木ノ葉の里の大食い少女
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
孤独の臭いのする少年
「そこか! うぅうううううううああぁあああああおぉおおおおぉおううううぅう!」
意を決して木の陰から躍り出たサスケの姿を捉えた我愛羅の瞳が喜悦に歪んだ。砂色の巨大な腕がサスケ目掛けて真っ直ぐ伸びていく。体の一部を抉り取られたサスケが傍の大樹に激突し――そして、えぐられた一本の丸太にかわった。
「ここだッ」
クナイを六本投擲する。だらだらと涎を零しながら我愛羅はこちらを見上げ、そして砂色の腕でクナイを防いだ。やはり受け止められたか、と予想の範囲内ながらに少々悔しく思いながら、木の枝を掴んで一回転、一旦距離を取ろうとする。
と、クナイが我愛羅の砂色の腕にずぶずぶと飲み込まれていった。
「――っ!?」
「返すぞ」
我愛羅が笑みを浮かべた。と同時に、砂の腕から六本のクナイがこちら目掛けて一斉に飛んでくる。摩擦熱によってか紅く燃えながら飛んでくるクナイが火花を散らしながらもと立っていた木の枝を断ち切り、空中に飛び上がって退避したサスケの姿が突然消え去った。
「……あのやろー」
我愛羅の後方の木の陰に寄りかかったサスケは荒い息をつきながら悪罵を零した。なんて奴だろうと、彼の狂気と強さを実感しながらその体を睨みつける。
「サスケェエエエエ!! 何故向かってこないぃいいいぃいぃぃいいいい!?」
涎をだらだらと垂らす化け物が叫び声をあげ、そしてまた苦しみだした。まだ人間の形を保った腕で頭を抱え、うめき声をあげる。
「がっ、ぐ、ぐごぁああああ……ッ……何故、逃げる……ッ!」
木の上で蹲り呻く彼の脳裏には。セピア色に変色した古き日の記憶が蘇っていた。
+
笑い声――笑い声だ。ボールを遊ぶ自分よりいくつか年長の少年少女達の笑い声が響いていた。ちょうど影になる位置にあるブランコに腰を下した我愛羅は、円周率を表す記号のような形の――つまり、こんな形の「π」――口をした熊の人形を抱えて、その笑い声を聞いていた。笑い声を聞くのはとても心地よかったけれど、同時に自分の孤独が引き立てられて寂しかった。
でもそれでもいいと思った。彼らの笑顔を眺めていられるのなら。少なくとも近くにいても彼らが自分を空気と思って楽しんでくれるのなら。それでもいいと。
例えブランコの軋む音は耳障りでも、彼らの耳に届かなければ。彼らが明るい笑い声をあげていられれば――
それだけでよかったのだ。
ボールが壁の上に飛んでいく。チャクラ吸着で壁を登れない子供たちが呆然と壁の上に転がるボールの影を見上げる。我愛羅の砂がなんなくそれを救い、ボールが我愛羅の両手にすとんと落ちる。
――これ……――
どうぞって言いたかった。渡して、それで去るつもりだった。受け取ってくれればいいなって思った。さっきはどうもありがとう、ねえ君も一緒にあそぼうよなんて言ってくれることを期待していた。儚い期待。ひどく儚い期待。そんなこと言ってくれるわけないのに、でも我愛羅はいつも軋むブランコの上で、夜寝床で、ずっとずっと妄想していた。一緒に遊ばないって誰かが問いかけてくれることを。
でも現実は幼い我愛羅の心を突き刺すだけだった。
――我愛羅だ……!――
――っ我愛羅……!――
――逃げろぉおおおおお!!――
我愛羅とは恐ろしき化け物ということを知っていた子供たちは、一人の子供が叫ぶのと同時に、金縛りが解けたかのように一斉に逃げ出した。
――待って。一人にしないで!――
このボールを渡したいだけなんだ。一緒に遊んでくれなくたっていいから、お願い一人にしないで。そんな目で僕を見ないで。そんな怯えた顔しないで。そんな泣きそうな顔しないで。ねえ、ねえ、ねえ!
――助けて……助けてぇええええ!――
――うわぁああああああああ!!――
砂が我愛羅の意思とは無関係に動き出し、我愛羅に怯えて逃げ出そうとする子供たちの足を絡め取る。ずるずると引きずられた子供たちが地面に爪を突き立てるが、やわらかい砂は子供たちの掌の中をすり抜けていくばかりだった。
――もう一人は、いやだ……
ねえねえねえどうしたらこっちきてくれるのどうしたら僕と遊んでくれるのねえねえねえ。僕がどんな悪いことしたっていうのどんな悪いことしたっていうのなんで僕のこと怖がるの僕のせいじゃないのに違うのに。
ねえ一緒に遊びたいだけなんだよ。ボール受け取ってほしいだけなんだよ。どうしてそんなに嫌がるの?
