ってねーじゃんか」
「制服にも入ってねぇぞ」
白衣を脱がせてポケットを確認して見るが、封筒どころか何かが入っている気配すらない。
「わざわざ来て、これだけじゃ話になんねーよ。他は?」
「ここには無いわ equal 手持ちはそれだけよ」
女性は、まるで壊れた人形のような無機質な声で英単語混じりの日本語を話した。
「この状況で随分落ち着いてるじゃねーか。あ?」
不自然なまでに淡々と大人しくしている女性に違和感を持ったパーカーの男が探るように言った。
「まさか、能力者か?」
「え?」
この都市で強いのは、腕力ではなく能力を持っている人間だ。
バンダナを頭に巻いた男が『能力者』という言葉に反応し、身体を硬直させる。
見かけによらない恐怖が募る。

「フン、この人数相手にできるヤツなんざ、そういねぇよ。乱暴されないと分かって強気になっているだけだ。どこかに隠してるかもしれねぇ、探すぞ」
「オマエはその女見張ってろ」
「オ......オウ」
「何ビビッてんだよ」
「ビ......ビビッてねーよ!!」

クソッ
何かしらねぇが、この女
不気味な......ん?

女性は変わらずの能面顔で見張り役のバンダナの男を身じろぎをせずに見続けていた。
人間という生き物は、顔のパーツを非常に重要視するという性質があった。
それは、相手と意思疎通が図れるかどうかの指標となる。
喜びや笑顔を見れば、安心し話しも弾む。
悲しみや涙を見れば、不安になり話しを聞こうとする。
そうやって互いにコミュニケーションをしながら生活をしてきた。

しかし、先ほどから女性は表情を変えずにギョロっとした目で黙っている。
不安や恐怖がなく、完全なる無の顔。
意思疎通が断絶している状態で全く次の行動が読めない為、未知への怖れが内部から増大していく。

女性が付けている校章を見る。
三つのバラバラの図形が互いに支え合っているようなマークだ。

さっきは白衣に隠れて見えなかったが
あの校章どっかで見たな
!?
長点上機学園ッ!!

学園都市の中でも五本の指に入る名門校であり、 能力開発においてナンバーワンを誇る超エリート校。
同じ名門でも「礼儀作法等を含めた総合的な教育」を目指す常盤台中学とは違い、 徹底した能力至上主義が敷かれている。
能力者以外でも一芸に秀でていれば、入学できるので低能力者にも門戸が開かれた珍しい学校である。

バンダナの男が気が付かない瞬間に女性は目の前まで近づきジロリと男性を見上げた
「うおっ。なっ、何だ!?」
「顔色が悪いわね大丈夫かしら」
「ほっとけ!」
「息も荒いし、冷や汗も凄いわ」
女性は、背伸びをして男性の耳元へ顔を近づけて何かを呟いた。

家探しを続ける不良グループのメンバー。
引き出しや戸棚をひっくり返してはみるが、出てくるのはクシャクシャになった紙や埃位で、金目になりそうなものすらない。
「あったか?ねーなぁ」
そのときに
「ぎにゃああああああああああ!」
この世の物とは思えない程のおぞましい叫び声が聴こえて反射的に振り返った。

