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片輪車

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1部分:第一章


第一章

                     片輪車


 登場人物

 坊主一
 坊主二
 父親
 母親
 娘
 片輪車
 僧侶

 舞台は江戸時代初期かその辺り。服装も当時のものが好ましい。

 幕が開く。暗い舞台がありそこで歌が歌われる。


 おやごころ
 他のなににも
 まされけり
 それを知らざば
 恐るものなし


 そう詠まれる。それから舞台がはじまる。


 
 近江のある街。舞台は安土桃山か江戸時代初期。比叡山の中の寺の一室。小坊主達が話をしている。

坊主一「おい、聞いたか」
坊主二「何をだ」
 彼等は薄暗い境内の中で話をしている。まだ若い僧侶で何処となく娑婆の空気を漂わせている。
坊主一「下のことだ」
坊主二「下というと街のことか」
坊主一「左様じゃ」
 同僚の言葉に頷く。
坊主一「最近えらいことになっているのじゃ」
坊主二「えらいこととな」
坊主一「うむ、実はな」
 それを受けて話をはじめる。
坊主一「何でも化け物が出るらしい」
坊主二「化け物とな」
 それを受けて驚きの声をあげる。
坊主二「それはまことなのか」
 その驚きのまま同僚に尋ねる。
坊主二「下に化け物が出るなぞと。大事じゃぞ」
坊主一「じゃから問題になっておるのじゃ」
坊主二「そうじゃったのか」
 あらためて驚いた顔になっている。
坊主二「そんなことがな」
坊主一「これがな。何でも厄介な化け物であるらしい」22
坊主二「厄介とな」
坊主一「そうじゃ」
 同僚に対して囁いて語る。
坊主一「それもかなりな。じゃから話題になっておるのだ」
坊主二「にしても厄介とな」
坊主一「うむ」
 あらためて頷く。坊主二はそれを見て彼に問う。
坊主二「さすれば人を喰らうのか」
坊主一「いや、違う」
坊主二「違うか」
坊主一「違うのじゃ。また別のことじゃ」
坊主二「そうなのか。では」
 それを聞いてあらためて考える。
坊主二「一体何じゃ」
坊主一「それがのう」
坊主二「うむ」
坊主一「見た者にな。連れて行かれるらしい」
坊主二「連れて行かれるとな。それでは」
 彼はそれを聞いて言う。
坊主二「あの世へか」
坊主一「おそらくはな」
坊主二「何ということじゃ」
坊主一「それも子供がよく連れて行かれるそうじゃ」
坊主二「剣呑な話じゃ」
坊主一「そういうことじゃ。わかったか」
坊主二「わかった。さすれば用心じゃな」
坊主一「そういうことじゃ。何時か何とかせねばな」
坊主二「そうじゃな。我等にその力があればのう」
坊主一「全くじゃ」
 悔しそうに語る。そこで話は終わる。

 暗転。舞台はさっと変わる。

 場は変わって寺の門前町となる。
 舞台の上にはその時代の家屋が並んでいる。
 時間は夜である。灯りはなく舞台は暗い。同じ舞台に家がありそこに母娘がいる。
 母親は三十半ば程である。娘は五つ程。母は娘を抱いて家の中でじっとしている。ごく普通の一軒屋だ。といっても長屋ではなく商家のそれである。

母「さあ、もう寝るよ」
 娘に対して語る。
母「もう夜だしね」
娘「おっかあ、もう寝るの?」
母「ああ、そうだよ」
 娘に対して語る。
娘「もうなの」
母「そうさ」
娘「いつもはもっと起きてるのに」
母「ちょっと今日はね」
娘「まだ早いよ」
 そう言って母を見上げる。
娘「もっと遊びたいよ。お手玉しよう」
母「いや、今日はもう寝るよ」
 首を横に振って取り合おうとしない。
母「わかったね」
娘「おっかあ」
 娘はそう言われてもまだ諦めない。それで母に問う。
娘「だから何で今日はこんなに早いの?」
母「今日は怖い日だからだよ」
 そっと娘に囁く。
娘「怖い日?」
 だが娘はそれを言われてもわからない。きょとんとした顔で母に問う。
 
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