ねえどうして?
――いやだぁああああああああ!!――
砂が一人の子供のほうに向かって飛んでいく。子供が泣き叫ぶ甲高い声がした。なんでそんなに嫌なの? ねえ一緒に遊ぼうよ。ボール受け取ってよ、ねえ。
そんな幼い子供の甘えるような声と。一尾の残虐な思いが混ぜ合わせられていく。
殺しちゃおう殺しちゃおう。そっちが断るからいけないんだ、そんな一尾の思いが。
砂が突如として目の前で弾けた。
――我愛羅さま、落ち着いてください!――
目の前に現れた彼――夜叉丸は、額や腕から血を流しながらこちらを見つめていた。真摯な、とても真摯な光に我愛羅は今自分がしようとしていたことを悟る。あのままでは自分はあの子供を殺してしまうところだった。
――やしゃまる……――
風が吹く。柔らかな面立ちの夜叉丸の髪が吹き散らされる。だって僕、ボールを返そうとしただけだもの。そんな声が喉元に絡まって、消えた。我愛羅はうつむいて、ただただ立ち尽くした。
+
「ふぅうううあああぁああああああ!!」
唾液が顎から滴り落ち、化け物と化した我愛羅は血眼になってサスケを探す。
「逃がしはしないぃい……逃がしはしないぞうちはサスケェエエ!!」
砂色の腕が木々をなぎ倒し、何本もの木々が抉られて年輪を晒す。残虐かつ凶暴な笑い声が耳障りに響き、サスケは一瞬で木々をなぎ倒すそのバカ力に目を瞠った。
「うちはサスケェエエエ! 怖いかぁああ? この俺が、怖いかぁあああああ!!」
お前も所詮はあの子供たちと同じということか? ボールを受け取ることすら拒むか? 夜叉丸の後ろで震えて泣き叫ぶのか? あの裏切り者の後ろで。隠れて、そして逃げ出すのか? 耳を塞ぎ、目を塞ぐのか? テマリやカンクロウやバキのように?
「憎しみも殺意も、その恐怖に竦んだのか? お前はその程度の存在だったのか!」
唾液をぴちゃりぴちゃりと滴らせながら問いかける我愛羅に、サスケは瞬間的に思考が停止した。
憎しみも殺意もその恐怖に竦んだのか? お前はその程度の存在だったのか?
まさかそんなわけはない。兄への憎しみと殺意がお前なんかへの恐怖に霞む? 竦む? そんなわけあるか。そんな生半可なものじゃない。父と母の声がする。サスケに来るなというその苦しそうな声。母を守ろうとしたのだろうか、母に覆いかぶさって死んでいた父。器を測るためだといった最愛の兄。今までの姿は全て演技だと言い放った兄。
その程度の憎しみや殺意じゃない。そして自分はその程度の存在として終わるつもりはない。殺してやる。絶対に。一族を抹殺しておいて、何が器を測るため?
「俺と戦えよ。そして確かめろ! ――お前の価値を! 存在を! 実験しろ、答えがほしければ! ――来いッッ!!」
――俺は生かされた。たった一人。何のためにだ?
殺されたうちはの、屍が転がるその中で、サスケは泣いていた。泣いて泣いて泣いていた。怯えて恐れ生にしがみつき、憎み怒り悲しんだ。
――いや、その理由はわかっている。あいつは俺を生かした。一族殺しの罪悪感に苛まれるための存在として! 自分を殺させるための復讐者という存在として!
千の鳥の鳴き声が、サスケの掌で踊り、はじけ飛ぶ。我愛羅がその音に反応して、振り返る。
――俺を選んだんだ!
ぱちぱちぱちぱちぱち。千の鳥の鳴き声がまばゆい光となってはじけとび、サスケを下から照らしあげる。
本番は、これからだ。
後書き
孤独の臭いのする少年=サスケと我愛羅
ナルトサクラ合流まだ出来ていませんね、すいません。大体アニメ一話分を二話くらいにわける・もしくは一話分で一話にすることにしていて、その計算でいって今回で七十六話までかけると思っていたのですが、七十五話を計算にいるのを忘れてたぜorz
なのでナルトサクラ合流はあと一話か二話くらいしてからになります。すいませんでした。
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