眼球をパックリ開いた状態でバンダナの男は、ダラリと机に寄り掛かるように卒倒していた。
顔は恐怖や絶望に塗りたくられている。

「な......っ!?テメェ......」
「『角度追跡(ティンダロス)』私の能力は、角度のある所から自由に不定形の化け物を出現させることができるわ。貴方達が部屋を荒らしてくれたお陰でたくさんの角度ができたわ」
女性が説明をすると、バチンと電気が消されて辺りが真っ暗になった。
「なっ!?」
視覚が完全に零になってしまった不良グループは、手を前に出して探るように彷徨い歩く。
すると、目の前に黄色く光る双眸が出現し、ギザギザの光る歯をギラつかせる。
「ひ、ひぃ!!」
出現した怪物はヨダレを垂らしながら口を大きく開ける。
無機質な声を発しながら、ヒゲの男の両肩を掴んだ。
「イタダキマス」
眼前に迫る牙に男性は恐怖し、断末魔を上げた。がっくりと崩れ落ちて気絶した。
「ダメよ食べちゃ。掃除が大変になるわ」
女性は、謎の生命体に注意した。
「そうだね。割と美食だからね」
先ほどの声とは違い、子供のような声が聞こえる。
この暗闇に不明の第三者が存在している。
「に、逃げるぞ!ヤバすぎる!」
恐怖に縛られていない他のメンバーが慣れだした目で我先に出口へと向かうが......
「逃スカ」
光る双眸が出口付近に出現し、メンバーを見下ろす。
「さあ、もっと悲鳴を聴かせてよ」
謎の存在は、腕を伸ばして他のメンバーの首を掴んで持ち上げた。
「がああ......あ......あ」
凄まじい力で締め付けられて、ボトボトと力を無く落下していった。
「はは、弱い弱い」
「......」
あっけらかんと男の声がする。
女性は切られた電気のスイッチを入れた。
その場に居るのは倒れた不良達とギョロ目の女性。
そして、ハエトリ草のように開いた間から半身が真っ黒、もう半身が真っ白をした男が立っていた。

「ご苦労だったわ。ゼツ」
「ツケラレタノハ、オマエノミスダ」
「お安い御用だよ。もう少し笑顔を見せればモテるんじゃないかな」
「興味ないわね」
「あらら」

ギョロ目の女性は慣れた感じで黒白はっきりした『ゼツ』と呼ばれる男と会話している。
ゼツは白衣を着て、大きく出っ張った頭部を左右にブレさせながら女性に近づいた。

御坂は、出口付近で身を隠しながら一部始終を見ていた。

な、何なのあれ?
あれも能力なの?

息を殺しながら、見続けるべきか逃げるべきかを迷っていると

「......ソコニ居ルノハ誰ダ?」
黒い半身が御坂が居る出口付近を睨み付けた。
「!?」
ヤバッ!
御坂が慌て、走り出そうとするとゼツは、印を結んで樹木を発生させると御坂の身体に巻きつかせた。
「くっ!?」
巻きつかせた樹木をゆっくりと部屋の中に入れると、縛られ吊るされた御坂を見上げる。
ギョロ目の女性は、更に目を開いた。
「あなたオリジナルね」

オリジナル?
御坂には意味が分からずに同じ言葉を繰り返した。
「貴方も噂くらい聞いた事があるでしょう?」
「噂って......はっ!」

御坂はここ数日、耳に入った噂話を思い出した。
レールガンのDNAを使ったクローンが製造されているらしい
軍事兵器として開発されているんだって

他愛もない噂話として処理していたが、この二人は何かを知っている。
御坂の脳裏に嫌な心当たりが流れ出す。
縛られていながら、鬼気迫る表情で強い口調で訊いた。
「アンタあの噂の事を知ってるの!?」
電撃を流して樹木を焼き切ると、床に落下した。
「どうする処分しちゃう?」
「バックアップを残しておかないといけないわ」
ギョロ目の女性が束になった書類に火をつけ出した。
端から徐々に燃え広がり、書類の束が唯の灰に姿を変えていく。
「此ノ女ハ、マダ使エル」
黄色く冷酷な瞳で御坂を見下ろした。
「うっ......」
身体が硬直したまま、動かなくなった。
まるで金縛りにでもあったかのように。

一仕事終えたギョロ目の女性は、落とされた白衣を拾って着だした。
「知った所で貴方にはどうすることもできないわ」
先ほど、御坂の質問への回答を述べた。
そのまま、ゼツを連れて硬直したままの御坂の側を通り過ぎて出口へと歩みを進める。
白い半身がボソッと御坂に向けて呟いた。
「まあ、知りたいなら......心当たりでも当たってみればいいんじゃないかな......」
タラッと冷や汗を流す。
ニタリと笑みを浮かべながら、ゼツは通り過ぎていった。

「!!?はあはあ」
金縛りが解けたかのように身体の硬直が無くなり、御坂は前のめりに倒れ込んだ。

な、何?
あのギョロ目の女よりも傍らにいた妙な格好をした男
あの男だけは油断ならないと、直感で理解した。
「何なのよ......意味不明過ぎるわ」

オリジナル
クローン

あたしのコピーが存在するって言うの!?
 
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